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お題:手。

しばらく離れていたので、お題を設定して書くことをリハビリしようと思います。暫くお付き合いください。

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日常を大切に過ごすために酷使された手指は、季節柄ひどく乾燥していた。ゆっくりと両手で包み込めば、手の甲は粉を吹いて傷み、青白い指先は冷えていて幾つかのささくれも主張している。

つい放っておけなくて、甘いお菓子みたいな香りのボディクリームを手に取った。手のひらで少し温めてから自分の手指に伸ばして広げ、彼の手をゆっくりと包む。全体に馴染ませ、がさがさした手の甲にゆっくりと刷り込んでいく。乾燥の強い部位はなかなか馴染まない。まずは水分を与えるべきだった、しくじった。

とはいえ、マッサージするみたいに焦らず行えば、肌に油分が移っていく。手の甲も少しふっくらとして血色が良くなってきた。それから、扱くように刺激して血行不良な指先も潤す。ささくれが少しづつ姿を潜めていくことに満足しつつ、少し足りなくなったボディクリームを足して、全ての指に行き渡らせる。冷えていた指先は温まり、健康そうな色に戻った。

すっかり緩み切った表情の彼を見て、こちらも頬が緩む。安心して身体を預けてくれてどうもありがとう。

「はい、おしまい」と声を掛ければ少し名残惜しそうに「ありがとう」と言ってくっついてくる。膝の上、少し寝転がったままで他愛ない話をすれば、心身共に満足そうな彼がとても愛しく感じたのだった。

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