魂のふるえる場所 Ⅺ Ψ ♾ 地球新生の予告編 No.48
左側は殆ど垂直にそそり立つ岩の壁、右側の崖下のずっと向こうの茂みの陰に祠、そのさらに土手の下を流れる川の音はだいぶ遠ざかっています。
足元は人一人がやっと通れるほどの幅の危なっかしい崖っぷちの坂の途中で、マデがまた立ち止まりました。
「あれっ?」 低い声でそう言って、背中を向けたままじぃっとしています。
「今度は、なに?」
マデは眉間に皺を寄せて私の方をちらっと見ると、岩肌の一点を指差しました。
「ここ・・・」
「だから、なんなの?」
岩肌をまじまじと見つめながらゆっくりと頭を横に振り、それから困惑した顔でこちらに向き直ると、そのまま少し後退りして私を手招きしました。
マデの立っていた所まで行ってみて、思わず自分の耳を疑いました。
そこに大量の "水" が勢い良くザザーッと流れているのです。
岩の中から聞こえるような籠もった音でもなければ、もちろん遥か下の谷川の反響音でもありません。
そこを通り過ぎようとすると、いきなり水音が片耳から流れ込んで来て、頭や身体の中を突き抜けてゆくかのようです。
しかも音がするのは巾にしてわずか10センチほどで、耳がその巾に差し掛かるといきなり水が流れ出し、ほんの5センチも行き過ぎるパッタリと何も聞こえません。
つまり物理的にはあり得ないほどの極端な指向性を持った音の帯が、とにかくそこに在るのです!
あまりにも奇妙過ぎて、私たちは顔を見合わせたまんま言葉が見つからずにいました。
目には見えない・・・滝?
すれ違えないほど狭い崖っぷちを変わり番こに進んだり後戻りしたり、あり得ない音を何度も二人で確かめ合いました。
? ? ? ・・・ウーム、説明不能、
脳みそエラー🙀🙀🙀💦💦💦
『わたしが水を出す』と頭の中に響いたあの不思議な呼び声が意味していたのって、・・・え、もしかしてこれがナムとの約束のサイン、てことなの?
いやはや、参りました。
さすがにここまであからさまに突拍子もないサインとなると、もうお手上げ降伏🙏するほかなさそうです。
思わず神妙な面持ちで無口になったまま、振り返り、振り返り、私たちはまた断崖の先へと登り始めました。
息を切らせてようやく頂上に這い上がると、見晴らしの良い草原が広がっていました。
すぐ近くにこんもりと菩提樹の古木が枝葉を広げ、デコボコの根元のあちらこちらには、いかにも古そうな建造物か何かの苔むした石の破片が幾つも祀られて、お供え物の跡がありました。
ここにも何らかの古代の歴史の痕跡が伺われましたが、辺りの地面は乾いており、水の気配はどこにも見当たりませんでした。
あの水音の出所をこの世の次元で探したところで、見つかるわけも無いのでしょうが・・・
なだらかな丘の斜面を下った遠くに車通りの道が見え、その手前の野原にお母さんと娘といった様子の親子連れが座って休んでいる姿が見えました。
マデは走って行って二人と何か話しています。
ん? あそこの森の向こうに見えるのはひょっとしてティルタ・エンプル?
ティルタ・エンプルとは、聖なる泉の寺として知られるバリ島でも指折りの観光名所です。
まさか、そんなに遠くまで歩いて来ていたの?!
マデが走って戻って来ました。
「この道をこのまま行けばティルタ・エンプルに抜けられるって。」
「え、やっぱり?」
「ねぇ、この下の祠のこと聞いてみたんだけど、知らないって。
そこの菩提樹の木の根本に祀ってある石は何かって聞いたら、よく分かんないけど、ただの普通の石だろう、だってさ。」
ふーむ、ただの普通の石、・・・ね。
あっさりして、いかにもおおらかなバリ人らしい拍子抜けの答え方、と笑いが込み上げました。
「あれ、そう言えば、今日帰るんじゃなかったんだっけ?」
マデにそう言われて、ドキン❗️
ヤバい、危うく忘れるところだった。
こんなに遠くまで来ちゃって、どうしよう〜💦
ここからなら通りに出て乗り合い自動車に乗った方が断然早いだろうけど、マデは腰に巻きっぱなしの帯を返さないと悪い気がすると言うので、同じ道を引き返すことにしました。
険しい下りを考えると気が遠くなりましたが、いえいえ、まったくそんな心配は要りませんでした。
私たちは何だかまるで背中に羽でも生えたかのように軽々と谷を駆け降り、祠の大きな岩の下から谷川へと注ぐ聖なる湧き水で心ゆくまで沐浴もして、大急ぎで家に着くと、ラワールの呪いwから復活して今か今かと待ち構えていたワヤンの車に飛び乗り、難なく空港に間に合ったのです。
機内に航路案内のアナウンスが流れ、窓の外には星座のように煌めく島の灯りがゆっくりと遠ざかってゆきます。
とても永い旅でした。
あの水辺に立った日から、わたしはずっと待っていました。
遥か遠い未来、あの場所を再び見つけ出して、自分が誰だったのか思い出してくれる時が来ることを。
これはナムに出会って間もない頃に見せられた遥か古代の風景です。
魂の記憶は幾度となくあの『緑の滝壺』へと還り、忘れることの出来ないあの鮮烈な水のヴィジョンを通して、私は幾多の転生のめぐりを繋いで生きてきた本当の自分自身を思い出し始めたのです。
地球が新生するためには、閉じためぐりの封印を解き、二元の世界が完成しなければ先に進むことは出来ないとナムは言いました。
封印が解かれるということは、水のめぐりと同時に意識のめぐりも開かれるということです。
何故なら創造の意志と生命体の間を流れる情報エネルギーを繋ぐための最も強力な媒体は "水" だからです。
そして二元の完成とは、二元世界の終わりを意味します。
それは光の勢力が闇の勢力を駆逐するという物語ではありません。
光と闇が永遠に果てしなく闘い続ける二元世界の仕組みそのものが終わる物語の最終章です。
ナムの物語の最後に、少年は二元の神々を統合する戦士の踊りを舞うために、山の寺院の聖なる誕生の泉の水を汲んで海の寺院へと向かいました。
あれほどまでにナムが重要だと訴えていた海と山のめぐりがいよいよ繋がり、新たな地球意識が誕生する時がやって来たのです。
そうしたら、もうこれからは聖なる泉で水を汲まなくても、この星のありとあらゆる水がすべて聖なる水になるのだと、少年には分かっていました。
それにこれまで幾度となく繰り返してきた二元世界の大惨劇の末に一からやり直す必要も、もうなくなるのです。
それが地球にこれから起ころうとしていることの " 型示し" 、予告編の一つとして数十年前の私の脳内映画館に映し出されたというわけです。
ナムの見せてくれる時空とは、何とダイナミックなのでしょう!
私たちの経験する魂の記憶は、過去も未来もすべてが常に今と一つに繋がっています。
一人一人の意識から広がる神秘と、それらがさらに繋がり合って映し出される新しい世界 "NCR" (新合意的現実) のとてつもなさに、あらためて想いを馳せます。
これを書いているまさに今、旧世界の終わりを目前にして、これほど多くの目醒めた人々の魂と共に新地球誕生の時を迎えようとしていることに、本当に言葉には尽くせないほどの歓びを感じています。
ナムはこれからも、まだまだ幾重にも、 "今ここ" に繋がるとんでもなくびっくりするような種明かしをしてくれることでしょう。
この先も楽しみでなりません。 💖
─魂のふるえる場所 ─ End
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木倶知のりこ 著書:●絵本『小箱のなかのビッグバン』 *・* ・*●『ナム "RNAM" 時空を超える光と水の旅』
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