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#とある一冊 02

「次の外来、いつにしますか?」

この一言に救われる人がいるんだと思うと、ぎゅっと胸がしまる。
ある医者が、末期癌の患者にやっとの思いで口にしたこの一言が、患者が生きる気力を取り戻すきっかけとなり、切なくもあたたかいストーリーがはじまる。



小説「神様のカルテ」は、ある一人の医者が信州にある地域の病院で生きることに向き合い懸命に生きていく物語。

主人公は、夏目漱石を敬愛する古風な医師・栗原一止。24時間365日を掲げる地域の病院で、昼も夜もなく必死に働いている。

ある日、栗原一止が大学病院で外来診察をしていた時のこと。
一人の高齢の女性が紹介状と前の病院で受け取ったカルテとともにやってきた。

「もう治療もできないから、好きにしなさいって」
「どうしていいのか...」

ポツ、ポツリと呟くように話す女性は、夫に先立たれ、身寄りもいない。
どうかこの病院においてほしい、私のことを見放さないでほしい。そんな思いが痛いほど伝わってくる。

しばらく間があいて、栗原一止がやっと口にしたのは

「次の外来、いつにしますか?」

見放すでもなく、受け入れすぎるでもない言葉。女性はどんな思いでこの言葉を受け止めたんだろう。

考えるだけで、ぎゅっと胸がしまった。

このあとの話は、ぜひ本を手にとって読んでほしい。


「生きる」と向き合うことは、正解がない。
だから、間違いもないはずなのだけれど、正解ばかり求められてしまう。

そんな時代の、ひとつの灯になってくれると思う。



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