眼科に行った話

少しだけ長いです。
よかったらお付き合いください。



……始まりはいつだって突然……






事が起こったのは一昨日だった。

何気なくスマホをいじっていたら、突然左目に激痛が走った。
おもわずソファの上で呻きながら回転した。

オン?オオッオン??オオオオ???!!
私は叫んだ。


「いッッッッッたァーーーーーーッ!」



とりあえず現状確認のためにソファを飛び起き洗面所に走った。


ここで簡単に目のことを説明しておくと、
私の目は、自分で言うのもなんだが人よりデカイ。
瞼を広げ、「目玉焼き〜」と遊んだくらいデカイ。

さらに神は私にちょっとしたプレゼントをくれた。

睫毛も長いのだ。
どれくらいあるかというと最長だと柿ピーの柿の種と背丈を張り合えるくらい。長いか?ちょっと分からんけど。


私の予想はこれしかなかった。

目玉焼きの上に柿の種が乗る。という図を想像してほしい。

これは私にとって日常茶飯事なのである。




話を洗面台に戻すと、

つまり尋常でない激痛の奇襲をくらった私は洗面台本丸に飛び込んだ。
睫毛ならここで処理すればいいだけだからだ。

ところがどっこい。
鏡とキスができるくらい接近し、左目に右目を凝らしたところ……

いない。
どこにも奴の姿が見えない。
右目は懸命に左目の異物を探したが、
どこにも鋭利な黒い曲線は見当たらなかった。


こ〜〜〜〜〜〜〜いつはおかしいぞ


と言いつつそのまま昼寝したら痛みが引いたのでまあいいかと思っていた。




ところが次の日になってもどうにも違和感が取れない。
ゴロゴロする。
ちょうど瞼の裏に餅みたいなのが張り付いてる感覚。

実はこの感覚、以前からずっとあった。

これは一度診てもらうか……
私は決断した。





そしてさらにその次の日、
私は単身、近所の眼科の門を叩いた。

最後に眼科に行ったのは10年前、
学校の視力検査で再検査を命じられたときだった。

自分の意思で眼科を訪れたのは20年生きてきて初めてのことだった。
心のホラガイが戦の始まりを告げる。
いざ待合室へ。
中には小さな赤ちゃんもいて、(若いのに大変やな……)という気持ちになる。


眼科といえば視力検査というイメージが勝手にあって、
30分ほど待合室で待ってから、やっぱり検査があった。
目の写真か何かを撮って、そして視力検査。

視力は元々悪くないので、無事両眼1.2の診断を受ける。


で、いざ診察。
私はこの病院も、眼科も、初診療なのだ。

人生なんだっていつもはじめてがある。
それはおとなになっても変わらない。

しかも20歳。

まだおとなのなかではあかちゃん。
待合室でなきじゃくっていた赤ちゃんと、
恐怖、緊張といった感覚としては同等である。

超緊張した。1人だし。

診察室のカーテンが自動開閉ということに感動しつつ、
呼び出しは先生の地声というアンバランスさにちょっと半笑いになりながら診察室へ。

これは私の推察だが、先生は私の「裸眼」「視力に異常なし」「眼球にも異常なし」から、もうある程度の予測ができていたのだと思う。
先生は私に早速伝えた。


「じゃあ瞼をめくるね」

……なっ………に……?

MABUTA WO MEKURU???????


絶対痛いやん。
あからさまに警戒する私に先生は優しく、「痛み止めを打つからそんなに痛くないよ」とおっしゃった。

瞼に手が伸びる———


いや痛いやん!!!!!!
目線は下を向き、瞼を思いっきり捲られる。

先生待ってカルテの紙とちゃう、それ瞼や。

そして先生は断言した。

「あ〜〜脂肪の塊だね」


SHIBOU NO KATAMARI????????


私の瞼の裏には脂肪が棲んでいた。
診断は結膜結石という、上記通り瞼の裏側に脂肪などがたまり石みたいになっているものらしい。
これが瞼と眼球を圧迫し、目がゴロゴロする〜、なんか違和感がある〜といった症状を引き起こしているのだそう。
あとで詳しく聞いたところ、なりやすい人はよくなるらしい。私もなりやすいらしい。

という話だ。
先生は続けた。

「結構あったので、切りましょう」

私は言った。

「ッエ」

“言った”という表現が適当かも怪しいくらいの発言だった。

先生は、「自分でも見てみてください。裏側にプツプツっとしたのが見えるので」
と、今度は痛み止めの目薬を点眼した後にまためくり(正直すぐの2回目はキツかった)、
「見えます?」と尋ねた。

確かに白い塊が見えるし、なんなら瞼の下全部真っ白じゃないのコレ……

しかしあまりにも円滑すぎる展開に、
ここから人見知り発動で控えめだった自分が素になる。


「あの、えっと今ですか?」

「今です。切ると楽になりますよ」

「エッ……この場でですか?」

「準備に10分くらいかかりますけどね、すぐ終わりますから」

「エッエッ………エェーーーー……
エッあの取って帰ったほうがいいですか?」

「そうですねえ」

エが多い。
いやそれ以上に展開が早い。

私が本来イメージしていた展開としては、

「なんともないですね〜」

「そうですよね〜よかった勘違いでー笑笑」

一同談笑

という展開だった。それで目薬の一本でももらえれば満足だった。


それがどうだろう、
気づけばあれよあれよと事は進んでいる。
それも切る?モノを?何やて????

一気に病人感が強くなった状態で待合室に戻る。
さっきまで楽しかったはずの待合室が楽しくない。
コンタクトのために来ている人たち、
変わってくれ————






寝台へ横になる時、
(こんなことならちゃんと足のムダ毛を剃ってくればよかったなあ)
と思えていたうちが花だった。










ここからはもう記憶さえ吹き飛ぶ激痛との闘いだった。

まず例の(瞼をめくった時の)
痛み止めの目薬を点眼し、
瞼をめくり、
器具でかたまりを除去する。

文字にすればたったこれだけのこと、文字数だけなら短歌みたいなもの。
しかしこの数行は、まさに涙無しでは語れない壮絶な痛みを伴った。
2日前走った激痛の比ではない、

ITAMI—痛み—

KURUSHIMI—苦しみ—

ちなみに1番の痛みはかたまりを取る痛みなどではない。

——先生が私の眼球を抑える痛み。


こ〜〜〜〜〜〜〜〜れがバッッッッカほど痛い。

もうおめめが潰れるかと思うほどの圧迫感。
神より与えられし左おめめのかつてない異常事態に涙が止まらない。
なんなら切除する方の手が右目にも当たって右おめめにも二次被害が及ぶ。

私のかたまりはかなりあったらしく、
通常5分あれば終わるはずなのに、
体感では10分くらいあった気がする(気がするだけかもしれない)。
その間、照明に瞼の裏側を照らされながら、瞼および眼球を押さえられ、結石を取り除く。
その、間。

いつもなら多少の痛みは堪えるシャイな自分も、今回ばかりは終始叫んでいた。

イッ、イッタイッ、…痛いですイィッタ!!


「痛い?」
「痛いです先生のその指が痛いです(食い気味)」
「そっかあ、でもこればっかりはおさえんとなあ」

看護師さんも、
「でも本当にたくさんあるから、取っておいた方がいいですよ」
と言ってくれた。
私が「いやもうめっちゃ痛いもうヤダこんなことになるなんて……本当にもう何もないかと思ってたのに……ホントにホントに」と虚に本音を呟いたらフフッと笑った。
看護師さんにウケたことくらいしか良い思い出がない。









闘いが終わった瞬間は一生忘れない。





その後先生は抗炎症の目薬と、感染防止の目薬の2本を処方してくださった。

「あの、また来た方がいいですか?」
と尋ねたら、
「ああ、それはもう大丈夫ですよ。今回取れる分は取ったので。
ただなりやすい人はなりやすいので、またなるかもしれません」

やっぱりかーーーーーー……

「やだなぁ……………」

「緊張してたから余計に痛かったよね」

「そうですね……痛かったです」

振り返ると、その日のうちに切ってその日のうちに帰れて再診が要らないということは、本当に頻度の高いものなんだなあと思った。

私が目の中に入った睫毛を取り除くように、
先生が瞼の裏の結石を取り除くのもまた、
同じくらい茶飯事なのかもしれない。

「これでスッキリするはずですよ」


と先生はおっしゃってくれた。

ただ、今その治療を終え、処方された目薬を点眼して2時間が経過しようとしているが、
どうにも目がゴロゴロしている。
最初の頃は明らかに押さえつけられた痛みが違和感として残っているのだが、
多分切った結石が当たっているのか、
ゴロゴロゴロゴロしている。

どれくらいで痛みとか諸々が引くのか聞いておけばよかった。
最後の最後で人見知りが戻って来てしまった。






最後に。

右目へ。
お前はなんて良い子なんだ。
君には全く異常もないし、視力の衰えもない。
これからも末長く仲良くやっていこう。

左目へ。
右目にかたまりを背負わせまいと、
君1人に全てを背負わせていてすまない。
右目と左目だとなんだか左目の方がモニョモニョするなあと思っていたのは、君だけのせいではなかったんだね。
これからはもっと早くお医者さんに行くよ。
これからもよろしく。無理するなよ。

涙が止まらない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?