桜迷宮 ⑥

世界一初恋のりっちゃん大好き二次小説です。
ゆるいですがBLなので苦手な方はブラウザバックでお願いいたします。

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「横澤さん!もうやめろよ!」

俺が横澤を制す寸前、目の前でリツに覆いかぶさるようにとめに入ったのは小柄な木佐の華奢な身体だった。

「見て分かんねーの?もうりっちゃんいっぱいいっぱいだから!これ以上はいじめだから!パワハラだから!」

いつもつかみどころがない軽い口調の木佐が今日はむきになって激しく食って掛かる。体格の差を見ても二人の姿はまるでヒグマと白うさぎだ。

「パワハラ!なに言ってんだ!これは指導だろ!」
「ふざけんなよ!幼児虐待する親みてーなコト言ってんじゃねーよ!だいいち、あのミスってりっちゃんのせいじゃねージャン!」
「はあ!?」
「オレ、隣でりっちゃんとプロモのやり取り聞いてたから知ってる!りっちゃんが言いたくなさそうだったから今まで口出さなかったけど、りっちゃんがあんなイージーなミスするわけないだろ!なのにあんた男のくせにいつまでもグチグチうるさいんだよ!」

木佐の剣幕にあっけに取られていると羽烏も割って入って「つい先ほどメールで事故報告書がプロモーション課から出ました。後ほど見て下さればご理解いただけるかと思います。」とクールに言い放ち、「体育会はそれが普通かもしれないけどここ文系部署だから。ちょっと品がなくていただけないかもね。」と羽鳥に続いて美濃もほどほどにフランクな口調でやりすぎを咎める。

今まで、威圧的な態度の横澤に口出しするようなことはしなかったし、仕事もできるから取り立ててその態度に意見を言う事もなかった。

だから普段コトを荒立てることを避ける嫌いがある木佐がリツを庇ったことが意外で、他のメンバーまでもが加勢するとは思えなくて、いつもなんだかんだとリツをからかっているけど、きちんとリツのことを見ていてくれたのだと思うと嬉しかった。

「小野寺と横澤、ちょっと来て。」
場を改めようと間に入ると、木佐が険しい視線を向けて「高野さん、なにするつもり!?」ともう一度リツを後ろに庇って鋭く言う。庇われたリツは真っ青になって硬直したままだった。

「ちゃんとするから。」
「高野さんと横澤さん二人にするなんて信用できない!」
このところの俺とリツのやり取りを見ているからか、木佐だけでなく他のメンバーも一様に怪訝な顔つきだった。

「本当にするから。」
そういうとやっと木佐が「ほんとにだからね」とリツの前からどいた。リツがかわいがられている事が分かったけど、俺はずいぶん信頼がないらしい。
確かにこのところの俺はヒステリーに見えた事だろう。私生活を仕事に持ち込むなんてだめだって分かってるけど、リツがエメ編にきてから公私混同でグズグズだ。
今更軌道修正できないほどに。


「談話室行くから仕事進めといて」
他のメンバーにそう断りを入れ、思考をとめているリツといまだにかなり不満げな横澤を促して場を離れる。他の誰かを交えて話はできない。リツが横澤のことを覚えていことを知らせなければ…。

横澤の耳にだけはそれを入れておかねばならないのだから。

「っで、何なんだ!まだなんかあるのか!」
談話室に入っても横澤の態度は憮然としたままだった。
そもそも今回の諍いはどうやらリツが返したメールのせいだったということが分かった。

昨日到着していた『状況報告をしろ』というメールに、リツは横澤のことを覚えていなかったから丁寧なお詫びの返事をしたのだそうだ。しかしそれが横澤の逆鱗に触れたらしい。横澤にはそのお詫びメールが木で鼻を括ったような、人を食った口先ばかり取り繕ったメールにしか思えなかったということだ。

ドアについているスライドの札を使用中に代え、鍵をかけてから「お前その態度やめろ。」と、横澤に威圧的な態度を改めるように伝える。
なにしろリツは横澤の怒鳴り声にいちいちビクビクして真っ青になっていて、談話室に入るなり緊張が少し緩んだのかペッタリと床に座り込んでしまったのだ。

また過呼吸の発作で出て、無くしてしまうものがあったら今度こそ取り返しがつかなくなってしまうのではないかと俺自身がリツに怯えていた。
目の前のリツのシルエットがさらさらと崩れて形を無くしていくようで、手で掬い上げても指の間から流れて落ちて、どんなにかき集めても、もはやそれは固形に戻ろうとはしない。

そんなイメージにとらわれている。

木佐が言っていたとおり、リツはもういっぱいいっぱいだ。リツが忘れてしまっていても、おそらく心が覚えている。それを引きずり出してしまうと何が起こるんだろう。

きつい。
苦しい。
こんな状況にまで追い込んだのは俺であることは否めない。

蹲るリツの背を支えながら正面の木の床に一緒に座り込んで、頭を肩に背負うように乗せてからリツの背を軽くさするように叩く。もう片方の手でリツの指先をぎゅっと握りしめると、座り込んだ木の床と同じぐらい冷えてつめたかった。

立ったままの横澤が俺たちを見下ろして、苦いものでも食べたような顔のまま「お前が小野寺をそうやって甘やかすからいつまで経ってもこいつはだめなんだ。」とつぶやくように言葉だけ床に吐き捨てる。

俺がリツの背をさすり、リツがされるがままでいる現状に戸惑いがあるのか、さっきまで怒号と化していた声に勢いはなかった。

「俺は…、もうリツを追い詰めたくない。なにを言われてもずっと守って甘やかしたい。失いたくないんだ。」

リツの無くした過去に、俺たちの幸せは少ない。辛くて苦してく悲しいことばかりが詰まったものをリツが飲み込み切れず吐き出したとしても誰に責めることができるというのだろう。
今ここにいるのは欠片か本体か…、それでも無くすわけにはいかないんだ。

「リツは…、今お前のことを覚えていないからリツをもう責めないで欲しい…。」
記憶に横澤がいないリツは、そう聞いてもは身じろぎもせず肩に顔を押し付けていて、ほぐれるように念を込めてなで続けているけどその背はまだ緊張で突っ張っている。

「覚えていない?」
「そうだ…。」

怪訝そうな声と眉間の皺が説明をしろと促す。なにをどう説明すればいいのか、自分でもよく分からないのだけど、それでも昨日から起こっていることをかいつまんでポツポツと話すと、横澤は低い声で唸った。

「そんなのこいつが弱いだけだ。結局誰がなにをしたとかじゃなくて自分が抱え込めないプレッシャーを自分で詰め込んでいるだけじゃねーか。」
「そう誘導してしまった責任は俺にある。」
「じゃあこいつに責任はねーのか?今回も10年前も!」

「10年前?」

肩に頭を預けていたリツが身体をキュっと起こしてそうつぶやく。首を旋回させた拍子にリツのさらっとした髪が頬を掠めて鼻先にリツの香りが立つ。
そしてやっぱり欠片でも本体でもこれもリツだと思い知らされた。

「お前は10年前にマサムネに蹴りを食らわせてトンズラこいたんだ!自分勝手に勘違いして。」
「誤解があったんだ。」
「誤解とかカンケーねーだろ!お前らいつもそうだ。きちんと本音をさらけ出して話し合いもできねーくせに恋人とか言ってんじゃねー。」

完全に俺から身体を離したリツが正座をしてうつむいたまま上着のポケットからゴソリと何かを取り出した。
「今回の責任を取って、会社を辞めます。」
手にしていたのは凡帳面なリツの字で辞表と書かれた白い封筒だった。

少なくとも昨晩のリツはそんなことはしていなかった。これを書いたのは記憶のあるリツだ。いったいいつから用意していたのか、封筒の角はクシャっとひしゃげていた。

ずっともう辞めようと思い悩んでいたのだろうか。なんで相談してくれなかった?そんなに俺は頼りにならない?そう思いながらも自嘲が浮かぶ。

頼りになるわけない。こんなふうに追い詰めている張本人なのだから…。

目の裏に、ひねくれた素直じゃないリツと10年前の純真なリツの笑顔が同時に浮かんで、もしこのままどちらも消えてしまうぐらいなら会社などどうでもいいと思った。
リツがいてくれるならもうなんだってかまわない。

「リツが辞めたいならいいよ。リツのことはずっと俺が面倒見る。だからもういい。」

封筒を受け取ろうと手を伸ばすとそれより先に目の前をバっと何かが横切った。
びっくりした俺たちが、奪われた白い封筒の残像を目で追うと仁王のように封筒を掴んだまま立っていたのは鬼の形相の横澤だった。

「ふざけたことぬかしてんじゃねー!」
いきなり目の前でその封筒はびりびりに破かれて、まるで土俵入りの力士の撒く塩のように茶色い床に振りまかれた。

「こんなものは責任でも何でもねー。お前が辞めたって痛くもなんともねー!お前が逃げてるだけだ!」

再びの横澤の怒号に目の前でリツの目が揺れて顔がクシュリとゆがむ。

「自分が苦しけりゃ全部忘れればいいのか!辛くなったら逃げればいいのか!お前はいつだってそうだ。だからお坊ちゃまだって言われんだ!」

傷をえぐるような横澤の台詞からかばうように慌ててリツの頭を抱きかかえて耳を押さえる。
聞かなくていい。
もうなんにも苦しまなくていい。
全部俺がやるから。
そう叫びたかった。

「もういいんだ!横澤!リツをこれ以上追い詰めないでくれ。」
祈りに近いような縋るような気持だったのに、横澤は一歩も引かなかった。

「お前もお前だ!散々小野寺を振り回して結果がこれか!甘ったれてんじゃねー!お前ら割れ鍋に綴じ蓋って言葉がぴったりだ!どっちも一人前じゃねーんだから割れたとこばっかりはめようとして舐めあってんじゃねー。」

リツも俺も抱き合ったまま唖然として暴れまくる熊の挙動を見守ってしまった。

「責任取る気だったら誰にも迷惑かけないように一人前になれ!俺はお前が嫌いだ。お前がイギリスまで逃げたって聞いてもっと嫌いになった。今度も逃げる気なら二度と俺の前に顔を出すな!悔しかったら偉くなって見返してみろ!」

横澤は息も荒く真っ赤になって、熊どころか放射能を口から吐きまくるゴジラのように怒鳴り散らした挙句、カツカツと足音も荒く談話室から出て行った。

静かになった談話室でふっと昔が浮かぶ。

荒れていた頃、横澤が肯定してくれたから俺は立ち直れた。
だからこんな風にお前はだめなんだと全否定されたのははじめてで、逆に目が覚める思いがした。

つぎはぎだらけの俺とリツはどうしていけばいいのかまだ全然分からない。
だめなところを認め合って、さらけ出して、それでも二人でいたいならそれは依存でも干渉でもなく自立ということになるのだろうか。
欠けた蓋をずらして乗せればきちんと飯は炊けるのだろうか?

「リツ、仕事に戻れるか?」
冷たいほっぺたに手を添えてそう聞くと、リツはコクリと小さくうなずいた。
エメ編に戻ろう。

肯定してくれる場所に。

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桜迷宮

世界一初恋の二次小説です。 内容は高律、りっちゃんのお誕生日のお祝いです。
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