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くもりなきまなこ

久方ぶりに白バイさんにお世話になりました。
歩行者優先のところをあなたの車が先に進んだので
それはルール違反ですね、とのこと。
書類を書きますので車中にいてくださいね、
免許証出してください、2点ですね、と続く。
説明が軽やかで幾度となくこの言葉を
繰り返してきたことが容易に想像できる。
ロボットのようにスナオにその指示に従って
運転座席に座っている。
視界の先にはゴールとなる
タピオカ屋さんが見えているのに、
ここでしばしじっとしていないさいとのこと。
わかる。ルールを侵したからね。わかるよ。
ただね、ただ、ちょっと待ってほしいんだ。
一つだけ言わせてほしいことがある。
あのときたしかに歩行者がいた。
運転席から右斜め前にたしかに歩行者が見えた。
おじいさんだった。顔まで見えていた。
なんなら目もあっていた。
あのときたしかに
ぼくたちは目があっていた。繋がっていたんだ。
瞬間的にぼくたちは二人の世界に入っていたんだ。
そのときぼくは聞こえた。おじいさんの目の声を。

(先に行きな、坊主)

ぼくは受け止めた。
おじいさんのその想いを受け止めて、
目で返事をした。

(伝わったよ、おじいさん)

曇りなき眼でそう返事をし、車をスイっと前進させた。
お互いの視界からお互いの姿が消えると
二人だけの世界は開放され、
ぼくたちは他人に戻った。



ピポーーーー



そして白バイさんの登場である。
2点になりますんで、あ、忘れてた、
罰金9,000円もありますんで
1週間以内に郵便局にて
お支払いおねがいしますねー


「ルールを司るものは
 罰することよりも例外をつくってあげることが
 大事なんだよ」

こんな言葉を思い出しました。
白バイさんとおじいさん、ありがとう。

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