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ビールと愛と、大人の恋の味


待ち合わせは いつも小さな駅で

改札の向こう側に見える あなたは
いつも、ほんの少しうつむきながら
小さく手を振って
こちらへ向かって歩く。

夏は、
ネクタイを締めていない。

あなたを見つけて 目が合った、
その瞬間がたまらなく、好き。

本当は 走って 駆け出して、
飛びついてしまいたいくらい嬉しくて たまらないのだけど

わたしも、少しはにかみながら
右手で手を振って ベンチから
立ち上がる。

これから仕事へ向かうような
綺麗に整った服を着て
わたしに 会いに来る。

ドクン、ドクン、と高鳴る心臓は
何度会っても 落ち着くことなんて
ない。

わたしの、大好きで、大切な人。

隣に居られる時間は、少し、
だけ。

帰る場所は、お互いに、違う。

だけど、離れることは、出来ない。


彼とは、
月に 1、2度 会う約束をしている。
簡単には 会えない。
ほとんどが 少し離れた町の

郊外の駅だった。

普段 あまり電車に乗らない私は

駅を使うことが 増えた。
電車に乗る機会が 増えた。

友人の相談に乗る、という事情で
出掛けることが、 増した。


毎回、会うと、ビールで乾杯する。

彼と一緒に飲むお酒が
いちばん嬉しくて、楽しくて、
いちばん美味しい。
ビールは「1番搾り」と 決めている。

数時間後、
隕石か何かが地球に衝突して
もう、このまま、なにもかもが
なくなってしまってもイイのに…

と、思うくらい
最高にしあわせなひとときだった。


日々の うやむや とか 誰にも言えない話とか 仕事のこと、将来のこと、
社会や経済のこと、山や自然、
お酒のこと、
音楽や映画について、
服や身に付ける装飾品のはなし、
健康管理について、

それから、愛を語る。

彼は、いつも、優しく丁寧に
愛を 紡いでくれる。

一緒に美味しいビールを飲みたくて、
電車で 色んな所へ行った。
連れていって くれた。

世界には、日本には、
そして、人生には

まだまだ楽しいことが沢山で
素敵な 時間を もっと過ごして良いのだと、
教えてくれた。
未来は、明るくて たのしいこともあるんだって、伝えてくれた。

彼と 乾杯 するだけで
気持ちが スーッと落ち着いた。

嬉しすぎて、少し涙ぐむから
鼻に抜けるビールの香りが
余計 苦く感じて

それもまた、心地良かった。
気持ちよかった。

私がわたしで、
本当の 自分で居られる
唯一の時間だった。
全て さらけ出せる
唯一の相手だった。


私は元々 お酒が好きだ。
物心ついた頃から
気がつくと
近くにお酒のある環境だった。

父も、
もう20年以上前に亡くなった母も、

よく、ビールを飲んでいた。

今なら、あの頃の 母の気持ちがよく
分かる。

わたしは、大人になっていた。

気持ちは まだまだ あの頃の、
純粋で ただ 楽しくて
夢を食べて生きているような、
そんな つもり なのに。


月日は 流れてゆく。
簡単に、日々は 過ぎてゆく。

人はみな、愛をもって産まれ
愛に包まれる 義務があっていいと思う

誰かを愛し、愛されたい。

人間は、喜びを得るために生きている。

とある本に、書いてあった。


1人の夜も、私は ビールを飲む。

脚の先から 指先まで
ぽわん と あたたかく ぬるい欲望が
わたしの血液を巡って
少しだけ ほっとする。

生きている 実感が湧く。

ちょっとたのしくなって 嬉しくなって

誰かと この 気持ちを
共有したくなる。


遠く 離れた わたしの大切な人。


あぁ、いつも、

包まれていたい。
優しくて 丁度良い温度の

あの 温もりに。

寄せては返す 波のような、
いつも いつでも 心地の良いあの波に

わたしは、のまれていたい。

こんな感情は 初めてで

誰かの為に生きて、死ぬなんてこと
考えたこともなかったけれど

私は 私の 生きた証を
あなたの為に 残してもいいと、
はじめて そんな風に 思った。

今年の花火の音は もう聴こえない。
夏の終わりは 儚い。

私たちの恋も、もろく儚い。

たった一言のLINEのメッセージで
ボロボロに なりそうなこともあった。


んん、だけど 壊れない。

あの 夏の日、

ビールを飲みながら
いつまでも 話していたい。って
目を見て 真剣に
言ってくれた、 見つめてくれた、

ぎゅっと 抱き締めてくれた。

夏も、好きだ、 と

はじめて思った。

次の夏も、
また、その次の夏も

わたしは、あなたと一緒が いい。


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sayan12

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