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七海うらら2ndワンマンライブ東京公演小説風レポ

「すごっ」

 開演時間が近づいてきたこともあり開場前にはどんどん人が増えてくる。全員が全員というわけではないだろうが、ほとんどの人はうらんちゅだろう。
 なぜなら今日はここ豊洲PITで七海うらら2ndワンマンがおこなわれるからだ。
 通りがかる人それぞれにそれぞれの想いがあり、それぞれの理由でここにきている。
 服装もライブTシャツから七海うららを意識したであろうコーデや私服、学校からそのまま来たらしい学生服の人もいたりと人それぞれ。
 年齢も性別も想いも服装も人それぞれ。ただそれでも共通していることもある。
 それは七海うららを応援する気持ち。それだけは皆変わらない。
 やがて会場内に案内され、自分の席につきこれから始まるセカンドワンマンに想いを馳せながらその時を待つ。
 そして19時を少し過ぎた頃。
 バンドメンバーが先に舞台にあがり、客席から「おっ」という言葉が漏れ出る。
 やがて時は来た。
 舞台袖から女性が現れ、暖かく迎えるように歓声があがった。
 こうして生身の七海うららの姿を見るのはこれで三度目。1stワンマン、MOTTOMUSICでのフェスライブ、そしてこの2ndワンマン。
 何度見ても、あらかじめ分かっていても、やっぱり思う。配信で見ているうららーんと生身の姿も瓜二つだと。
 そして歓声がやみ静まったところで七海うららは歌いだす。

(ダイヤノカガヤキ!!)

 1曲目はパラレル☆ショータイムだと思っていたこともあり、ダイヤノカガヤキがきたことに驚く。
 ただ、それ以上に。

「ヤバすぎんだろ……」

 隣の人にも聞こえないレベルの小声がつい漏れ出る。
 七海うららの生歌を聴くのはこれが初めてではない。当然七海うららの生歌の力強さ、魅力は知っている……つもりだった。
『身を削られることで輝きを増すダイヤモンド』
 七海うららはダイヤモンドを自身のトレンドマークとし、よくその言葉を使う。
 今日の歌声を表すにはまさにその言葉がぴったりだ。
 まるで自分の身を削って歌に込めているような、魅力がギュっとつまった歌。
 よく例えられる七色の歌声や歌唱力が高いという言葉とは明らかに違う異彩を放つ歌声。
 嘘偽り誇張表現なしに思う。

(こんな歌聴いたことが無い)

 痛み・悲しみ・辛さなどそういったことを一瞬で吹き飛ばしてしまう。
 歌い出しだけで確信する。今日この場に来てよかったと。
 1stワンマンの時に惚れたその歌声は、明らかにより魅力を増しダイヤのカガヤキを放っていた。
 そしてダイヤノカガヤキを歌い終わりMCに入るのかな、と思っていると。

「続けていくよー! 赤い風船!」

 先ほどの勢いのある歌声から柔らかく可愛らしい歌声へ。
 しかしだからと言って先ほどの魅力が消えてしまった訳ではない。先ほどの魅力を残しつつ、歌声が変わったことでまた別の魅力へと変化する。
 うらんちゅたちのペンライトが曲に合わせて青から赤へ。ペンライトのスイッチを操作するカチカチという音が聞こえ、みんなダイヤのペンライト使ってるんだなと思う。
 恋する少女の気持ちを歌った赤い風船。
 1stワンマンの時も2曲目は赤い風船だったことを思いだす。
 あの時の赤い風船も良かったが今回の方が明らかに魅力が増しているし、七海うららのダンスも良さが上がっている。
 そして赤い風船といえば。
 七海うららが歌っている途中でマイクをこちらに向ける。

「「「ふくらんじゃう、ふくらんじゃう!!」」」

 MCで伝えられていたという訳でもないのにうらんちゅの声が綺麗に揃う。
 自分は比較的前の方の席であり視界に入る人はそこまで多くない。しかしその掛け声から自分の後ろにも多くのうらんちゅがいることが良く伝わってきた。
 そして赤い風船を歌い終わり次の曲へ。

(!? あいまいみーらいふだ……!)

 2ndワンマンの3曲目、そして1stワンマンでの3曲目でもある。つまり赤い風船からのあいまいみーらいふの流れはあの時と同じ。
 とても楽しく勢いのある歌。しかし歌詞に注目して聴いてみれば七海うらららしい曲であることが分かる。
 仕事で頑張る人に向けた背中を押す曲。
 この会場に来た人たちの悩みや不安などを吹き飛ばすような勢いと元気のある歌声で歌い進める。
 好きなアーティストのライブというのは、元来会場に来た人を楽しませ日々の悩みなどを忘れさせてしまうものだ。
 ただ七海うららのライブはそれがより増しているというか、悩みなどなく楽しいことばかりがギュっと詰まった七海うららワールドに連れて行かれたような感覚におちいる。
 あいまいみーらいふ♡を聴きながらぱっぱやぱしていると楽し過ぎてすぐに終わってしまう。
 続く4曲目。
 もしこれも1stワンマンと同じ選曲であればDesire Designerのはずだが――。

(……!!)

 ショータイム、の歌い出しで始まるこの曲。
 今年の1月17日にリリースされたばかりのPrismで初公開された新曲、パラレル☆ショータイム。
 このライブにの1曲目に来ると予想していた曲が今ここでついにきた。
 特に歌詞が気に入っている曲で、ショーの始まりを告げるような曲で盛り上がるし七海うらららしい頑張ろうと思える。
 リリースされてから何度も聴いてきたがライブ(生歌)で聴くのはこれが初めて。
 この歌には掛け声もあり、それを含めて楽しみで自然とテンションも上がる。
 ステージ上で歌い踊る七海うらら。
 しっかりと身体を動かしているにも関わらず、歌声がブレる事なく会場に響く。
 曲が進むにつれどんどん盛り上がりを増していき、自然と手に持つペンライトやパペターを勢いよく振ってしまう。
 そしてそれは自分だけではないようで、視界に入る人々も同じようにペンライトを振ったり身体を大きく動かしていた。
 これだ。
 ライブで楽しいのはアーティストの生歌や生演奏だけではない。観客を含めたこの一体感。
 誰もがこの瞬間を楽しみ、誰もが気持ちを一つにする。この感覚はやはりライブならでは。
 今までの曲でも十分にドキドキワクワクしていたのに、このパラレル☆ショータイムでよりそれが加速していく。そしてそのままの勢いで駆け抜けていった。
 全力で歌い踊り時には観客席に手を振ったりと場を盛り上げた七海うらら。パラレル☆ショータイムを歌い終わるとMCに入る。

「すみません、お水飲ませてください」

 そういって少し後ろに下がり、水を飲み始める。

「お水おいしー!?」

 観客席から誰かが叫び、1stワンマンの時もこんなやりとりあったなと懐かしくなる。

「お水おいしいよー!」

 飲み終わったあと嬉しそうに答える。

「はいどうも、七海うららです! 皆さん本日は東京公演にお越しいただきありがとうございます! 楽しんでくれてますか!?」

 問いかけると観客席から間髪入れずに叫び声がかえってくる。
 その反応に七海うららが嬉しそうにしたのが分かった。

「よかった。みんなのこともちゃんと見えてるからね! ブルーベリー飲んできたんやから!!」

 観客席から笑う声が響く。

「ちょっと聴きたいんやけども、この中でいつも配信見てるよーって方?」

 多くの人が上げ、自分も一緒になって手をあげる。

「それじゃあ、配信は見てないけど歌は聞いてくれてるって方?」

 周囲を見渡すと決して少なくない人が手をあげる。

「あ、ありがとうございます。こういう場でもないと会えませんし、お礼も言えませんからね。来てくださって嬉しいです」

 それから親子で来た方、うらんちゅ同士で一緒に来た方と聞いていく。

「今日は外国からきてくれた方や目の見えない方もいらっしゃるそうで。でも、大丈夫です! 見えなくても楽しめるライブですので! 今日はこの会場だけでなく、遠くまで私の歌声しっかりと届けたいと思います!!」

 その宣言が嘘ではないことはこれまでの歌声で既に証明されている。

「では次の曲に行きます。これからお送りする2曲は夏の曲になってます。聴いて下さい、クラルハイト」

 七海うららが演奏と共に歌いだすのと同時にMVがスクリーンに映し出される。
 2023年のボカデュオに七海うららたちが参加した自主制作楽曲。
 自主制作という事もあって思い入れも強いだろう。七海うららの歌声にはより気持ちがこもっている気がした。
 歌声、MV、波の音。それらが組み合わさって目の前には海が広がっているような感覚におちいった。
 そして続く2曲目、別夏。
 夏の曲と聴くと盛り上がる曲のイメージがあるが、クラルハイトも別夏もその反対で切なさのある曲だ。

「ちょっと私ははけますね」

 別夏を歌い終えた七海うららはそう言い残して舞台袖に消えていく。
 思い当たるのは1stワンマンでもあった衣装チェンジ。
 しかも2ndワンマンの少し前に行われたyoutubeのライブでは新衣装が披露されており、それを知っているものたちはもしかして? と期待する。
 その間は休憩時間かな、と観客たちが座り始めた頃。ステージ上に人間1人ぐらいの大きさのモニターが運ばれてきた。
 お? と思っている間にモニターに光が灯り、3Dうららーんの姿が現れた。

 「ここからは私、ヴァーチャルうららによるカバーソングメドレーの時間です!」

 ネット上で活動するヴァーチャルの姿を持ちながら現実世界で生身での活動もする七海うららならではの仕掛け。
 彼女はこれまで何曲も何十曲もカバーソングをyoutubeにあげている。
 昔から七海うららの活動を見守ってきた人には七海うららと言えばカバーソング、という印象を持っている人も少なくないだろう。
 次々と曲が変わっていく中で、七海うららはしっかり声色を合わせて歌う。
 多くの人気曲を歌い終えたヴァーチャルうらら。

 「それではみなさん、そろそろ現実の私を呼びたいと思います。私の名前、みんなで呼んでね! いくよー?」
 「「「うららー!!」」」

 一丸となって叫ぶと舞台袖から「はーい!!」とリアルの七海うららが飛び出した。

 「ここからは私七海うららと、ヴァーチャル七海うららの2人でお送りします!」

 言葉を聴きつつも、再び現れた七海うららの姿に見惚れていた。予想していた通り彼女は先日発表されたばかりの新衣装の格好をしていた。
 お披露目ライブで見たヴァーチャル七海うららの姿と瓜二つ。
 リアルの七海うららの新衣装姿もよく似合っていて可愛らしい。そう思っていると歌が始まる。
 ガールズストラテジー。
 この曲は元々七海うららとユエナのデュエットで歌われる。
 それを今回は生身の七海うららとヴァーチャルうららで歌うようだ。
 ただスクリーンにはしっかりとMVが表示されており、ピンク髪の女性ユエナもしっかりと映っている。
 2人の女の子の両片想いを描いた曲。それを2人の七海うららが歌う。
 どっちを見ればいいのか少し迷いつつ、せっかくのライブなのだからと生身の七海うららに視線を向ける。
 七海うららにとってこの曲は初の作詞作曲した曲であり本来は仲の良いユエナと共に歌う歌ということもあって思い出深い曲のはずだ。
 歌詞の一言一言に想いをのせて、恋する気持ちを歌う。
 途中観客に向けて手を振ったりファンサービスもしっかりするのは、うらんちゅ1人1人を大切にする彼女らしさの表れ。
 へいっ、なんとかなれー、など観客席からの掛け声も合わさり魅力的な歌がより輝きを増し、そして終わりを迎えた。
 そして、あの曲がくる。
 七海うららのオリジナル曲で最も涙腺にくる曲。そしてうららだけじゃない、彼女 キエラの曲でもある。

 ――茜光。

 曲を察し、ペンライトをオレンジ色に変えるために一度視線を下げる。
 スイッチを何度か押し、色を変え終え視線を上げると彼女が七海うららと並んでいた。
 七海うららがヴァーチャル世界でも現実世界でも活動しているからこそできた、このコラボ。

 (黄昏キエラ……)

 ずるいと思った。卑怯だと思った。そして七海うららに感謝した。
 この光景に心打たれないうらんちゅはいない。
 柔らかく透明感があってどこか芯の感じる歌声を聴きながら、七海うららと黄昏キエラのツーショットに想いを巡らす。
 2人の後ろに映るMV、七海うららの手を組む仕草や黄昏キエラに向ける優しい視線、そういったものがたまらなく嬉しい。
 感無量になりながらも心にこの光景を刻み、心底想う。この場にきてよかったと。
 茜光を歌い終わると黄昏キエラが手を振り、モニターの灯りが消えた。
 それはまるで走馬灯のセトリを考えておいての最後、黄昏キエラが消えていったときのようだった。
 役目を終えたモニターはスタッフの手によって片付けられ、再び七海うらら1人に。
 次の曲はSeventhHeavenかキワメテカワイイだろうか? そう予想しつつペンライトを青色に戻す観客たちを眺めていると。

 「さぁ弾きなそのトリガー」
 (!? ここでTrigger!?)

 しんみりした会場を沸かせるように、一転した力強くカッコいい歌声が響き渡った。
 予想外だったのは自分だけではないだろう。その証拠にみなペンライトを赤く変えるのに手間取っている。
 ミニアルバムのPrismではかなり曲順にこだわっていた。
 だからこそ意表をつかれ、それがまた楽しくもある。
 初めて見るMVをモニターに映しながら、力強い歌声とダンスが披露される。
 全力全開のパフォーマンスは茜光でじめっとしていた空気を容易く吹き飛ばす。
 あまりの温度差に風邪をひいてしまいそうなーーいや、風邪の菌を焼き尽くすような熱さがここにはあった。
 薄暗い場内は赤い光で埋め尽くされ、その光はまるで場内の熱さを可視化した炎のようであった。
 そしてTriggerの後といえば、そうLove and Hate。Triggerに少し狂気性を付け加えた印象の曲だ。
 この曲順はほんんどみんなが予想していたであろうままだ。
 パラレル☆ショータイムと同じくライブで披露されるのはこれが初めて。そんなこともあってみな七海うららのパフォーマンスに無我夢中だ。
 ダークでカッコいいラップと狂気を含んだ可愛らしいぶっ壊そ? に魅力されたうらんちゅは数知れず。
 それが生歌に定評のある七海うららによって、Triggerで温められたこの会場で聴けるのだ。盛り上がらないわけがない。
 熱い。熱すぎる。
 この熱さ、楽しさはこのライブでしか味わえない唯一無二なもの。
 今日何度目かわからない、ワンマンにきてよかったを想いながらカッコ良すぎるラップに耳を傾ける。
 このかっこよさが癖になる。
 変幻自在の歌声を持つ七海うららのライブはその変化に驚かされ魅力される。

 (ほんと、凄すぎる……)

 これを歌いながら、ダンスも披露するのは相当大変だろう。しかもカバーメドレーを抜いてもこれまで10曲以上歌い踊ってきた後で。
 それでも彼女からは疲れた様子は微塵も感じられない。歌もダンスも輝きを失っていない。むしろより輝きをましているようにさえ思える。
 これまでどれだけ努力を積み重ねてきたかの証明だ。
 途中バンドメンバーの紹介を挟みつつ、無事に歌い終えた。
 そして気がつくといつの間にか舞台衣装から今回のグッズであるライブTシャツへと服装が変わっていた。
 七海うららは一度水を飲んで呼吸を落ち着かせる。

「楽しんでくれてますか!?」

 問いかけると観客たちが湧き上がり、その反応に嬉しそうに頷く。

「そういえばみなさん! バンドメンバーの皆さんが着ているこのライブTシャツなんと、ParallelShowPrisのグッズとしても売られているものです」

 バンドメンバーがきている黒・白・水色のライブTシャツを紹介していく。

「このほかにもフェイスタオルやラバーバンドなども売られているので、是非お帰りの際に買っていただけたらなと」

 1stワンマンの時とは違い今回は通販で事前販売もあったため、既に全て買っている。

「そしてこのグッズをデザインしてくれたのはファッションセンターゑちゃん! 今日この場にも来てくれています。ゑちゃーん!!」

 七海うららが観客席に向けて呼びかけると、とある女性が手を振り返した。
 というか隣だった。
 隣の席ゑちゃんだった。

(マジで!!!???)

 実を言えばライブ中服装的にそうかな? と思う時もあった。ただそんな偶然あるわけないだろう、それっぽい服装の別人だろうと思っていた。
 急にこれまでの自分の行いが気になり始め、失礼を働いていないか心配になってくる。
 七海うららの歌声が想像以上にパワーアップしていて度肝を抜かれたとはいえ、七海うらら2ndワンマンライブに来ている以上ある程度それは考えていたことだった。
 だが隣がゑちゃんという偶然を予想している訳もなく、その衝撃は強かった。
 ファッションセンターゑちゃんといえば今回のライブグッズだけではなく、これまでに販売されたグッズや配信画面などもデザインしている。七海うららを推している身としてその仕事っぷりに感謝の念が堪えない。

「さてそれではカッコいい曲が続いたので、ここからは可愛いゾーンです。みんなの可愛い見せてなー!」

 そう言うと前の方にいる観客たちがネイルした爪をステージに向けた。
 うんうん、と嬉しそうに頷きネイルをしていないにもかかわらず爪を見せてきた観客に「ネイルしてないやないかーい」と楽しそうに突っ込んでいた。

「それでは行きます、Luv Rendezvous」

 カッコいい歌声で歌い始める。しかし歌詞は可愛らしい恋する女性を書いたものでそのギャップもまたこの曲の魅力の一つ。
 バラードの茜光からカッコよくラップのあるTriggerやLove and HateからこのLuv Rendezvous。
 歌える幅が広すぎると言わざるを得ない。しかも、どの曲もクオリティが高い。
 歌唱力の高さ、歌声の幅、生歌の良さ、などなど七海うららの歌の良さは多岐に渡る。
 もしかしたらそういったことを楽しませるためのこのセトリなのかもしれない。
 先ほど七海うららは可愛いゾーンと言った。つまりまだほかにも可愛い曲を歌うということ。
 そしてまだあの極めて可愛いあの曲を歌っていない。Prismで新しく発表された3曲のラスト1曲。七海うららが特に推してきたあの曲。

「聴いて下さい、キワメテカワイイ。みんなも可愛くなろな!」

 そう宣言して歌いだす。
 実を言えば3つの新曲のうち、この曲だけは初見ではない。勿論生歌を聴いたことがある、という意味でだ。
 先月開催されたMOTTO MUSICのフェスライブでもこの歌は歌われたからだ。
 ただ。
 より歌がうまく、ダンスのキレが上がっているように見えた。それは曲が進んでいくうちに確信へと変わる。
 パラレル☆ショータイムがワクワクする曲、Love and Hateをカッコいい曲だとすれば、キワメテカワイイは自己肯定感の上がる曲だ。
 キワメテカワイイの良いところは聴く者に自信を持たせやる気を出させるところ。
 似たような曲で私は可愛いという曲や、あなたは可愛いという曲はある。ただこのキワメテカワイイは私もきみも、とどちらか一方だけではなく双方を可愛いと認める歌詞になっている。それがあまりにも七海うらららしい。
 キワメテカワイイ歌詞にキワメテカワイイダンス、そしてキワメテカワイイ七海うららにキワメテカワイイ観客たち。
 それらが一つになって会場全体がキワメテカワイイ空間になっていく。
 1stワンマンのセトリを考えればもう終盤のはずだ。恐らく終わりは近いだろう。
 ここまでずっと七海うららのパフォーマンスに手抜きは見られず、最初からここまでずっと全力だったはずだ。
 それでも疲れた様子は微塵も見られない。彼女がこれまで体力づくりに励んだ成果だろう。
 まさに彼女自身がキワメテカワイイを体現している。だからこそこの歌に説得力を感じたり信じることができる。
 やがてキワメテカワイイを歌い終えた彼女は言った。

「次の曲が最後になります」
「えー!!」

 七海うららの言葉に観客全員から惜しむ声が響く。

「ただ最後の曲に行く前に、皆さんに話しておきたいお話があります」
「「「?」」」

 なんだろう、と観客たちの頭にはてなが浮かぶ。

「昨日はおじいちゃんのお葬式でした」

 その言葉に全員が、あ……っと息をのむ。

「私はリハーサルがあって行けなくて、お通夜だけの参加で…………」

 七海うららの声が震えているように聴こえる。

「私このライブの最初にこの会場の遠くまで歌声を届けたい、って言ったと思うんですけどそれはおじいちゃんに私の歌声が届いたらいいなっていうのもあって……」

 七海うららの顔はしっかり見えない。それでも涙を必死に堪えているであろうことは容易に想像できた。

「だから、この歌は特に心を込めて歌いたいと思います。……聴いて下さいSeventh Heaven」

 Seventh Heavenの歌い出しは「届いているのかな」
 あのMCの後でそれはもう反則だ。
 そしてすぐに分かる。

 "この歌はヤバい"

 ダイヤノカガヤキから七海うららの歌唱力が以前よりも数段レベルアップしていることは伝わってきていた。
 だがこのSeventh Heavenはその上をいく。
 七海うららの歌唱力に驚かされることはこれまで何度もあった。だが、1日に2度その歌声に驚かされたのは初めて。
 もはや歌を歌っているというよりも感情が歌となって表に出てきているといった印象で、これまで聴いてきた生歌も十二分にすごかったのだがさらに次元が違う。
 きっとこの瞬間のこのSeventh Heavenの良さは千の言葉、万の単語を用いても表現できないだろう。この本当の良さを知れるのは今この場にいる者たちだけ。
 推しの歌だから、というひいき目なしに断言できる。こんなに凄いものを20年以上生きてきて聴いたのはこれが初めてだと。
 歌にではなく歌詞にではなく、七海うららの口から出てくる感情の奔流にただただ心打たれ受け止めきれなかった分が涙となって頬を伝う。
『身を削られることで輝きを増すダイヤモンド』という言葉を再び思いだす。
 今七海うららの口から出てくる歌声は、まるで自分の身を削って歌声に魂を乗せているよう。
 ぽろぽろと涙があふれ、ぼやける視界で想う。この歌が七海うららのおじいちゃんに届かない訳がない。おじいちゃんに想いが伝わらない訳がないと。

「…………」

 そして全力で歌い終えた七海うららは満足そうにし「みんなありがとー!!」と叫び、消えていった。
 ただ勿論ここで終わらない。

「「「アンコール!! アンコール!!」」」

 心に溜まりに溜まり切った、お礼やら感動やら期待やらなんやら全てを言葉に乗せ叫ぶ。

「「「アンコール!!! アンコール!!!」」」

 どれだけその言葉を繰り返しただろう。
 少ししてまずバンドメンバーが舞台に上がる。
 その後に七海うららが登場し、歓喜の声が上がった。

「アンコールありがとう!! それじゃあ行くよっ」

 静かな始まりをしたのはglitter。
 2023年のボカデュオに七海うららが参加した時の曲だ。
 先ほどのSeventh Heavenとは違い落ち着いた優しい歌声。
 この歌を聴くとMVの影響もあるのか、キラキラと夜景が綺麗な都会の夜が頭に浮かぶ。
 とても綺麗で輝いていて、辛いことがあっても1歩踏み出して頑張ってみようと思える。

「次の曲が最後になります」

 glitterを歌い終えた七海うららが宣言する。

「みんなありがとうな! 笑顔で帰ってね!!」

 次がラストソング。
 まだあの歌を歌っていない。
 1stワンマンで2ndワンマンがあると聴いた時から思っていた、2ndワンマンも最後の曲はこの曲がいいと。
 その曲であってくれ、と想っていると答え合わせが始まった。

「それでは聴いて下さい、あたしワールド」

 どれだけオリジナル曲が増えても、この先もワンマンライブをやるのならこの歌で〆て欲しい。きっと自分だけでなく多くのうらんちゅがそう思っているはずだ。
 七海うららの楽曲で1番好きな曲を決めるのは難しくとも、七海うららと言えば? と問われれば『あたしワールド』と即答できるほどにこの曲のイメージが強い。
 せまる七海うららと別れの時、このライブの終演。
 寂しくはある。でもこうして生歌のあたしワールドを聴いているとどこか心が満たされていく。
 ぎゅっと心を締め付けられる感覚になりながら、歌声に耳を澄ませダンスに集中する。この一瞬一瞬を脳に刻むように。

 ――そして。

 無事に歌い終わると七海うららとバンドメンバーがステージの前に1列で並ぶ。
 そしてマイクを使うことなく全員で叫んだ。

「「「「「ありがとうございました!!!!!」」」」」

 観客席からも「ありがとう!!」「可愛い!!」「大阪も行くよ!!」と至る所から叫び声が上がり、その一つ一つに嬉しそうにし手を振りながら七海うららはステージを後にした。
 次七海うららの生歌を聴けるのは3月30日に大阪の松下IMPホールで行われる七海うらら2ndワンマンライブ大阪公演だ。
 それまで仕事頑張ろう!! 今日沢山素敵なものを、沢山のエネルギーを推しから貰ったから!! そう想った。

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