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ガラスのハート

熱海から戻ってきた夫と私の間には沈黙が漂っていた。

夫も私も温泉旅館の番頭さんはお客様をお出迎えしたり、日中は館内の点検をしたりするのが主な仕事だと思っていた。

夫は大学時代、毎年夏には箱根の大きな旅館でアルバイトをしていて、配膳や布団敷き等の経験はたくさん積んでおりお手の物だったが、今回は実は熱海駅と旅館の間の送迎マイクロバスの運転手だったようだ。

車の運転は好きだったが、すでに出発しているのもお構いなしで旅館から携帯電話に連絡が入り、Uターンして引き返させられるというのが日常的。

熱海の道路は狭くてカーブも多く、急坂ばかりでマイクロバスでのUターンは難しい。既に乗車しているお客様からも「どうした、早く行けよ!」と暴言を吐かれたに違いない。

いざ辞めるとなると、その日までの日当は、狭いカーブで擦った送迎車の修理費用という事で、何も貰えず帰った来た。

      お金に執着も、ご縁も無い夫。

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