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ショーとしてのフィギュアスケート

昔から競技のフィギュアスケートが好きで、アイスショー体験は乏しいため、ショーの素人の感想としてご容赦いただきたい。

フィギュアスケート自体は30年ぐらい見てきているが、ショーを現地観戦しているのはここ10年ぐらいのこと。アイスショーは試合と比べてどこかリラックスしたものという偏見があり、正直なところあまり興味が湧かなかった。近年は年に2-3回はショーにも足を運ぶが、目当ては現役トップスケーターたちの演目であったのは否めない。

プリンスアイスワールド(PIW)の横浜公演を観覧するのは、今回で5-6回目。なんだかんだ毎年見に行っていたのは、トップスケーター目当てに加えて、リンクに近い距離から楽しめることや、比較的良心的な価格帯で見られること、参加しているスケーターたちのどこか心を許している雰囲気など色々あるが、PIW専属スケーターたちの群舞演目も理由の一つだった。ただ、正直なところ「それなりに」楽しいなぐらいの感覚で、感動や興奮という域まではいってなかった。

それが今年は全く違う感想を持った。
もちろん、豪華なゲストスケーターたちの演技は見応え十分だった。そしてそれと同じぐらい、PIWメンバーの演目を心の底から楽しんだ。
何が今までと違うのか、正直今まで「なんとなく」見てきてしまったので、ちゃんとした比較はできない。ただ素直に思うのは
・安っぽい演出がなくなった
・群舞の一体感が増した
・個々のスケーターの実力が発揮できている
そんなことを感じた。

演出については、ミュージカルというすでに質の高い音楽や世界観が土壌にあるテーマを持ってきたことも良かったのかもしれない。演目以外の仕掛けはほとんどなく、純粋に音楽と踊りとスケートで説得力のあるものを見せる心意気を感じた。今までは、少し素人ぽさを感じてしまう演出が稀にあり、それはそれで楽しいのだけど、今回のような内容の質で見せてくれる方が個人的には嬉しい。
ツイッターのフォロワーの方から「小道具に頼らない」アプローチでもあったのではと教えていただいた。思い返せばたしかにそうだったかなと思う。もちろんちょっとしたスカーフのような演出はあったが、以前は大旗とかもっと大々的な道具が使われていた。それもエンタメ性が高まりはするが、演目として少なからず散漫な印象には繋がっていたかもしれない。舞台美術も派手すぎずシンプルすぎず程よい上品な内容で(リンクサイドに並ぶボードが光る演出なども気が利いていて楽しかった)、いずれにしてもあくまでもスケートと踊りによる演目で見せるという意思が感じられ、見る方もそこに集中できる環境が作られていたように思う。
恥ずかしながら、演出の菅野こうめいさんを存じ上げないのだが、ミュージカル制作の専門家の方のようなので、そういったスタッフ陣のキャスティングも功を奏したのかもしれない。

演目の質については、今言ったような踊りやスケートに集中する意図があったかはわからないが、群舞や個々の踊りの表現力や迫力、ユニゾンの緻密さなどが増したように感じた。色々な条件が噛み合って全体の印象となるので、元から踊りのレベルなどは変わらず高いのかもしれない。ただ素直な感想として、今までよりも見応えを感じたのは事実だ。
また今回はソロやデュオの演目も過去と比べて充実していた。それらが本当に素晴らしく、ゲストスケーターたちの演目に全く引けをとっていなかった。

そこで感じたのは、フィギュアスケートというスポーツであり芸術である活動の多様性だ。競技ではどうしても高難度ジャンプがないと上位に来れないため、世界で活躍し有名になれるスケーターは、ある一定の難度のジャンプを持った人に限られる。しかし一方で、フィギュアスケートはジャンプがなくとも他のエレメンツだけで十分魅せられる表現活動でもある。つまりジャンプを必須としないショーの世界では、競技ではトップカテゴリーにいなかったスケーターでも活躍に値する実力の持ち主がいる可能性がある。
今回のPIWメンバーのソロやデュオの演目は、まさにそのことを示してくれた気がした。

近年全日本を現地観戦するようになって感じたことでもある。長くフィギュアスケートを見ているにも関わらず、現地観戦の回数は少なく、テレビなどで放映されるトップスケーター以外をあまりチェックする機会を持てていなかった。全日本などで第1グループから観戦すると、決して最後の方のグループでなくとも、スケートや踊りとして魅力的なスケーターがたくさんいることを知る。そんな感覚と、今回のPIWでの体験は、つながるものでもあった。

競技での活躍が華々しい日本のフィギュアスケート界。自分も競技ばかりに集中して見てきてしまったが、今回のPIWはアイスショーの楽しさや可能性を実感した体験だった。日本は先人たちの活躍もあり、魅力あるスケーターの裾野が広い。競技で世界のトップグループは難しいとしても、ショーという選択肢があることは素晴らしい。質の高いスケーターがショーの世界に来て、そこにちゃんとした演出やプロデュースが入って、お客さんが少々高いお金を払ってでも見たくなるクオリティのショーが生まれ、日本が競技での活躍だけでなくアイスショー大国になり、ショーの世界を目指す若者が現れ・・とそんな循環が生まれてくるといいなと、素人考えながら夢を描きたくなる体験だった。

最後に、PIWメンバーの演目が素晴らしかったからこそ思ったことを。
ショーの演出としての進行があるから何を優先すべきか難しいが、彼らが讃えられるシーンがもっとあれば良いのにと感じた。いくら感動しても、ゲストスケーターの演技と違ってすぐに暗転して次の演目へと移ってしまう。もっと拍手をしたいし、特にその演目で目立ったソリストなどは名前付きで紹介して、拍手を、スタオベを浴びてほしいと思った。小沼さんのソロの演技後も紹介されるのは歌い手のみ。あれは歌い手と小沼さんのデュエットのような作品。スタオベは彼ら二人に起きたもの。ちゃんと紹介してほしかった。メンバーのモチベーションにもなるのではないだろうか。もちろんショーの流れもあり、総合的に考えるべきことではあるので、何らかのかたちでご一考いただけると嬉しく思う。

アイスショーに精通していない人間による、ぽっと出の感想ですみません。詳しく見られている方からしたら違和感がある部分もあるかもしれませんが、こういった見え方もあるんだと捉えていただけたら幸いです。

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