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過去の夢

僕たちはもう終わりだよ。と言った先に何か見えると思う?
僕は何も見えないと思うんだ。それどころか、
何も見えないどころか、先はない。終わりの先は暗闇すらないんだ。過去も幻想になる。幻想は夢になる。寝る時に見る夢と同じになるんだ。

僕たちはもう終わりだよ。それはきっと君のせいでも、僕のせいでもない。どちらも、良くも悪くも無かったんだよ。最初からね。
僕と君が顔を合わせなくなったら、思い出は僕の幻想になる。僕の脳の中だけに残っている、ただの信号になる。

君は笑うと八重歯が出る。背中にある黒子は僕を魅了した。それはきっと僕のような人間には必要なことだった。君のためになら、なんだってやろうと思ったこともあった。だけどそれも、もう終わりなんだ。君はいなくなる。僕の中に存在しなくなる。何も無かった、君の八重歯も、黒子も、ただの僕の幻想で、夢だったんだ。

必要だったものを手放す決心をするとき、過ぎ行く季節の中で、自然といなくなるものたちの存在に気づいた時、全て無くなって、死んでいくんだ。いろんなことが、ものが、ひとが、僕の中で夢になる。

僕が別れを告げた後、君は僕の前から立ち去る。それが永遠の別れになるのは、どちらかが本物の死に向かった時だけだ。
君がまた僕の前に現れたとき、君はまた生まれる。僕の中で、

だから、
君が僕の前に現れないという事は、
僕たちが2度と会わないという事は、
僕たちは僕たちの間で消滅したということになるんだ。

君と過ごした数年間は、僕にとって無駄じゃない。だって無かったんだから。何も。過去なんだから。全部。過去と言う名の夢なんだから。

僕は過去を追うたびに、死に向かう速さを感じる。過去の君の若さから年月を感じるように。死へと歩き、向かってくる風を感じる。僕は未来からやってくる風を浴び、目を瞑って息をひきとる時を確信する。

過去を追うたび、あの有名な歌手が出ている映画のラストシーンを見ている時の様に苦しくなる。死刑台へ登る彼女が口ずさむ歌、死へのカウントダウン。最初はゆっくりで、最後はテンポが早くなるように、長いと思っていた人生はあっという間に過ぎていく。

想像が確信に変わる時、速さを感じる。未来へ歩む速さを。

その中で何度君を想うだろう。階段を登る途中で、何度、君のどんな場面を、どんな角度の君を、どんな表情の君を、君の八重歯や黒子を思うだろう。

過ぎた過去は無だ。僕には何も無かったし、僕を構築するのは今の僕で、過去の僕ではない。そして過去の君でも、過去のなにかでもない。

今には、
未来の死が起こす風と、夢で見たなにかと、今の僕しかいないんだ。他はなにもない、僕がもし、今1人で部屋に閉じこもっていたとしたら、僕以外は僕の夢になる。

ドアに挟んだ中指が痛む感覚を、もう2度と感じられない様に、僕は君と過ごした時の感触を、もう思い出せないのだと思う。君とまた会うのならその時まで。2度と会わないのだとしたら、もう一生、君を感じられないのだと思う。

さようなら、僕と君の毎日。
こんにちは、僕と君の夢。

凄く、凄く、嬉しいです。ペンを買います。