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【劣化ウラン弾】

【身体を蝕み続ける兵器】

原発を稼働させたり、核兵器開発を行ったりする国には常時大量の劣化ウランが貯蔵されている。
劣化ウランとは放射線を放つ発ガン性物質であり、増え続けるこのゴミはその後の活用法がない。そのため、1950年頃からアメリカ軍内部で兵器としての廃棄物利用が研究され始めた。

1991年湾岸戦争、1995年ボスニア紛争、1999年コソヴォ紛争、2003年イラク戦争では合計2330トンもの劣化ウラン弾が使用された。
世界で初めて劣化ウラン弾が戦闘で使われた湾岸戦争では、アメリカはイラクに対して合計で300万から900万トンともいわれる膨大な量の劣化ウラン弾を打ち込んだともいわれる。
奇形児の増加、白血病やガンの増加などイラク人の身体に身体的な異常をきたすことになったのは言うまでもなく、その危険性を一切知らされずに使用したアメリカ兵のなかでも、実に9万人以上が帰国後に機能不全、白血病、ガンなど医学的な問題を持っていると報告されている。これは「湾岸戦争症候群」とも呼ばれている。

しかし、イラクやボスニアといった国にはこうした統計を調べるシステムがなく、劣化ウランが病気を引き起こすという確かな証拠がなかった。
正確なデータがないことを理由にアメリカ政府やNATO、WHOなどの国際機関までもが劣化ウラン弾による発病の因果関係を認めていない。

【劣化ウラン弾の特徴】

劣化ウラン弾の特徴は硬く、重いことにある。それにより硬い装甲を纏った戦車も撃ち抜くことができ、その衝撃と摩擦熱で3000~4000℃の高熱を出しながら貫通し、戦車内で爆発するように設計されている。

それに伴って発生する塵が問題となる。塵に含まれた劣化ウラン弾の微粒子は体内に入ると2つの毒性を持つ。

① 重金属毒性  血を伝って腎臓に達し、腎機能障害をもたらす。
② 放射能毒性  肺に留まり、放射能を出して癌を引き起す。

更に、放射線を浴びた細胞だけでなく、周囲の細胞にも遺伝子の異常をきたすというバイスタンダー効果も実証されている。遺伝子の不安定、突然変異体の発生など、劣化ウランにさらされた細胞にはこうした影響が見られる。

放射線による被害を考える場合、「外部被曝」と「内部被曝」の二つが問題となる。
「外部被曝」は、大気や地面などに存在する放射性物質から受ける身体の外からの被爆である。
「内部被曝」は、身体の内部からの被爆であり、大気中に放出されて空中、水中、地表に残留する放射性物質が鼻、口、皮膚から体内に入り、微量の放射性物質が長期にわたって内部から放射し続ける

浮遊する放射性物質は呼吸、飲水、食事を通じて体内に摂取されていく。そして放射線を発しながら肺と胃から血液によって運ばれ、体内の組織に沈着し、更に放射を続ける。
植物や動物の体内に取り入れられた放射性物質は日々蓄積していき、体細胞を傷つけ、慢性の疾病をゆっくり進行させる。

劣化ウラン兵器が使用された国では、これによって生殖細胞が傷つけられ、多大な遺伝障害を残した。

【軍産複合体】

世界中に劣化ウランの放射能被害が広がろうとしている。

湾岸戦争以降、アメリカの軍需産業はますます活発化し、劣化ウランを施した兵器が世界中で使われた。
こうした兵器は今やアメリカのみならず、イギリス、ロシア、トルコ、フランス、サウジアラビア、タイ、イスラエルがアメリカの技術を用いて自国の軍隊システムに開発導入し、世界の武器マーケットで販売している。

その劣化ウラン弾を含有する対戦車砲、M-833を保持する国のリストはNATOに所属する国々、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、オーストリア、エジプト、韓国、台湾まで及んでいる。
そして既に日本もそのリストには入っている。

アメリカの経済は強大な軍需産業によって支えられている。
高度なセンサー技術、正確な誘導ミサイル、それらを統合的に運用する巨大な戦闘コンピュータシステム、これらはアメリカが生み出した新世代の兵器であった。
冷戦時代には軍産複合体が予算や利益を維持するのはそれほど難しいことではなかった。しかし、世界の平和や安定は、軍産複合体によって利益を大きく減じさせることになる。そのため、軍産複合体は列強国にとっての脅威を作り出さなければならなくなる。

原爆を投下された広島・長崎、劣化ウラン兵器が使用されたイラク、ボスニア、コソヴォ、アフガニスタンなど、この劣化ウラン弾が戦闘で用いられた地域は放射能によって汚染された。アメリカ政府はそれらを研究材料とし、更に武器開発をする。

一方では放射線を放つゴミを武器転用し、他国に撃ち込むことで合理的に捨ててしまう国。一方では大国の放つ劣化ウラン弾によって汚染されていく国。このような構図が確立されている。

【まとめ】

1年で14万人の死亡者、そして55万人もの被爆者を出した原爆。
原爆が発する放射線は内部被曝を引き起こし、それは今も人間の体を蝕み続けている。この事実は、放射線が人体に甚大な影響を及ぼすという世界の基礎ともなっている。

人類が核によるエネルギーに頼り続ける限り、劣化ウラン兵器や核兵器がもたらす被爆の問題がなくなることはない。
原爆の被爆国として、そして東日本大震災による原発事故が起きた国として、「核エネルギーが人類に何をもたらすのか」という課題を問いかけられているように思えてならない。

[参考文献]

内部被曝の脅威-原爆から劣化ウラン弾まで  著:肥田舜太郞および鎌仲ひとみ

中東危機のなかの日本外交 暴走するアメリカとイランの狭間で  著:宮田律

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