異なる2年 〜のぞみ〜

あれから2年。

ナンパを繰り返し、多くの女性を知ったが、のぞみほど強烈に心から惹かれる人はいなかった。彼女は僕の基準となり、余りにも高いそれは新規に会う女性たちを退屈にした。
こちらから彼女に何度か連絡はしたが、返事はなかった。

そして、僕は諸事情で遠くに引っ越すことになった。
「もう一度彼女に会いたい」という思いが転居日が近づくにつれ、膨れ上がり、僕を責め立てた。

引っ越し前日。僕は思い切って彼女が勤める某ホテルに向かった。
彼女が今もそこで働いている確証はないが、これに賭けるしかなかった。
何を話すか、どうしたいのか。自分でもわからない。
ただ会いたい。それだけだった。
厳かで高級なホテルの入り口に立った。心臓の鼓動は高まり、血流の速度は指数関数的に加速した。
中に入った途端に、丸顔で目が大きく、透明感のある女性が目に飛び込んだ。
一瞬でのぞみだとわかった。
全てがスローモーションにかわり、待合室を無邪気に駆け回る子供もホテルマンの声もとてもゆっくりに感じた。彼女との思い出が一挙にフラッシュバックした。以前より少しふっくらした様子だったが、相変わらず凛として美しい。受付にいる彼女はせわしなく対応していた。ロビーで僕はどうアプローチするかを考え、そしてメモを渡してもらうことにした。直接話すよりもその方が得策に思えた。以下はメモの内容。

久しぶり。たまたま見かけた。
今夜電話して。
(電話番号)
リッツ・カールトン、白いTシャツ

リッツカールトンの本はプレゼントしたもの。白いTシャツは彼女に預けているものだ。
「会いに来た」と素直に書けないのが情けない。
手が空いているスタッフに
「あの〜すいません、あの方〇〇のぞみさんですよね。」
「はい、そうですが。」
「彼女の知り合いなのですが、後でこれを渡してもらえませんか?」
「承知しました。」
僕は彼女に見つからないように急いでその場を去った。

その日の夕方には引っ越しの荷物を全て業者に運んでもらった。
何もない部屋でポツンと独りの僕。
否応なくスマホに集中するほかなかった。もし電話がかかってきたら、何から話そうか?未だにわからない。胸がざわついて止まなかった。

23時ごろスマホが鳴った。
「もしもし、久しぶり。」
聞き覚えのある、か細いが芯のある澄んだ声だ。
「久しぶり。今日たまたまホテルで友達とご飯してたら見かけたんだ。」
うそだ。
「めっちゃ忙しそうにしてたね。」
「えっ見てたの笑。今夏休みだから家族連れが多くて、大変なんよ。」
初めはぎこちなかったが、2年間の空白を埋めていくにつれ、雰囲気は和らいだ。
僕は決心した。自分の感情を彼女の前に示す。それが今唯一するべきことだとわかった。
「あのさ...どうしても明日会いたい。」
出会った日に「どうしてもあなたと知り合いたい。」とのぞみに言った。他の女性を知っても、まるで成長がない。
急に電話越しの温度が変わった。
「えっ明日...ごめん...会えない。」
「そっか、急だしね。今度都合つく日ある?」
「...」
「仕事が忙しそうだもんね。また今度誘ってもいい?」

「私、結婚するの。だからもう会えないと思う。」
はっきりとした口調で彼女はそう話した。
(結婚?)
「Junと会わなくなってから、すぐ今の人と出会って.................」
それからはうわの空だった。
(そうか、結婚か...。結婚したら異性とは会っちゃいけないんだ。相手はどんな羨ましい人だろう。)
その後、適当に応対し、電話を切った。

電話の最中、僕は昔みたいにまたのぞみに会えるものだと思った。
2年間で僕はより鮮明に彼女の素晴らしさ、美しさを知り、さらに好きになれると思った。
だが、のぞみは僕と異なる2年を歩んでいた。彼女は素敵な恋人と出会い、結婚に至るまで愛を育んできたのだろう。それは充実したもので僕が入る余地などあるはずもなかった。

何もない部屋でポツンと独りの僕。
素敵な人はたくさんいる。だが僕はのぞみがよかった。



私は変態です。変態であるがゆえ偏っています。偏っているため、あなたに不快な思いをさせるかもしれません。しかし、人は誰しも偏りを持っています。すると、あなたも変態と言えます。みんなが変態であると変態ではない人のみが変態となります。そう変態など存在しないのです。