それは音楽が繋いでくれたもの


Re:vale・ユキの夢小説です。
ヒロインは小鳥遊紡ではありません。

ーー音楽はいい…無限だから。

自室にこもって自分だけの空間を作る。そこには自分の世界以外は必要ない、唯一の場所。セットしてある譜面を正面にしてギターをかき鳴らす。目を瞑りながら、生まれてくるメロディーに集中する。私にとって音楽は、趣味であり、手段であり、仕事であり、生きるためのものである。そして、今日も私は自分を解き放つ・・・。

「ドラマのタイアップですか?」
マネージャーが意気揚々と興奮を隠そうともせずにその話を持ってきた。
「はい!ヒューマンドラマのタイアップをぜひとオファーを頂きました!」
見て下さいと言われた広げられた資料に目を通す。細かいな、というのが第一印象だった。ヒューマンドラマだからそんなものなのかなとも思った。一通り読み進めていく中、マネージャーからの説明は続いた。
「このドラマの主演なんですが、なんと今をときめくアイドルの中でも絶対王者のRe:valeのユキさんなんです!」
「…リ、え…なんて?もう一回言ってもらえますか?」
すっかり興奮気味のマネージャーからなにやら聞き慣れない言葉を言われた私が理解できずに聞き返すと、目を見開かれた。
「え!?もしかしてRe:valeを知らないんですか??あのRe:valeですよ!?」
「えーと…どの?」
「去年のブラホワ総合優勝のRe:valeです!!」
そこまで聞いてなんとなく聞き覚えのあるブラホワという言葉で理解できた気がする、本当になんとなくだけど。
「ああ、ブラホワって確か…えーと紅白歌合戦みたいなものですよね?」
「そうです、そうです!さすがシオンさん!アイドルには詳しくなくても音楽業界にはやはり詳しいですね!」
「それはまぁ、一応シンガーソングライターなので」
「一応じゃないでしょう!シオンさんはうちのれっきとしたシンガーソングライターです!!」
力説しだしたマネージャーの大声を耳を塞ぎながらやり過ごして話を進める。
「それで、その総合優勝?のリなんとか、さんがまたどうして私にオファーをしてくれたんですか?」
ハッそうでした!とミーハーやファン的なモードから戻ってきたうちのマネージャーが仕事の顔になる。
「実はシオンさんの曲を番組で聴いたらしくて主演のユキさんが気に入って直々にオファーしてくれたそうなんですよ!」
これはすごいことです!とまたファンモードになりかけている中、実は私は驚いていたし…本当はとても嬉しかった。頬が自然に緩んでいたと思う。
「これはすごいことですし、チャンスですよ!がんばりましょう、シオンさん!」
マネージャーの勢いに私は頷いた。

それから、私のヒューマンドラマタイアップの曲作りが始まった。最初にドラマのことを理解するために資料を読み込んで理解しながら頭に叩き込んでいく。ドラマ関係者の人たちと何度か綿密な打ち合わせでテーマやメッセージをつきつめていく。どうやら見応えのあるかなり泣ける話らしかった。・・・興味が出てきた。

マネージャーと事務所の一室で打ち合わせをしながら休憩にしようとなって軽く背伸びをしていた私にコーヒーが差し出された。お礼を言った私に微笑むマネージャーが気分転換にとテレビをかけた時、思い出したかのように口を開いた。
「あ、確かこの番組にRe:vale出ますよ!」
そう言われてテレビに向けた私の目に黄色い歓声と共に現れた2人の男性を説明するテロップが表示された。"Re:vale"…なるほど、あれでリヴァーレって読むんだ。加えて、"モモ"と"ユキ"とも表示されて初めて理解した。濃いめのピンクがベースカラーのモモという人は人懐っこそうな笑顔でコミカルなトークを司会者としていて、対して明るめの黄緑がベースカラーのユキという人はそのトークを聞きながら終始微笑んではときどき的確ともシャープとも思える発言をしている。なるほど、と感心したところでなんだか雰囲気が変わってきたような気がしたと思ったら、いきなりスタジオが笑いの渦に巻き込まれたようだった・・・??
「これがRe:valeの定番の夫婦漫才なんです…」
ぷぷっと自身も笑いを隠せずにマネージャーが目が点としている私に説明してきた。初見の私には海外の通販番組でも始まったのかと思ったよ。あれよあれよという間に司会者に促された画面の中の2人の男性は移動を始めた。その間も黄色い歓声はやまない。すごく人気なんだな・・・。

やがて、ステージ上の定位置についた2人ーーRe:valeのモモとユキは真剣な顔をして曲の始まりを待っているようだった。そして、曲が始まった。タイトルは、"SILVER SKY"。・・・タイトルからしてかっこいいじゃない。そう思ったのも束の間、2人の歌唱力にダンス、パフォーマンスは圧倒的に、絶対的に王者のそれだった。目を奪われて動けなかった。釘付けになって呼吸も忘れていたんじゃないかと思うほど、あっという間の数分間だった。ーーこれが、アイドルなんだとひたすら圧倒されたのが本音だった。

出番を終えたRe:valeは惜しむ黄色い歓声に見送られてステージを後にした。最後までファンサービスを欠かさないその姿勢は彼らのプロとしての、アイドルとしての在り方を体現していた。彼らの出番が終わったのと同時にそろそろ再開しましょうとマネージャーに言われた。
「どうでした?初めて目にしたRe:valeは」
ニコニコと笑顔で聞いてくるマネージャーに私はすぐに言葉を返せなかった。心配したマネージャーに名前を呼ばれてようやく口を開いた。
「私、今回曲を作れるか分からないかも…」
自慢じゃないが、普段の私はほとんどこういうことは言わない。もしかしたら初めて言ったかも。さすがにマネージャーも焦ったのか理由を聞いてくれて、ならばと私に実際Re:valeと会う機会を設けてくれたのだった。

正直言って逃げたい。今すぐにこの場所から。今日はマネージャーが走り回って頭を下げて作ってくれた、"あのRe:vale"と顔を合わせる機会の当日だった。本人たちと対面するというとんでもないマネージャーからの提案に正気かと思ったけど、その目は真剣だったし、なんでも聞いてくれて大丈夫と先方が仰って下さいましたので遠慮せず!って遠慮するでしょう!?しかも当のマネージャーは都合がつかなくて不在って・・・私も帰っていいですか?ダメだよなぁ〜、天下のRe:valeが一介のシンガーソングライターに会ってくれるというだけでも奇跡みたいなことだし・・・腹を括るしかないというものなのかもね、ふぅ。

やがて休憩スペースに出くわした私は、指定された時刻までの時間を無理矢理にでもコーヒーを飲みながら過ごそうと決めた。ソファーに座ってとりあえずコーヒーを飲むものの、全く落ち着かないし、おまけにいつもはする味がしているのかも今は分からない。困ったと思いながら、床に目を向けていたので1人分のスペースを空けたソファーに誰かが座ったことにも気づかなかった。どれくらいか時間が経ってなんとなく、なんとなく視線を感じて顔を上げた私にそのきれいな顔が飛び込んできた。
「ーーやあ、お疲れ様」
緩く微笑むその人はこれから私が会う予定のRe:valeの一人、ユキさんだった!え!?ええ??なんで、どうしてここに!?聞きたいことはいろいろあるけれど、どれも音にならなくてただ口をパクパクさせただけになった。その様子に苦笑しながら、ユキさんは再び口を開いた。
「驚かせてごめんね。Re:valeのユキです」
「あッ、はい。ぞ、存じております!シオンと申します。よろしくお願いします!」
「はい、よろしくね」
さらに微笑むその人、ユキさんから私は目が離せなかった。構わずユキさんが話を続ける。
「この後、僕は君と会う予定だったと思うけど…随分と早いね。もしかしてちゃんと時間が伝わってなかった?」
「い、いえ!把握しているので大丈夫です。ただ、その…私が早く来すぎただけで…ウォーミングアップというか、心の準備が必要かなと思いまして」
気遣わしげに聞いてくるユキさんになにを言っているんだ私はッ。でも全部本当だから仕方ない。・・・こんなに人に会うのに緊張したのはもしかしたら初めてかもしれない。私の返答を聞いたユキさんは声をあげて笑い始めた。??え?なにか変なこと言ったかな?挙動不審なのは認めるけど。
「あははは!君、おもしろいんだね!見た目はとてもクールそうに見えるのに」
それだ。そうなんだ。その時、なぜか口が動いたんだ。
「…そうなんですよね。昔から見た目のイメージでそう言われることが多いです」
気づけば本当になぜかポロッと本音が出ていた。誰にも言ったことないのに。どうしてだろう?
「へー、そうなんだ。僕もこの派手な見た目のおかげで、いろいろあることないことよく言われるよ。気にしないけどね」
「…気にならないんですか?」
「そうね。全くならないって言ったら嘘になるけど、そんな僕の表面しか知らない人たちになにを言われたところで内面の僕を知っているわけでもないし。言わせておけばいいやって感じかな」
もう慣れたよとユキさんは笑っている。意外だった。けど、すごく納得した。さすがだなぁ。
「ーーさすがユキさんですね。やっぱりすごい」
「そんなことないよ。僕も君も変わらない。ただ、君より少しだけ芸能生活が長いだけさ」
ユキさんがほんの一瞬だけしたウインクを私は見逃さなかった。レアな気がする!!私の頬に熱が帯びた。
「芸能界に限ったことじゃないけど、本当にいろいろあるよね。ーーこれは僕の憶測だけど、君は誰も自分を理解できないって思っていない?」
トキッとした。まさに図星だったから。答えない私が正解だとユキさんは理解したようだ。
「実は僕もそう思ってたことがあるんだよね。誰も僕を理解できないだろうって。けど、実際は違ったんだ。ちゃんと理解してくれる人たちがいた。ーーそんな人たちに出会えた僕は幸福者だと思うよ」
いつもより愛おしそうに微笑むユキさんが眩しかった。直視できないほどなのに目が離せない。
「だから、君も大丈夫。君を理解してくれる人は必ずいるから。僕を信じて」
ね?と諭すように告げてくるユキさんの言葉に私はいつのまにか涙を流していたらしい。気づいて拭おうとするより早く、ユキさんが差し出したハンカチでそっと拭いてくれた。
「泣かせてしまってごめんね…でも、これだけはどうしても伝えたかったんだ」
尚も優しいユキさんに私は頭を左右に振って大丈夫だと伝える。理解してくれたユキさんにありがとうと言われた。お礼を言いたいのは私の方です。しばらくの間、私は涙を流し続けていた。ユキさんはなにも言わずにただ隣にいてくれた。ようやく落ち着いた頃、ユキさんが口を開いた。
「落ち着いた?そろそろ予定の時間だけど、どう?…まだ落ち着かせていたいなら僕は構わないよ」
優しいユキさんに甘えてしまいそうだったが、これ以上気を遣わせるのは心苦しかった。
「ーー大丈夫です、行きます」
私の返答にユキさんも安心したような笑みを浮かべた。
「そう。それなら行こうか」
はい、と頷いてその背中を追う。目的の会議室の前でドアノブに手をかけたまま、あっと思い出したようにユキさんが振り返った。どうしたんだろう?
「ーー初めて聴いた時から、僕は君の曲が好きなんだ。だから、今回のタイアップも期待しているよ」
それは衝撃的な言葉だった。前にマネージャーから聞いたけど本人に言われるとは予想していなかった。もったいない言葉すぎて幻聴かなにかかと思ったぐらい。目を見開いた私はなにも言えなかった。そんな私にユキさんはふっと笑った。
「大丈夫。君はちゃんと作れるよ。なぜ分かるのかって顔だね。だって、僕が君の最初の理解者だから…絶対王者・Re:valeの僕を信じなさい」
楽しみにしてるからね、と最後に告げてユキさんは先に入室した。ハッと我に返った私はなんだかもう感情の整理にかなり時間がかかりそうだった。そうとは知らずにユキさんはなかなか入ってこない私に、入らないの?と顔を出したので私は無言で入室した。ユキさんがドアボーイの如くエスコートしているとは知らなかった。促されて席についた私の正面にユキさんも腰を下ろした。正直緊張するけど、明らかにさっきまでとは違う。なぜか分からないけど、心が軽い。私は確信したーーきっといい曲が作れると。

ーーやっぱり音楽はいい…こんなに素敵な出会いをくれたものーー

END

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