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ジョンが出会った読者たち【第61話】

実録フェスボルタアジア第2部

こーきちホテルに誘う

★祭りのあと—————それは、現実へと戻るちょっぴり切ない時間。『フェスボルタ アジア』が終わって、皆思い思いに家路へと向かう中、己の気持ちに素直に従い、始まりつつある日常に対して果敢に 立ち向かったひとりの男性がいました。全国の草食読者必見! 漫談師・こーきちくんによる恋の物語の始まり始まり。

《登場人物》

こーきちくん

スベることしか知らない47歳群馬県在住の漫談師。ジョン・ヒロボルタの2番弟子。

佑村河内攻


 今なお佐村河内ルックを貫く、コスプレ三味線奏者。実は女性。しかも年齢不詳。


佑村河内さんごめんなさい そして、どうもありがとう

 文/こーきちくん

 それは、ほんの成り行きだったのかも知れない。

 群馬に帰る早朝、人通りの増え始めた渋谷の通りを、俺は一人、孤独に佇んでいた。渇いた都会の雑踏に、鼓膜が震える。俺はなんてことをしてしまったのだろう…。

 佑村河内さん、大丈夫です。俺は生きています。


 「お疲れ様でしたー!」

  『フェスボルタ アジア』が終わり、師匠とキネボルタさんによる一本締めをしたあと、駅への道を歩いていた。前の集団に少し遅れて、俺と佑村河内さん、そして俺と漫談対決をしたコンボルタさんの3人が後をついていく。コン ちゃんはいつも北海道から駆けつけてくれる。その3人で打ち上げをやるはずだった。そう約束していた。しかしコ ンちゃんは「上野にホテル取っちゃいました」と言い残して去っていった。

 残されたのは俺ともう一人、佑村河内さんだけだ。さて、どうしよう? 「居酒屋行く? いちばん安いとこ ろ」

 どちらともなく言い出す。着いたのは、とあるビルの確か3階。中に入る と、日曜も夜更けのせいか、残り客も帰り始めている。1組の酔っ払いが店 員を困らせているのを尻目に奥の席を陣取る俺たち。最初はビールで乾杯をし、いろいろな話を始めた。身の 上話から芸の話まで。でも、話しているのはほとんど佑村河内さんだ。俺は疲れからか眠気に襲われ、ただ、う ん、うんと、相槌を打つばかりだった。

  ずっと、友達のままでいたかったよ。

 これは、本当の気持ち。実際、話をしている間はそのつもりだったし、それは飲んでも変わることはなかった。でも …朝が、別れが、近づくにつれ、俺の中である微妙な変化が起き始めた。


  この女性を抱きたい


 俺はこれまでの人生で98キロの女性しか抱いたことがない。おそらく、 こんなステキな女性と2人きりになるチャンスは、もう二度とないだろう。それはわかっている。ラブホテルもすぐそこだ。 


 佑村河内さんは、そんな俺の激しくなる動悸に気づく様子もなく、ひたすら枝豆を食べている。平穏と激動の間に挟まって身動きが取れなくなった俺は為す術もなく、とうとう朝が来るのを許してしまった。

 結局、俺が飲んだのはサワーとビールだけ。それも5時間かけて飲んだから酔いはない。居酒屋を出て、2人で駅までの道を歩いた。もう外は明るい。大きなバッグを抱えた建設作業員風の男性とすれ違う。月曜の朝だ。日 常がすぐそこまで戻ってきている。「じゃ、また次回、フェスボルタで!」

 駅前で、佑村河内さんはそう言って雑踏の中に消えようとした。途端に胸を突き上げてきた猛烈な切なさ。それに押されて、思わず、口から言葉が出た。「今、ホテルで!」 「はい、次回また!」

 聞き流す佑村河内さん。そして彼 女は、そのまま駅への階段を降りてい こうとした。俺の中で何かのスイッチ が入った。「ちょっと待ってください!」

 消えゆく彼女をかろうじて引き止める。しかし、そこから先の言葉を、俺は、まだ何も考えていない。長い躊躇が始まった。

 (こんなことしてはいけない) 

(友情が壊れる)

(でもまたとないチャンスだ)

 誇張抜きで10分近く待たせただ ろうか。佑村河内さんは見るからにイライラしている。やばい。俺よ、早く結論を出せ。行くんだ!「ホテル行きませんか !? 」

 殴られるのは、覚悟の上だった。

  結局ホテルに行けるはずもなく、 別れの挨拶をしたあと、僕はひとりとぼとぼ歩いていった。その時初めてフェスボルタで踊り過ぎて、足の裏に大きな水膨れができているのがわかった。 足に激痛が差し込む。足を引きずりながら駅に向かって歩いていたはずなのに、いつの間にか駅とは真反対の方向を歩いていた。ついてない時は重なるもんだ。こうして俺の一夜の恋も、夢と終わった。

  当たり前の結果といえば、当たり前 だ。最初からうまくいくとは思っては いない。しかし意外だったのは、彼女の拒否が柔らかい口調と温かい言葉だったということだ。最後まで優しかった佑村河内さん。その優しさが何故だか余計に切なかった。

 群馬に帰ってしばらくしてTwtterにメッセージが来た。佑村河内さんからだ。そういえば俺はメールアドレスを変えていた。だから佑村河内さんは俺にメールが送れなくて、Twitterに連絡をくれたのかもしれない。新しいアドレスを教えてあげると、早速1通のメールが届いた。「無事でしたか…」という内容。優しい言葉に胸がいっぱいになった。別れ際、彼女は「電車に飛び込まないで下さいね」と言ったんだ。本当にいい人だ。やっぱり長い友達でいよう。“この女性を抱きたい”という俺の気持ちは、こうして光に包まれて、無事に成仏できた気がした。

佑村河内攻さんのコメント

 いやぁ……モテ期が来ましたかね? 私が想像していたのとは全然違うん ですけど。今までも散々自分のブログだのSNSだので十分に顔の判別がで きるような写真を出してきましたが、びっくりするほど反応がなく、佐村河内コスプレの写真を出すようにしてから、変なアプローチがいろいろと来るようになったんですけどね。うれしいけど何か納得いかないですよね!(激怒)


皆様からのお電話お待ちしております

暇電、目撃談、タレコミなんでもウェルカム! ジョン・ヒロボルタの携帯番号またはメールまで。

090-6143-2407(平日は21時以降希望)

hirotakufr@aol.com

「フェスボルタ公式サイト」

http://fesvolta.wix.com/fesvolta


 

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