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マルチビジネスにのめり込んでいく疑似体験でもしているかのようだった

 一週間ほど前にTikTokに投稿した一本の動画が軽く伸び始めた。アメリカのロックバンドParamoreの"Decode"という曲のボーカルカバーで、この記事を書いている2023年8月27日時点で24万回以上再生されている。ライクは1.8万件以上つき、コメントは700件以上あった。最初の頃は律儀にその全てに返信していたのだけれど途中で諦め、それに対するお礼と謝罪を兼ねた動画を新たに投稿した。
 僕がTikTokを始めたのは一ヶ月前である。正確には以前にも一度アカウントを持っていたのだけれど、7人くらいを一度にフォローしたことでシャドーバンされ、投稿動画が回らなくなったので消していた。それで今回は下調べや準備をもう少し念入りに行った。YouTubeに溢れているSNSの伸ばし方をレクチャーする動画を山ほど眺め、自分のコンテンツに流用できそうな情報を取捨選択していった。なんだかマルチビジネスにのめり込んでいく疑似体験でもしているかのようだった。この手のクリエイター達は主に「SNSの伸ばし方」というコンテンツで自らのSNSを伸ばしており、そもそもの中身・トピックが判然としなかったり希薄な場合が多いからだ。
 僕のコンテンツは大きな括りで言えば「音楽」で、パンクやメタルなどの洋楽のボーカルカバーが中心である。そこに加えてJ-POPやアニソンなんかのカバーもあり、海外のオーディエンス向けに投稿は基本的に英語で行なっている。洋楽カバーには"Trying to improve my English. Any advice?"という字幕を付け、英語を勉強中のロック好きな日本人という設定(というか事実)でアカウントを運用している。投稿の際にはアメリカ用のSIMカードを使用していることもあり、視聴者の90%がアメリカ在住である(次いでイギリスが7.5%で日本は1%)。

 投稿頻度や時間帯、タグの付け方、使用するTikTokのエフェクトなど、動画が伸びた理由には様々な要因が複合されているはずだが、前述したようにそれらの情報はいくらでもネット上に溢れているので、ここではコンテンツの内容について主に言及する。
 端的に言えば「言語能力と歌唱力のギャップ」がウケたのだと僕は個人的に解釈している。拙い英語で難易度の高い歌を歌っているアンバランスさが賛否両論を招き、コメント欄で僕抜きでの議論が起こることがアルゴリズムにプラスに作用したのだろう。本当に色々な声があった。発音やアクセントを馬鹿にするコメント、声域の広さを誉めるコメント、「聴覚障害者かと思った」という感想、チャレンジする姿勢そのものへの賞賛や激励、「歌うことを諦めた方が良い」という提言、「私もカラオケだとこんな感じ」という他意はないと言い訳がギリギリできるような皮肉、「こいつはマイクを食べようとしているのか?」というスベリ気味の指摘、「少なくとも映像のクオリティは高い」という敵か味方か分からないヤツ、「横顔が好き」という謎の告白、かなり具体的な発音のアドバイスや練習方法の提案、歌い方やピッチに関する全く的外れな苦言、などなど。

 これまでYouTubeに投稿を続けてきて目覚しい成果は得られていなかったが、TikTokに同じ動画を転載するだけでここまで結果が変わるのはなんだか皮肉なものだ。もう少し手放しで喜べれば良かったのだけれど、これまでに費やしてきた労力と時間にはまだまだ見合わない。ちょっとした兆しのようなものが見えたことは前向きに評価できるとしても、マーケティング戦略にはまだまだ改善の余地がある。
 いや、というかそもそも普通に「もっと英語を磨けよ」という話だ。やはり僕はその手のクリエイター達に少しばかり洗脳されてしまっているのかもしれない。

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