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「ポップスライブラリー」について

中学生の頃、ラジオを聴くのが日課でした。

スマホは勿論、自分専用のパソコンも持っていない時代だったので、決まった時刻にラジカセで電波を拾って、雑音に眉をひそめつつ、お気に入りの番組を録音するのに必死だった思い出があります。

NHK-FMでまだまだ現役放送中の「青春アドベンチャー」や「FMシアター」といったラジオドラマ番組に出会ったのも、この頃でした。この二つの番組についても、追々語りたいなぁとは思っていますが、今回は、放送終了してしまったとある番組について書きたいと思います。

その番組は「ミッドナイトポップスライブラリー」というタイトルでした。(後に「ポップスライブラリー」に改題。)

週替わりの読み手が一冊の本を朗読しつつ、合間に音楽を流していくスタイルでした。
読み手は、俳優、声優、タレント…様々な芸能人が出演していました。読まれる本は、小説やエッセイが多かったです。


私が初めて聴いたのは、小泉吉宏さん著「四月天才」という短編小説の回でした。


因みにどんなお話かと言うと

2002年4月1日、朝起きると一篇の掌篇小説が頭の中に…というわけで、人気漫画家が小説を書き始めた。以来一ヶ月、創作の神様が送信してくるアイディアの数々を書きとめているうちに、出来上がったショート・ショートが三十七篇。ファンタジーからホラーまで、卓抜な着想と心地よい裏切りに満ちた傑作短篇集。
(裏表紙・紹介文より引用)

当時の私はホラーが大の苦手だったのですが、ホラーというよりはブラックユーモアを含めた不思議な話という印象でした。淡々とした語りで、最後にヒヤッとさせてくる感じ。しかし、たまたま拾った電波から、こんな不可思議な物語と出会ってしまった時の衝撃は大きかったです。

翌日、学校で友人に「ゆうべ面白いラジオがやってたんだよ〜!」と力説したのですが、私の拙い語彙では感動が微塵も伝わらず、友人のリアクションは今ひとつでした(笑)


しかしそれ以来、毎晩寝る前にポップスライブラリーを聴くことが、私の密かな楽しみとなりました。

この番組、翌週の朝に再放送もしていたので、長期休暇の間はそちらも聴いていましたが、やはり日中に聴くのはどこか物足りないんですよね。
学校から帰って夕食や入浴や宿題を済ませ、夜が深まってきた頃に、一人きりで物語の世界と音楽に浸る。あの静けさは、なんだか大人びた時間を過ごしているような、子供心にも贅沢な気持ちになったのを覚えています。


この番組が私にとって特別なのは、ラジオを聴いていた時間だけに留まりません。

ポップスライブラリーのおかげで、様々な作品に出会うことができました。

江國香織 …角田光代…川上弘美…宮部みゆき…田口ランディ…矢崎存美…鷺沢萠…

名だたる作家陣の作品に触れるきっかけになり、愛読書の幅が広がりました。(しかし見事に女性作家ばかりなのが、多感だった中学生時代の心境を表わしていて、我ながら微笑ましいですね 笑)


前述の通り、インターネットもそんなに普及していなかった時代です。ポップスライブラリーで聴いて気に入った本を図書館や本屋で探してみても、すぐに見付かることは稀で、長い時間を掛けて取り寄せするしかありませんでした。

そんなひと手間の末、実際に本を手を取った時の喜びは、「出会い」ではなく「再会」だと感じました。

自分の手でページを捲るのは初めてなのに、どんな言葉が綴られているのか知っている物語との「再会」。そんな不思議な心地を味あわせてくれる本は、ちょっと他にはないと思うのです。


そんな中、思わぬ形で再会できた時の喜びは、独特の高揚感がありました。


あれは高校生の時。
友人が「面白いよ」と勧めてくれた本が、おーなり由子さん著「きれいな色とことば」でした。

絵本作家であり漫画家でもある方なので、イラスト満載のエッセイ集です。タイトルの通り「色」をテーマに、著者自身の思い出や日常の中で出会った美しい色の風景を綴ってあり、瑞々しさも懐かしさも両方味わえる贅沢な作品です。

私「あっ!この本知ってる!!!」
友「え?読んだことある?」
私「実際に読んだことはないけど、読んだことある!!!」
友 (何を言っているんだコイツは…?という表情)

友人からしてみたらかなり意味不明な奴ですね(笑)
でも後に、その友人が誕生日にこの本をプレゼントしてくれたので、さらに特別な一冊になりました。



それから、この番組のオープニングとエンディングには、毎回決まった挨拶がありました。

(OP)
知らない間に 時は目の前を
通り過ぎていきます
慌ただしい一日のなかで 今
心と体を解きほぐし
自分だけの時間を 取り戻してみませんか?
素敵な本を紐解いて あなたに
胸がときめく 新しい出会い
心の片隅に仕舞い忘れた 懐かしい思い出
時を超え 安らぎの世界へといざなう
ポップスライブラリー
(ED)
今 本を閉じる前に
伝えておきたいことがあります
新しい出会い 数々の思い出を
ありがとう

諳んじるほど耳にしたフレーズですが、年を重ねるほどに味わい深く感じられるようになりました。

私にとっては、ポップスライブラリーという番組そのものが「新しい出会いと数々の思い出」の宝庫でした。

素敵な本とのたくさんの出会いと、そして再会をありがとう。


インターネットが身近な存在になり、番組名で検索をかけてみると、当時録音していたリスナーの方々が動画サイトにアップしてくれていて、一部の回は聴くことができます。

私も何か提供できたら良いのですが、残念ながら手元にあるのは、石田ゆり子さん朗読の江國香織さん著「つめたいよるに」の「デューク」「スイート・ラバーズ」を録音した雑音だらけのカセットテープのみです。(しかも途中で音が切れている始末…)

再放送してくれたら泣いて喜びます。
いっそ販売してくれたら絶対買うくらいほしいです…。

でも、ここはやはり思い出の中の懐かしい存在のままのほうが、価値が何倍にもなって素敵なのかもしれませんね。

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