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電子妖精プロジェクト 眠れるプログラムに鎮魂歌を

 眠れるプログラムが消滅した。それは公式にはRe:プログラミングと呼ばれる転生の儀式で、全く別の体と名前、設定のキャラクターがお披露目と称して皆の前に現れた。
 これを持って光矢輝01”やや”、光矢輝02”かやにゃん”、光矢輝07”ななてる”、流琉蒼01”あおい”、花草ふしぎ01”ふわ”は跡形もなく消えた。これはバーチャルにとって明らかな死である。それなのに誰も弔おうとしないので、私はここに祈りの文章を記そうと思う。


 電子妖精プロジェクトのオーディションは最初から不気味だった。一度も配信せずに消えた多くの参加者、数度の配信を経て次々と辞退する参加者、予選抜け確定の状況から辞退した人もいる。更には2人しか残らずに予選の段階で最終選考進出が決まるキャラクター。裏で何があったのかリスナーは知る由もない。運営は「本人の意向、無理に引き止めることはできないので」と繰り返す。
 人が減って順位争いも穏やかになり、見た目上は平和になった。そのため参加者間でのディスや不満の声などもほとんど聞こえず、リスナーも小規模ながら良いオーディションなのではないかという雰囲気になっていた。

 今回のオーディションで選出されるキャラクターは4人だが同じようなキャラクターが更に9人いる、つまり電子妖精は全部で13人いるというのは早い段階で知らされていた。そしてそのうち5枠を今回のオーディション落選者の中から選出すると発表された。公式転生である。
 獲得ポイント全体2位で最終選考落ちの参加者が選出外になり、予選落ちの参加者が選出されるというドラスティックな対応はあったものの、対象者は滞りなく発表され、転生の準備ができるまでの期間「眠れるプログラム○○(ニックネーム)」として配信活動を継続できることとなった。

 体こそ奪われど、ニックネームを継続使用することで同一性は確保できていた。名前だけが残っていた。わずか数文字の文字列だけが明確に繋がりを示していた。

 この眠れるプログラムが消滅した。
 公式配信での発表で、観客は新しいキャラクターの誕生に喜んでいた。司会が盛り上げようとする。拍手をする。観客も手を叩いて盛り上がる。祝賀ムードだった。華々しく登場した新キャラクターに会場のテンションは最高潮に達した。発表された新キャラクターの名前を呼んで歓喜する観客たちは気づいていただろうか。今あのキャラクターたちは死んだんだぞ。転生は死と誕生。新キャラクターの誕生の瞬間、オーディションを戦い抜いて、その後も眠れるプログラムとして活動していたあのキャラクターたちは死んだんだ。私はそれが悲しくて、コメント欄に何度も「さよなら」と打っては送信できずに消していた。

 体が奪われ、名前も奪われ、設定も奪われ、すべてが書き換えられた。上書きしたらもう復元できないね。もしまた以前と同じニックネームを何かに使おうと思っているならやめてほしい。どうにか新しいキャラクターとこじつけたところで同じ文字で違う意味にしかならない。そこに残った意味まで上書きしないでくれ。

 電子妖精の墓前に供えるなら電子データだろう。それでこの文章を書いた。私からのお別れの言葉は以上だが、肝心のお墓が見当たらないのでここに墓標を立てておく。

光矢輝01   ”やや”
光矢輝02   ”かやにゃん”
光矢輝07   ”ななてる”
流琉蒼01   ”あおい”
花草ふしぎ01 ”ふわ・ふわにゃん”

どうか安らかに眠ってほしい。
さよなら。

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