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1-1-4 富める者を肥やし、貧しきものから巻き上げる利子の呪縛

ミハエル・エンデ作『モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語』は、広く世界で愛読されてきた。時間に振り回され、時間を貯めれば幸せになれると考える現代人の偏執(へんしゅう:とりつかれた妄想)を題材にして、人間の生き方、価値観を説く児童文学だ。エンデはこの話の着想を、経済学者シルビオ・ゲゼルの「老化する貨幣」から得た。エンデは、貨幣を時間にたとえて、経済瓢(ひょう)を幻想劇に仕立てたのだ。
「老化する貨幣」とは、貯めておくと減ってしまう貨幣のことだ。現代社会に生きていると利子はあまりに当たり前なものになっていて疑うことがない。お金を借りると利子を合わせて返済するものと誰しも思っている。お金がもしあれば、一番効率よく増やして戻してくれる人に預けたい。
しかし、実は、中世までキリスト教圏では利子は好ましくないものとされていた。旧約聖書には親族、近隣のものから利子を取ってはいけないと記されている。利子を取らないイスラム金融もある。
単利は良いが複利を禁止する国もあった。複利は強力な利殖の仕組みだ。伝説によるとイエスの父親ヨゼフは、イエスの誕生に際して、5%複利でお金を銀行に預けたという。この元金が、仮に1ドルだったとしても、2000年後には、桁数53桁のとてつもない金額になっている(日本語では、十の52乗は恒河沙:ごうがしゃという単位になる)。
「老化する貨幣」に相当するものが実際に世界大恐慌時にいくつも発行された。最初の「老化する貨幣」といわれるのは、オーストリアのヴェルグル市で1932年に発行された労働証明書だ。公共事業などで仕事をすると、ヴェルグル市が発行した労働証明書をもらえる。この証明者は普通に通貨として使える。ただし、1カ月ごとに額面1%相当のスタンプを貼っていかないと使えなくなってしまう。つまり、1カ月で1%価値が下がってしまうのだ。そのため労働証明書を手にした人は、できるだけ早く使おうとする。実際、ヴェルグル市の労働証明書はオーストリアの通常の通貨の14倍の流通がありヴェルグル市の経済を活性化させたとされる。
ヴェルグルの減価する労働証明書は反響を呼び、近隣各国で発行が相次いだ。実際には13か月後にオーストラリア政府が政府紙幣保護のために発行を停止させている。同種の恐慌時の債権は米国でも発行され、3000種類以上になったとされる。米国ではスタンプ通貨と呼ばれ、経済学者からの支持もあったが、当時のセオドア・ルーズベルト大統領が発行を禁止し、ニューディール政策での経済再建を進めた。
「老化する貨幣」は貯めると損をする仕組みを埋め込んだところに仕組みの動力源がある。お金にまつわる世界の不幸はお金を貯め、貯めておくと、ひとりでに増えてしまう利子にあるとする考え方だ。
利子によって生み出されたのが、数人の富豪による世界資産の寡占だ。世界の総資産の半分は8人の資産家に集中しているといわれる(貧困撲滅NGOのオックスファム試算)。資産家の順位付けで有名なフォーチュン誌の公表試算値では、世界の資産家の1位から8位までの人の資産を合計すると2018年度には7000億米ドルになる。世界の総資産は1兆5000億米ドル程度と試算されていることになる。
彼らは、世界で上位8番目に幸せでも愛されているわけでもない。ただし、彼らは世界最大の篤志家でもあり、多くの寄付を行っている。24年連続世界資産家順位1番だったビル・ゲイツ氏は資産の99%を寄付している。
利子の力によって、持てる者は何もしなくても資産が増えてしまうのだ。2018年に所有資産1位となったジェフ・ベゾフ氏の1600億米ドルの資産は、株式市場の暴落でもなければ次の年には利子によって1800億米ドルになる。
1972年に米ドルと金の交換保証がなくなり、通貨は無限に創造できることとなった。特に2008年のリーマンショック以降、各国政府が通貨供給を増大させた。供給された通貨は無理やりにでも融資されて、国や企業、個人の借金となっていった。
現在、世界の金融負債は250兆米ドルといわれる(国際金融協会IIF)。一方、稼ぎに相当するGDPは80兆米ドルだ(IMF)。世界は、年間収入の3倍程度の借金を持っていることになる。借金には利子がかかり返済しないと増えていく。5%の複利の場合、稼ぎの3倍の借金が4倍になのには5年しかかからない。年間収入の3倍の借金に利子が付き、さらに増えていく。世界は、稼ぎを守り、お金を使わず、当てもなくただ耐えている。
モモは街の人のために奪われた時間を取り戻してくれた。現代にモモは現れるだろうか。

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