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ガラの悪い義兄の話し

ガラの悪い義兄がいる。


生まれも育ちも南大阪で、喋り方は完全に見取り図のネタのカスカップルのキリヤだ。


いつも真っ白のアルファードで登場するのだが、第一声から柄が悪い


「おはよう!!そのパーカー、バぁリええやん!!どこのぉ!?」
基本的に一般人が少しキレてるくらいの声量で話す。


一通の道に、間違えて入って来ようとした車でも居ようものなら、考えるより先にクラクションを爆鳴らし。
窓を開けると「下がらんかい!!!」と怒鳴る。


歩いている時も、道に広がって歩く邪魔な集団を見かけると
「邪魔やのぉ!」と、本当に息を吐くように恫喝する。


本人は全く怒ってないのだが、これで190くらいあるから本当にタチが悪い。


そんな神経が欠落した義兄だが、先日初めて人間らしい一面を見た。


その日は義兄とその子供たち2人と、近所の埠頭まで釣りに行くため、ラーメン屋の前で待ち合わせていた。


到着してからほどなくして、真っ白南大阪アルファードが到着した。
「シャコタンのセルシオとかじゃなくて本当によかったなぁ」と、見るたびに思う。


「おはよう!え!キャップDAIWAやん!!ばぁりええやん!!」
助手席から義兄が笑顔で怒鳴っている。


ふと運転席を見ると、見たことのない小さめのオジイが座っている。
「今日親父の運転やねん!!!」
義兄がちょうど良いタイミングと、逸脱した声量で説明してくれたとおりらしい。


「あ、そうなんや!よろしくお願いします!」
👴「はい、よろしくねぇ」
義兄とは真逆の、穏やかオジイで、少し安心したのを覚えている。
逆にこの親父から、どうやって怪物のような息子が産まれたのか、謎が深まる。


普段は安定の地元走りで、ギリギリ煽ってないだけくらいの義兄の攻めた運転で向かうのだが、今日はオジイの穏やか安全運転で、平和に釣り場まで到着することができた。


早速釣りを始める5人。
しかし、この日は風も強く、潮回りも微妙で、周りも全然釣れていなかった。


「あっかんなぁー!!全然あかんやんけぇ!!」
掴み合いでも始まったのかという声量で悔しがる義兄。
それを聞いたオジイが口を開いた。


「お前なぁ、子供らと来てるねんから、そんなあかんあかんバッカリ言うな。」
一見頼りなさそうに見えて、そこは親父。決めるところはビシッと決めてくる、立派な人だ。


それから30分くらいして、ポツポツと釣れ始め、なんとか子供達も、義兄も機嫌が良くなって来た。


ここで本命の太刀魚用の仕掛けを、車に取りに行く親父さん。
俺もぼーっとアイコスを吸いながら、楽しそうにはしゃぐ子供達を眺める、ホッコリタイムを過ごしていた。


『お前なにさらしとんじゃボケェ!!!!』
遠くから響き渡る怒号に、俺は思わず義兄を確認したのだが、義兄は嬉しそうにイワシを釣り上げている。


ひとまず身内が関与していなくて一安心したのだが、やはり何事かは気になる。


怒号の発信源は、どうやら車の影からで、ちょうど俺たちの釣り座からは見えない位置だった。


『お前どこにションベン垂れとんねん!!お前の家いったるわ!!身分書だせ!!!』


どうやら、会社の敷地内で立ちションをして怒鳴られているようだ。
あまりに情けない内容で、気の毒になるが、完全に犯人が悪い。
悪戯心もあり、ちょっと犯人の顔を見に行くことにした。


『顔と名前覚えたからのぉ!次見かけたら警察呼ぶぞ!!2度と来んなよボケェ!!!』


まだ犯人は爆説教されている。
車の横を何台か通り過ぎ、彼らの姿が目に入る。




怒鳴る作業着の男




シュンとする親父




親父!!!!



親父さんだった。
まさか今日初対面の親族が、こんなにもマンチキで怒鳴り散らかされているとは思わなかった。


さすがに気まずかったので、何も見なかったフリをして釣り座に戻り、そっとアイコスをつけた。


しばらくすると、視界の隅に、親父さんが見えた。
おもむろにルアーを投げては、リールを巻く親父さん。
心なしか飛距離も出ていない。
フワッと投げては巻きを、3回くらい繰り返した親父さんはつぶやいた。


👴「今日はあかんなぁ。」



俺は5秒ほど海面をみつめ、
「ですね。」
と、噛み締めるように返した。
恐らくこの釣り場に来ることはもう無いだろう。


例の騒動は、しっかり義兄たちも目撃していたようで、帰りの車は全員が無言だった。



義兄にも「気まずい」という神経は備わっている事を目の当たりにして、少し安心している自分がいた。


終わり。

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