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葬送のフリーレンアニメ解説 第2話 -前編- 格好よく死にたがる男ハイター

前回↓に引き続き、第二話をやっていきます。

前回と同様に漫画と比較しながらアニメを見ていき、

主に
・アニオリ演出や演出意図
・丁寧に見直して、あ、これそういう意味だったのかと気づいたところ
・妄想たくましくしてでてきた独自の考察

などを書いていきます。

今回は作中では描かれていないハイターのキャラ性についての考察がみどころです!

基本的にはアニメの時系列順になっているので、もう一度アニメを見ながら読むといいかもです。

それでは本編です!

川で釣りをするシーン

ここアニオリです。

原作では、1話最後の崖の上で長距離魔法の解説をしかかったところで終了し、魔法使いに必須な3つの要素が何かは読者にはわからないままです。

アニメではこの3要素を説明を増やして、フェルンの修行になぜ数年単位で時間がかかるのかの理由付けを行っています。

そして、気長に頑張ることだね、とここで一度出してフェルンに「はい」と言わせておくことで、数年後にそれが「いずれではダメなのです」にかわったときに、修行が始まった時点では余命を気にしないでいいほどまだ元気だったが状況が変わったとわかるという仕掛けになっています。

ここの追加はシンプルに話の運びとして納得感が増し、丁寧になっているなと思います。

また、魔力のコントロールがずば抜けて得意、というのはフリーレンに共通する要素です。(まあフリーレンは正直3要素ともずば抜けてるけど)

フリーレンはフェルンに自分と似ているところがあると思っていますが、似ている要素を増やすことで、将来的にフェルンがフリーレンのような偉大な魔法使いなることをほんのり分からない程度に匂わせ始めているのかなと思います。(考えすぎかも)


修行期間のダイジェスト

おおむね漫画と一緒です。

個人的に気になったのは、フェルンの回りに円を描くフリーレン。
これなんの円なんでしょうね。

この範囲に魔力をめぐらすんだよ的な感じでしょうか。全くわかりません。

『それだけ、魔法が好きなのでしょう』

そうじゃないんだよなーと思うけど何も言い返さないフリーレン。

フェルンもフリーレンも、傍目からは魔法大好きっ子に見えるのに、本人たちは「ほどほどです」と答えるというキャラです。

もう少し先の話ですが、フェルンは自分だってほどほどにしか好きじゃない魔法にズッポリ没頭しているのにも関わらず、同じように魔法集めに没頭しているフリーレンをあんまり理解できず、『あの執着は異常です!』とか言っちゃうんですよね。

……いや君が言う?

やはりこの2人は似た者同士なんですよね。感情の起伏もふたりとも少なめだし。

僕の話になっちゃいますが、僕も文章書くのはすごく没頭できるし、このnoteも頼まれてもないのに気づいたら160記事とかあるわけです。これもおそらく傍目からは好きなように見えちゃいますよね。

僕は文章書くのなんてずっと好きとも得意とも思っていませんでしたが、ふとした瞬間に、「イメージしてたような"好き"とはなんだか形が違うけど、これもある種の好きってことなのかな」と思ったことがあり、フェルンとフリーレンにもいつかそういう時が来るのかもなぁとか想像したりしています。

好きというより、程々だけど、辞めたくてもやめられない、勝手にやってしまう、切っても切れないという感じの方が近いかもです。

『それでも一人前になるのはまだ先だ』

フェルンの成長スピードについての考察です。

修行と解読の進捗とスケジュールの見積もりについての表現が何回か登場します。

まずフェルンは10年の道のりを4年で今のところまでたどり着いた、とあります。常人の2.5倍のペースで成長しているということですね。

しかし、それでも1人前になるより解読のほうが早いとフリーレンは言っていて、さらにハイターが倒れたので解読を急ぐと言っています。

なので普通に行けば、1人前になるよりだいぶ早く解読が終わってしまうはずです。

しかしその後、フェルンは無事解読に間に合わせて1人前になってますから、ここからさらに加速したことになります。4倍くらいですかね。

あんまり何かの上達スピードが4倍になることってないと思うので、そう考えると頑張りすぎですね。
たしかにフリーレンの言うように、没頭しすぎはあんまりいいことじゃないかも。

まあそれを言うなら、フリーレンだって魔法集めに没頭しすぎて一見しょうもない1つの魔法を「もうちょっとだよ」とかいって何年かけても集めようとするので、それもあんまりいいことじゃないことになり、ブーメラン刺さってますよと言ってあげたいですね。

ていうか、歳の割にできると言われたフェルン(10歳)が、さらに10年の道のりをかけて1人前に未達ということは、凡才な魔法使いはいった何歳まで頑張れば1人前になれるんでしょうか。

このずっと先の話で出てくる若い魔法使いたちは、全員フェルン異常の化け物か見た目以上に年寄りということになっちゃいますけど…

もしくは、長距離魔法は魔法の3要素全てが必要なので、難易度が高い魔法である可能性もありますよね。一般攻撃魔法なので習得している人は多いと思いますが、普通はこんなロングレンジでは撃ちませんということなんでしょうかねえ。

もしくは、フリーレンが一人前と認める水準が非常にハイレベルなので、人間たちが一般的にいう一人前よりはだいぶ上で、実はベテランくらいの水準なのかも。


『私はあの方に命を救われました』

戦地であった南部で家族をなくし死のうとしていたフェルン。

アニメでは荒野の崖の上のような場所ですが、漫画だともっと木が生い茂っています。

ここは戦地っぽさがでるのでアニメ版のほうが良い演出だなと感じますね。生い茂っていると回想に入る前の崖とロケーションが近すぎるので分かりづらいです。


『今死ぬのはもったいないと思いますよ』

第二話最大の考察ポイントです。

前回の途中で「ハイターはずっとかっこよく死のうとしているキャラ」という考察をしましたが、その人生が大きく動いた瞬間です。

ヒンメルの葬式で「死んだら天国で贅沢三昧に決まってます」とカッコつけ、フリーレンと再開時に「まだ生きていたのか」ときかれ「なかなかかっこよく死ぬのは難しいですな」と言っていたハイター。

フェルンが一人前になりフリーレンに引き取ってもらえるとわかった瞬間にさっさと旅立たせて、フェルンに自分の死を見せないようにしようとします。

そしてフリーレンに「お前はまた格好をつけるのか」と怒られてしまうわけですね。読者・視聴者の見えるところでも2度カッコつけてます。


僕が思うに、ハイターがカッコつけて死のうとしていたことはあと2回あります。

まず、ヒンメルの葬式時点では聖都の司教だったハイターが、その後の20年の間に、戦地の南部でフェルンを拾っています。

聖都は宗教の一番でかい教会がある街のはずで、おそらくローマみたいなもんです。
聖都とは別に王都があるので、政教は分離していて、政治的な権力はそんなにないとおもうのですが、司教は教会で一番偉い人なので、相当な地位です。

世界を救った勇者パーティの僧侶なので、司教に成るのは、まあ順当っちゃ順当ですね。

司教を仮に引退したとしても、いくらでものんびり過ごす道がありそうなのに、わざわざ誰もいきたがらないだろう危険な戦地に赴いています。

僕が思うに、ハイターはかっこよく死ぬ場所を求めて南部に行くことにしたのではないかと思います。

もちろんヒンメルにならって、人助けをしにいったという見方もできますので、あくまで一側面としてにとどまると思います。


そして、かっこよく死のうとした残りの1回は、魔王討伐の旅です。

普通に考えると魔王を討伐できずに死んでしまう可能性のほうが高いですよね。
魔王討伐の度は、死んでもかっこいいし、成功したらもちろんかっこいいです。

そして、かっこよく死にたいと考えているにも関わらず、普通に死が怖いのでごまかすために酒を飲みまくっていたのではないか、という仮説も浮かびます。

「死への恐怖は計り知れないものです」と晩年にも言っていますしね。


もっと踏み込んだ想像をするなら、そもそも僧侶の道に進んだのも救いがほしかったからとも考えられます。

若い頃からかっこよく死にたいという気持ちと、死ぬのが怖いという矛盾する不安を抱えているキャラクターなのかもと思えてきます。

ハイターがあの性格で死にたがり屋だったとはさすがに僕は思いませんが、「かっこよく死ぬ」という切り口でハイターを見ていくと、すべての行動がその軸でつながります。


そしてフェルンに出会い、「今死ぬのはもったいないと思いますよ」に繋がります。

自分はかっこよく死にたいと考えていたにも関わらず、眼の前で少女が身投げで(かっこよく)死のうとしているのをみると、止めてしまい、説教してしまうんです。

当たり前ですけどそれって全部ブーメランで自分に効くわけで、この話はフェルンにしているようで実はハイターが自分自身にいい聞かせているんですね。

かっこよく死にたかった自分をフェルンに重ねて、死ぬことばかり考えていたのは間違ってたよなと感じ、生者は死者の思いを継いでいかなくてはと思い直します。

そしてヒンメルならきっとそうするように、フェルンが独り立ちするまで面倒を見ることにしたんですね〜。


こういうふうに見るとこのシーンは結構深みがでてきます。

そしてハイターは最後まではヒンメルのように聖人ではなく、心の弱い人としても描かれています。

ヒンメルの死後「ヒンメルの勇気や優しさを伝えていかなくては(死にたいとか思ってる場合じゃないな)」と思ったくせに、とっくに肝臓を悪くしているのにフェルンに出会うまで酒を辞められないし、

そしてフェルンが一人前になったと思ったらまたカッコつけて死にたがる癖がでてきちゃうんですね。


そしてあろうことかフリーレンに「カッコつけるのをやめろ」と怒られ、カッコつけて死ぬことを諦めます。

でもそのおかげで、フリーレンとフェルンに見守られながら幸せな最期を向かれられたはず。

「きっと幸せだったと思いますよ」ってやつですね。


なお、ハイターは凱旋の宴でヒンメルに「ハイターはこの10年ですっかりおじさんになってしまった」と言われているのでおそらくヒンメルより年上で、出立時のヒンメルは15〜16歳です。そのときハイターはおそらく18前後でしょう。

その後魔王を倒すために10年間旅をし、その50年後にヒンメルが死に、その25年後にハイターも死んでます。

つまりハイターは100歳超えの大往生。

かっこよく死にたいと考えながら酒浸りで生きていたやつが、普通よりずっと長生きというのはなかなか皮肉ですよね。

一枚岩を撃ち抜くフェルン

フェルンが素晴らしい音楽とともに一枚岩を撃ち抜くシーン。その手前のカットに、ハイターが窓の外を眺めるカットがあります。

このカットはアニオリです。

もしかして、窓から一枚岩が見えるのではないでしょうか。

この1カットがあるおかげで、ハイターがフェルンが1人前になる瞬間を見届けられたのかも、と想像することができ、気づいたものだけは胸あたたまるというニクい演出です。


『また格好をつけるのか、ハイター』

大号泣シーンです。こんなん全員泣くだろ!

「フェルンはとっくに別れの準備はできている。お前が死ぬべきにやるべきことは、あの子にしっかりと別れを告げて、なるべくたくさんの思い出を作ってやることだ」

ハイターもまさかフリーレンにこんなことを言われる日が来るとは思っていなかったでしょうね。

誰よりも全員の気持ちを理解した、ベストな提案です。


ここの演出は漫画とアニメでは大きく違います。

漫画では、立ち上がって上記セリフを言ったフリーレンが凛とした顔で涙を流しているというキメのシーンなのですが、

アニメでは、座ったまま握った手の甲に涙を落とし、肩を震わせてしとしと泣きます。そして泣き顔は映りません。

個人的にはどっちも好きですが、アニメの方はより情緒があっていいですのと、全体的に感情の起伏を漫画より抑えているので、その演出方針にもあっている気がします。


そして僕が思うに、フリーレンが泣いてしまうのは、ハイターが死んでしまうからなのはもちろんですが、ヒンメルのことを思い出してしまうからです。

エーラ流星を見に行く最後の旅。
ヒンメルはこれが最後の旅だとわかっていたけど、フリーレンはそうは思っていなかった。
時の経過に驚きつつも、それが示すものをちゃんと理解できておらず、以前の10年間の旅の延長のように思っていたはずです。

ヒンメルはあんなにたくさん言葉にしてくれて、ありがとうフリーレン、君のお陰でみんなで最後に旅ができてよかったと言ってくれていたのに、自分は何もわかってなくて、ちゃんと受け止められていなかった。
それを今も悔やんでいて、思い出すからです。

そしてハイターとフェルンにその二の鉄を踏んでほしくないから、辛いけど言葉にして、涙を流すのです。カッコつけてその機を逃すなと。

フリーレン自信も、ヒンメルとはちゃんとお別れできなかったけれど、ハイターの最期にはできるだけのことができた。それが嬉しくて、そして悲しいから気持ちが溢れてしまうのです。


最高のシーンですね。

フリーレンは優しい子です。

料理をしながら涙を拭うフェルン

↑のシーンの直後、フェルンが料理をしながら目を拭うシーン。
アニオリです。
玉ねぎが目に入ったわけではない。


『私はただしてやられただけだよ、あの生臭坊主に』

ハイターの墓に酒をかけるフリーレン。

このシーンはアニオリ演出があります。
気づいたときに泣きそうになりました。

ここでフリーレンは2本分の酒をかけています。漫画では1本だけですが、アニメでは2本。

1本はもちろん、ヒンメルの葬式後に言っていた「私が死んだら酒でも備えてください。」に対するお酒。

じゃあもう一本は?


僕が思うにこれは、フェルンが一人前になるまで長生きするために、ずっと禁酒していた分のお酒ではないでしょうか。

その分まで天国で飲めよという、フリーレンの粋な贈り物。

お疲れ様、フェルンは私が引き受けたよというメッセージでしょうか。

泣ける。あまりにも。

フリーレンが人の気持ちのわかる優しい子になっていくのを感じますね。


長くなりすぎたので前後編にします。

熱く語りすぎた。眠くなってきたので寝ます。また後編、「別に魔法じゃなくたって」でお会いしましょう。

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