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どう考えてもこんなおばあちゃんになりたい『海が走るエンドロール』

去年の末、はじめてインスタグラムで『わたし的このマンガがすごい!2022』という最大級の自己満コンテンツを生み出した。("生み出した"などと戯言をぬかすな)
ご存じだろうが一応説明しておくとこのオマージュの元ネタである『このマンガがすごい!20XX』は宝島社が発行するマンガ紹介ムックで、ガチなマンガ好きが選んだ今一番アツい漫画をオトコ編・オンナ編に分けそれぞれランキング形式で発表していくものだ。

『わたし的このマンガがすごい!2022』で私は早速その年に出会った漫画ではない漫画を1位に選ぶという暴挙に出たのだけど、では本家はどないなもんかな?と思い見てみたらそれはもう素晴らしいランキングでさすがとしか言いようがなかった。
このランキングには入っていない、まだ多くの人には知られていないような良作ももちろん沢山あるだろうがそれはまた別として、良い作品は段々と広まっていくもんだなあなどと思いながら、自分が好きな作品がランクインしていることに喜びを感じるのだった。

本家『このマンガがすごい!2022』オンナ編第1位、たらちねジョン著『海が走るエンドロール』を知っているだろうか。

夫と死別し数十年ぶりに映画館を訪れた65歳のうみ子はそこで海という映像専攻の美大生と出会う。
海との出会いによって自分は"映画を撮りたい側"の人間なのだと気づいたうみ子は心を掻き立てる波に誘われ、映画の海へとダイブするのだ。

公式的なキャッチコピーは「シルバーガール×ブルーボーイのシーサイド・シネマ・パラダイス」
シーサイド・シネマ・パラダイス。なんて良い響きなんだ、、、。ハクナマタタ、、、愛のメッセージ、、、

もう正直に申し上げるとこの作品、まず設定の時点で大優勝している。設定だけで大優勝なんて暴論はよしなさいよという感じなので私がそう考える理由を話そう。
まず、前提として私は"ものづくり"に関する物語が大好きである。自分が普段目にしているものは全て誰かが作ったもので、そこにある人の想いとか熱量が伝わるとわくわくするものだ。『海が走るエンドロール』はそんなものづくり(しかもこれまた大好きな映画)に関する話で、そのうえこの作品で映画を作るのは若者達と65歳のおばあちゃんときたものだ。
そんな設定素晴らしいとしか言いようがないじゃん。異論がある人は今すぐここで唱えてください。捻り潰します。
映画、みんな好きでしょう?
わたしは映画が好きだけれど、23歳、映画製作に関する知識や技術を何一つ持っていない今から映画を作りたいと思っても年齢や環境などいろんなことを言い訳にしてなかなか第一歩を踏み出すことはできないのではなかと思う。
だが作中でうみ子が海に「作る人と作らない人の境界線てなんだろう」と問う場面がある。海に問いかけながら、全ての人に問うているのだ。この世の全ての人たちよ、作る人と作らない人の境界線とはなんだ?
そこでうみ子が出した答えは"船を出すか出さないか"だ。
何かを作る、何かを始めることに対して理由をつけて足踏みしてしまう全ての人の背中を、誰にだって船は出せるのだと65歳のうみ子が押してくれる。
こんなアツいおばあちゃん、他にいる?
だから私はこのマンガが好きなんですよ。

そしてもう一つ個人的に好きなのは、うみ子が料理を作り、食事をするシーン。
亡くなった夫を思い出しながら1人で食事をする時にそれまでのうみ子の生活が見え隠れし
海と食卓を囲む時に現在の彼女の日常を感じさせてくれる。
作者のTwitterで第1話が公開されているので是非とも読んでもらいたいのだけど、この作品はうみ子が料理を作るところからはじまっている。
ジュージューと音を立てるフライパンにテンテロテロテロテン♪と愉快な音を立てて米の炊き上がりを知らせる炊飯器。そんなどこにでもある日常とそこに突如現れる荒波が対照的に描かれるところから彼女の第二の人生がはじまっていくのだ。

『海が走るエンドロール』既刊2巻、彼女たちの航海はまだはじまったばかりである。
彼女たちの物語をアツい心で見守っていきたい。早く続き出ないかなあ。


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