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地方文学賞に小説を応募してみた結果。

 RTGです。いつも大変お世話になっております。 
 まずはこれまでのあらすじから。


~これまでのあらすじ~
賞金目当てで地方文学賞の小説部門に応募した。

 以上。
 
詳しくは以下の記事に書いています。

 

 で、結果が出ました。




 入選しました。入賞の一つ下です。馴染みのフォロワーさん向けに例えると、逆噴射小説大賞の最終選考に相当するものと思われます。
 めでたいことです。応募総数は現状不明ですが、おそらく50本は優に超えるものと思われます。その中で数本しか選ばれない入賞・入選作の一角を、初挑戦の身で占める事ができました。
 なお応募作ですが、賞の規定で著作権が一年間主催者に帰属するためここでは公開できません。無念極まりないですが、どうかご了承ください。


注:
 当記事では応募した文学賞の名称・作者名・応募作タイトルを全て伏せています。賞名を明かした時点で個人特定のリスクが発生するためです。個人情報をボカシつつ内容を伝えようと手を尽くしましたが、どうしても叶いませんでした。誠に申し訳ございませんが、何卒御了承願います(それでも、判る人には記事内容で判るかもしれませんが)。
 なお、クローズドのコミュニティでは賞の詳細に触れていますが、SNS等で当記事をシェアいただく際は、賞名ならびに作者名の記載を避けていただきますよう切に願います。記事コメントを残していただく際も同様に願います。
 また、以前から親交のある相互フォロワーで、かつ詳細を知りたいという方におかれましては、note機能「クリエイターへのお問い合わせ」をお送りいただければ詳細をお答え致します(こちらの判断で回答を控える場合もあります。予めご了承ください)。

 

 閑話休題。結果の話に戻ります。


 入選という結果について、今は嬉しく思っています。しかし当初はそう思えませんでした。ぶっちゃけて言うと嬉しさと悔しさが1:1。
 自分の目標は入選のさらに上、入賞しての賞金獲得でした。賞金の額が中々にゴッツいんですよ。トップ6桁円、次点でも5桁円。あと入選は数千円分の図書カード(だったような。この辺はちと曖昧です)。
 他の部門の賞金額に比べ、小説部門だけがほぼ倍付けのレート設定。他部門に比べて応募のハードルが高いとか、花形部門として位置づけられているとかの事情があるのかもしれません。だがそんな事はどうでもよろしい。


 目の前にカネを掴むチャンスが転がっている。短編小説一本書いて当たればMAX6桁円。
 そして俺は小説を書ける。真っ当に完結させたのはこの一作しかないけど、書こうと思えばきっと書ける。
 だったらやるしかねえだろ。そんなバカ丸出しのノリでTRYしてみました。身の程知らずは身軽に動けるので得。


 分際を弁えぬバカとはいえ、無手で勝負に臨んだわけではありません。とりあえずリサーチとして受賞作品集のバックナンバーを読みました。賞のレベルと傾向をある程度つかんだ上で、自分に書けるものを模索しようというハラです。
 純文学が主流の賞だが一応はノンジャンル、つまり娯楽小説でも可。とはいえティーン向けの内容では上に行けそうもなく、壮年~中高年層向けの作品が評価されていそう。優勝作品は流石に例年ハイレベルだけど、準優勝以下は現状の自分でも手が届かなくはなさそうに思える。
 かく言う自分は娯楽小説育ちの人間。純文学はほとんど読んだことないので書けそうにない。その上で賞に向いていそうで、かつ自分が書けそうな娯楽小説を考えないといけない。
 時代小説とかどうだろう。もちろん一度も書いたことはない。だけど最近藤沢周平とかを読んでいるから、その読み込みを更に加速させれば下地は作れると思う。テーマは丁半博打で行きたい。ギャンブルを扱ったマンガや小説が好きな俺なら書けそうな気がする。そこに人情劇も絡めよう。
 気がかりなのは前例だ。過去十年間の受賞作には二、三作ほど時代小説/歴史小説が存在するが、どれも入選に終わっている。レベルが低いわけではない。文章力も高いが、何より時代考証がバチバチに極まっている。そういう作品ですら入選どまりなのを見ると、時代小説というジャンル自体がミスチョイスなのかもしれない。

 その辺でうーむむむ、うーむむむむむと唸りました。
 腕組みして唸りながら首をひねり続けること5分。思案六方巡らせた末、ようよう思い至りました。


「ま、今書けそうなもんで勝負するしかねえわな。要は他の応募者に負けないモノ書けばええんやろ? イケるイケる、俺なら絶対良いモノ書けるって!!!」


 バカ丸出し(2回目)。

 基本的に結構ネガティブな性質タチなんですけどね。何だってこうも強気だったのか自分でも意味が分かりません。でも実際自信満々だった。 

 物語の核になるアイデア(終盤のワンシーン)だけは浮かんでいたので、あとは時代小説としての肉付けあるのみです。
 まずは下地作りから。藤沢周平を十数冊、あと浅田次郎と山本一力の時代もの数冊を集中的に読み込みました(ついでに藤沢周平の短編も一本だけ写経した)。
 以下が読了した作品群です。二周三周したものもいくつかあります。

藤沢周平作品
用心棒日月抄(ヒーロー連作集)
隠し剣孤影抄(剣豪短編集)
隠し剣秋風抄(剣豪短編集)
暗殺の年輪(ノワール短編集)
又蔵の火(ノワール短編集)
竹光始末(武家・市井短編集)
闇の歯車(クライムサスペンス)
驟り雨(市井短編集)
橋ものがたり(市井短編集)
決闘の辻(史実剣豪短編集)
たそがれ清兵衛(剣豪短編集)
天保悪党伝(ピカレスク連作集)
夜消える(市井短編集)
日暮れ竹河岸(市井短編集)

浅田次郎作品
お腹召しませ(コメディ・人情短編集)

山本一力作品
蒼龍(人情短編集)
銀しゃり(人情長編)

 そういう具合に頭をどっぷり時代小説に浸からせて、それでもまだ執筆のフェーズには至りません。
 小説の読み込みと平行して、資料の読み込みも行いました。江戸時代の用語辞典やら風俗史、丁半博打の歴史とか博徒(ヤクザ)の解説本とかを取り寄せては読みました。
 以下が購入した資料群です(一部読み切れなかったものもあります)。

 あと江戸時代当時の地図を使って、物語舞台の地理を調べてました。使ったのはこのサイト。

 そういう下調べを通じて、時代考証的ななんかを脳内に刷り込んでいきました。並行して創作論の本もいくつか読んだ(即効性のある知見は得られなかったけど)。そういうのを経て、プロットというかシーケンス(章立て、あるいは各シーンの一連のつながり)を組み立てていく。
 そんなこんなやっていたら物語の筋が半分くらい見えてきたので、もういいややったれと見切り発車で執筆開始。その後は書きながら話の筋を考えたり、閃きとかアドリブでどうにかしたりを重ねていって、一応の形(800字詰原稿用紙20枚)にすることができました。書き上げた後はリアル友人達の下読みを経て推敲を重ね、〆切2日前くらいに応募した次第です。
 なお、所要期間は2ヶ月強~3ヶ月弱くらいだったと思います。アイデアが浮かんでから初稿完成までの期間です(時代小説を手に取ったのが去年の暮れなので、そこからカウントすると半年強)。


 公募に挑む人間は誰でもそうなのでしょうが、自分も二心を抱いていました。両手に抱えきれないくらいの自信と、そしてひと握りの不安を。
 それでも、少なくとも入選は確信していました。目標達成(入賞)の可能性も大いにあると思えたほどです。傲慢や虚栄心による強がりでなく、良いモノが書けた事への純粋な自信が持てていました。

 俺が書いたモノは良い。自作可愛さで言うのでなく、読み手の目線でそう思える。そんじょそこらの応募作と撃ち合ってもそうそう負ける気はしない。

 さあ、どっからでもかかって来い。

 そういう感じで臨んでいました。闘志むき出しというよりは泰然とした風情。うーん我ながらカッコいい。

 もっとも、その泰然自若っぷりはガラガラと音立てて崩壊したわけですが。結果発表のその日に。

 発表予定時期に差しかかった頃、そろそろかなと思い公式サイトを覗いてみました。そしたらその日がちょうど結果発表当日で。
 小説部門を見た瞬間に白目を剥きました。何でって、自分の名前が見当たらない(※それが普通)。
 無い、無い、無い。おいねえぞ、どこにもねえっ!!! とか吠えてたら何のことはない、確かに入選欄にありました。じゃあ何で見落としてたのかって言ったら、ナチュラルに入賞欄しか目に入っていなかったから。うーんこれはどう言い繕っても傲慢。

 最初はガッカリしましたねえ。過去受賞作にも見劣りしない(当社比)自作が入選で終わったかと。入賞の名誉を逃したこと以上に、自作小説でのMAKE MONEY(=現ナマを稼ぐ)という目標を達成できなかった事が何よりこたえました。膝から崩れ落ちましたもん、ああ〜~ちっくしょお〜〜〜ってな具合に。

 もっとも、それから一昼夜経って冷静さを取り戻すと、流石に考えが改まりました。いやちょっと待て、やっぱコレはすげえ事なんじゃないのかと。

 自分は物書き歴4年の人間です。小説らしきものを書き始めたのも2年前からで、しかも書いたことがあるのは冒頭800字の書き出しばかり。まともに完結させたのは去年書いた1本しかありません。
 そんな人間が、それまで書いたことない時代小説14000字書き上げて公募に出して即入選。しかも入賞・入選者の過半数は、毎年この賞に応募されている小説ガチ勢の方ばかり。そんな人らと競り合って一応結果を出している。


 ……

 …………

 ……………………


 …………天才だわ、俺(アミバ並の感想)。


 いやいやいやちょっと待て、こうして書いてみると結構なシンデレラ野郎じゃないか俺。天才かバカヅキか知らんけど大したもんじゃないのよさ、ちょっとシンデレラガールズ総選挙出てみるかオイ。
 与太はどうあれ大したもんだ。やっぱり偉い、偉いぞ俺!!! 

 偉い俺!!!!!!!!!!

出典:ミリオンシャンテンさだめだ!!(著:片山まさゆき)

 


 えー、いっぺん使ってみたかった画像が使えたので話を戻します。


 入選という結果自体はめでたいものです。その一方で、目標を達成できなかった未練もあります。ですが結果はあくまで結果です。良い方にも悪い方にも溺れる事なく次に行こうと思います。

 むしろ今回の応募作を書き上げられた経験、さらに言うと、それを可能にしたこれまでの積み重ねプラクティスこそが自分にとっての勲章です。
 綺麗事を吐く趣味はありません。それでも、自分自身に嘘偽りなく「これが誇りだ」と断言できるものは何かと考えると、やはりこれしか無いのです。曲がりなりにもゼロから時代小説一本書き上げられるまでに至った、これまでの物書きの全経験しか。


 さっきも述べたとおり、自分の物書き歴は短いものです。今年で4年目を数えます。
 最初の1年目は、エッセイやコンテンツ語りを書いていました。何か面白いモノを書いてみたいけど物語なんて書けるスキルはない、だったら自分の経験を面白おかしく語るしかないなという流れで。
 それでもめちゃめちゃ頭と時間を使って文章を練っていたのは確かです。手癖で書いた記事はよほどの特例を除いてありません。人様が読んで面白い文章を書こうという姿勢──スキルよりもはるかに大事な基礎──はこの辺で培われたように思います。

 小説らしきものを書き始めたのは2年目、逆噴射小説大賞に参戦したのがきっかけでした。エンタメ小説の冒頭800字だけで勝負する一風変わったコンテストです。
 とっつきやすくはあるものの、小説執筆未経験者には相当に高いハードルです。しかも自分はド素人でありながら最終選考(入選)を目指していました。もはや無謀の域、傍から見ればただのバカです。それでも本気でそれを目指して最終選考に至りました。
 3年目は『パルプアドベントカレンダー』なる企画に誘われました。12/1〜12/24の期間、一人一作自作のエンタメ小説を上げていく小説リレー企画です。
 なお、今年も開催されます。詳しくは以下の記事から(自分は参戦できそうにありません。申し訳ない限りです)。

 書き出し800字の世界しか経験のない自分がゼロからエンタメ小説を一本書き上げる、それだけでも不可能案件に思えました。しかも他の参加者は軒並み玄人しかいません。相当なプレッシャーに苛まれながら、それでも12000字書き上げて、それなりの評価を頂戴することができました。


 今にして思うのは一つ。
 それは、「俺には無理だ」と思える課題をクリアした時こそ莫大な経験値を得ていたという事です。
 勿論、あまりにも彼我のレベルが乖離した目標に挑めという話ではありません。今の自分では二手、三手、あるいは四手ほど手が届かない、死力を尽くしてギリギリ手が届くか否か。そういうハードルを見定めては、それに挑んできたという話です。


 「俺には無理だ」という諦めを「俺なら出来る」という根拠なき自信で粉砕し続けてきた4年間。
 その積み重ねがあればこそ、ゼロベースからでも時代小説を書き上げる事ができた。あまつさえ、初挑戦の身で地方文学賞の入選に至る事ができた。
 今回の戦果について、自分はそのように捉えています。



 毎度の事ながら長くなりました。最後に謝辞を述べて終わりにします。


 拙作を見出してくださった賞選考委員の先生方。
 初稿の感想行為と推敲につき合ってくれた友人たち。
 事前に完成稿を読んで感想をお寄せいただいた、しゅげんじゃさんのざわあらしさん
 そして、逆噴射小説大賞を通じて小説の書き方を教えてくださったダイハードテイルズの皆様方と、モノを書く場を提供してくださっているnoteの皆様方。
 この度は誠に有難うございました。心より御礼申し上げます。



 先日、運営事務局から表彰式の招待状が届きました。
 胸を張って参加してきます。これまでのPRACTICEと、それを積み重ねてきた自分自身への敬意を以て。