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水滸噺 20年10月【創造主はお怒り】

あらすじ
創造主 御年七十三歳
遊撃隊 隠し芸は不発
打虎将 虎刈りを語り
没面目 泰山相撲無双

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう!

梁山泊

梁山泊…めっきり秋が深くなった。

本隊

本隊…調練の秋。どいつもこいつも大張り切り。

人物
関勝(かんしょう)…関羽なみに髭を蓄えようと思ったが、朱仝に睨まれたのでやめた。
呼延灼(こえんしゃく)双鞭(そうべん)の名手だから太鼓も上手かと思ったら、やっぱりリズム感がなさすぎた。
穆弘(ぼくこう)…死角に逃げる兵を追いかけるため、湯隆に秘密兵器を作ってもらっている。
張清(ちょうせい)…160kmを投げるためのトレーニングに邁進中。
宋万(そうまん)…焦挺ほどではないが、相撲は強い。力士と飲んで酒が進んだ。
杜遷(とせん)…甥っ子の祖永が兵になって将校になるのが楽しみ。
焦挺(しょうてい)…燕青と仲良くなったがめったに会えないのが残念。
童威(どうい)…久しぶりに泳いだら、さすがの出洞蛟(しゅつどうこう)
李袞(りこん)飛天大聖(ひてんたいせい)の芸で元気を分けてくれって言ったら大うけした。
韓滔(かんとう)…棗の枝を振り回す。外角打ちに定評あり。
彭玘(ほうき)…槍の技に定評あり。呼延灼とも互角の勝負。
丁得孫(ていとくそん)…巳年はもれなく厄年。

1.
焦挺「泰山相撲大会?」
燕青「出てみたらどうだ?」
焦「調練もあるのに簡単には行けないだろう」
宋万「どうした、焦挺」
燕「泰山で相撲大会がある」
杜遷「これは焦挺の出番だな」
焦「俺たちは叛徒ですよ?」
宋「いい知恵はないか、燕青?」
燕「そうだな…」
杜「私たちからも晁蓋殿に頼もう」

宋「梁山泊から外出など久しぶりだ」
杜「我らの知名度なら梁山泊と結び付けられることもあるまい」
焦「自虐ですか、杜遷殿」
宋「あれが泰山だな」
杜「見事な」
焦「燕青は惜しかったな」
宋「賢い奴には相応の悩みがあるのだな」
焦「燕青も出たかったんじゃないでしょうか」
杜「今回はお前だな」

焦「甘い!」
崔埜「くそっ!」

宋「順当に勝ち進んだ」
杜「あの任原という男が決勝の相手か」

焦「…」
任原「…」

杜「始まるぞ」

焦「!」
任「!」
焦(なんという強さ!)
任「!」

宋「劣勢だ!」
杜「焦挺!」

焦(負ける…)
任「!」
焦(隙!)
任「!?」

宋「焦挺が!」
杜「あの技は!?」

焦挺…ここ一番で誰もみたことのない技を繰り出した。
宋万…相撲部屋の勧誘を渋々断った。
杜遷…焦挺に賭けて正解だったな。
燕青…盧俊義の無茶振りで出そびれた。

崔埜…相棒の文仲容と相撲で荒稼ぎしていたが二人共々焦挺に敗れた。
任原…泰山相撲大会優勝常連。焦挺の力量に惚れて勧誘した。

遊撃隊

遊撃隊…よりによってこいつらにお鉢が回ってくるなんて…

人物
史進(ししん)…今回ばかりは死ぬかと思った。
杜興(とこう)…今回ばかりで李応に愛想をつかされた。
陳達(ちんたつ)…今回ばかりは朱武も助けてくれなかった。
施恩(しおん)…今回ばかりは出演して心底後悔した。
穆春(ぼくしゅん)…今回ばかりは穆弘も見て見ぬふりをした。
鄒淵(すうえん)…今回ばかりは消されても文句は言えないと思った。
班光(はんこう)…今回ばかりは特別に出張してきたが、来るんじゃなかった。
鄭応(ていおう)…今回ばかりは特別に出張してきたが、二度と行かないと思った。
葉敬(しょうけい)…今回ばかりは特別に出張してきたが、梁山泊は良い所だと思った。

2.
杜興「我らの世界の創造主の生誕祭を取り仕切れと、宋江殿が」
史進「なんだかんだで頼りにされているな、俺たちは」
陳達「だが粗相があったら存在そのものを抹消されるかもしれんぞ」
鄒淵「さすがにいつものはやめろよ、史進」
史「お前ら、この名言を知らんのか」
陳「?」
史「したたかへ行け!」

陳「なんだそれは」
史「この世界の創造主の名言だ」
鄒「そんなことを言ったのか」
史「俺たちのノリが合うのも必然」
杜「どうかのう」
史「俺たちの技量の粋を尽くし、神をお出迎えするのだ」
穆春「よし来た」
施恩「朗読は任せてくれ」
班光「私たちも招聘されました…」
史「遊撃隊勢揃いだな」

晁蓋「創造主生誕祭かくし芸大会を行う」
宋江「結局そうなるのか」
呉用「一番遊撃隊オールスターによる」
神「…」
呉「試みの地平線」

史「したたかへ行け!班光」
班「恥ずかしい…」
穆「聞き捨てならねえぞ小僧」
陳「童貞は濡れた着物だ!」
鄒「俺がしたたかに連れて行く」
班「いいです!」

班「」
李瑞蘭「お楽しみね」
班「…」
李「…」

施「したたか、したたか」

晁「影絵か」
宋「施恩の意味は?」
神「…」

施「したたか、したたか」

班「死ぬ…」
李「まだまだ」

施「したたか、したたか」

史「したたか改めである」
穆「したたか組だ!」
班「したたか組!」
李「なんてこと」

史「みだりに淫らなしたたかなす者を斬り捨てに参った」
班「おのれしたたか組」
陳「縛につけ」
班「無念…」

鄒「班光が囚われた」
鄭応「なんということだ」
葉敬「我らも逃れなければ」

呉(班光の縛られ方が嫌らしい)

鄒「どうしますか、御隠居」
杜「したたか隊の弱点を突く」
鄭「それは?」

杜「したたか隊は羽織を脱ぐとヘタレになるのだ」
鄒「よし行け!」
鄭「したたか隊!」
史「不貞浪士か!」
葉「脱ぎ捨て御免!」
穆「しまった!」

晁(酷いな)
宋(収拾はつくのか?)
神「…」

鄭「脱ぎ捨て御免!」
陳「いかん!」
杜「脱ぎ捨て御免!」
史「返り討ちだ!」
杜「おのれ九紋竜!」

呉「結果収拾がつかず、神の説教を受けている」

神「…」
史「すみませんでした」
杜「存在抹消だけはご寛恕を…」
神「!」
杜「身体が消える!」
史「爺!」
鄒「いいのか、李応!」
李応「遊撃隊の下ネタにノリノリで与する執事など知らん」
杜「李応殿!」
陳「無理ねえ」
班「…我々もですか?」

宋「創造主様」
晁「ここは梁山泊頭領二人の顔に免じて、遊撃隊の面々を許していただけませぬか」
神「…」
史「晁蓋殿!宋江殿!」
宋「腐刑にされたくなければ黙っていろ、史進」
史「」
神「…」
宋「ありがとうございます、創造主様」
晁「改めまして、御生誕誠におめでとうございます」
神「…」

杜興…素面になって羞恥が追いかけてきた。
史進…腐刑を受ける夢を見た。
陳達…朱武と楊春に哀しい目で見られた。
鄒淵…鄒潤に頭突かれた。
穆春…穆弘に叱られた方が怖かった。
施恩…宋江の気に打たれた。
班光…楊令伝に強制送還。
鄭応…何しに来たんだ。
葉敬…俺もな。
李瑞蘭…先に帰った。

晁蓋…隠し芸大会が好きなんだが…
宋江…いい加減一番手を変えろ。
呉用…結構笑ってた。
李応…杜興のノリが信じられない。

…御年七三歳。これからも素敵な物語を紡いでください!

二竜山

二竜山…冬支度も調練の一環。

人物
楊志(ようし)…寒くて楊令で暖をとろうとしたら、済仁美に取り上げられた。
秦明(しんめい)…秦容が寒そうにしていたから懐に入れてやったら妙にガタイが良かった。
解珍(かいちん)…山中の獣の罠に、鄒潤が引っかかっていた。
郝思文(かくしぶん)…自分が出張している間に、家族が解珍の肉刺しを堪能していたらしくてしょんぼり。
石秀(せきしゅう)…曹正の脂肪で暖をとろうとしたら爆発した夢を見た。
周通(しゅうとう)…まだ済仁美の眼を見て話せない。
曹正(そうせい)…石秀を油で揚げようとしたら爆発した夢を見た。
蔣敬(しょうけい)…石秀と曹正の争いの戦績表を記録している。
李立(りりつ)…林冲騎馬隊に輜重を率いながらかけずりまわされて大変。
黄信(こうしん)鎮三山(ちんさんざん)を自称していたが、桃花山で苦戦したデビュー時代。
燕順(えんじゅん)…清風山を守り抜いた実績はさすが。
鄭天寿(ていてんじゅ)…銀細工のクオリティが天井知らず。
郭盛(かくせい)…楊令とおしくらまんじゅうをしたら弾き飛ばされた。
楊春(ようしゅん)…陳達が史進の毒に侵されているのが心配。
鄒潤(すうじゅん)…瘤を取り外しできるようになりたい。
龔旺(きょうおう)…張清の直球を捕球するのは大変。

3.
鄒潤「こぶが肥大化して前が見えん」
楊春「…」
鄒「どれくらい大きくなった、楊春?」
楊「この間測った時よりも二回りは大きくなっている」
鄒「燕順殿のくるみを割りすぎたせいかな?」
楊「粉砕して叱られただろう?」
鄒「薬味として重宝しているらしい」
楊「それでそんなに大きくなるかな?」

郝嬌「鄒潤殿!」
鄒「おう!郝嬌ちゃん!」
郝「山椒を粉にしないといけないんだけど…」
鄒「…棒で潰す方がいいと思うぜ?」
郝「でも、燕順殿が粉末なら鄒潤殿のこぶが一番だって言っていたの」
鄒「…ちょっと待ってくれ。目を覆う」
楊「ゴーグルならここに」
鄒「さすが楊春」
郝「お願いね!」

鄒「…いざ」
楊「…」
鄒「!!」
郝「この器に入れて!」
鄒「ピリリと辛いぜ…」
郝「ありがとう!」
鄒「おう」
郝「こぶを撫でさせて!」
鄒「いつものな」
楊「?」
郝「…」
楊「なんて言った、郝嬌殿?」
郝「大きくなあれ!」
楊「そのせいか?」
鄒「馬鹿な」
郝「大きくなあれ!」
鄒「!?」

鄒潤…膨れ上がってないか!楊春!
楊春…みるみるふくらんでいるぞ、鄒潤。
郝嬌…感謝の気持ちを一杯込めたから!

双頭山

双頭山…双頭山近辺で虎が出たらしい。

人物
朱仝(しゅどう)…李忠が妙に張り切っていたもんで立ち合わせてみようと思ったら、すごい顔して断られた。
雷横(らいおう)插翅虎(そうしこ)の出番ではないか!
董平(とうへい)…白虎をイメージした曲を作成中。
宋清(そうせい)…虎の毛皮は売れるぞ!
孟康(もうこう)…俺の兄貴は獅子だからな。
李忠(りちゅう)…虎刈りチームの編成がやたら巧みなのは打虎将(だこしょう)ゆえか?
孫立(そんりつ)…黄信の愚痴がうっとおしいが、こいつの嫁自慢も甚だうっとおしい。
鮑旭(ほうきょく)…さすが李忠殿の統率力。
単廷珪(たんていけい)… 水を噴射して虎を驚かせる装置を作った。
楽和(がくわ)…お姉ちゃんの手紙を読むたびに心苦しくなってくる。

4.
李忠「私が本当に虎を倒したかだと?」
黄信「兵がしきりに気にしていてな」
李「そんなに気になるか?」
黄「お前の腕で本当に虎を倒せたのかをな」
李「失礼な」
黄「俺は喪門剣で戦うのも遠慮したいが」
李「何も虎と一騎討ちするだけが虎退治ではない」
黄「まあな」
李「一騎討ちは武松に任せろ」

李「正確にいうと近隣の猟師を動員して虎を捕らえるのが巧みだったから打虎将だ」
黄「冴えんな」
李「そういうお前は猟師に命をかけさせることができるのか?」
黄「それは」
李「その時の根回しの経験が今の私に生きているのさ、黄信」
黄「しかし俺は釈然とせん」
李「それは?」
黄「虎を倒せよ」

李「そういうお前は三山を鎮圧したのか?」
黄「馬でな」
李「そういうではない」
黄「なんだと?」
李「二竜、桃花、清風の三山を兵で鎮圧したのか?」
黄「俺の鎮三山は自称ではない!」
李「私の打虎将も故郷の皆がつけてくれたから客観性はある」
黄「虎の威を借る爺め…」
李「そう言うな鎮三山」

李忠…皆がいても虎退治は大変なんだぞ。
黄信…実は青州軍の新兵時代、鎮三山を公言して憚らなかった。

聚義庁

聚義庁…冬場にかけてのかくし芸大会の選考で激論になっている。

人物
晁蓋(ちょうがい)…順番決めのくじ引きに不正はない!
宋江(そうこう)…ならばなぜ毎回遊撃隊が一番を引くのだ!
盧俊義(ろしゅんぎ)…腐刑のことなら任せろ。
呉用(ごよう)…なんだかんだで遊撃隊が好きなむっつりスケベ。
柴進(さいしん)…史進の赤い具足の軽量化を依頼されてさらにうんざり。
阮小五(げんしょうご)…実は史進の芸を少しだけプロデュースしたことがある。
宣賛(せんさん)…覆面をしているから下ネタでニヤニヤしている顔とか巧みに隠せる。

5.
施恩「魯達殿は替天行道のこの箇所についてどう思われます?」
魯達「ふむ。この一文は涙が止まらなかったことをよく覚えている」
施「そうですよね!」
魯「…しかし今はこの一文を読んでも心こそ動くが涙は流れんな」
施「ならばもう一度全て書き写してみてはいかがでしょう?」
魯「俺はもういい」

施「魯達殿?」
魯「もうそんなことをしている時期ではないのだ、施恩」
施「お言葉ですが、魯達殿」
魯「…」
施「そんな簡単に志の初心を忘れてしまってよろしいのでしょうか?」
魯「言うではないか、施恩」
施「替天行道に関することならば、私は言います」
魯「志の初心など遠ざかって久しいな」

施「…私も志が替天行道に書かれているように、世が清いものとは思いません」
魯「…」
施「ですが、初めて書を読んだ時の感動だけは忘れたくないのです」
魯「…」
施「だから私はその気持ちを色褪せることのないよう、書き写す事をやめないのです」
魯「…」
施「ご無礼を…」
魯「礼を言う、施恩」

施恩…魯達に背中を叩かれてびっくりした。
魯達…自分は思っているよりも穢れていないのかもしれないと、書き写している時に少しだけ感じた。

養生所&薬方所

養生所&薬方所…事務局の調整なしに円滑に回らないセクション。

人物
安道全(あんどうぜん)…分かっているけど治療が辞められない。
薛永(せつえい)…分かっているけどセルフ人体実験が辞められない。
白勝(はくしょう)…分かっているけどめんどくさい二人の間を受け持つのがなんだかんだ好き。

6.
白勝「不満ってわけじゃねえんだがよ」
安道全「どうした白勝」
白「俺の席次が下から三番目ってのは何でだろうな」
薛永「確かにもう少し高くてもいいと思うぞ」
白「だろう?」
安「お前がいなかったら、私も薛永も仕事にならんからな」
薛「その点は考慮されるべきだ」
白「呉用殿に聞いてみるか」

呉用「席次が低い?」
白「そんなに高くなくてもいいが、もう少し高くてもいいんじゃないかと思ってな」
呉「気持ちは分からなくもない」
白「だったら」
呉「しかし、お前より低い時遷と段景住がお前より貢献していないかというと?」
白「そういう訳じゃねえな」
呉「比較するのが無粋ではないか?」

白「下位だからって下っぱじゃねえのは分かってるけどよ」
呉「縁の下の力持ちってやつさ」
白「またそうやってはぐらかそうとしやがる…」
呉「そういう星だろう、私たちは?」
白「違いねえな」
呉「今日は鍼を打ってくれ」
白「伝えとくよ」
呉「助かっているぞ、白勝」
白「苦労してんな、お互い」

白勝…呉用に疲労回復に効能のあるお茶を用意しといた。
安道全…呉用殿と白勝の貢献は十二分に分かっているぞ。
薛永…我らも二人を労わらないとな。
呉用…週に一度の養生所が良いリフレッシュ。

牧場

牧場…乗り手が乗り手なら馬も馬である。

人物
皇甫端(こうほたん)…百里風に乗ってみたら、意外と乗りこなせた。
段景住(だんけいじゅう)…乱雲に乗ってみたら、着物をはぎ取られた。

7.
段景住「それにしてもあんたは馬としか話さんな、皇甫端よ」
皇甫端「…」
段「百里風は何と言っている?」
皇「…林冲が百里風と百李富が似ていると思いついてジワジワきてるのにウンザリしている、と」
段「乱雲は?」
皇「…史進の裸芸がワンパターンなことにウンザリしている、と」
段「だろうな」

段「お前らの馬が飼い主にウンザリしているぞ」
林冲「なんだと」
史進「それは由々しい」
皇「…」
林「何がいかんのだ、百里!」
百里風「…」
皇「…なるほどな」
史「乱雲!教えてくれ!」
乱雲「…」
皇「…それは致し方ない」
林「…」
史「…」
皇「…」
段「言えよ、皇甫端!」
皇「言わんよ」

皇「虚心になれ、林冲、史進」
史「虚心…」
段「脱ぐんじゃねえぞ、史進」
林「張藍とお前を秤にかけろと言うのか、百里」
段「単なる惚気か」
皇「…」
林「弱ったな」
史「お互いの馬を取り替えてみるのはどうだ、林冲殿」
百「!!」
史「!?」
林「百里が本気の蹴りを…」
段「史進なら大丈夫だ」

段景住…史進はそんなに嫌なのか、百里…
皇甫端…人間は悩ましいな。
林冲…待て!百里!
史進…乱雲にケアされた。

兵站

兵站…戦前の儀式である。

8.
李立「行くぞ」
曹正「この瞬間だけは心が毀れそうになるな」
蔣敬「観念しろ曹正」
孟康「札を裏返せ!」
李「!?」
曹「二竜山!」
蔣「私は本隊!」
孟「…李立か」
李「また騎馬隊かよ…」
曹「察するぜ、李立」
蔣「索超の合図を見落とすなよ」
李「この戦が終わったら…」
孟「フラグを立てるな」

李「観念して運んでくれ、皆」
部下「くじ運悪いですね、隊長」
李「理想は一度できちんと届けるのだが…」
下「俺が斥候で先回りしておきます」
李「頼んだぞ」
下「林冲殿の先を読むなんて荷が重すぎます」
李「俺たちの荷も重いぜ」
下「二重の意味ですな、隊長」
李「頼んだぞ」
下「やれやれ…」

李「この馬の蹄は、百里風!」
下「隊長!」
李「斥候が抜かれてんじゃねえ!」
下「敵の斥候も追いつかない速度ってのは本当なんですな」
李「味方の斥候も置いてけぼりにするくらいだからな」
下「一体何を考えて飯を食っているのか」
李「何も考えていないと思うぞ」
下「索超殿の合図が…」
李「」

李立…十里追加かよ…
曹正…ずいぶん痩せたぞ、騎馬隊の兵站の時は。
蔣敬…ずいぶんやつれましたよ、騎馬隊の兵站の時は。
孟康…ずいぶん痩せこけたぜ、騎馬隊の兵站の時は。

林冲…飯はまだか、索超。
索超…さっき置いていったばかりだぞ、林冲殿。

塩の道

塩の道…成績トップはどうあがいても燕青なもんだから…

人物
盧俊義(ろしゅんぎ)…一番手にしか興味はない。二番以降はみんな一緒。
燕青(えんせい)…さすがのハイスペック。何から何までステータスが天井知らず。
蔡福(さいふく)…我らはナンバーワンではなくオンリーワンにならないか、慶?
蔡慶(さいけい)…うすら寒いこと言い始めやがった…

9.
蔡福「また燕青か」
蔡慶「兄貴じゃ燕青に勝てんよ」
福「顔と頭と体術と笛を引き算すれば圧勝だ」
慶「それを差し引いても、兄貴のBMIは肥満にいると思うぜ」
福「この皮下脂肪と内臓脂肪を燕青に移植すればあるいは…」
慶「盧俊義様の脂肪もプレゼントだ、兄貴」
福「薛永に頼もう」
慶「本気か?」

福「薛永によって、俺の脂肪をカプセルに凝縮することに成功した」
慶「カプセルの中で小宇宙が広がってるぜ」
福「燕青のサプリにカプセルを隠蔽しよう」
慶「でも兄貴の太鼓腹はそのままじゃねえか」
福「筋肉の厚みだ、愚弟」
慶(割に弾力に富んでる気がするが)
福「イケメンともおさらばよ、燕青」

燕青「…」
福「オルニチンだ、燕青」
燕「すまん」
慶(渋いサプリ飲んでんな)
燕「?」
福「どうした?」
燕「今、末恐ろしいカロリーを摂取したような」
福「お前の活動量ならすぐ燃えるさ」
燕「なんだこれは!」
慶「どうした?」
燕「私の顔に、小さなニキビが…」
福「その程度で絶叫するなよ」

蔡福…薛永のカプセルの効き目だな。
蔡慶…プラセボです、と薛永に耳打ちされたのを黙っている。
燕青…スキンケアサプリを試しすぎて、お腹を下している。

工房

工房…手先が器用で生き方が不器用な連中のセクション。

人物
凌振(りょうしん)…自分も大砲で吹き飛んでみたら病みつきになった。
湯隆(とうりゅう)…徐寧の賽唐猊は音がしんどい。
李雲(りうん)…トレーニングキットで荒稼ぎしている。

10.
李雲「調練器具の新作を拵えた」
史進「おう、楽しみにしていた」
林冲「どうやって使うのだ?」
李「車輪のついている器具は腹筋の調練だ」
史「どれどれ…」
李「両手足に装着しろ」
史「おう」
李「これで四肢を伸ばせ」
史「効く…」
林「もっと伸ばせ、史進」
史「限界だ!」
李「戻せ」
史「!」

林「史進が!」
李「滑り始めたぞ!」
史「いかん!あつらえた様な下り坂だ!」
李「史進!」
林「俺は足に装着だ」
李「おう、史進を助けに」
林「行くわけがない」
李「だよな」

史「止まらん!」
湯隆「いけねえ!しこたま槍を落としちまった」
史「!?」
湯「史進!?」

林「早いな!」
李「おう」

林「これは新しい靴にならないか?」
李「作ってみよう」

史「槍をどけろ!湯隆!」
湯「お前も止まれ!史進」

林「おう。史進が」
李「あれは…」

史「!?」
湯「衝車が!」
解宝「大丈夫か!湯隆!」

李「史進が弾き飛ばされたぜ」
林「どうでもいい」

李応「卵鉄!」
史「待て!」
李「史進!」

李雲…車輪付きの靴は致死軍に需要があった。
林冲…四回転を決めた。
史進…玉突き事故で重症。でもきっと大丈夫。

湯隆…串刺しにならなくてよかったな。
解宝…全くだ。
李応…会心の卵鉄だった…

11.
湯隆「今度はどこの修理だ、徐寧」
徐寧「胸の星が取れた!」
湯「てめえではめりゃいいだろうが」
徐「外れにくくしてくれ!」
湯「それよりもこのノイズをなんとかしようと思わんのか」
徐「なんとかなるならそうしてる」
湯「そういう仕事こそ俺に頼めよ」
徐「なら明日までに」
湯「それは無理だ」

湯「この軋みがいけないのか…」
高平「しかし、この軋みが生まれる構造が賽唐猊の防御力の所以ですぜ」
湯「安請け合いするんじゃなかった」
高「好きで引き受けたくせに」
湯「油で塗ってなんとかならんか?」
高「着用に手間取ってどやされるのが見えてますぜ」
湯「そんな甘い鎧じゃないぞこれは」

湯「油を塗ったら塗ったで嫌な音がする」
高「ほんとだ!」
湯「この音を落としたくても水洗いできん」
高「すごい錆びやすいんですよね」
湯「なんでこんな鎧を着れるんだ、徐寧は」
高「敵の血でも浴びたら満足するんじゃないですか?」
湯「そうかもしれん」
高「頭領?」
湯「血を浴びせてみよう」

湯隆…音はおとなしくなっても血の汚れが落ちにくい!
徐寧…鉄臭いぞ、湯隆。
高平…湯隆の一番弟子。布巾という布巾を使い倒してなんとかした。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…閉店間際には帰りそびれた酔っ払いが馬鹿なことをしているようで…

人物
朱貴(しゅき)…酔っ払いから宿泊料しっかり頂戴している。
朱富(しゅふう)…朝起きた酔っ払いから、迷惑料もきちんと徴収している。

12.
郁保四「…いかん。寝ていた」
史進「のこった!のこった!」
陳達「のこった!のこった!」
杜興「!!」
鄒淵「!?」
史「杜興の粘り勝ちだ!」
杜「小僧には負けんわい」
鄒「李応に言いつけてやる」
陳「次の取り組みは?」
史「俺と郁保四だ」
郁「これは何をしているんだ?」
史「乳首相撲だが?」
鄒「汁が出た」

郁「なぜ俺がやるんだ?」
史「そこにいたからな」
郁「林冲殿たちは?」
陳「お前が寝てる間に先に帰った」
鄒「遊撃隊の時間にいたのがお前の不運だ」
杜「観念してやらんか、郁保四」
郁「…仕方ない」
史「…随分と位置が低いな、郁保四」
陳「陥没してないか?」
郁「気にしてるからもう言うな」

陳「双方構え!」
郁「…」
陳「はっけよい」
史「…」
陳「のこった!」
郁「!」
史「!」
鄒「のこった!のこった!」
郁「痛い…」
史「笑わせるな、郁保四」
陳「のこった!のこった!」
扈三娘「忘れ物が…」
馬麟「一緒に探そう」
郁「扈三娘殿!」
史「!」
扈「…」
馬「…」
郁「白旗です」

郁保四…誤解です。扈三娘殿。
史進…朱富の店の割箸使用禁止令が出た。
杜興…李応にすれ違いざま、乳首って言われた。
陳達…遊撃隊乳首相撲西の大関。横綱は史進。
鄒淵…遊撃隊乳首相撲東の大関。汁が止まらない。

扈三娘…郁保四と口を聞かないことにした。
馬麟…林冲殿には内緒にしてやる。

13.
朱富「魚肉饅頭を焼いてみたが」
顧大嫂「旨そうじゃないか」
朱「本意ではない」
顧「旨きゃいいんだよ」
朱「私の仕事は脂で賄える程度の仕事なのだな」
顧「すねるな」
朱「顧大嫂の饅頭を蒸すだけで出すのは?」
顧「少し物足りないね」
朱「…」
顧「客にあんたの料理を押し付けなさんな、朱富」

朱「…そういうつもりは、ないが」
顧「あんたの料理を食いたい奴がいれば出せばいい」
朱「…」
顧「ただ旨いもんを食いたい男に合わせて旨いもんを出すのも料理人の仕事さ」
朱「…なるほどな」
顧「私はあんたの料理は好きだよ」
朱「ありがとう」
顧「私にあんたの細かい料理はできないよ、朱富」

朱「焼いて出すからには妥協はしたくないな」
顧「あとはあんたのやりたいようにやりな」
朱「本当にありがとう、顧大嫂」
顧「なら私から勘定を取らないでおくれよ」
朱「そうはいかん」
顧「やれやれ…」

朱「焼饅頭と一緒に飲む酒にも拘りたくなってしまった」
顧「男ってのはそういう所があるね」

朱富…焼饅頭セットは付け合わせの漬物の仕込みも同じくらい大変。
顧大嫂…こだわるとめんどくさいんだ男ってのは。

14.
朱貴「水を汲みすぎてしまった」
陳麗「私が」
朱「…」
陳「行きますよ、あなた」
朱「もうひと樽あるのだが」
陳「私が」
朱「…」
陳「どうしました?」
朱「私でも持てない樽をニ樽も容易く持てるのか?」
陳「血を分けてくださった方のおかげです」
朱「それは誰なんだ?」
陳「黙秘事項です!」

川中「…」
坂井「どうしたんですか、社長?」
川「朱貴の、神崎の饅頭が食いたくなってな」
ドク「男にわざわざ作るほど甲斐性はない」
川「お前のじゃない。神崎のだ」
秋山「安見も美味いのを作るようになった」
川「安見か」
叶「御相伴に預かりたいね」
秋「美味かったろう、藤木?」
藤木「…」

朱「あの世界の連中は元気かな」
陳「間違いなく元気ですよ」
朱「お前も元気一杯だものな!」
陳「はい!」
焦挺「陳麗殿!?」
朱「焦挺か」
焦「この樽は…」
陳「水ですが?」
焦「俺でもひと樽持てるくらいの量です」
陳「持てないんですか?」
焦「!?」
朱「言われてるぞ、焦挺」
焦「モテます!」

朱貴…腰を痛めた時陳麗にお姫様抱っこしてもらった時、不覚にもときめいてしまった。
陳麗…上腕二頭筋の逞しさを着物で隠している。
焦挺…重い!

川中…坂井もドクに習ってこい。
藤木…生きてて良かったです。
坂井…藤木さん、食べたんですか?
秋山…パパは味が分からないって一個しか食べさせてくれないんだ。
…俺は酸いも甘いも噛みしめたが?
ドク…智子も中々美味いのを作るぞ。

郵便屋さん

郵便屋さん…神行法を使うと気分はいいけどハラペコになって大変。

人物
戴宗(たいそう)…酒を飲むのを前提で神行法を使うようになってしまった。
張横(ちょうおう)…船の漕ぎ手も神行法があればいいのにな。
王定六(おうていろく)…一般人最速の男として取材を受けた。

15.
王定六「嫌だ!」
戴宗「逃げるな!王定六!」
張横「また脾臓をしつこく突き続けてやろうか!」
王「神行法は使わねえって言ってるだろうが!」
戴「そうはいかん」
張「お前が使えんことには今月のノルマが達成できないから観念するんだ!」
王「くそっ、酒も生臭も置いてやがらねえ」
戴「当然だ」

王「ドーピングに抵触しちまうじゃねえか」
戴「謀反人の俺らは宋国五輪に参加できんから構わんだろう」
張「むしろドーピングしている方が叛徒らしいではないか」
王「俺は走る時はフェアプレーを大切にしているんだ!」
戴「神行法のルールにフェアであればいいだろう」
張「貼るぞ」
王「くそっ!」

王「この下腹部の浮遊感が好きになれねえ」
戴「風を纏ってるんだから、当然だろう」
張「文句が多すぎるぞ、王定六」
王「もうとっとと走るから仕事を言え」
戴「金から江南に西夏までくまなく走るんだぞ」
王「狭い中華を活閃婆が駆け抜けてやる」
張「いい心がけだ」
王「あばよ!」
戴「さすがだ」

王定六…すらっとした足に見えるが強靭すぎるふくらはぎとハムストリング。
戴宗…俺は遼と西京か。
張横…私は父上と会いに二仙山へ。

間者

間者…個人個人が様々な忍びの技を持っている。

人物
時遷(じせん)…女装して開封府をウロウロしていたら、ミスコンにスカウトされた。
石勇(せきゆう)…意外と身長があるから、隠れるのは結構大変。
侯健(こうけん)…侯真のかくれんぼが異次元でいつも卒倒。
孫新(そんしん)…顧大嫂と会いたくて仕方がないが…
顧大嫂(こだいそう)…孫新のストレスが心配。
張青(ちょうせい)…モブ役で開封府の恋愛映画に出演した。
孫二娘(そんじじょう)…饅頭の製造過程について黙秘を貫いた。

16.
時遷「…」
石勇「…頭領」
時「今回の役は?」
石「齢、十代後半。開封府の上級役人の二番目の娘。両親から小遣いを多く渡されており、開封府遊戯場で豪遊しがち。豹子頭と入雲竜の掛け算は絶対に、入雲竜✖️豹子頭」
時「練習はするがな…」
石「はい」
時「一体どういう任務なのだ?」
石「さあ…」

時「石小公女!」
石「ごめん!次の祭典の掛け算を考えてたら遅れちゃった!」
時「どんな掛け算?」
石「鉄扇子✖️及時雨」
時「マイナー掛けにもほどがあるわ」
石「鉄扇子から届いた一通の手紙が及時雨を濡らすの…」
時「それは、いいわね」
石「でしょう?」

侯真「師匠は何を?」
侯健「さあな」

時「…立ち回りを研究するために、プリクラを撮ろう」
石「いいですな」
時「…お前、その身長でよくその衣装を選んだな」
石「通臂猿の特注なんですがね」
時「何だその膝下は」
石「頭領!カウントダウンが!」
時「いかん!」
石「狭いです。頭領!」
時「かがめ、石小公女」

真「股関節外せば?」

時遷…何だそのデコレーションは、石小公女。
石勇…たまにはいいじゃないですか、こういうのも。
侯健…肩関節だけは外せる。パンチのリーチは梁山泊一番。
侯真…たまにありえない体勢でプリクラに混じってびっくりさせるイタズラをするらしい。

17.
張青「寺の菜園番ほどつまらねえ仕事はねえな」
孫二娘「こちとらあんたと食う飯ほどつまらない飯はないよ」
張「饅頭」
孫「あいよ」
張「…」
孫「…」
張「毛が入ってんぞ」
孫「あんたの下の毛だろ」
張「上品な女房だぜ、全く」
孫「ならいいじゃないのさ」
張「どうだか」
孫「親父にチクるよ」

魯智深「相変わらず仲がいいな」
張「よう」
孫「願い下げさ」
魯「何か食わせてくれ」
孫「饅頭なら」
魯「いただこう」
張「坊主が肉食っていいのか?」
孫「酒飲んでる時点でお察しさ」
魯「毛が入っているぞ、孫二娘」
孫「あんたのだろう?」
魯「この頭のどこに毛があるか教えてくれ」
孫「…」

魯「なんの肉だ、孫二娘」
張「二本足のあれじゃねえだろうな」
孫「おかしいね…」
魯「調理場を精査させてもらう」
孫「それはダメだ、魯智深」
魯「食わせるなら張青だけにしろ」
張「酷えや」
孫「魯智深と言えどダメなもんはダメだ」
魯「ならばこの饅頭毛は?」
孫「言い方が嫌だね」
張「嫌だ」

張青…結局なんの肉なんだよ。
孫二娘…口が裂けても言わないよ。
魯智深…饅頭の毛が頭頂に移植されたのに気づかなかった。

18.
顧大嫂「段三娘?」
孫二娘「王慶ってヘタレの嫁があんたにそっくりなんだってさ!」
扈三娘「この人相書きを見てください」
顧「おやまあ」
孫「あんたも料理と人殺しが特技だなんて言ったらしょっ引かれるね」
扈「気をつけましょう」
顧「私をそんな外道だと思ってるのかい」
孫「そうじゃないが」

顧「王慶って旦那もゲス野郎なんだろう?」
孫「そうらしいね」
顧「その点うちの旦那は問題ない」
孫新「恐縮」
二「あんたほどの女がねぇ…」
扈「悪いとは言いませんが」
新「随分評価が低いぜ、お前」
顧「あれをやろう、孫新」
新「外道には吹けん笛を拭いてやる」
二「お願いしようじゃないか」

新「♪〜竹笛〜♪」
二「ほう」
扈「馬麟殿に劣らぬ音色…」
顧「どうだ」
二「悪くないね」
扈「!」
顧「どうした、扈三娘」
扈「落とし物をしました…」
新「状況は?」
扈「確か…」
新「ならば十中八九そこに落としたな」
二「いい推理するね、孫新」
新「当然だ」
顧「さすが!」
新「叩くな!」

顧大嫂…照れ隠しと弾みだよ、孫新。
孫二娘…うちの亭主なら死んでるね。
扈三娘…平気なんですか、孫新殿。
孫新…背の皮が随分厚くなったもんでな。

19.
孫新「義姉上」
楽大娘子「私を義姉と呼ぶなと言ったはずだが?」
孫「…ならばなんと呼べばよろしいので?」
楽「呼ぶな、孫新」
孫「お義姉様の不調法の後始末が大変だったもので、つい」
楽「聞き捨てならんぞ、孫新」
孫「呼び方ですか?」
楽「孫立に言って貴様を叩きのめしてやろうか」
孫「…」

孫「先日の酒場の件」
楽「…」
孫「お義姉様と名刺を交換した者の所属を調べた所…」
楽「貴様、いつの間に!」
孫「もれなく青蓮寺の手の者でした」
楽「その者から情報を得るのです」
孫「全員致死軍に頼んで処断しました」
楽「なんということを!」
孫「我らの拠点がまた一つ使えなくなりました」

楽「拠点などどうにでもなります」
孫「ならなくなったから、私も参っているのですよ」
楽「こんな時こそ梁山泊に頼めば良いのでは?」
孫「我々の不始末を補ってくれるほど優しい場所ではありませんよ」
楽「…」
孫「…もう兄貴の所に帰ってください、義姉上」
楽「…」
孫「身がもたねえんですよ」

孫新…顧大嫂に会う約束を何回潰されたことか…
楽大娘子…志なんてものに大切なものをどれだけ奪われたことか…

20.
石勇「頭領…」
時遷「観念しろ、石勇」
石「俺の配役は?」
時「食堂のおかみ。開封府の胃袋を支えて20年の大御所。得意料理は焼饅頭と肉煮込み麺」
石「俺よりも相応しい奴がいそうですが」
時「タイミングだ」
石「料理なんてしたことない…」
時「間者の仕事だ」
公孫勝「…」
石「公孫勝殿も?」

石「朱貴の修行があんなに厳しかったとは」
公「…」
石「開封府に潜入ですよ、公孫勝殿」
公「分かっている」

石「なぜ繁盛しているのだろう…」
時「早く入れ石勇」
石「頭領はホール担当ですか?」
公「…」
石「ところで公孫勝殿は?」
公「いらっしゃいませ!」
石「!?」
時「早く調理に入れ!」

石(頭領たちに気を配る隙もないが)
公「いらっしゃいませ!」
時「三名さま奥の卓にどうぞ!」
石(とりあえず店は回っているな)
公「いらっしゃいませ!」
時「ありがとうございました〜」
石(いらっしゃいませしか言ってないな、公孫勝殿)
公「いらっしゃいませ!」

侯健「行くか、真?」
侯真「嫌」

石勇…俺の仕事で何が分かったのだろう…
時遷…若作りが生きる楽しみになってきた。
公孫勝…いらっしゃいませと言っているところを劉唐に見られた。
侯健…美味そうだぞ?
侯真…毛が入ってたって客が愚痴ってました。

桃花山

桃花山…梁山泊最弱の山とか言わないでくれよ。

21.
周通「小覇王周通とは俺のことだ!」
李忠「大きく出たな」
周「小さいがついてるだろう、兄貴!」
李「小さくても項羽なんだろう?」
周「心意気よ!」
李「しかし虞美人も騅もいないじゃないか」
周「いつか必ず手に入れる!」
李「お前の弱さじゃすぐ四面楚歌だぞ」
周「兄貴に言われたくねえな…」

李「孫策も小覇王だぞ」
周「悪くねえ」
李「お前が孫策?」
周「小小覇王にしろってのかよ」
李「大喬もいないお前では…」
周「じゃあなんて名乗ればいいんだよ、俺は!」
李「少なくとも項羽ではない」
周「じゃあ劉邦か!」
李「もっとない」
周「そういう兄貴だって、本当に虎を倒したのかよ?」

李「本当だぞ」
周「あんたの打虎将は経歴詐称か?」
李「何を言うか」
周「俺は身の程知らずかもしれないが、嘘はついてねえぞ」
李「身の潔白を証明しよう」
周「この山に出る虎を退治してくれ」
李「いいだろう」
周「どうやる」
李「虎退治のために近隣の猟師に協力を依頼する」
周「そういう?」

周通…虞美人とも見間違える、済仁美に出会った。
李忠…近隣の猟師を動員して巧みに虎退治する様は打虎将と言っても差し支えない、か?

石梯山

石梯山…魯達三兄弟と鄒淵のアジト。やたらおいしい匂いがする。

22.
鄒淵「遊撃隊が変態の巣窟になって久しいんだ」
魯達「そうなのか?」
鄒「俺たちは史進に穢されたのだ」
魯「すると史進を穢した俺が事の発端ということか、鄒淵」
鄒「なんだって!」
魯「もともと史家村の保正で良かったところを無理やり少華山の頭領にしたのはこの俺だ」
鄒「本当か」
魯「ああ」

鄒「その頃から史進は脱ぎ始めたのか?」
魯「いや。俺が坊主だった頃から裸で村々を練り歩いていた」
鄒「なんだ。魯達殿の影響ではないのか」
魯「竜を彫る時もよく脱いでいた」
鄒「いらんところも脱いでいただろ?」
魯「史進の裸を見ない日はなかった」
鄒「史進が魯達殿を穢しにかかっているな」

魯「捕まった兎獲りが屋敷にしょっ引かれた事があってな」
鄒「裸だったんだな?」
魯「まあな」
鄒「裸で兎獲りを諭し始めたんだろ?」
魯「見事な考察力だ、鄒淵」
鄒「そんだけ穢されちまったのさ史進に」
魯「だが好きなんだろう?」
鄒「無論」
魯「お前も脱いでるな」
鄒「脱いだ内に入らん」

鄒淵…格好を見て李逵が赤面して逃げてった。
魯達…だいぶ露出度が高い着物だな、鄒淵。

北の大地

北の大地…蔡豹が初めて蔡福を見た時の顔が忘れらないようで…

23.
蔡慶「豹が可愛らしくてたまらん、兄貴」
蔡福「ほう」
慶「真婉。兄貴に豹を抱かせてくれ」
蔡豹「!」
真婉「嫌」
福「今、この世の憎悪を顔面に凝縮したような顔をされたのだが」
慶「ブレーメン反応だろ?」
福「俺に対する悪意は大差ないではないか」
慶「豹〜兄貴だぞ〜」
豹「!」
福「唾を!」

福「おのれ…」
慶「くしゃみだからしょうがないだろう、兄貴」
福「随分なくしゃみだ」
豹「…」
福「…青蓮寺の手の者でもしないような凶悪な目だ」
慶「俺の倅になんで言い草だ」
真「失せろ…デブ」
福「何というアウェイの洗礼だ」
慶「兄貴は口汚いがいい男だぞ?」
福「フォローのつもりか?」

阿骨打「賑やかな家だな、蔡慶」
慶「おう、阿骨打」
阿「倅か?」
慶「抱いてみるか」
阿「よしきた」
豹「♪!」
阿「おう、いい顔だ。蔡豹」
福「…」
阿「いたのか蔡福」
福「俺を羊肉の脂肪だと思ってないか、貴様」
阿「www」
福「くだらん」
阿「お前も抱け、蔡福」
豹「!!」
福「この面…」

蔡慶…真婉と蔡豹の裏の顔に全く気付いていない。
真婉…蔡福が帰った後は全力でファブリーズをかけている。
蔡豹…赤子でも蔡福は生理的に無理。

蔡福…アウェイの洗礼が吹き止まない弟の家に関して阿骨打に相談に乗ってもらった。
阿骨打…真婉と蔡豹の顔の変貌ぶりが不気味だった。

楊令伝

洞宮山

洞宮山…四人の魔女と不憫な男どもが窮屈に暮らしている山。

24.
孫二娘「それにしても物騒な面子だね」
顧大嫂「あんたが一番物騒だよ」
扈三娘「甲乙つけ難いです」
孫「お前だって物騒じゃないか、扈三娘」
扈「失礼な」
顧「誰が一番物騒か決めてもらおうじゃないか」
白勝「いかん。急患が」
杜興「いかん。仕事が」
馬麟「!」
白寿「義足を忘れないで、馬麟」

馬「…」
孫「誰が一番物騒だと思う、馬麟?」
馬「…各々の物騒な経験談に基づいて判断したい」
顧「あんたは饅頭の肉の話だね」
孫「やかましい!旦那を張り倒して三日死線をさまよわせた女が!」
寿「密会現場に来た時の扈三娘は物騒だったわよ」
扈「あなたも相当な胆力だったよ、白寿」
馬「…」

馬「物騒ではないな」
孫「ほう」
馬「豪胆でいいんじゃないか?」
扈「さすが馬麟殿」
馬「夜勤の兵の所に行くから義足を返してくれ」
寿「どうぞ」
馬「…」
顧「それじゃ誰が一番豪胆なんだい、馬麟?」
馬「祖永だ」
祖永「勘定を払わない不届者を捕らえました」
杜「…」
勝「…」
孫「さすがだ」

孫二娘…おう。不届者が二匹か。
顧大嫂…今日の支払いは頼んだぞ、お前ら。
扈三娘…李家荘の執事が吝嗇でよろしいので?
白寿…急患なんていないじゃない。

馬麟…駆けぬけろ、祖永。
祖永…隊長の勘定は払ったんですよね?

白勝…食う前に逃げないとダメだったな…
杜興…また寿命が縮んだ。


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今号も、お読みいただき、誠にありがとうございました!

これからもすいこばなしを、どうぞよろしくお願いします!


中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!