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水滸噺 20年5月【嗚呼遊撃隊】

あらすじ
時に声出さず 嵐行かず
令や令や   汝を笑わせん
時に裸あらず 雲行かず
史や史や   汝を如何せん

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝,楊令伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。
・今回はネタバレすいこばなしをご用意しました。

それでは行ってみましょう! 

梁山泊

梁山泊…初夏で木々の緑が映える。色とりどりの具足をつけた騎馬隊の色合いでなお映える。すっ裸は葉っぱ一枚あればいい。

騎馬隊&致死軍

騎馬隊&致死軍…合同調練の後、一点倒立を披露した林冲。その方法とは?

騎馬隊

人物
林冲(りんちゅう)…頭倒立した後は、賢くなった気がする。
索超(さくちょう)…いったい何を見せつけられているのだ。
扈三娘(こさんじょう)…よほど頭に血が回ってないのでしょうね…
馬麟(ばりん)…ちょっとやってみたくなった。
郁保四(いくほうし)…逆立ちの受け身に失敗した時、地響きがした。

致死軍&飛竜軍

人物
公孫勝(こうそんしょう)…林冲の成長に不覚にも目を見張ってしまった。
劉唐(りゅうとう)…林冲殿まで会得されたぞ…
楊雄(ようゆう)…なんだこの二本の石柱は?
孔亮(こうりょう)…梁山泊が誇る二代巨頭だろう?
樊瑞(はんずい)…俺ではとても三本目は務まらん…
鄧飛(とうひ)…魯智深片腕クッキングしている様を想像して舌なめずり。やめろって。
王英(おうえい)…扈三娘がいても話しかけるにかけられない。
楊林(ようりん)…王英の失敗談が酒場や妓楼の女の子たちにウケまくる漁夫の利。

1.
林冲「貴様の頭倒立のカラクリが分かった」
公孫勝「ほう」

索超(いきなりなにを)
劉唐(だが少し気になる)

林「まずは三点倒立から始めたな」
公「…」
林「できるようになるにつれ、頭のみに移行するわけだが…」
公「…」
林「まずは壁頭倒立だな、ウスノロ」

索(決め台詞みたいに言わなくても…)

公「正しい」

劉(そこまでは俺たちでも分かったぞ)

林「だが、壁一点倒立では頭打ちになる」
公「…」

劉(上手いこと言ったつもりなのか、索超?)
扈三娘(素です。劉唐殿)
索(扈三娘!)

林「そこで俺は推理した…」
公「聞こう」
林「床に穴を掘ったな、ウスノロ」
公「…」

索(どういうことだ?)

林「地下牢の床は土。石畳では頭が痛すぎる」
公「…」
林「だが土ならできる。素手で穴を掘る程度のこともできる」
公「…」
林「お前は壁頭倒立から脱却すべく、地下牢の床に穴を掘った」
公「…」
林「お前の頭の大きさのな!」
公「…」

劉(嘘ですよね、公孫勝殿)
扈(駝鳥でもないのに…)
索(…)

林冲…何を隠そう、俺もそのようにして会得したからな!
公孫勝…頭倒立してる樊瑞に八つ当たりした。

索超…理解が衝撃に追いつかない。
扈三娘…張藍が練習中の林冲殿の様子をブログにアップしてます。
劉唐…土だからできたとは、盲点だった。

遊撃隊

遊撃隊…作者の恥部の依代。どうしてこんなネタを思いついたのか、いつも頭をひねっている。

人物
史進(ししん)…やつがこの世界に来たら?俺が真っ先に頭を叩き毀してくれる。
杜興(とこう)…わしも思いつく限りの罵詈雑言を浴びせても、もの足りんわい。
陳達(ちんたつ)…史進と同じ山で同じ隊だったばかりに、なんというとばっちりだ…
施恩(しおん)…武松に史進の悩み相談に乗ってもらった。
穆春(ぼくしゅん)…李逵に史進の悩み相談に乗ってもらった。
鄒淵(すうえん)…俺を遊撃隊に配属したのはどいつだ!

2.
陳達「おや、史進?」
史進「どうした、陳達」
陳「なぜ今日は着物を着ているのだ?」
史「…逆になぜ日常で着物を脱がなければならぬのだ?」
鄒淵「おい、史進!なんで着物を着てるんだよ!」
史「貴様ら、俺の着物をなんだと思っている」
陳「恥の上塗り」
鄒「急ごしらえのメッキだな」
史「野郎」

杜興「おや、史進が着物を着ているとは、世も末だな」
陳「道理で宋の反乱のために梁山泊が結成された訳だ」
鄒「違いない…」
史「…そんなにおかしいのか?」
陳「おかしい」
鄒「俺たちの史進は着物など着ない!」
杜「これ以上わしらの常識から外れんでくれ、史進」
史「何がどうなってやがる…」

史「貴様ら、俺を腐刑にしようと企てているのではあるまいな」
杜「何を言っている、史進」
陳「着物を着ているお前は実質宦官だ」
鄒「恥を知れ!」
史「俺は着物を着ていると恥なのか?」
陳「俺たちからすれば、着ているお前の方が許せん」
鄒「とっとと脱げ」
史「ならば…」
杜「前言を撤回する」

史進…いじめか?
陳達…脱いだら脱いだでやっぱり見たくねえもんだな。
鄒淵…史進の最適解を皆で見つけよう。
杜興…半裸も違うの。

3.
裴宣「これより、史進の着物に関する裁判を行う」

史進「…」

杜興「…」
陳達「…」
鄒淵「…」

呉用「また昼間から調練もしないで何をしているのだ、遊撃隊は」
柴進「面白そうだからいいではないか」

裴「九紋竜!」

史「俺は着物を着ても脱いでも被告人から非難を浴びた事で穢れてしまった」

史「この穢れを拭うためにも、この被告人どもから謝罪と賠償に加え、済州の糞尿処理をさせることを要求する」

裴「鬼臉児!」

杜「わしらは常日頃、史進による破廉恥で度重なる風評被害をあちらこちらで受けた経緯がございます。その点を鑑みて、公平なる裁きをお願いしたい」

呉「どうする、裴宣」

裴「両者の言い分はよく分かった」

史「…」

杜「…」

裴「史進が受けた理不尽な扱いも、杜興たちが受けた理不尽な風評被害も、双方が被害者であり加害者である」

呉「…」

裴「したがって、遊撃隊隊長及び将校両者の言い分を加味し、遊撃隊はお揃いの着物を身に纏うこととする!」

柴「天晴れ」

史進…ならば隊長権限でデザインを一任してもらうぞ。
杜興…侯健に頼まんか!
陳達…ろくな着物にならんのが目に見えている!
鄒淵…控訴するぞ!史進!

裴宣…こんな事で呼ばれるとは…

呉用…梁山泊法規の判例集に加えておこう。
柴進…この前例を使う日が来るとお思いか、呉用殿?

4.
陳達「まさか史進が裴宣の力を借りてくるとは…」
杜興「あのバカが真っ当な司法手続きを踏んでわしらに挑んでくるとは夢にも思わんかった…」
鄒淵「あいつはバカをする時ほど頭と知恵を使うからな」
杜「それは賢いのか?バカなのか?」
陳「俺らでは手に負えんことには間違いない」
杜「そうだの」

史進「出来たぞ!」
杜「ついにこの日が来てしまったか…」
陳「俺たちが侯健に依頼する間も無く、すでに鄆城の仕立て屋に話を通していたとは…」
鄒「伊達に赤騎兵を率いてない」
史「裴宣の判決だからな」
杜「まさか尻が半分出ている意匠ではあるまいな、史進」
史「よく分かったな、爺」
杜「…」

陳「どうやって着るんだよ、これは」
史「蕭譲監修のマニュアルも付けてある」
鄒「どこまで抜かりがねえんだ」
杜「誂えたみたいにぴったり入る自分が嫌になる」
史「お前らの寸法も既に石勇の部下から仕入れているぞ」
陳「俺たちにプライバシーはないのか」
史「これで文句はあるまい!」
鄒「…」

史進…判決は五分でも、その後は完全勝利。
杜興…李応殿にどんな顔をされるやら…
陳達…呼延灼殿の衣装と同じくらい恥ずかしい…
鄒淵…センスってもんがねえのか、史進!

5.
史進「…」

陳達「どうした爺」
杜興「厠はないか…」
鄒淵「すっかり老いぼれたな」
杜「でかい方ではない」
陳「しかしこんな所に厠など…」
鄒「あるぞ」
杜「どこに?」
鄒「これだ!」
陳「なんだこりゃ?」
杜「竜の彫り物の筒?」
鄒「題して」

史「…」

鄒「苦悶竜尿瓶」
杜「貸してくれ」

史進…まず貴様らの頭から叩き毀してやろう。

杜興…だから止めろと言うたろうが!
陳達…やるんじゃなかった!
鄒淵…深夜テンションで商品開発なんてするもんじゃねえな!

二竜山 

二竜山…本隊に行く準備段階の兵を育てる場所だが、隊長たちの芸も二流かもしれない…

人物
楊志(ようし)…鳩の手品を披露しようとした時、逆襲にあってえらい事になった。
秦明(しんめい)…青州軍の戦は過酷なものが多かったから、溜まるものもあったそうで…
解珍(かいちん)…最近自慢のたれを振舞っても、それほど食いつきがよくなくなってきたのが不満。
郝思文(かくしぶん)…雄州軍の戦ですか?関勝殿の思い付きやノリが妙にはまるのが多くて驚きましたよ…
石秀(せきしゅう)…曹正以外に悪口を言っている姿を見たことがないとか。曹正に悪意を凝縮しているのか?
周通(しゅうとう)…すべり芸に定評あり。
曹正(そうせい)…ふしぎなおどりをおどった!
蔣敬(しょうけい)…何てものを見せつけられているのですか、私は。
李立(りりつ)…もう少し笑いの沸点を上げたほうがいいよな。
黄信(こうしん)…孔亮曰く、喪門剣の長さは帯に短くたすきに長い。
燕順(えんじゅん)…青州軍との八百長戦は八百長でも気を抜けなかったぜ。
鄭天寿(ていてんじゅ)…王英のやらかした女の子のアフターケアをするだけでモテる漁夫の利。
郭盛(かくせい)…楊令がしゃべらなくても、無理やりしゃべらそうとしたことは一度もない。言葉じゃないもので分かりあえた。
楊春(ようしゅん)…少華山時代、あらゆる木々にぶら下がってるしわくちゃになった史進の着物を見て、季節の変わり目を確かめていた。
鄒潤(すうじゅん)…郝嬌に誕生日プレゼントで手作りのこぶを後頭部につけてもらった。
龔旺(きょうおう)…張清の礫キャッチボールは大変だった。ノーサインでスライダーはやめてくれ。

6.
楊志「令!大変だ!」
楊令「何事ですか!父上!」
志「私の親指が!」
令「!」
志「ここまで伸びた!」
令「父上の親指を取り戻さないと!」
志「取り戻してくれ、令!」
令「代わりに曹正殿の親指を斬り落として参ります!」
志「…令?」
令「これは戦です、父上!」

石秀「…」
済仁美「石秀殿」

楊志…楊令の発言に、背にじわりと汗をかいた。
楊令…刃物を持ち出そうとしたところを済仁美に見つかり、背にじわりと汗をかいた。

石秀…計画通りだったが済仁美の気に打たれ、背にじわりと汗をかいた。

済仁美…二竜山は令より子どもばかりで困ります…

7.
楊令「…」
白嵐「…」

楊志「令がまた言葉を失ってしまった」
済仁美「少しキツく叱りすぎました」
石秀「…」
曹正「てめえまで言葉失ってんじゃねえ、馬鹿野郎」
周通「それで、なにしようってんですかい?」
志「誰が令をもう一度笑わせることが出来るか競おう」
蔣敬「白嵐は?」
志「令の盾だ」

令「…」
白「…」

曹「」

志「曹正の踊りは駄目だったか…」
済「あなたが大喜びしてもしかたないでしょう」
周(骸になった…)
蔣(やはり強いな、白嵐)
志「ならば私が行こう」
周「大丈夫ですか?」
志「秘策がある」
済「…旦那様」
志「仁美?」
済「もう首が回る芸は見飽きたと令が」
志「!」

済「周通殿はどうでしょう?」
周「俺!?」
済「もし令の笑顔を取り戻したら…」
周「俺を見ておいてください。あなたの目に、刻み付けておいてください。済仁美殿」
志「…」
蔣(不穏な)
周「!?」
志「どうした、周通?」
蔣「さっきの曹正の踊りのオイルが…」
周「痛え…」
令「www」
志「笑った…」

楊志…楊令のため新しい芸を模索中だが、いかんせんぶきっちょ。
石秀…オイルではない…脂だ。
曹正…彼の踊りは楊志にはウケたが、白嵐に噛み殺される結末。
蔣敬…計算外ですな。

済仁美…1日デートしてあげた。
楊令…面白かったです、周通殿。
白嵐…男になったな、周通。
周通…夢のような1日。

双頭山 

双頭山…ちょくちょくライブで山を留守にするけど、官軍が攻めることは厳しく禁じられているらしい。

人物
朱仝(しゅどう)…剣が強くなったのは、伸びに伸びた髭を一本たりとも斬り落とさない修行を積み重ねた成果らしい。
雷横(らいおう)…麓の居酒屋の柏世くんが日に日に頼もしくなっているのが嬉しい。
董平(とうへい)…ファンレターに混ざった、程太守の娘の呪詛を見分ける名手。
宋清(そうせい)…ライブ会場では音響や会場セットに物販まで担当している敏腕ぶり。兵站もある中で過労死しないか?
孟康(もうこう)…塩の道に奔走中。蔡慶と仲良し。蔡福はちょっと…
李忠(りちゅう)…鉄の片足のおかげで棒の打撃が重くなったとか。
孫立(そんりつ)…ギロを練習してバンドメンバー入りを画策中。もう留守番は嫌だ!
鮑旭(ほうきょく)…馬麟の鉄笛と阿吽のギター。世界観はバグってなんぼ。
単廷珪(たんていけい)…ライブ会場の水の仕掛けでマナーの悪い客を追い払った。 
楽和(がくわ)…なんだかんだで一番人気。北京の活動は闇に葬られていた。

8.
董平「今度のライブは不穏な匂いがするだと?」
宋清「先方の目が嫌だった」
楽和「場所はどこですか?」
宋「北京だ」
楽「…姉さんの匂いがする」
鮑旭「我らは開封府での活動許可は出ているのですよね?」
馬麟「燕青の腕輪のおかげでな」
董「ならば青蓮寺の匂いではないな」
楽「やはり姉さん…」

董「準備はいいな、皆」
楽「…孫新からの密書が」
鮑「どれどれ」
馬「案の定か、楽和」
董「ならばいっそ派手にしてやろうか!」
宋「退路も万全と」
楽「孫新もやるようになった」
董「行くぞ!」

楽「〜♪〜」
敵「!」
楽「〜♪〜」
敵「!?」

孫新「唄いながら闘うとは」
楽大娘子「おのれ…」

董「!!」
敵「!?」

孫「ドラムスティックが槍のようだ」

馬「♪〜鉄笛〜♪」
鮑「♪〜!!〜♪」
敵「!?」
敵「!?」

孫「音楽と武芸のコラボ…」
娘「和〜きゅん、かっこいい」
孫「最後の仕事は…」

董「あばよ!」
鮑「退路は?」
孫「♪〜笛〜♪」
馬「♪〜鉄笛〜♪」
楽「ありがとう、孫新」

董平…俺たちの戦は宋清や孫新のお陰でできてるようなもんだな。
宋清…分かったならもっと面倒みてくれよ。
鮑旭…ギターと体術のコラボ。
馬麟…鉄笛を吹きながら舞うような足技。
楽和…唄いながら優雅に棒を使って見せた。
孫新…少しだけ嬉しかった。

楽大娘子…楽和の成長が嬉しかった、けど…

聚義庁

聚義庁…戦直前の会議室のキンキンに緊迫した気は並の者では入れない。

人物
晁蓋(ちょうがい)…戦前の呉用は私も苦手だ。自分で兵糧庫を攻め落とした方がまだましだ。
宋江(そうこう)…戦前の呉用を相手にするならば、最前線で敵と戦った方がまだましだ。
盧俊義(ろしゅんぎ)…戦前と戦後の呉用の仕事は高く評価しているが、戦中の呉用は嫌いだ。
呉用(ごよう)…自分の想定から明後日の方角に向かう頭領どもや大将たちにいつも頭を抱えている。
柴進(さいしん)…梁山泊の兵站総括をしているけど、こいつワンチャン帝だったからね?
阮小五(げんしょうご)…キレキレ呉用の元で研鑽を積んだ実戦軍師。可能性の宝庫。
宣賛(せんさん)…キレキレ呉用にムッとすることもしばしば。その時はこっそり覆面越しにアカンベェしてる。 

9.
朱武「…」
呉用「…」
朱「呉用殿ならば、この馬麟をどう動かしますか?」
呉「そうだな…」
朱「…手堅い、ですな」
呉「…朱武ならどうする?」
朱「私なら…」
呉「…無謀」
朱「…」
呉「…」
朱「…無謀、ですか」
呉「手堅い、か」
朱「…」
呉「…」
朱「悪くないですよ」
呉「お前の策もな」

朱「呉用殿の策も悪くない前提で申し上げますが」
呉「…」
朱「いささか勇気に欠ける配置なのでは?」
呉「私もお前の策を採用する前提で、ものを言うが」
朱「…」
呉「私の読んだ兵法書では、読んだことがない。無謀すぎる」
朱「戦は生き物です」
呉「その例えはやめてくれ、私には全く分からん」

朱「戦に想定は必要です」
呉「うむ」
朱「しかし、その想定通りに進まないのが戦」
呉「それは分かる」
朱「だから私は実戦で、自分の想定を全て捨てます」
呉「なぜそんなことを!」
朱「想定に囚われたら戦ができぬからです!」
林冲「おい、呉用殿」
呉「今馬麟の事で揉めてるから待て」
林「!?」

呉用…馬麟から届いた菓子折に小首を傾げながら深夜残業。
朱武…馬麟から届いた手拭いが使いやすくて助かる。

林冲…一体なにをした、お前?
馬麟…皆目見当がつかん…

10.
呉用「また無駄な買物をしたな、柴進」
柴進「何を?」
呉「また派手な着物を新調などして」
柴「通臂猿の特注さ」
呉「着物に金を使うならば、梁山泊の銭にしろ」
柴「私の金を自由に使ってなにが悪い」
呉「…私だって仕事が無ければ」
柴「何に使うのだ?」
呉「…何にとは?」
柴「金の使い道さ」

呉「金の使い道…」
柴「呉用殿の貯蓄は?」
呉「…これくらいある」
柴「私の別荘一軒は建てられるな」
呉「そんなにか!」
柴「それを何に使うのだ?」
呉「…書物?」
柴「私としては、呉用殿の書庫にある書物は全てデータ化してから処分して、兵糧庫に充てたいくらいだが」
呉「何を言う、柴進!」

柴「衣食住に使うのは?」
呉「着物は清潔ならばいい」
柴「…」
呉「食は朱富と顧大嫂の饅頭が食えたらいい」
柴「…」
呉「住まいは今のままで全く問題ないな」
柴「…皆の不満と一緒だな、呉用殿」
呉「そのこころは?」
柴「どちらも溜まる一方だ」
呉「うまいな」
柴「たまには吐き出せ、呉用殿」

呉用…全て終わったら、また私塾をやりたいな。
柴進…その時は私を講師で雇ってくれ。

三兄弟 

三兄弟…ご飯のお供は李逵ちゃん印の香料!

人物
魯達(ろたつ)…季節に応じて香料の分量も変わるな、李逵。
武松(ぶしょう)…そうなのか、兄者。
李逵(りき)…気づいてくれよ、兄貴。

11.
李逵「もしも覚えてる事をぜんぶ忘れたら?」
魯達「お前ならどうする?」
李「恐ろしいことになるぜ、大兄貴?」
魯「どういう意味で?」
李「俺たちはまた、食べれるきのこと食べられねえきのこを確かめるところから始めなくちゃならねえからな」
魯「たしかに」
武松「…」
李「この籠のきのこを」

李「食えねえ」
武「…」
李「食えねえ」
魯「記録しておけよ、武松」
李「これは食える」
武「…」
李「食えねえ」
魯「食えないきのこは鮮やかな色が多いな、李逵」
李「だから食いたくなるだろう?」
魯「そうだな」
李「でも食うと死ぬんだよ、大兄貴」
武「本当か」
李「忘れないでくれよ、兄貴」

武「すまない、李逵」
李「覚えてくれりゃいいよ、兄貴」
魯「確かに、お前たちがきのこで死んだなど洒落にならんな」
武「どこで覚えたのだ、李逵?」
李「なにを?」
武「きのこの見分け方を」
李「…」
武「…」
李「忘れちまったな…」
魯「きのこのせいか?」
李「そうかもしれねえ!」
武「…」

魯達…腹を痛めたきのこがあったな。
武松…俺も…
李逵…まあ兄貴たちならきのこくらいじゃ死なねえよな。

鄆城

鄆城…宋江一座の集った場所。ここから始まったイベント多数。

12.
施恩「武松殿!」
穆春「ご無沙汰です!」
武松「ああ」
李逵「よう、施恩、穆春」
施「街で会うとは奇遇ですな」
武「次の旅の準備さ」
穆「俺たちもそんな所です」
李「久しぶりだから飯でも食わねえか、お前ら?」
施「喜んで!」
穆「稽古をお願いしたい所です」
武「また今度な」
李「行くぞ!」

李「武松の兄貴の前だと行儀がいいな、穆春」
穆「なんだと!」
施「あながち否定はできんだろう」
武「…随分と荷物が増えたな」
李「ちょっと厠に行ってくら」
穆「俺も」
施「長旅をするには欠かせませんからね…」
蒋忠「その荷物をどかせ!てめえら!」
施「なんだ!」
蒋「蒋門神様のお通りだ」

武「…」
蒋「気に入らねえ目をしてるな、でけえの」
武「…」
蒋「挨拶くらいしねえか!」
武「!!」
蒋「!?」
武「…これでいいか?」
施「…武松殿の足技」
武「玉環歩鴛鴦脚」
施「凄い…」
武「俺は理不尽ってやつが嫌いでね」
蒋「」
穆「武松殿?」
李「そのでけえのは?」
武「うどの大木さ」

武松…内緒にしろよ、施恩。
施恩…無論です、武松殿。
李逵…兄貴相手に死なずに済んでよかったな、でけえの。
穆春…蒋忠のデカさにちょっとびびった。

蒋忠…原典からこんにちは。身の程知らずの巨漢のならず者。蒋門神とあだ名される強さは所詮井の中の蛙だった。

東渓村

東渓村…晁蓋一座の集まった場所。保正時代の晁蓋はその頃からしょっちゅうやらかしていたらしい。

13.
晁蓋「やっと帰ってこれた」
呉用「お疲れ様です。晁蓋殿」
晁「まさか私だけ捕まりかけるとは…」
呉「阮小五から聞いていますよ」
晁「あいつめ…」
呉「晁蓋殿を置いて逃げたのですか?」
晁「そこまで薄情な奴ではないが、遠巻きに半笑いで覗いてたのが許せん…」
呉「なぜそうなったのですか?」

晁「兵糧庫を襲って離脱する時だ」
呉「本当は辞めてほしいのですが…」
晁「喧騒に紛れて、幼子が迷子になっていてな」
呉「はあ」
晁「思わず抱き抱え、馬で親を探していたのだが」
呉「…」
晁「親は見つけたはいいものの」
呉「…」
晁「人攫いに間違えられてな」
呉「なんとまあ…」
晁「参った」

呉「それでどうなったのですか?」
晁「役人に取り調べられてな」
呉「…兵糧庫の件は?」
晁「一言も聞かれなかった」
呉「ぬるい役人と軍で本当に良かったですな」
晁「ここまでかと思った瞬間」
阮小五「俺が助けたんですよ、呉用殿」
呉「…」
晁「もっと早く出てこい!」
阮「面白かったもんで」

晁蓋…まあその機転は認めてやるが、釈然とせん!
呉用…奪った兵糧は?
阮小五…万事計画通りです!

青州軍

青州軍…秦明の官軍時代。狼牙棒はめったな時にしか使わなかったんだけど…

14.
秦明「今回の賊徒は手強いな…」
孔亮「秦明殿、花栄殿から届け物が」
秦「おう、狼牙棒を頼んでいたのだ」
孔「そうなのですか?」
秦「どういうことだ?」
孔「ちょっと長い剣が届いたのですけど」
秦「…これは、喪門剣だな」
孔「なるほど、つまり…」

黄信「…」
孔明「振り回せます?黄信殿?」

秦「全くどこをどうすれば、剣と狼牙棒を間違えるのだ」
亮「宛名が俺の名前になってますな」
秦「なるほど。孔明と孔亮を間違えたのか」
亮「兄貴が秦明殿と一緒だと間違えたのでしょうね」
秦「なぜ私と黄信の名で送らんのだ」
亮「…」
秦「この大事な時に、花栄め」
亮(秦明殿が愚痴っぽくなった)

秦「愚痴を言っても仕方ない」
亮(さすが秦明殿)
秦「…それにしても中途半端な長さの剣だ」
亮(あれ?)
秦「黄信もこんな中途半端な剣を使っているから伸びきらんのではないのか…」
亮(剣のせいだよな?)
秦「行くぞ!孔亮!」
亮「…はい!」

孔明「敵陣を粉砕しましたな」
黄信「狼牙棒のお陰だ」

秦明…珍しく戦の最中、ずっとボソボソ愚痴を言っていた。
孔亮…喪門剣を黄信に返したら元通りになってほっとした。

黄信…ヤケになって狼牙棒を振るって突撃したら、意外とできた。
孔明…異様に頼もしい黄信にびっくり。

花栄…帰ってきた二人にこっぴどく叱られて、宴会代を全額負担させられた。

代州

代州…呼延灼の官軍時代。彭玘も薄々察していたが、知らんぷりするのが大人の嗜みだぞ。

15.
韓滔「なにを緊張しておる、呼延灼」
呼延灼「…どの面さげて会いに行けばいいのか分からん」
韓「そのみっともない面で会いに行けばいいではないか」
呼「なんだと」
韓「今みっともない面の理由の半分以上は、お前のだらしがないせいだぞ」
呼「…」
韓「だが、みっともない面でも見せぬよりましだ」

呼「会ってなんと言われるだろうか…」
韓「なにを言われても仕方がないのう、呼延灼」
呼「…」
韓「…行け、呼延灼」
呼「…」
韓「そのみっともない面を待っている者がいるのだ」
呼「…」
韓「みっともない面と姿を、思う存分見せてやれ」
呼「韓滔」
韓「おう」
呼「礼を言う」
韓「家族に言え」

呼延灼…娘も息子も大喜びして腰が抜けた。
韓滔…野暮なやつよのう…

戦場

戦場…梁山泊の土俵際…

16.
李逵「落ちねえのか、馬麟」
馬麟「落ちるものか」
李「…謝りてえんだけどよ」
馬「分かっている」
李「…」
馬「今は、それどころではないからな」
李「でも、おめえが落ちたら作らねえからな!」
馬「落ちないと言っているだろう」
李「どうだか」
馬「…お前も落ちるんじゃないぞ」
李「どこに?」

李逵…ここまで頑張ってるから、香料を少しだけ分けてやるよ…

馬麟…聴かせたかったな…

禁軍

禁軍…ある時は開封府の治安維持に奔走したり、またある時は思いもよらぬ調練に奔走したり…

人物
童貫(どうかん)…ネタ切れを何とかする調練を画策中。
趙安(ちょうあん)開封府の治安維持で大活躍したけれど?

17.
趙安「フレッシュマンがどうでも良くなっているだと!?」
公順「昨今の我々の活躍を鑑みると、そう思わざるを得ず…」
何信「読んでいただけたかな、皆!」
趙「そういうのはいい、何信」
何「…失礼しました」
公「だって最近の趙安殿…」
趙「…」
公「普通の軍袍着られてますよ?」
趙「しまった!」

公「新鮮組の頃はずっと羽織着られてましたし…」
趙「…今すぐ着替えてくる」
何「フレッシュマンとは何か、か」
公「我らの原点をお忘れになったとは言わせませんよ、何信殿」
何「…言うではないか、公順」
公「私は鬼のフレッシュですから」
趙「…待たせた」
公「…趙安殿」
趙「どうした、公順」

公「躊躇いが垣間見得ますよ?」
趙「!」
何「確かに着こなしが今一つですな…」
趙「…実はずっと箪笥の引き出しの奥の方に入れていたのだ」
公「趙安殿」
趙「…面目ない」
公「フレッシュマンを李明に譲られては?」
趙「そうはいかん!」
公「もう一度フレッシュマンを取り戻しますよ、趙安殿!」

趙安…公順め。やる様にも言う様にもなってきたか…
公順…鬼のフレッシュとして躍進中。
何信…親衛隊の指揮に支障がなくて一安心。

18.
李明「待ってください!馬万里殿!」
馬万里「童貞は濡れた着物だ!李明!」
李「…心の準備が」
馬「戦に心の準備をしている暇などないだろう!」
李「こんな所を、もしも将校の方に見られたら…」
馬「堂々としていろ!李明」
李「声が大きいですよ、馬万里殿」
馬「妓楼に行け!李明」
童貫「ほう」

李「元帥!?」
馬「!!」
童「…」
李「!」
馬「!」
童「表通りで直立しなくてもよい、馬万里、李明」
李(…どういうシチュエーションだよ)
馬(なぜ元帥が…)
童「この近隣の飯屋が贔屓でな」
李「…」
童「勇ましいな、馬万里」
馬「李明と調練に励もうかと…」
童「妓楼に行く調練か?」
馬「!」

童「妓楼に行く調練か…」
李(…笑いが)
馬(堪えろ、李明)
童「私にとっては戦が女のようなものだからな」
李「…」
童「せいぜい愉しめ、馬万里、李明」
馬「ならば元帥も一緒に…」
童「馬万里」
馬「!!!」
童「死の調練を始めるぞ」
馬「」
童「来い」
李「…」

李「…」

李「…行ってみるか」

童貫…かつてない怒りの気を発していた。
李明…こんなもんか…
馬万里…翌日は見てられなかった。

楊令伝

本隊

本隊…有望な将校もチラホラ出始めた。

19.
祖永「隊長はなんで義足なんですか?」
馬麟「…なんでだと思う?」
曾潤「戦ですよね」
馬「他になにがある」
祖「敵に突っ込んだんですか?」
馬「…童貫にな」
曾「すげえ…」
馬「ただの勢いさ」
祖「勢い、ですか」
馬「ああ」
曾「…今日は優しいですね、隊長」
馬「蹴飛ばしてやろうか?」
祖「謝れ!曾潤!」
馬「…冗談も分からんのか、お前ら」
曾(隊長のは全く分からん)
馬「今までのお前らは、よくやったからな」
祖「…隊長?」
馬「…」
祖「…冗談、ですか?」
馬「さあな」

馬麟…鉄笛でも吹くかな。
祖永…杜遷の甥っ子。遠目で異様に強そうな騎馬隊長を見ただけで足が凍り付いた思い出が。
曾潤…声がデカい。部下に武術を教えるのが上手。

二仙山

二仙山…北のどこかにある不思議な山。少しずつメンバーが増えてくるのは良い事なのか、悪いことなのか。

人物
羅真人(らしんじん)…いつの間にか梁山泊の連中が過半数を占めていることに気づき、背にじわりと汗をかいた。

20.
羅真人「二仙山立合場にようこそ」
班光「…」
公順「…」
徐史「…」
羅「始め!」
班「まずいいでしょうか?」
公「どうぞ」
班「我ら、全く同じ匂いがしませんか?」
徐「します!」
公「どこかに共通点がありますな」
班「折角なので、三人で一献傾けましょう」
徐「賛成!」
公「準備しましょう」

班「料理上手いですな、徐史殿」
徐「班光殿も手際がいいですね」
公「卓の準備はできました」
班「ピカピカですな、公順殿」
公「そこを褒められると嬉しいです」
徐「出来ました!」
公「…見事な」
班「またいいですか、皆さん」
公「どうぞ」
班「凄くストレスフリーじゃないですか、この空間?」

徐「班光殿!」
公「熱い抱擁を…」
徐「もう本当にそうなんです!」
班「飲みましょう、三人で」
公「乾杯!」
徐「うちの大将なんて、料理をやって貰って当たり前になっちまいまして…」
班「私の大将も滅茶苦茶でして」
公「苦労されてますな、フレッシュなお二人」
徐「聞いてください、公順殿!」

班光…珍しく前後不覚になるほど酔い潰れ、全裸哲学を熱弁して二人をドン引きさせてしまった。
公順…私の将は衣装以外におかしな所はない、はずです。
徐史…酔うと絡む傾向がある。でもなんだかんだで大将のことはめっちゃ大好き。

羅真人…できる女子会みたいな雰囲気になってるぞ、こいつら。


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これからもすいこばなしを、どうぞよろしくお願いします!

ネタバレすいこばなし

錦毛虎と青面獣

燕順「よう。楊令」
楊令「…燕順殿」
燕「…」
楊「私が、病にかかったせいで、鄭天寿殿が…」
燕「お前のせいじゃないさ」
楊「私が、無理をして、稽古に行かなければ」
燕「それがお前だろう、楊令」
楊「私が…」
燕「楊令」
楊「…」
燕「あいつは、良い男だったろう?」
楊「…はい。まるで兄のように目をかけてくださいました」
燕「…そういう奴さ」
楊「…」
燕「あとあいつ、顔もよかっただろう、楊令」
楊「顔?」
燕「あいつは女泣かせでな」
楊「そうなのですか?」
燕「…いかん。子どものお前に話すことではなかったな」
楊「聞かせてください!燕順殿!」
燕「お前が大人になったときには、いくらでも話してやるよ」
楊「…燕順殿は」
燕「なんだ?」
楊「大人になるってどういうことだと思いますか?」
燕「…大人、ねえ」
楊「…」
燕「俺はよっぽど、今のお前の方が大人だと思うことがあるけどな」
楊「…どういうことですか?」
燕「俺には学がねえ」
楊「…」
燕「知恵も大したことねえな」
楊「…」
燕「それに、林冲と稽古するほどの根性もねえよ」
楊「…」
燕「俺なら一回もしたかねえ」
楊「…」
燕「まあそれでもな」
楊「はい」
燕「やると決めた事は、なんとしてもやり通す」
楊「…」
燕「それだけは、王英と鄭天寿の三人で決めて、俺たち三人はやり通した」
楊「…」
燕「それだけは大人として、自慢できるかな、俺たちは」
楊「私もやると決めたことをやり通します」
燕「…背負いすぎるんじゃねえぞ、楊令」
楊「…どういう事ですか?」
燕「お前の背中が、俺たちには頼しすぎるんだよ」
楊「私はまだ子どもですよ?」
燕「…大人になった時のお前は、どうなっているのかな」
楊「分かりません…」
燕「そりゃそうだ。俺も、秦明殿も晁蓋殿や宋江殿だって分からないだろうさ」
楊「…」
燕「分からないってのは、もどかしいし怖いよな、楊令」
楊「はい…」
燕「だから俺たちで、少しでもお前たちに格好つけて、良い大人になろうとしてるのかもしれねえな」
楊「そうなのですか?」
燕「今、なんとなくそう思った」
楊「…」
燕「餓鬼なんだよ、男ってのは。大人みたいな格好しててもな」
楊「…」
燕「…いけねえ。歳をとるとつい説教してるみたいになっちまう」
楊「御礼申し上げます。燕順殿」
燕「…楊令」
楊「はい」
燕「…あいつの命を見せてくれ」
楊「…はい!」
燕「…」
楊「どうぞ」
燕「…」
楊「…」
燕「…」
楊「…」
燕「…礼を言う。楊令」
楊「はい!」
燕「じゃあ俺は調練に行くぜ」
楊「燕順殿!」
燕「おう!」
楊「大人の話、聞かせてくださいね!」
燕「生きてりゃな!」

中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!