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水滸噺 21年10月【幻王の料理調練】

あらすじ
幻王楊令  料理調練は悲劇
豹子頭林冲 子午山苺PR
石秀曹正  罵り合いは永久
遊撃隊班光 御竜子免許皆伝

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう!

梁山泊

梁山泊…秋が深いと魚肉饅頭と焼き饅頭が食べたくなるなぁ。

騎馬隊

騎馬隊…食いしん坊隊長にちょっとした天罰が下った。

人物
林冲(りんちゅう)…横隔膜が突っ張ってきたぞ?
索超(さくちょう)…急いで食べ過ぎだ。
扈三娘(こさんじょう)…お行儀が悪いですよ。
馬麟(ばりん)…もっとよく噛んで食べろ。
郁保四(いくほうし)…みんなと食べる速度を合わせてください。

1.
林冲「!」
索超「なんだ林冲殿」
馬麟「しゃっくりか?」
林「さっきから!止まらんのだ!」
扈三娘「食事中なのに」
郁保四「最後の一つ、頂きますね」
林「待!」
郁「?」
林「郁保!」
郁「しゃっくりが林冲殿の発言を封じ込めてますね」
馬「当面しゃっくりしてくれないかな」
林「なんだと!」

索「息を止めたら止まるぞ」
林「息を止めたら!死ぬではないか」
郁「そこまで止めません」
扈「死ぬほど息を止める人なんているんですか?」
馬「…」
林「息を止めたら!飯が食えん!」
索「落ち着いて食べましょう、林冲殿」
林「!!」
扈「汚っ…」
郁「飛ばし過ぎです」
林「しゃっくり!め!」

索「林冲殿をびっくりさせたら止まるかな」
林「ならば俺を!びっくりさせろ」
扈「張藍のとっておきを食べた罰の相談を受けているんですけど…」
林「!!」
郁「だから飛ばし過ぎです!」
林「そういうのはいい、扈三娘」
扈「びっくりさせろって言われたので」
馬「止まったか?」
林「止まらん!」

林冲…家に帰ったら罰に関する張藍の置き手紙が置いてあったショックで止まった。
索超…卓を汚しすぎだぞ、林冲殿。
扈三娘…息を止めれば良かったのに。
馬麟…息を止めると色々思い出すからやりたくない。
郁保四…翌日の調練で林冲に厳しくされた。

2.
張藍「いい笑顔で!」
林冲「…」
張「林冲!」

索超「また林冲殿が苺の格好をさせられている」
馬麟「子午山から文が届いたらしい」
索「子午山から?」
馬「子午山苺のイメージキャラクターになってほしいと王進先生直々のオファーが届いたそうだ」
索「なんと」

林「笑うに笑えん」
張「林冲!」

張「印刷しましょう」
林「なんという辱めだ」
張「王進殿の依頼を断れるのですか?」
林「どこで知ったのだ、王進殿は」
索「どんな写真が撮れたのですか?」
張「…見切れてますね」
馬「近すぎたな林冲殿が」
張「一からやり直しです、林冲」
林「そんな!」
張「次は扈三娘とペアで撮りますよ!」

扈三娘「…」
索(なんと険しい顔を)
張「美人が台無しよ、扈三娘!」
林「…可愛げがない女だ」
扈「…林冲殿こそ」
馬(火花が散っているぞ)
索(格好は苺なのに)
張「剣と槍を構えて!」
林「…」
扈「…」
張「アクション!」
索(アクション?)
郁保四「…」
馬「蜂の衣装?」
張「索超殿と馬麟殿も」

林冲…苺の格好は決まってないが、ポーズは決まってる。
張藍…子午山苺ブランディング部門責任者。
扈三娘…苺三娘というキャラが大人気。
索超…蜂のタイツがなかなか履けなかった。
馬麟…尻の針が鋭利でビックリした。
郁保四…特注サイズだけど用途がない。

王進…PVに感動して死域。

水軍

水軍…統率力という点では李俊なんだが、個人スキルという点では各々のスキルの方が李俊よりも確実に高いため、なめられがち。

人物
李俊(りしゅん)…待てこのやろう!と言っては皆を追いかけるが、たいてい逃げられる。
張順(ちょうじゅん)…水中に逃げれば問題なし。
阮小七(げんしょうしち)…水中深くに逃げれば問題なし。
童猛(どうもう)…船で行けないところに行けば問題なし。
項充(こうじゅう)…飛刀で目眩ましすれば問題なし。
阮小二(げんしょうじ)…船を漕げば問題なし。

3.
李俊「…」
童猛「昨日の宴会は強烈だったな」
阮小七「たまにはいいだろ」
張順「お前が李俊殿のボトルを勝手に開けてるとは」
項充「代わりに適当な濁酒詰めてたってのも傑作だった」
七「お前ら酒は残ってねえのか?」
童「当たり前だ」
張「調練に残すほど飲まねえよ」
項「なあ李俊殿」
李「…」

童「どうした李俊殿?」
李「…ちょっと黙れ」
七「顔色が?」
項「船酔いしたみてえな面してるぞ?」
童「そんな馬鹿な」
李「…後で貴様らを、一人ずつ地獄に落としてやる」
七「おい、李俊殿」
張「笑わねえから答えてくれ」
項「…船酔いか?」
李「…見て分からねえか?」
七・張・童・項「www」

李「殺す」
童「どうしたものか」
項「もうすぐ新兵が来るぞ?」
七「示しがつかねえなんてもんじゃねえなこれ」
張「船酔いしてる水軍大将ってなんだ?」
李「あっ」
童「モザイクかけろ」
七「昨日の飯だこりゃ」
張「反吐の量も呉用殿に報告しねえと」
項「梁山湖の栄養だからな」
李「野郎ども…」

李俊…船から降りるや否や、将校どもを血眼で追いかけ始めた。
張順…梁山湖に逃げた。
阮小七…梁山湖の深いところに逃げた。
項充…飛刀で撹乱して逃げた。
童猛…絶対に船で来れないところまで逃げた。

二竜山

二竜山…どうしようもない罵り合いが絶えない。

人物
楊志(ようし)…石秀が曹正にいう罵倒が末恐ろしい。
秦明(しんめい)…黄信の愚痴は気が滅入るぞ。
解珍(かいちん)…秦明の悪戯の度が過ぎる
郝思文(かくしぶん)…郝瑾が関勝にインスパイアされそうで不安。
石秀(せきしゅう)…曹正と豚だったら豚の方が役に立ちます。
周通(しゅうとう)…なんだかんだで仲裁役として機能している。
曹正(そうせい)…致死軍くずれめ。
蔣敬(しょうけい)…うっかり得意先に石秀仕込みの罵倒をしてしまった。
李立(りりつ)…李俊に皮肉を言ったら袋叩きにされた。
黄信(こうしん)…愚痴るなと言われたことを愚痴り始めるからたちが悪い。
燕順(えんじゅん)…解珍悪戯摘発委員長。
鄭天寿(ていてんじゅ)…楊令に正しい教育を施すイケメン。
郭盛(かくせい)…楊令の稽古に付き合う良い奴。
楊春(ようしゅん)…少華山時代は風紀委員。史進懲罰隊隊長。
鄒潤(すうじゅん)…兄の鄒淵が史進に毒されて気の毒。
龔旺(きょうおう)…最後の方に仲間入りしたから、周囲の人間関係把握に時間がかかった。

4.
曹正「大変だ!」
石秀「どうした曹正。嫁にした雌豚を誤って屠殺してしまったのか?」
曹「!」
石「!?」
楊志「どうした?」
曹「俺の庭にソーセージのタネを埋めたら」
楊「木でも生えたか」
曹「生えた」
楊「なんだって!」
周通「ソーセージの木が生えたのか」
曹「生えた」
楊「見に行こうか」

曹「あれだ」
楊「不思議な形をした木だな」
楊令「ソーセー樹ですね、父上!」
志「それだな!」
令「ソーセージが生えてます!父上」
志「なんだって」
曹「本当だ」
周「一体どんな植物なんだ?」
曹「収穫してみるぞ」
志「食えるのか?」
曹「!」
志「どうした曹正?」
曹「素手で触ると痛いぞ」

志「腫れたな」
曹「チョリソーを食った時の舌みてえだ」
令「毒ソーセージですか?」
曹「かもしれねえ」
周「この木はなんの役に立つんだ?」
石「…おのれ豚め。卑猥な形の木を」
志「石秀?」
石「燃やしてくれる!」
曹「軽率なマネはやめろ!」
石「!」
志「伏せろ!」
!!!
曹「破裂した…」

楊志…ソーセー樹が弾け飛んだ…
曹正…すごくソーセージ臭えな。
石秀…ソーセー樹の焼け爛れた実まみれになった。
周通…実を食ったら不味かった。
楊令…なんだかえっちな形の樹でした、母上。

5.
秦容「…」
秦明「よく寝ているな、容は」
公淑「今日も元気いっぱいでしたから」
明「いつになったら歩けるようになるかな?」
公「まだまだ先ですよ」
明「まあそうだろうな」
公「お夕飯の支度をしますね」
明「よろしく頼む」
容「…」
明「這えば立て、立てば歩めか…」
容「…」
明「…気が?」

容「!」
明「おう、起きたか、容」
容「…」
明「…気を感じるな」
容「…」
明「どこからの気だ?」
容「!」
明「まさか、容…」
容「?」
明「…」
容「…」
明「…」
容「!」
明「容。お前…」
容「…」
明「気が分かるのか?」
容「!」
公「お待たせしました」
明「公淑!容は気が分かるぞ!」

公「気?」
明「見てろ」
容「…」
明「…」
容「!」
公「まあ!」
明「這う前に気を覚えるとは」
公「旦那様の子ですね!」
明「…公淑も気が分かるのか?」
公「いつのまにか」
明「林冲と楊令の稽古を見ていたからかな」
容「!」
公「!」
明「どうした?」
公「容がお腹の空いた気を発しました」

秦明…気を受け止めるだけでなく、気を発するとは…
公淑…容の発する気ならだいたい分かります。
秦容…まだ赤子なのに並の武術家を圧倒させる気を放つ。

聚義庁

聚義庁…いびきと寝息が会議中のBGM。いいのかそれで。

人物
晁蓋(ちょうがい)…調練で疲れてすやすや。
宋江(そうこう)…日差しが暖かくてすやすや。
盧俊義(ろしゅんぎ)…仕事が忙しすぎてぐうぐう。
呉用(ごよう)…もう何も言わなくなって久しい。
柴進(さいしん)…退屈でいたずら書きがいっぱい。
阮小五(げんしょうご)…書紀をやるのもいい加減しんどい。
宣賛(せんさん)…サボるときの頭巾は特注品。

6.
呉用「済州の想定だが…」
柴進(それにしても呉用殿の会議はつまらん)
宋江「…」
柴(宋江殿は寝ているし…)
盧俊義「ZZZ」
柴(盧俊義殿は堂々と寝ている)
宣賛「…」
柴(宣賛は頭巾の目に細工して起きているふりをしている)
呉「済州の民の陳情を…」
柴(よくこの有様で会議を続けられるな、呉用殿は)

李俊(柴進、柴進)
柴(李俊?)
李(アッチョンプリケ)
柴「www」
呉「柴進?」
柴「咳払いだ」
呉「静かにしろ」
柴(それを言うなら…)
盧「ZZZZZZ」
柴(笑わせるな)
李(笑うお前が悪い)
柴(…)
呉「次は柴進の兵站計画を…」
柴(李俊)
李(なんだ)
柴(つ 嬉々として出すものを数える呉用殿の図)
李(…)

李(次はこの資料を使ってお前が話す番ではないか?)
柴「しまった!」
呉「…私語が多いな、柴進」
柴「資料に誤りがあった。直してくる」
呉「ここで直せ」
柴「…」
李(バカめ)
呉「…その挿絵はなんだ、柴進?」
柴「…」
呉「出すものの数を数える呉用殿?」
柴「…」
呉「次はお前が数えるか?」

呉用…いい年をして私の塾生の子どものような落書きを…
柴進…赤っ恥をかかされたと逆恨み。
李俊…会議中の悪戯は彼に分がある。
宋江…落ちる夢を見てビクってなった。
盧俊義…いびきがデカすぎて無呼吸になってた。
宣賛…頃合いではしっかり起きてるサボりの名手。

三兄弟

三兄弟…食欲の秋にはフル稼働させられる末弟。

人物
魯達(ろたつ)…香料が足りんぞ、李逵。
武松(ぶしょう)…腹ペコだ、李逵。
李逵(りき)…いい加減ストライキしてやろうかな。

7.
宋江「李逵の料理が美味すぎるせいで肥ってしまった」
李逵「運動しなよ、宋江様」
宋「剣を振っているし、乗馬もしているのだが」
李「それでも肥ったんですかい?」
宋「李逵の香料があると飯が進むのだ」
李「食べ過ぎりゃ、身体動かしても肥るよ」
宋「新しい運動はないかな?」
李「そうだな…」

陶宗旺「宋江殿?」
宋「石積みを手伝わせてくれ」
李「痩せるためだ、陶宗旺」
陶「地味な作業ですよ?」
宋「汗をかきたいのだ」
陶「それでは…」

宋「飽きた…」
陶「だから言ったのに」
宋「四刻はやったか?」
陶「まだ一刻の半分です」
宋「ここは賽の河原か?」
陶「失礼な」
宋「痩せん!」

李「!!」
武松「!!」

陶「兄貴たちが岩を砕いてくれてますよ、宋江様」
宋「もう飽きた!」
陶「全く」
宋「飯はまだか、李逵!」
李「もうちょっと手伝おうぜ、宋江様」
宋「私も岩を砕くぞ」
陶(できるかな…)
宋「それ!」
李「迂闊に叩くと…」
宋「…身体中に衝撃が」
陶「大丈夫ですか?」

宋江…粘り強いところと飽き性なところが極端。
李逵…板斧で岩を砕く達人。
武松…拳で岩を砕く怪物。
陶宗旺…不満たらたらな宋江が珍しかった。

文治省

文治省…目と手首を酷使するセクション。出張マッサージサービスを福利厚生に入れろとひと悶着。

人物
蕭譲(しょうじょう)…目がショボショボだ。
金大堅(きんだいけん)…手首が回らんわい。
裴宣(はいせん)…首と肩がゴリゴリです。

8.
蕭譲「…いかん」
金大堅「どうした?」
蕭「こんをつめすぎたようだ」
金「めまいか?」
蕭「少しな…」
金「わしらの作業ならそうなるわな」
蕭「…?」
金「蕭譲?」
蕭「金大堅よ」
金「なんだ?」
蕭「ゲシュタルト崩壊という現象を知っているか?」
金「おう」
蕭「酷いそれになってしまった…」

金「わしらは宋の時代に生きているのだよな?」
蕭「そんなことはどうでもいい」
金「それで?」
蕭「…いかん。読点を直視できん」
金「読点がゲシュタルト崩壊したのか?」
蕭「この役人は不要なほどの読点を使う男のようなのだ…」
金「そんな事では御大の小説を読めなくなるぞ」
蕭「それは困る」

蕭「茶でも飲んで一息つこう」
金「それがいい」
蕭「…だめだ。茶の葉ですら読点に見えてきた」
金「難儀な奴だな」
蕭「外の霧雨も読点が降っているかのようだ」
金「目を閉じていろ」
蕭「そうしよう」
金「やれやれ…」
蕭「金大堅!」
金「なんだ」
蕭「お前の顔の読点は…」
金「シミと黒子だ」

蕭譲…読点で見つめるな、金大堅。
金大堅…黒目だ。

断金亭

断金亭…10月8日と26日は梁山泊の大切な日。

9.
晁蓋「百八の日、隠し芸大会を行う」
呉用「一番。遊撃隊将校による」
宋江「…」
呉「伏魔殿」

穆春「わしはえらい役人!ひれ伏せ!道士ども!」
陳達「…」

晁(何という小物臭だ)

穆「散々酷い目にあって一仕事終えたばかりだ。ひれ伏せ!道士ども!」
施恩「…」
穆「…おや、あの祠はなんだ?」

穆「穆に遇って開く?」
陳「開いてはなりません!」
穆「では、俺が」
陳「いやいや、私が」
施「ならば私が」
穆・陳「どうぞどうぞ」
施「!」
穆「開けよ!」
施「いや、開けないでくださいね」
穆「…」
施「絶対に、開けないで」
穆「開けた」
陳「なんということを!」
施「音が?」
穆「音?」

!!!

宋(断金亭の屋根が弾け飛んだぞ)
呉(修理させましょう)

穆「今の衝撃で、着物が…」
史進「汝はこの絶対に開いてはならん封印を解いたな」
穆「お前は!」
史「今お前が解き放ったのは、天罡星三十六、地煞星七十二」
穆「…」
史「天を見よ!」
穆「天?」
史「この世の風紀は大いに乱れる」

晁蓋…それにしても今日は星が綺麗だ。
宋江…私たちも星の生まれ変わりだったりするのかもしれんな。
呉用…智多星は瞬きますかな?

史進…仙人役。火薬の量を見誤った。
穆春…小物役人役。あっぱれな小物臭。
陳達…道士A役。息のあった茶番の名手。
施恩…道士B役。茶番の練習が楽しかった。

10.
史進「御大あるある!」
御大「…」
史「したたかに、精を放つ」
御「…」
陳達「御大あるある!」
御「…」
陳「おもむろに飛び出すカタカナ語!」
鄒淵「コークス!」
杜興「メートル!」
御「…」
施恩「御大あるある!」
御「…」
施「替天行道の中身はとことん明かさない!」
穆春「書けない!」

御大…御歳七十四歳!おめでとうございます!

史進…腐刑になる夢を見た。
陳達…アキレス腱を断裂する夢を見た。
鄒淵…兎に食われる夢を見た。
杜興…李応に絶縁される夢を見た。
施恩…替天行道で圧死する夢を見た。
穆春…兄に溺愛されるところを好きな子に見られる夢を見た。

楊令伝

黒騎兵

黒騎兵…幻王の戦と武術と行政意外の得意なことは何なのだ?

人物
楊令(ようれい)…だから料理修行中だと言っているではないか。
郝瑾(かくきん)…とっくに破門です。
張平(ちょうへい)…料理は私に任せてください。
蘇端(そたん)…楊令の飯をつまみ食いしたら死線をさまよった。
蘇琪(そき)…楊令の飯の味見をさせられたら、味覚がいつまでも帰ってこない。
耶律越里(やりつえつり)…楊令の飯をたらふく食わせたら、三日厠から出てこなかった。

11.
張平「楊令殿!何をしているのですか!」
楊令「…」
張「あ!また私の鍋を勝手に使って!」
楊「…」
張「…不器用な楊令殿が、どうしてこうも器用に満遍なく鍋を焦げつかせることができるのですか?」
楊「…」
張「もう諦めてください、楊令殿」
楊「…」
張「楊令殿が料理上手になるのは無理です」

郝瑾(楊令殿に料理をさせたのは誰だ?)
張(勝手にやったんです)
楊「…」
郝「楊令殿の作る料理は満遍なく黒いですね」
張「黒いのは黒騎兵だけで十分です」
楊「…」
郝「表面はこんなに真っ黒なのに」
張「中は生肉ですね」
郝「皆が食中毒になりますよ、楊令殿」
楊「…」
張「良い肉だったのに…」

郝「リカバリーできるか、張平?」
張「至難の業です」
楊「…」
張「まず生肉の部分に火を通しましょう」
郝「すまんな」
楊「…」
張「覗いてもやらせませんからね、楊令殿」
郝「楊令殿はお行儀よく座って待っててください」
楊「…」
張「鍋の焦げ付きを落とすのに朝までかかって…」
郝「大変だ」

張平…黒騎兵の料理上手。楊令の尻拭いが何より大変。
郝瑾…楊令の料理には容赦しない。

楊令…二人とも言い過ぎではないか?

12.
張平「あれ?」
蘇琪「どうした張平?」
張「俺が買い込んだ卵が一つもない」
蘇「卵」
張「心当たりはないか?」
蘇「卵といえば、この間楊令殿が卵を割ろうとしたら握り潰したのを見て、みんなで笑ったよな」
張「それだ」
蘇「それ?」
張「楊令殿はどこだ!」
蘇「?」
張「見つけた!囲め囲め!」

楊令「…」
張「申し開く機会を与えましょう」
楊「卵を割る調練をしていただけだ」
張「それがなぜあれだけ買い込んだ卵が一つもないのですか?」
楊「黙秘する」
張「…それでは一度だけチャンスを与えましょう」
楊「チャンス?」
張「私の前でこの卵を綺麗に割ってください」
楊「任せろ、張平」

楊「!」
張「また割る前に握り潰して…」
楊「違う。さっきは上手くできた」
張「チャンスは一度だけですからね」
楊「…」
張「観念してください、楊令殿」
楊「…あのボウルの中だ」
張「…」
楊「…」
張「楊令殿は、卵を殻ごと食べるのですか?」
楊「皆が笑うからムキになった」
張「やれやれ」

楊令…みんなからやめろと言われれば言われるほどムキになって、料理を作ろうとしたがる。
張平…殻を取り除けばいいって中身じゃないですよ、これは。
蘇琪…その日はやたらジャリジャリとした歯応えがある卵焼きをたらふく食わせられた。

13.
張平「〜♪〜」
楊令「…」

郝瑾(誰だ、楊令殿にシンバルを持たせたのは)
蘇端(リズム感が致命的すぎたので)
蘇琪(一発勝負なら得意だとご自身で言われるから)

張「〜♪〜」
楊「…」

郝(張平の鉄笛がまるで耳に入ってこない…)
端(そろそろだ)
琪(今です!)

楊「!!」
張「…」

郝(粉砕した…)

楊令…半歩早かった上に鉄笛の余韻を台無しにしたせいで、張平が口を聞いてくれない。
張平…力だけあってもダメなんです!

郝瑾…トライアングルも下手くそ。
蘇端…タンバリンの技がウザい。
蘇琪…カスタネットの名手。

14.
楊令「!!」
張平「何をしているのですか!楊令殿!」
楊「フランベの調練だ」
張「天井を燃やす調練かと思いました」
楊「なんだと」
張「楊令殿がフランベしたところで、肉に火が通ってないので全くの無駄です」
楊「…」
張「それに迂闊にフランベなんてしたら、スプリンクラーが作動しますよ

楊「!!!」
張「またやってる!」
楊「熱い、張平」
張「フランベより先にすることがあるでしょう!」
楊「それは?」
張「いいから火を止めろ!」
楊「止められれば苦労せん」
!!
張「火災探知機が!」
楊「大変だ」
張「直火で火災探知機を破壊するなんて」
楊「どうしよう、張平」
張「煙が!」

!!
楊「スプリンクラーが作動したぞ、張平」
張「及時雨だ」
楊「しかし鍋が炎上していることに変わりはない」
張「油が跳ねる!」
楊「ここは退くぞ、張平」
張「宿舎を炎上させる気ですか!」
楊「爆発していないだけマシだ」
張「こんなところで死にたくない!」
楊「ならば退こう」
張「はい!」

楊令…宿舎の兵を逃す指揮は完璧に取った。修繕費に郝瑾が卒倒した。
張平…一月屋根のない所で夜を過ごすことになった。

15.
楊令「…」
張平(また懲りもしないで調理場に立ってる)
郝瑾(今度は何をしでかそうというのだろう)
蘇端「楊令殿!郝瑾殿が」
楊「!!」
蘇「!?」
楊「勝手が掴めん…」
張「楊令殿!」
郝「今何をしたのですか!」
楊「あおり炒めの調練だが」
張「煽りを喰らったのは蘇端ですね」
郝「放っておけ」

楊「中華は火力が命だというそうではないか」
張「我らは自分の命が一番です」
郝「また火が通ってない」
楊「おかしいな」
張「火も通ってないで、楊令殿にあおられる野菜の気持ちを考えたことがありますか?」
楊「…俺が煽られてないか」
郝「とにかく楊令殿は料理をしないでください」
楊「嫌だ」

楊「もう一度あおり炒めに挑戦する」
郝(どうしてここまで頑ななのだ)
張(へそ曲げるとしつこい所あるんです)
楊「野菜を刻む所までは問題ない」
郝「包丁が吹毛剣の使い方になってますよ」
楊「油を入れ」
張「なぜ垂直に入れるのですか!」
楊「炒めて」
蘇「冥土が見えた…」
楊「あおる」
蘇「!?」

楊令…張平にキッチンの油汚れとの立合いを命じられた。
張平…我らは街で食べましょう。
郝瑾…油っぽい調理場にいたからさっぱりしたものを食べに行こう。
蘇端…楊令のあおり炒めの被害者。そのリアクションは天性が光る。

16.
張平「面白かったですね、秋の心霊特集」
蘇端「俺たちは霊なんか怖くないよな」
郝瑾「そうですよね、楊令殿」
楊令「…」
耶律越里「楊令殿?」
楊「…すまん、聞いてなかった」
張「我らは霊なんか怖くないですよね!」
楊「…怖くてもいいと思う」
郝「今なんと?」
楊「…なんでもない」
張「…」

郝「もう寝る時間ですね」
耶「明日も早い時間から調練だ」
楊「…」
張「今日はいつになく口数が少ないですな、楊令殿」
蘇「もしかしてお化けが怖かったんですか、楊令殿?」
楊「…実は」
郝「そんなわけないだろう、蘇端」
蘇琪「楊令殿は怖いものなどないに決まっているだろう」
端「そうだよな」

楊「…」
張「…」
楊「…張平」
張「…なんですか?」
楊「厠に行く用事はないか?」
張「…ありませんけど」
楊「そうか…」
張「…」
楊「…」
張「おやすみなさい」
楊「…ああ」
張「…」
楊「一人で行くしかないのか」
端「ハクション!」
楊「!?」
端「ZZZ」
楊「…」
耶(今のリアクションは…)

楊令…やっとの思いで厠に行ったら、頭巾を外した呉用とエンカウントして涙目になってしまった。
張平…楊令殿が泣いていた?
郝瑾…そんな馬鹿な。
蘇端…誰にでも怖いものはありますって。
蘇琪…楊令殿にはない!
耶律越里…蘇端のくしゃみでビビり倒した楊令を見てしまった…

遊撃隊

遊撃隊…この項目にたどり着くたびに、溜息をつくのだ。

人物
班光(はんこう)…私にろくなことをさせないのはあなたでしょう!
鄭応(ていおう)…いや、班光も大概だと思うが。
葉敬(しょうけい)…史進殿のせいでもある。

17.
史進「班光の乳首から円周率を求めよ」
班光「またくだらない事を!」
史「班光。俺は意図的にくだらない事を言っているのだ」
班「意図しないでください」
史「お前は意図せずくだらない事を言う人間のくだらなさを知らないのか?」
班「それは」
史「意図する者としない者が込める発言の差は雲泥だ」

史「くだらなさ。それは濁だ」
班「清くなりましょうよ、史進殿」
史「しかし、清いだけでは魚は棲まない」
班「確かに」
史「清濁併せ持つとはそういう事だ、班光」
班「くだらない発言を意図的にする事で、人間の濁を磨くのですね、史進殿」
史「限度はあるがな」
班「史進殿がそれを言うのですか」

班「では発言の清とは?」
史「清は発言ではない」
班「なぜです?」
史「清い政という宰相の発言に何を感じる?」
班「…うすら寒さです」
史「清さとは行動に宿るのだ、班光」
班「!」
史「日頃の立ち振舞いで、その人間の清らかさは測られる」
班「確かに」
史「言葉を発する事で、人は濁るのだ」

史進…俺の生き様は清いだろう、班光。
班光…否定はしません。

18.
班光「パンケーキをお願いします」
店員「かしこまりました」
史進「…」
班「史進殿は?」
史「…任せる」
班「じゃあ同じものを二つ」
店「かしこまりました」
史「待て!」
店「はい?」
班「史進殿?」
史「…行け」
店「失礼します」
班「どうしたのですか?」
史「お前は心の腐刑を受けたのか」

班「心の腐刑?」
史「女子ども宦官が食うようなパンケーキなど…」
班「宦官?」
史「パンケーキなど笑止だ、班光!」
班「でももう頼んでしまいましたし」
史「肉はないのか!」
班「ここはオーガニック野菜をふんだんに使った菜食主義者のカフェですよ?」
史「なんでこんな店をチョイスするのだ」

班「牛や羊だって命はありますから」
史「野菜だって命があるではないか」
店「お待たせしました」
班「美味しそうですね」
史「宦官め」
店「なにか?」
史「お前ではない」
店「私は宦官ですが」
史「…すまん」
班「遊撃隊の皆と写真を共有しよう」
史「どこまでミーハーなのだ」
班「美味しい!」

史進…終始班光に主導権を取られていた。
班光…いちごが美味しくて大満足。

店員…宦官。なんだこの二人連れ。

19.
班光「史進殿!また私のタオルを使いましたね!」
史進「それがどうした」
班「史進殿の臭気が取れず困っているんです!」
史「随分だな、班光」
班「とりあえず手元にあるタオルや歯ブラシを使うのをやめてください!」
花飛麟(歯ブラシ!?)
史「無くしたのだ」
班「私は常々警鐘を鳴らしていました」

史「警鐘を鳴らしていたのか」
班「あの警鐘を鳴らすのは私です」
史「それは皆に聞こえていたのか?」
班「それは」
史「お前だけの心の警鐘ではないのか?」
班「…分かりました、史進殿」
史「何が分かった、班光」
班「史進殿アラートを作りましょう」
史「なんだそれは?」
班「開発してきます」

!!
兵「史進殿アラートだ!」
兵「半刻後に風呂に来るらしい」
鄭応「撤収!」

史「…」

!!
兵「史進殿アラートだ!」
兵「機嫌の悪さLv.3」
葉敬「史進殿ディスタンスを保とう」

史「…」

班「いかがですか、史進殿」
史「班光」
!!
班「史進殿アラートが!」
史「おい」
班「失礼します」

史進…遊撃隊中で史進殿アラートが鳴り止まない。
班光…また波乱を巻き起こすのか、こいつは。
花飛麟…歯ブラシの毛先が変わっていたのが常々不思議だったが…
鄭応…史進殿の被害が軽減されたな。
葉敬…さすが班光だ。

20.
史進「班光」
班光「なんですか」
史「貴様は生意気にも御竜子などと名乗って嫌がるが」
班「なにか?」
史「免許を持っているのか?」
班「免許?」
史「!」
班「!?」
史「無免許でこの九紋竜を乗りこなそうなど笑止千万!」
班「確かに…」
史「これより九紋竜講習を始める」
班「お願いします!」

史「いかん着物を脱ぎたくなってきた」
班「いけません!」
史「!!」
班「!?」
史「今の発言はフェイクだと教習本で習わなかったのか!」
班「…素面の着物を脱ぐ発言は全てフェイクとする」
史「学科からやり直せ!」
班「私は必ず史進殿のゴールド免許を取得してみせます!」
史「その言や良し!」

史「着物を脱ぎたい…」
班「…停止線をはみ出している。フェイクです!」
史「部下が食うまで俺は飯を食わんぞ」
班「将校的にはありですけど、史進殿に至ってはフェイク!」
史「合格だ、班光!」
班「史進殿!」
班「お前に九紋竜免許と若葉マークを進呈する!」
班「やった!」
史「以後精進しろ」

史進…巧みに班光の監視を逃れる術を得た。
班光…史進殿ゴールド免許を取得するまで死ねない…

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中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!