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水滸噺 2月3月[全北方水滸好きに捧ぐ]

あらすじ
豹子頭 振り回すは険道神
入雲竜 振り回すは赤髪鬼
玉麒麟 振り回すは白日鼠
青蓮寺 振り回すは聞煥章

水滸噺 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、  
 あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、
 薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
・作者のtwitterにて投稿しています。 
・ご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまでお寄せいただけると、とても
 嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

ネタの時系列はあちこち飛んでいますが、あまり気にしないように。

用語や人物の解説も、独断と偏見をふんだんに盛り込んで行いますのでご参考にしていただけたら。
それでは参りましょう。

頭ひとつ、出ていた。

梁山泊

梁山泊…108人と頭領を抱える、天然の要塞。広大なキャパシティを持ち、超一流のスキルと欠陥を持ちあわせた男たち(と女たち)の理想郷。

騎馬隊

騎馬隊…人気投票1位に輝く林冲をリーダーに据えた、最強の騎馬隊。その最強の源は、林冲による非合理極まりない調練らしいが真偽のほどは定かではない。

人物
林冲(りんちゅう)…騎馬隊のボス。極限まで脳筋になった結果、身体能力と戦の指揮以外の信頼は得られなくなった。公孫勝が大嫌いで大好き。
索超(さくちょう)…青騎兵を率いる、騎馬隊のオアシス。その良識と世間知は騎馬隊の軋轢で徐々にむしばまれている。
馬麟(ばりん)…鉄笛の名手だが、マイ鉄笛以外の楽器は全く使えない。
扈三娘(こさんじょう)…梁山泊美人番付横綱であり、軍人の紅一点。斜め上な発言は、林冲すら吹っ飛ばすこともしばしば。
郁保四(いくほうし)…旗持ち。超一流の根性の持ち主だが、林冲による非効率スパルタ指導と相性が良すぎて、諸々をすごく遠回りしたのは否めない。

皇甫端(こうほたん)…獣医。人間よりも馬をよく覚えている。顔を覚えている人間は片手で数えるほどだとか。
段景住(だんけいじゅう)…馬の調達担当。馬泥棒の過去を持つ故、所々で垣間見える小悪党っぷりが大きなしっぺ返しになって帰ってくることが多い。

脇役
公孫勝(こうそんしょう)…林冲と人気を二分する、特殊部隊致死軍隊長。後で紹介するよ。
石勇(せきゆう)…スパイの元締め担当。モブ顔なのを気にしているが、モブ顔でないとスパイなんて出来ない、という親方の顔はイケメンだった。
朱富(しゅふう)…酒屋担当。兄直伝の魚肉饅頭は美味いが淡白ゆえ飽きが来るのも早いらしく、常連の注文が減少傾向なのが悩みの種。

1.
扈三娘「索超殿は軍人だったのですか?」
索超「まさか。俺は干物屋の倅だよ、扈三娘」
扈「!?」
扈「馬麟殿は?」
馬麟「賞金稼ぎをしていた」
扈「…」
郁保四「俺は親父と農夫をしていたよ」
扈(聞いてない…)
扈「林冲殿は?」
林冲「禁軍の教頭だ」
扈(兄上。書物では学べない世界がここにはあります)

扈三娘…科挙の勉強ばっかりしていて、私を小馬鹿にする兄上はあまり好きではありませんでした。
索超…毎日干物を行商していたから、足腰が鍛えられたのかもな。
馬麟…賞金稼ぎで稼いだ銭もほったらかしで梁山泊に来てしまった。
郁保四…林冲がデスクワークしているところを想像したらツボった。
林冲…今でもやっているだろうが。

2.
索超「思考実験をしてみよう」
郁保四「はい」
索「もしも林冲殿が女だったら」
郁「それは」
索「顔は美形」
郁「いいですね」
索「強さこそが全てで」
郁「分かります」
索「馬が一番の友達」
郁「確かに」
索「そんな女」
郁「いる訳ないでしょう」
扈三娘「索超殿、林冲殿が」
索「そうかな?」
郁「それは」

索超…それでは、馬麟がもし女だったら…
郁保四…今ですら並の女子では、敵わないのでは?
扈三娘…ストッキングの伝線を馬麟に指摘されてとても助かった。

3.
索超「なぁ、馬麟」
馬麟「どうした」
索「林冲殿に頭が悪いと言われたのだが」
馬「それは」
索「言わんとすることも分かるのだ」
馬「ふむ」
索「俺は林冲殿に異をとなえる事が出来ん。それを物足りないと思われているのだ」
馬「…」
索「どうすればいいだろうか」
馬「そういうところだと思う」

林冲「索超。あれだ」
索「どれですか?」
林「もういい」
索「」

林「扈三娘。あれだ」
扈三娘「あれでは分かりません、林冲殿」
林「」
扈「具体的に言っていただかないと、部下が困ります」
林「ふん」
索(本当は、こうするのが正しいんだろうけどなぁ)

林「索超あれだ」
索「あれとはなんなのだ、林冲殿?」
林「戦を言葉でするな、索超」
索(そうだけど!)
林「行くぞ、索超」
索(あれってなんだ!)
馬(飛ばすな、索超)
索(あれってなんだ!)
郁保四(索超殿、すげぇ)
索(あれってなんなんだ!)
林「それだ!索超」
索「どれ!」

索超…なんなのだ、林冲殿!
馬麟…多分あれだな。
林冲…それだと言っているだろうが…
扈三娘…だからもっと具体的に。
郁保四…言われなくても分かる。

4.
林冲「飲むぞ、索超」
索超「悪いが、呂方に稽古をつける約束があるんだ」
林「そうか。馬麟」
馬麟「俺も鮑旭と会う約束がある」
林「郁保四」
郁保四「俺も用事が」
林「どうでもいい」
郁「旗の修繕が…」
林「…」
扈三娘「…」
林「…」
扈「行かないのですか?」
林・索・馬・郁「!?」

林(なぜか扈三娘と二人で来てしまった)
扈「…」
朱富「いらっしゃい…!?」
林「…」
朱「…」
扈「…」
朱「…」
林「…酒」
扈「おまかせします」
朱「…」

公孫勝「…!?」
石勇「どうしたんですか?」
公「朱富の店からただならぬ気を感じる…」
石「はぁ」

石(朱富の店に偵察に行けって…これは!?)
林「…」
扈「…」
石(林冲殿と扈三娘が二人っきりで飯を…)
朱「…」
石(朱富の顔も蒼白だ。これだけの気に当てられれば無理もない…公孫勝殿に…)
林「野郎!」
石(!?)
扈「何事ですか」
林「公孫勝の気だ。近くにいるぞ」
扈「?」
石(化物だ…)

石「…ということがありました」
公「…」
石「公孫勝殿の気も読まれていましたよ。俺の近くにいたのですか?」
公「私はこの小屋から一歩も動いていない」
石「は?」
公「お前が私のことを考えた一瞬の気を読んだのだろう。あの馬鹿は」
石(時遷の親方。俺もまだまだのようです)

索「今日の調練は一際きついな」
馬「…」
索「どうした?」
馬「郁保四の旗に修繕の後がない」
索「本当か?」

索「郁保四」
郁「はい」
索「旗の修繕はどうした?」
郁「嘘です」
索「それは」
郁「実は済州の妓館に…」
索「!?」
郁「今日済ませておきますから」
索「…」
馬「鉄笛を吹いてやる」

林冲…いつになく飯の味がしなかった。
索超…したたか者だな。郁保四。
馬麟…少し鉄笛の音にノイズが混ざった。
郁保四…身体の大きさの割に、ってよく言われます。
扈三娘…一言も喋らず、勘定だけ払わせて、そそくさ一人で帰っていった。

朱富…立ったまま気絶したところを、通りかかった燕青に活を入れられ九死に一生。

公孫勝…お前今、林冲のことを考えたな。
石勇…なぜ分かるんですか?

5.
林冲「おい、扈三娘」
扈三娘「はい」
林「お前、バレンタインって知ってるか?」
索超(それは)
扈「知りません」
馬麟(ほう)
扈「林冲殿は何のことだと思いますか?」
林「それは」
索・馬・郁保四 (面白くなってきた)

扈「どこでお聞きになったのですか?」
林「それは、公孫勝の野郎が」
索(笑うなよ。郁保四)
扈「公孫勝殿?」
林「この話はやめだ。扈三娘」
扈「分かりました。公孫勝殿に聞いてくればいいのですね?」
林「やめろ扈三娘」
馬(素なのかわざとやってるのか判断に困る)

扈三娘…ならば誰に聞けばよいのですか?
林冲…索超に聞け。
索超…馬麟に聞け。
馬麟…郁保四に聞け。
郁保四…答えようとしたら扈三娘に、じゃあいいです、って言われた。

6.
索超「馬麟。林冲殿と郁保四は何の稽古をしているのだ?」
馬麟「一秒間に十の呼吸をする稽古らしい」
索「そうか」
馬「扈三娘の目を見てみろ。索超」
索「おう」
馬「養豚場のブタを見るような目で見ている」
索「お前w」

索超…公孫勝殿も熱心らしいぞ。
馬麟…俺たちも特殊な能力をもてんかな。

7.
郁保四「索超殿」
索超「なんだ郁保四」
郁「農夫だった俺がこんなことを言いたくないのですが、俺はもっと頭が良くなりたいんです」
索「頭が良いとはどういう事を言うのだ?」
郁「そうですね。例えば呉用殿のように難しいことが言えたり…」
索「今お前は難しい事を言っている、と思うぞ」
郁「それは?」
索「あの二人の言い争いを聞いてみろ」

林冲「お前は馬鹿か、公孫勝。騎馬隊の方が強いに決まっているだろう」
公孫勝「馬鹿はお前だ、林冲。致死軍の方が強いのは分かりきった事だ」

索「お前はどう思う?」
郁「どうでもいいと思います」
索「あの二人は頭が悪いと思わないか?」
郁「それは」

索「争いは同じ格の者でしか起こらない、と読んだことがある」
郁「はい」
索「騎馬隊隊長と致死軍隊長。格は同じだ」
郁「はい」
索「しかし、言い争いは子供がするものだ」
郁「はい」
索「難しい話だな」
郁「そうですね」
索「俺たちは頭が良いと思うか?」
郁「違う、と思います」
索「俺もだ」

索超…馬麟は頭いいよな。
郁保四…扈三娘殿は…

林冲…ならば俺たちの突撃を受けてみろ。
公孫勝…貴様も1騎で我ら100人の撹乱を受けてみるか?

8.
林冲「何をしている、皇甫端」
皇甫端「馬の気持ちが分からん」
林「四つん這いになって駆け回ってみたら分かるのではないか?」
皇「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」
林「四つん這いになることで馬の動きを再現し、身体の負担を確かめるのだ」
皇(なんだかマジっぽいぞ)

林「あの馬の駈け方を再現してみる」
皇(速い。段景住が走るのより、速い)
林「あの馬の走り方をすると、左の尻が張るな。手当てをしてやってくれ」
皇「この事は二人だけの秘密にしよう、林冲」
林「なんだ、突然」

林冲…あの馬のいななきは、内臓を痛めた声だな。
皇甫端…そこまで分かるのか?

9.
段景住「馬具を改良してみた」
索超「ほう」
段「これは座り心地を特化した」
索「フカフカだ」
馬麟「向こうの一角は」
段「あの馬の群にはイタズラ用の馬具が置いてある」
馬「嫌な気を感じる」
林冲「おい、段景住。馬の検分を始めるぞ、早くしろ」
段「嘘だろ」
索「知らね」

段(馬群を一つにさせやがった)
馬(これで段景住にも分からなくなった)
段「死ぬ前に内容を言ってもいいか」
索「…」
段「バネが飛び出すスプリング馬具」
索「…」
段「オイルが噴出する馬具」
馬「…今のは?」
段「目潰しが炸裂する馬具」
索「つまり…」
段「俺たちもただではいられんという訳だ」

林「総出で馬を捕獲した訳だが」
索(不眠不休で二昼夜か)
林「扈三娘にオイルが噴出し」
索(艶かしかった)
林「郁保四はスプリングで行方不明」
馬(一丈(3m)は飛んだな)
林「損害は以上」
索(郁保四は?)
馬(木に引っかかってる)
林「ではこれより、段景住の処刑を行う」
索「異議なし」
段「待って」

林冲…百里風にまたがった時、やたら汚い音がした。
索超…二徹したからか、いつになくテンションが高かった。
馬麟…林冲を煽る鉄笛を吹いた。
郁保四…困ってたら、頭の上で鳥が巣を作り始めた。
扈三娘…帰ったら王英が舌なめずりして浴場にやって来たが、張り倒した。

段景住…隊長おのおのが思いつく限りの罰を受け、九死に一生。

致死軍&飛竜軍

致死軍…もともと妖術使いだった公孫勝が、北方ワールドの住人になった結果、特殊部隊の隊長に落ち着いた。過酷すぎる調練や汚れ仕事を辞さない強い精神力が必要とされるタフな軍だが、リーダーの判断ミスや戦略ミスがちらほらあるのはご愛敬。

飛竜軍…劉唐がのれん分けして立ち上げた特殊部隊。武器は各自の得意武器を使ったり、隊長が女を抱えていたりと色々自由な空気にしたのは、ストイックすぎる致死軍にいた反動。

人物
・公孫勝(こうそんしょう)…致死軍創設者にして、リーダー。冷静沈着な外見とは裏腹に、作戦を立てるよりもごり押しの方が得意。林冲のことが大嫌いで大好き。
・劉唐(りゅうとう)…公孫勝一の子分にして、飛竜軍リーダー。公孫勝に憧れていたが、ストイックすぎる生活習慣を心配。
・楊雄(ようゆう)…顔の黄色い、致死軍の良識派。みかんを食べすぎると潜入ミッションに支障をきたす。
・孔亮(こうりょう)…吐き気を催す邪悪と評される酷薄さを持ったイケメン。酷薄さと致死軍の相性はばっちりだが、周りの人間との相性までは保証できなかった。
・樊瑞(はんずい)…人間をやめていると思うほど強靭すぎる肉体をもつ暗殺者。彼のエクササイズは参考にならない。
・王英(おうえい)…飛竜軍隊長。自他ともに認める梁山泊一のスケベ。そんな奴が娶ったのが扈三娘ときたもんだから、梁山泊の非モテから目の敵にされている。
・楊林(ようりん)…飛竜軍隊長。兄貴分から色々引き継いで隊長をやっているが、いかんせん地味。地味だから特殊部隊隊長は向いているけど、地味だから目立たないというジレンマに苦悩している。

脇役
・花栄(かえい)
…流花寨(りゅうかさい)という拠点のリーダー。弓を打たせたら百発百中。
湯隆(とうりゅう)…鍛冶屋。彼の打つ鉄は超一級品。
扈三娘(こさんじょう)…騎馬隊隊長でまさかの王英の嫁。
・薛永(せつえい)…薬屋さん。後で出てくるよ。

10.
楊雄「…劉唐殿」
劉唐「なんだ」
楊「俺たちは何の調練をさせられているのですか?」
劉「一秒間に十の呼吸をする調練だ」
楊「公孫勝殿にジョジョを貸したのは孔亮ですね?」
劉「そうだ」
楊「あの馬鹿!」

楊「大変なことになった」
劉「樊瑞だから出来たようなものだ」
楊「でも劉唐殿」
劉「…」
楊「崖登りの調練に油を流すのはインスパイアされすぎなのでは」
劉「しかも油を流すのは孔亮だ」
楊「吐き気を催す邪悪とはッ!なにも知らぬ無知なる者を利用することだ!」
劉「お前も好きだな」

楊「まさか樊瑞が波紋の呼吸を出来るようになるとは」
劉「人間じゃないな」
楊「妖術が使えるようになったそうです」
劉「ビリっときたな」
楊「公孫勝殿は出来るようになったのですか?」
劉「公孫勝殿は」
楊「…」
劉「花栄に弓を十矢射てもらい、時を止める調練を」
楊「辞めさせて!」

楊「劉唐殿。今日は何の調練ですか?」
劉「体内の鉄を駆使する刺客を撃退する調練だ」
楊「…それで公孫勝殿はどこへ?」
劉「…湯隆の所へ行ったらしい」
楊「あんまし分かってないんですね」

・劉唐…もしも公孫勝殿が妖術を使えたとしたら?
・楊雄…思ったよりもMP少なそうですよね…

11.
楊林「やい、王英」
王英「なんだ」
楊「お前、扈三娘からチョコもらったのか?」
王「そんなの」
楊「そんなの?」
王「もらえんよ」
楊「嘘をつけ」
王「逆に聞くが」
楊「うむ」
王「あいつにそれだけの気立てがあると思うか?」
楊「それは」

王「飯は当番制。饅頭も蒸したんだか蒸してないんだか分からん代物が出てくる」
楊「でも食うんだろ?」
王「家事のほとんどは俺がやっていると言ってもいい」
楊「でも構わないんだろ?」
王「閨は」
楊「おう」
王「痛い」
楊「それは」
王「だがそれが良い」
楊「死ね」

・王英…痛気持ち良い感覚について熱弁を振るった。
・楊林…ただのドMじゃないのか、それは?

12.
公孫勝「恐ろしい奴に出会ったぞ、劉唐」
劉唐「公孫勝殿がですか?」
公「あれほどの才を眠らせ続けるしかないとは、惜しいものだよ」
劉「一体どんな奴なんですか?」
公「お前も知っている」
劉「はい」
公「薛永だ」
劉「薛永?」

公「行軍をもろともしない脚力」
劉「薬探しの賜物ですな」
公「闇夜をものともしない視力」
劉「はい」
公「崖を容易く降る指の力」
劉(薬探し凄えな)
公「燕青を打ち倒すほどの気の活用」
劉「…」
公「毒の効きづらい体質」
劉「あ、強い」

公「薬を作る時の一挙一動にも微塵の隙も無かった」
劉「私もスカウトしたくなりました」
公「だが駄目だ」
劉「それは?」
公「人を殺すのが苦手だそうだ」
劉「…」
公「言わんとすることはよく分かるぞ、劉唐」

・公孫勝…死域の燕青を背後から殴れるか、お前?
・劉唐…俺が死域に入っても、分が悪いと思います。

・薛永…いやいや私なんて…と照れながら、公孫勝の死角を取る身のこなし。

遊撃隊

遊撃隊…史進をリーダーに据える、歩兵と騎兵をバランスよく配置した機動部隊。史進がリーダーなだけに、兵隊の質もおそらく…

人物
史進(ししん)…裸の大将。そう言われる所以は14巻に詳しいが、早い話が全裸で暴れた。
鄒淵(すうえん)…猟師であること以上の紹介が難しい。IQは史進より気持ちちょい下。
陳達(ちんたつ)…史進との付き合いが長い。多分IQが史進と近似していたから配属されたはず。

脇役
李逵(りき)…梁山泊のおふくろ。料理が得意で梁山泊の漢たちの胃袋を根こそぎつかんでいる。同じくらい得意なのは斧で敵の首を飛ばすこと。
杜興(とこう)…もともと李応の執事だったのが、何を血迷ったか、梁山泊一のバカぞろい部隊副官に配属されてしまった。でも最近はまんざらでもなくなった様子。
李俊(りしゅん)…水軍のお頭。塩を扱ってたから、いろいろしょっぱい。

李瑞蘭(りずいらん)…史進ご指名の女の子。全年齢対象なので、詳細は割愛する。

13
史進「モテる男は辛いな。鄒淵」
鄒淵「李瑞蘭からか?」
史「他の女からもしこたま貰った」
鄒「懲りない野郎だ」
史「気の毒だから一つやる」
鄒「いらん。俺にはとっておきがある」
史「誰から?」
鄒「李逵だ」
史「李逵?」

鄒「お前は知らんかもしれんが」
史「おう」
鄒「石梯山の兵は皆李逵を母だと思っていた」
史「そうなのか」
鄒「去年のバレンタインでも全員に配ってくれてな。控え目に言って美味すぎた」
史「ふむ」
鄒「数より質を選ぶのだ。俺は」
史「知ったような口を」

鄒「ところで史進」
史「なんだ」
鄒「お前。今日は素っ裸で帰らなかったのか?」
史「馬鹿を言うな。しっかり着て…」
鄒「どうした」
史「下が」
鄒「忘れたのか?」
史「…」
鄒「乱雲に乗っていたんだろ?」
史「気づかなかった」
鄒「すげえものを見た」

史「どうしよう」
鄒「俺に聞くな」
史「取ってきてく…」
鄒「断る」
史「命令…」
鄒「杜興に言いつけるぞ」
史「調練で覚えてろよ」
鄒「待て。今外は風が」

李俊「風が、俺を遮った」
鄒「手遅れだったか」

史進…やはり下は履かないに越したことないな。
鄒淵…遊撃隊は上から下まで変態しかいねえよ…

李俊…俺も仕事柄裸になることは多いが、下は隠すぞ。

騎馬隊&遊撃隊

14
陳達「宴会を始める前の注意をさせてもらう」
扈三娘「はい」
陳「史進は脱ぐ」
扈「はぁ」
陳「鄒淵も脱ぐ」
扈「…」
陳「杜興は絡む」
扈「…」
陳「頃合いで合図を出すから帰ってもいい」
扈「…」
陳「犠牲になる馬鹿は俺だけで十分だ」
索超「苦労してるな」
馬麟(お前もな)

林冲「おい九紋竜。お前の竜に酒を飲まさなくてもいいのか」
史進「よくぞ言ってくれた林冲殿。鄒淵、酒だ」
林「鄒淵、九杯もってこい」
「www」
陳(脱ぐぞ)
索(合図だ)
馬(林冲殿やっぱ馬鹿だな)
扈「…」
陳(なぜ俺をおいて帰らない)
索(俺達は、陳達を残して帰るよりも、馬鹿でいたいんだ)

林「一杯目」
史「痛い、林冲殿。棒で打たれるのと同じくらい痛い」
林「二杯目」
鄒淵(酒を浴びた所が打ち身みたいになってやがる…)
林「出林竜にも一杯」
鄒「痛え!マジで痛え」
索「www」
扈「…」
馬「何を凝視している、扈三娘」
扈「史進殿の竜に名前をつけていました」
馬「ほう」

史「もう辞めてくれ、林冲殿。鄒淵が失神した」
林「酒を飲めてないお前の竜が泣いているぞ」
扈「今泣いている竜を哭竜」
馬「柩に入ってそうな竜だな」
史「安道全に言いつけるぞ」
林「それがどうした」
扈「苦悶している竜を苦悶竜と名付けました」
馬「もう史進の渾名でいいのではないか」

陳達…本当の馬鹿だ、こいつら…
索超…絶妙な席を確保し、笑うだけの高みの見物。
馬麟…史進の芸は三竜、だな?
扈三娘…馬麟殿?

林冲…史進曰く、おちょこから酒をかけるられたダメージが、急所の一点に凝縮されていたらしい。
史進…林冲によるアルハラとパワハラ案件で文治省相談窓口に行ったが、扈三娘へのセクハラ案件を指摘された。
鄒淵…謎の打ち身だらけの身体に、安道全は小首をかしげた。

郁保四…杜興に延々と絡まれてた。

二竜山

二竜山(にりゅうざん)…梁山泊兵士養成施設。二竜山の他に、清風山(せいふうざん)桃花山(とうかざん)がある。二竜山を合格したら梁山泊の本体に行けるシステムなので、早い話が二軍である。
なおハードカバー版では白虎山(びゃっこざん)という原典ネタがあったが、文庫版でカットされた。

人物
・楊志(ようし)
…二竜山の大将。生粋の不幸体質だが、嫁と養子をゲットしてから運気はうなぎ登りした、と思っていたんだ。
・石秀(せきしゅう)…致死軍から二竜山に無償トレードに出された、致死軍良識派筆頭。なぜほかの水滸伝の自分はホモなのか燕青にこぼしたら、嫌な顔をされた。
・周通(しゅうとう)…二竜山の将校。ヘタレだがやるときはやれる、と思い込んでいる節があるヘタレ。楊志と石秀が凄すぎて、一般兵の目標にされるが、それはなめられているのではないか。
・秦明(しんめい)…二竜山の大将。戦の手腕や人格面での評価はピカイチだが、中学生以下の恋愛観を持つピュア爺。
・花栄(かえい)…二竜山の副官。さっき出てきた弓の名手。イケメンと弓の名手ってのは相性がいいけど、エルフではない。
・郭盛(かくせい)…二竜山の兵士。楊令の世話係。むしろ楊令が郭盛の世話係なのではないかという懸念が、会議の議題に上がりひやひやしたそうだ。
・楊令(ようれい)…梁山泊のマスコット。楊志の養子。ギャグではない。しゃべったりしゃべらなかったりするのは、ある問題を抱えているからで、それは原作を読んでください。

脇役
・済仁美(さいじんび)
…可愛くて可憐な楊志の嫁。楊志の惚気自慢を遮ることは許されない。
公淑(こうしゅく)…秦明の想い人。二竜山全員にバレバレだが、肝心な二人は気づいていないと思い込んでいる。健気や。

15.
石秀「楊志殿。ご家族との団欒をインスタにアップするのやめてください」
楊志「…」
石「どれほど隠れ家探すのに難儀しているか…」
楊「分かった」
周通「楊志殿。大変だ」
楊「どうした?」
周「済仁美殿の店を炎上…」
楊「行くぞ、石秀」
石「はい」
周「…させようとしてる奴がいる。Twitterで…」

・楊志…勢い余って済仁美の部屋と間違えて、したたか中の客の部屋に突撃してしまった。
・石秀…こういう大人になってはならんぞ、楊令。
・周通…今でも済仁美に憧れているが、楊志と幸せそうにしている顔を見ると心からホッとする。

16.
郭盛「正気か、楊令」
楊令(コクリ)
郭「確かに俺はお前との勝負に負けた」
楊「…」
郭「やれと言われれば、やる。しかし腹を据えさせてくれ」
楊「…」
郭「よし。行くぞ、楊令」
楊(コクリ)
郭「秦明殿の公淑殿への想いを遂げさせに」
楊「骨は拾ってやる」
郭「喋った?」

郭「肝心な策だが」
楊「…」
郭「二人が曲がり角で鉢合わせするシチュエーションを作り出すのはどうだ?」
楊「…」
郭「あるいは公淑殿のハンカチを秦明殿の所にこれ見よがしに落としてみるとか」
楊「…」
郭「どうだろう?」
楊「…先が思いやられる」
郭「ちょいちょい喋るな、お前」

楊(あれを見ろ)
郭「あれは、秦明殿と花栄殿だ」
花栄「ところで秦明殿は」
秦明「なんだ」
花「公淑殿と進展はないのですか?」
秦「馬鹿者!」
郭(秦明殿の平手)
楊(!)
郭(顔を真っ赤にして駆けていく)
楊「…」
郭「こういうのって女がやるものだと思っていたが」
楊「…」
郭「乙女だな、秦明殿」

郭「どうする、楊令」
楊「…」
郭「まだ続けるか?」
楊「…」
郭「花栄殿の介抱をするか?」
楊「…」
郭「稽古するか?」
楊(コクリ)
郭「俺もそうしたいと思っていた」
楊「…」
郭「俺はど真ん中で死にたいと思っているのだが」
楊「…」
郭「こんな所では死ねないな」
楊「死ぬなよ、郭盛」

・郭盛…楊令と将棋で負けたのだ。
・楊令…(郭盛のど真ん中飛車戦法は分かりやすいからな)

・秦明…赤面して全力疾走した直後に公淑とばったり出くわし、脳卒中になりかけた。
・花栄…雷に打たれたような衝撃は、今なお健在か…

公淑…お風邪ですか?秦明様?

双頭山

双頭山(そうとうざん)…梁山泊の北の拠点。朱仝(しゅどう)雷横(らいおう)コンビ時代と董平時代で雰囲気がガラッと変わった。コンビ時代と董平時代の兵のギャップ解消が喫緊の課題。

人物
董平(とうへい)…双頭山大将。槍を二本使う。一本で良くね?
楽和(がくわ)…歌が上手すぎる。他は普通。良くも悪くもお姉ちゃん似。
孫立(そんりつ)…楽和のお姉ちゃんの旦那。ヘタレ挽回を目指すもいかんせんヘタレ。
鮑旭(ほうきょく)…クソ真面目な元バーサーカー。条件を満たすと復活するらしい。
宋清(そうせい)…クソ真面目。鉄の扇はツッコミ用 。

17.
董平「梁山泊で一番歌が上手いのは楽和だ」
楽和「ありがとうございます」
董「では、二番目に上手いのは誰だと思う?」
楽「さあ」
董「孫立か?」
楽「いや、ないですね」
董「鮑旭?」
楽「違うでしょう」
董「宋清」
楽「ありえないと思います」
董「否定が強いな」

楽「歌が一番上手い私からすれば、むしろ私より上手い奴を探していただきたいですね」
董「すごい自信だ」
楽「武芸も兵の指揮も平凡より少し上手くても、歌だけは負けられません」
董「しれっと盛ってきたな、楽和」

董「楽器はどうなのだ?楽和」
楽「概ねいけますよ」
董「実は俺もいけるのだ」
楽「嘘をつかないでください」
董「違う世界では双槍将に風流がつくのだぞ、俺は」
楽「でもそれって」
董「なんだ」
楽「ネタですよね?」
董「刺し殺すぞ」

董平…俺のドラムさばきを見ても同じことが言えるのか?
楽和…いつか私達でバンドを組みましょう。

流花

流花寨(りゅうかさい)…弓の名手花栄が大将の拠点。宋国の首都を直接攻撃することが目的で作られた、超攻撃型の特性を持つ。花栄的にはディフェンスの方が自信があった。

人物
・呂方(りょほう)
…将校。郭盛と同じ方天戟という武器を使う。三国志の呂布が大好き。
・郭盛(かくせい)…将校。楊令のお守りから彼も成長し、各地を転々としているのである。

・呉用(ごよう)…梁山泊が誇るしまった軍師。しまったを卒業できるときは来るのか。
・方臘(ほうろう)…今は多くを語るまい。

18.
郭盛「やい呂方」
呂方「なんだ」
郭「明日の天気は?」
呂「知らん」
郭「気配で分かるのではないのか?」
呂「お前も経験があるだろう?」
郭「なんの?」
呂「欲しい食玩のおまけだけ妙に当たらないことが」
郭「それとなんの関係が?」
呂「俺の予知はそれと同じなんだよ」
郭「ふむ」

呂「物欲センサーという言葉がある」
郭「おう」
呂「欲しい物に対して物欲を持てば持つほどかえって手に入らなくなるというあれだ」
郭「馴染みが深いな」
呂「だから俺も予知ができる、当てることが出来ると思えば思うほどかえって外れるものなのだ」
郭「なるほどな」

郭「しかし、あれだな」
呂「なんだ」
郭「お前の予知は世が世なら教祖として祭り上げられる代物なのではないか?」
呂「まさか〜」

呉用「方臘は天気を予知したり、人が来る気配を読むことが巧みでな。信者が集まったのもそれがきっかけだったという」
郭盛「⁉︎」

・郭盛…靴を放り投げて裏だと雨なのか?
・呂方…雨の前日は、匂いがするんだよ。

・呉用…方臘にいた頃は、あまり思い出したくない。今でも信徒の声がするから…

養生所&薬方所

養生所&薬方所…梁山泊が誇る神医安道全先生と、薬屋さん薛永による医療チーム。お互いコミュ障だから、事務局の白勝のいるタイミングで診察に行った方が絶対にいいよ。

人物
・呉用(ごよう)
…しまった軍師だってば。
・白勝(はくしょう)…コミュ障揃いの梁山泊職人集団の中に紛れてしまった、唯一のコミュ充。彼の根回しとマネジメントによって、職人仕事はなりたっている。
・燕青(えんせい)…イケメンチート。諸事情によって、巨体のご主人を担いでやってきたことがある。
・薛永(せつえい)…薬屋さんだけど、実は剣の使い手。あいにく人を斬るのが苦手で役に立つことはめったにないが、その修業は無駄ではなかった。

脇役
晁蓋(ちょうがい)…イケイケ型の梁山泊首領。
・林冲(りんちゅう)…バカ。
・安道全(あんどうぜん)…医療バカ。
・公孫勝(こうそんしょう)…笑い声が変。
・柴進(さいしん)…セレブ。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…100Kg以上あるのは、仕事のストレスによる暴飲暴食に他ならない。

19.
呉用「いつもすまないな、白勝」
白勝「用法用量は守ってくれよ、呉用殿」
呉「やれやれ」
白「どうしたんだ」
呉「晁蓋殿がわがままを言って」
白「晁蓋殿が?」
呉「いかん。忘れてくれ、白勝」
白「分かるぞ、呉用殿。よく分かる」
呉「ん?」
白「俺の友達はわがまましか言わん」
呉「確かに」

白「三歩歩くと忘れる林冲」
呉「そうだな」
白「パワハラ常習犯安道全」
呉「まあな」
白「ひとり人体実験薛永」
呉「やばいな」
白「中々のもんだろう?」
呉「凄いな。白勝」

白「呉用殿の方はどうなんだ?」
呉「ここだけの話だぞ、白勝」
白「のった」
呉「脳筋首領晁蓋殿」
白「うわあ」
呉「冷徹ゴリラ公孫勝」
白「ひどい」
呉「ゆとり王族柴進」
白「性格悪いな、呉用殿」
呉「お前もな、白勝」

・呉用…意外と私達、気が合うかもしれんな。
・白勝…お互い、厄介者取り扱い免許もってるもんな。

20.
燕青「忙しいところ呼び出してすまない」
薛永「いえいえ」
燕「どうしても聞きたいことがあったんだ」
薛「はあ」
燕「私が盧俊義様を運んだ時があっただろう」
薛「ありましたね」
燕「あの時薛永が私の頭にしたたかに丸太を打って止めてくれたと聞いた」
薛「ごめんなさい」
燕「どうやったんだ?」

薛「必死だったもので」
燕「私もあの後立合いを数多く繰り返したんだが」
薛「はあ」
燕「後頭部はおろか、かすり傷一つつかない」
薛「」
燕「その気の殺し方を」
薛「燕青殿、失礼」
燕「⁉︎」

燕(今の薛永が刺客の動きだったら、私は死んでいた)
薛「失礼しました。燕青殿の背後の野草が気になったもので」
燕「野草」
薛「この野草は〜」
燕(口調が早いな)
薛「失礼。それで、何の話でしたっけ」
燕「いや、もういい。少し分かった」
薛「はあ」

・燕青…私ではなく、薬草に気を向けて動いたから気づけなかったのかな。
・薛永…丸太は李雲に作ってもらった特注品。万が一のときのために毎日素振りしてる。

工房

工房…大工さん、鍛冶屋さん、船大工さんらが元気に働いている職人ゾーン。納期の話を持っていくときは慎重を極めよう。

人物
盧俊義(ろしゅんぎ)…生粋の無茶ブリスト。これからもっと振り回される奴が出てくるかもしれない。
李雲(りうん)…大工さんのリーダー。今回の仕事で諸々の仕事が1週間遅れた。
白勝(はくしょう)…こんな苦労をしょっちゅうしてると思う。
燕青(えんせい)…イケメン従者。
欧鵬(おうほう)…流花寨の将校。鉄の槍を武器にするが、もっと個性がないと梁山泊では目立てないかもしれない。
李応(りおう)…重装備部隊の隊長。もともとリッチで凝り性だったからか、攻城兵器の細部に洒落た彫刻を掘らせて納期を破りがち。
凌振(りょうしん)…大砲。

21.
盧俊義「李雲」
李雲「やあ、盧俊義殿。ご用事で?」
盧「この前、空を飛ぶ物でも考えてみようと言ったではないか」
李「はあ」
盧「設計図を書いてみた」
李「こいつは…」
盧「早速作ってくれ、李雲」
李「待て、盧俊義殿」

李「作ってはみたが…」
盧「ありがとう、李雲」
李「素朴な疑問だけどよ」
盧「うむ」
李「飛ぶのか?」
盧「飛ぶ!」
李「いいだろう。あと一つ」
盧「なんだ」
李「誰が乗るんだ?」
盧「それは」

白勝「なんで俺が」
盧「観念しろ、白勝」
李「いい崖があるからな、梁山泊は」
盧「死にはしない。水軍もスタンバイできている」
白「飛ばすならもっといい奴がいるじゃねぇか」
盧「例えば?」
白「撲天鵰とか」
盧「おう」
白「摩雲金翅とか」
盧「燕青」
燕青「かしこまりました」

鴎鵬「何故俺らが拉致されたのだ?」
盧「乗れ」
鴎「無茶を言うな」
李応「面白そうだ」
白「正気か?」
応「実用化できるかも知れん」
鴎「へえ」
応「李雲の設計なら安心だ」
雲「そいつは光栄だが」
応「歯切れが悪いな」
雲「図面は盧俊義殿だ」
応「」
盧「言ったのは李応だ」

応「死にに行ってくる」
盧「行け、李応」
雲(めちゃくちゃいい顔してやがる)
盧「そのペダルを漕ぐのだ」
白「走った!」
盧「おう、おう」
雲「飛ぶぞ」
盧「飛んだ」
鴎「凄えものを」
白「あ、凌振の大砲が…」
雲「直撃した…」
鴎「凄えものを見た…」
盧「おう…」

盧俊義…いつか空を飛ぶぞ。
李雲…大丈夫かと思ったが、まんざらでもなかったな…
白勝…盧俊義に布という布でがんじがらめにされて、崖に突き落とされる夢を見た。
燕青…また心を殺してしまった…
欧鵬…あだ名は摩雲金翅。空を飛ぶ鳥。でも、俺は、空飛べなくていいや…
李応…本人への直撃は間一髪免れたが、その後溺死しかけた。
凌振…試し打ちするのに良い的があったな。

聚義庁

聚義庁(しゅうぎちょう)…ようするに会議室とか首領の部屋とかある建物。たまに宋江がこっそり女を呼ぶことがあるが、音が筒抜けでかなり難儀している。

人物
・宋江(そうこう)…梁山泊首領まったり派。ピュアすぎるハートを持つ心優しい中年男性。
・呉用(ごよう)…しまった、しまった言いすぎだけど、だいたい何とかなるから呉用のおまじないみたいなもんなんだよきっと。
・史進(ししん)…身体に自慢の竜の刺青があるから九紋竜とよばれている。全部見たかったら下も脱がないと見れないのが痛恨のミス。
・関勝(かんしょう)…中年幼稚園児。
・郝思文(かくしぶん)…関勝の副官。巡回の時は関勝にリードをつけるべきかどうか真剣に悩んだという。
・李逵(りき)…板斧を使った技も神業。料理の腕と相まって、もう3人くらいいても良かったと思う。
・彭玘(ほうき)…ナイスミドルな将校。いい感じで力が抜けたおっさん。

22.
呉用「しまった」
宋江「またしまったか、呉用」
呉「またやってしまったのですよ、宋江殿」
宋「あまりお前ばかりが失敗を背負うな」
呉「そうなのですけど」
宋「現場の者が上手く出来ることもあるはずだ。それを信じよう」
呉「そうですね」
史進「宋江殿。例の妓楼のパンフレット貰ってきました」
呉「」
宋「しまった」

・宋江…史進への説教が始まった。
・呉用…何故私が同席する必要が?
・史進…とばっちりにもほどがある…

23.
関勝「おい、郝思文」
郝思文「はい」
関「俺は李逵より子供だと思うか?」
郝「なんですか、突然」
関「とても大事なことだ」
郝「まぁそうでしょうけど」
関「答えろ」
郝「まず言えることは」
関「おう」
郝「私達の配属を決める会議中にする話ではないかと」
李逵「うるせえぞ、関勝」
関勝「」

・関勝…すごいふくれっ面してたら、向かいの穆弘がお茶吹いた。
・郝思文…宣賛と単廷珪と魏定国が他人のふりをしている…
・李逵…ほんとに子どもだな、関勝。

24.
郝思文「彭玘殿」
彭玘「おう」
郝「この度関勝将軍と共に入山した郝思文と申します」
彭「おう、よろしくな」
郝「彭玘殿は次の関勝将軍の副官に配属されたということで」
彭「そう聞いておる」
郝「引き継ぎに参りました」
彭「なんだこの分厚い書類は」
郝「関勝将軍の取扱文書です」
彭「」

郝「関勝将軍は朝にとても弱いです。寝起きを失敗すると~」
彭「」
郝「関勝将軍はおやつがないとすぐに膨れます。調練前に準備したほうが良いでしょう。それから」
彭「のう、郝思文」
郝「なにか?」
彭「だからお前は副官止まりなんだ、と言われたことはないか?」
郝「なぜそれを」

・郝思文…過去何人にそれを言われたことか…
・彭玘…今日は飲みに行こうか。色々聞いてやろう。

文治省

文治省(ぶんちしょう)…梁山泊の事務局。そんなに面白いことはないって。

人物
・秦明(しんめい)…軍人としての力量は半端ない。
蕭譲(しょうじょう)…文字をまねる名手。彼が書類を偽造して梁山泊は物資を仕入れている。仕事の影響で、蕭譲本人の提出書類の字体が毎回変わっていて、偽造を疑われている。
・石勇(せきゆう)…スパイ
・花栄(かえい)…弓

25.
秦明「私の字をここまで真似られるとは」
蕭譲「実はあれから後遺症があってな」
秦「後遺症?」
蕭「私の字が秦明になってしまったのだ」
秦「どういうことだ?」
蕭「何気なく文字を書いたとする」
秦「うむ」
蕭「見てみてくれ」
秦「私の字だ!」
蕭「困るだろう?」
秦「すごく困る。私が」

蕭「どうも文字が力強くなりすぎてな」
秦「うむ」
蕭「偽造書も迫力が違う」
秦「私もここまで力強い証明書は見たことがない」
蕭「石勇が質問されてな」
秦「うむ」
蕭「こんな字を書ける役人がいたら是非連れてきてほしいと懇願されたそうだ」
秦「なんと」
蕭「お前だよ」
秦「書いたのはお前だ」

秦「若い頃の書き方を試してみたらどうだ」
蕭「やってみよう」
秦「…」
蕭「…うむ。程よく力は抜け、端正でしなやかな整った字になった」
秦「これは!」
蕭「どうした?」
秦「花栄の字だ…」
蕭「マジかよ」

・秦明…声で認証される世界になったら、絶対に真似されない自信はあるぞ。
蕭譲…すごくいい加減に書いたら、黄信の字になった。

塩の道

塩の道…梁山泊のお金の源。塩は国有品だから、民間が取り扱うことを禁じられていて、発覚したら即死刑だったんだよ。それを平然とやっているから、梁山泊ってやっぱやばいよね!

人物
・燕青(えんせい)…ハイスペックの源は、盧俊義の無茶ぶり。
・孟康(もうこう)…北の国とのパイプが太い、闇塩と兵站担当者。臆病者で、夜中のトイレに行くのも勇気を振り絞るらしい。

脇役

盧俊義(ろしゅんぎ)…闇塩の統括者。働き方改革など入れてられん。
・李師師(りしし)…宋の都開封府一番の美女。燕青とよろしくしているが、燕青曰く、初めて会った時から顔も体も変わっていないそうな。

26.
孟康「おい、燕青」
燕青「なんだ」
孟「お前、ソシャゲやらないのか?」
燕「やらん」
孟「だと思った」
燕「お前は塩で稼いだ銀をガチャなんぞに費やしているのか?」
孟「良識の範疇だ」
燕「やるならば、もっと生産的な」
孟(また説教だ)
燕「家庭用ゲームにしろ」
孟「そっち?」

燕「盧俊義様の家には概ね揃っていてな」
孟「羨ましい」
燕「かく言う私もよく盧俊義様と二人プレイをしたものだ」
孟(そっちじゃない方だよな)
燕「ただ既存のソフトでは事足りなくなってな」
孟「それで?」
燕「自作も試みたんだが」
孟「うむ」
燕「やってくれる人がいなかった」
孟「燕青、なぜ俺に?」
燕「なぜかな」

孟「そんなのいくらでもやってやるというのに」
燕「本当か!」
孟(こんないい顔をした燕青は見たことがない)
燕「どれをやる?今は移動中だから携帯ゲームがいいよな」
孟(心なしか口調が早い)
燕「一番の自信作は」
孟「おう」
燕「ポケット○ンスター梁山泊・宋」
孟「アウトだ」
燕「なぜ」

孟「お前、プレイ時間がカンストしているぞ」
燕「合間を縫ってやっただけだが」
孟「お前の合間とは?」
燕「盧俊義様の世話」
孟「うむ」
燕「闇塩の仕事、体術の稽古、笛の稽古」
孟「…」
燕「馬術の稽古、書見の時間、屋敷の掃除や馬の世話もあるな」
孟「…」
燕「あと、李師師の妓館の通いに…」
孟「馬鹿か?」

・燕青…睡眠を削りに削れば、捻出できるぞ。
・孟康…自作ゲームの完成度の高さはさすが燕青だと思った。

盧俊義さん家

盧俊義さん家…北京の大商人が表の顔の盧俊義さん。色々家に仕掛けがあるはずだ。

人物
・盧俊義(ろしゅんぎ)…ナチュラルパワハラー。悪気はないけど振ってくる仕事は致死量を軽く超えている。
・燕青(えんせい)…短所がないのが短所。私生活では意外と隙が垣間見える。
阮小五(げんしょうご)…心技体のバランスが良い、阮三兄弟の次男。器用すぎて平時は退屈してるかも。

27.
盧俊義「燕青」
燕青「はい」
阮小五(いつ見ても生々しいな)
盧「燕青」
燕「かしこまりました」
五(おまけにタチが悪いのは)
盧「燕青」
燕「ただ今」
五「二段目の引き出しの隅だろう?盧俊義殿」
盧「︎」
燕「何故それを」
五「覚えちまったんだよ」

盧「帳簿の場所は」
五「卓の下」
盧「担当者の名簿は」
五「背後の棚の左端、ではないかな」
盧「おう、おう」
燕「さすがですね」
盧「では、私と燕青のおもちゃ箱は」
燕「!」
盧「」
五「!?」
燕「盧俊義様は、お疲れのようだ」
五「今殴った?」

・盧俊義…いつから寝床にいたかな?
・燕青…他言しないよう…
阮小五…言うまでもねえ。

28.
阮小五「燕青よ」
燕青「なんだ」
五「お前ほどの男が、盧俊義殿の従者でいいのか」
燕「仕事だ」
五「お前はもっと使える男だと思うのだ」
燕「余計なお世話だ」
五「…弱みでも握られているのか?」
燕「馬鹿を言え」
五「幼少の頃、寝小便の癖があったとか」
燕「」
五「…図星か?」
燕「殺すぞ」

盧俊義「見事だ、阮小五」
燕「盧俊義様」
盧「燕青の秘められた過去を今解き明かそう」
燕「やめてください。本当にやめてください」
五(取り乱してる)
盧「おねしょパンツを12まで履いていたことは内緒に」
燕「やめろ」
盧「」
五(うわあ)
燕「盧俊義様は、お疲れだ」
五(盧俊義殿を、片手で)

・盧俊義…いつから寝床にいたかな?
・燕青…決して、他言しないよう…
阮小五…分かってるっての。

王英と扈三娘さん家

王英と扈三娘さん家…普通のお家。お互いハードワークなため、ひどく殺風景。王英のHな本の処理に苦労したと楊林は言う。

人物
・王英(おうえい)…夢にまでに見た扈三娘との結婚生活も、ふたを開けてみたら…
・扈三娘(こさんじょう)…家は寝るところなんで、王英がいようといなかろうと関係ない。
・楊林(ようりん)…王英の変わりようを見て、結婚とは何かを真剣に考え始めた。

脇役
・白寿(はくじゅ)…王英の不倫相手。実は王英よりも、扈三娘と仲良くなれる素質があった。
・林冲(りんちゅう)
…扈三娘の上司。産休ってなんだ?
・公孫勝(こうそんしょう)…王英の上司。結婚ってなんだ?

29.
扈三娘「王英殿」
王英「なんだ」
扈「ホワイトデーを知っていますか?」
王「白寿のことか?」
扈「白寿?」
王 (しまった)
扈「それは人の名ですか?」
王「まずは剣をしまえ、扈三娘」

扈「ホワイトデーと白寿という人と何の関係が?」
王「それは」
扈「それは?」
王「公孫勝殿の」
扈「公孫勝殿?」
王「お祖母様がいらしてな」
扈「はい」
王「まだご存命で、白寿を迎えるそうだ」
扈「はあ」
王「その日を飛竜軍ではホワイトデーと呼んでいるのだ」
扈「…」
王「剣をしまえ」

扈「林冲殿が」
王「林冲?」
扈「バレンタインデーを公孫勝殿から聞いた、とおっしゃっていたのですが」
王「本当か?」
扈「はい」
王「これは俺の推測だが」
扈「はい」
王「きっと林冲と公孫勝の記念日の符牒なんじゃないか?」
扈「なるほど!」
王 (納得しやがった)

王「という事があったのだが、楊林はどう思う?」
楊林「死ねばいいと思う」

・王英…油断したら死にかけるスリルがたまらねえんだ、こりゃ。
・扈三娘…馬麟にその話をしたら、何も言わず肩を叩かれた。

・楊林…いつか死ぬぞ…

牢屋

牢屋…色々あって林冲が入った牢屋と囚人たち。1巻の名場面だからぜひ読んでほしいな。

人物
・林冲(りんちゅう)…この頃から体力を持て余していた。
・安道全(あんどうぜん)…この頃から病気のことしか考えられない病気にかかっていた。
・白勝(はくしょう)…この頃からコミュ障相手の通訳を担当していた。

30.
林冲「白勝」
白勝「はいよ」
安道全「白勝」
白「棚にしまってあるよ」
林「白勝」
白「明日まで待っててくれ」
安「白勝!」
白「棚にしまったって」
林「白勝!」
白「砥石は渡したばっかじゃねぇか」
牢番「会話か?」

白「林冲。この薬草はほったらかしにするなと言われただろう」
林「小刀が目を覚ましそうなんだ」
白「安先生。せっかく作った薬湯をこんなところに置いといたら、またぶちまけちまうぞ」
安「書き物が忙しいんだ」
白「やれやれ…」
牢「今度一杯誘ってやろう」

・林冲…白勝!
・安道全…白勝!
・白勝…これで分かる俺も大概だぜ…

鄆城

鄆城…宋江のお家がある地名。ここから色々始まるよ。

人物
・宋江(そうこう)…なんちゃって小役人をやっていた。
・朱仝(しゅどう)…なんちゃって軍人Aをやっていた髭自慢。
・雷横(らいおう)…なんちゃって軍人Bをやっていた作者の推し。かっこいいよ!
・武松(ぶしょう)
…なんちゃって従者をやっていた、根暗な宋江のボディーガード。

31.
雷横「いつ見ても朱仝の髭は長いよな」
朱仝「またその話か」
宋江「話題が無くなると、雷横はいつもこうなるな」
雷「首元が寒い。髭を貸せ、朱仝」
朱「やめろ、雷横」
宋(今、伸びなかったか)

雷「さすが朱仝の髭だ。温もりが違う」
朱「しょうがない奴だ」
宋(いいのか?)
雷「やめろ、朱仝」
朱「何を言っている、雷横」
雷「締まってる、締まってる」
朱「いかん。結び目が」
宋(ええ)

朱「宋江殿、髭を斬ってくれ」
宋「出来るわけなかろう、そんなこと」
朱「俺は友を殺すくらいなら、死を選びたい」
宋「死にはしないだろう」
雷「愉しかったな」
朱「早くしろ、どうなっても知らんぞ」
宋「雷横!」

朱「なにを考えている、武松」
武松「なにも」

・宋江…やはり、我々は惹かれ合う何かがあるんじゃないだろうか…
・朱仝…髭に何か隠してるんじゃないかって?それを見た時お前はもう…
・雷横…朱仝と一緒に銭湯行った際、自分が身体洗って湯船使って出る所なのに、まだ髭を洗っていた。
・武松
…真顔で沈思する姿はさながら行者だが、妄想してるだけ。

雄州

雄州(ゆうしゅう)…関勝が将軍やっているところ。軍事や治安維持は優秀だけど、住人から生暖かい目で見られることも多々あるとか。

人物
・関勝(かんしょう)
…青龍偃月刀という武器を使うからあだ名は大刀(だいとう)。かくいう自分は郝思文に大鉈を振るわれて泣くことが多い。
・宣賛(せんさん)…顔を壊された元イケメン軍師。関勝と将棋をすると、自分でも気持ち悪いくらい関勝の手が読めてしまうとか。
・郝思文(かくしぶん)…副官。子供が二人いるが、まさかこの年になって生涯一番手がかかる子育てを経験するとは思わなかったという。
・単廷珪(たんていけい)聖水将(せいすいしょう)という渾名だけど泳げない時点で破綻していることに気づいていない。
・魏定国(ぎていこく)神火将(しんかしょう)という渾名はネット上のことが由来ではない。
・金翠蓮(きんすいれん)…散々苦労して、宣賛のところに嫁いだ心優しい女性。でも宣賛のノリを会得しつつあり、関勝はしょっちゅう冷や汗をかいている。

32.
関勝「やめろ、宣賛」
宣賛「観念しろ、関勝殿」
関「全部いるものなんだ」
宣「構わんぞ、金翠蓮。恩返しだと思って心を込めてやるのだ」
関「やめてくれ、頼む」

魏定国「関勝殿が泣き叫んでいるのは?」
単廷珪「郝思文殿が見かねて、ハウスクリーニングを依頼したらしい」

金翠蓮「これはいるものですか?」
関「いる」
宣「物の処分の決定権は全て私にあるから私に聞くように」
関「なんだと」
宣「郝思文たっての依頼でした」
関「許さんぞ、宣賛」
宣「恨むなら郝思文を恨んでください」
関「頼む、金翠蓮殿。この路傍の石コレクションだけは捨てないでくれ」
宣「帝か」

金「宣賛様」
宣「これは」
関「もう勝手にしろ」
宣「そうする訳にはいかない代物が出てきましたよ」
金「開封府宛の書類が」
関「放っておけ」
宣「郝思文が三徹で間に合わせた代物」
金「提出期限は三月過ぎてますね」
関「しまった」

・関勝…翌日会った郝思文と目を合わせられなかった。
・宣賛…郝思文にチクったら、卒倒した。
・金翠蓮…陳娥様に心のケアをお願いしておきます。
・単廷珪…俺らの俸給に関わる査定も含まれてたらしいぞ。
・魏定国…嘘だろ?

33.
宣賛「春ですね」
関勝「春だなあ」
宣「めっきり暖かくなって」
関「うむ」
宣「生き物の息吹を感じるこの季節が」
関「うむ」
宣「大嫌いです」
関「そんなことだろうと思った」

宣「花粉症って奴は関勝殿でも倒せないんですか?」
関「倒せん」
宣「関勝殿も花粉症になりませんか?楽しいですよ」
関「確かに、お前の蠢いてる頭巾を見てる分には楽しい」
宣「私の鼻が垂れる過程を生で見ます?」
関「宣賛。言っていいことと悪いことがあるぞ」
宣「これは言っていいことです」

金翠蓮「駄目ですよ宣賛様、関勝殿を困らせるようなことを言ったら」
関「全くだぞ、宣賛」
宣「この苦しみを分かち合える奴がいない者か」

呉用「ハクション」
晁蓋「どうした、呉用。風邪か?」

宣「しかしあれですな」
関「なんだ」
宣「馬鹿は風邪をひかないという言葉を書で読みましてな」
関「何が言いたい」
宣「花粉症は風邪ではなく、体内の抗体が拵える病だそうで」
関「ふむ」
宣「私ほど智慧を蓄えるとそれが体内で悪さをするのではないかと」
関「もうやめろ宣賛。馬鹿に見えるぞ」

・関勝…この庵の近くは花粉が飛び交うな。
・宣賛…私の爪の垢を煎じて飲みたいくらいなら、使用済み頭巾を贈呈しますよ。
・金翠蓮…それはないです、宣賛様。

・晁蓋…頭巾でもしてみるか?
・呉用…万が一することがあったら考えてみます。

芒碭山

芒碭山(ぼうとうざん)…作中でこの名は出ないが、このトリオを総括するならこの名になるだろうさ。

人物
・樊瑞(はんずい)
…妖術と勘違いされるほどの身体能力の持ち主。
・項充(こうじゅう)…飛刀の命中率はピカイチだが、発言が的を射ることは非常にまれ。
・李袞(りこん)…槍を投げるのを特技にしたかったけど、いかんせん重すぎて断念した。

・燕青(えんせい)…非モテからの怨嗟の声が夜な夜な聞こえてくるのではないかな。

34.
李袞「盧俊義の従者の燕青という奴と出会った」
項充「おう」
李「まず顔がとても良い」
項「うむ」
李「俺が話にならないレベルで強い」
項「強い」
李「文字が読めて当たり前で、頭が良い」
項「頭も良い」
李「さらに笛の達人」
項「もう辞めろ」

李「片や俺達だが」
項「うむ」
李「顔は中の下」
項「悔しいがな」
李「賊をやっつけられるくらいは強い」
項「そうだ」
李「文字は名前くらいならなんとかなる」
項「そんなもんだ」
李「芸術など分からん」
項「分からん」
李「どうしてこうなった」
項「知らん」

李「発想を転換して、燕青になくて俺達にあるものを探そう」
項「よしきた」
李「自慢の弟分」
項「飛刀の腕」
李「俺達の山」
項「後は…」
李「俺らのような兄弟、ではないかな」
項「良いことを言うな」

李「きっと賢いやつは賢いやつの悩みがあるのだろうな」
項「そうだな」
李「俺達は俺達で梁山泊でできることをしよう」
項「その通りだ」
樊瑞「なんの話をしている?」
項「俺達は俺達で梁山泊でできることをしよう、という話さ」
樊「なるほど。部下に三昼夜駆け通させるとか、そういう話だな」
李「違う」

・樊瑞…なぜ俺は妖術使いに間違われると思う?
・項充…肉眼でとらえきれない腕立て伏せをするからではないか?
・李袞…光のような速さで間合いを詰めるからではないか?

宋(そう)…北宋末期が水滸伝のタイムライン。どうしようもない連中と、とんでもない連中の差が激しすぎる。

青蓮寺

青蓮寺(せいれんじ)…宋のとんでもない連中が揃いに揃っている諜報組織。CIAみたいな感じ?その実態はワーカーホリック養成施設とも名高いほどの、激務激務&激務の過酷な環境。働き方改革の導入を検討中。

人物
・袁明(えんめい)…青蓮寺総帥。梁山泊の巨大な敵として立ちはだかる。ぶっちゃけ梁山泊に行きたかった気がしなくもなかった。
・李富(りふ)…青蓮寺幹部。生粋のワーカーホリック。休みなんていらないし、家に帰らないのも青蓮寺に住んでいるから。おかしい。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…青蓮寺幹部。色々あって義足。李富に比べたら、定時で帰るし、遊ぶのも好きだし、PCはMac使ってるし、と一際の異彩を放つが、アゲインストが吹き止まない。
・呉達(ごたつ)
…ほぼモブ。元軍人。
・蒼英(そうえい)…モブA
・何恭(かきょう)…モブB
・洪清(こうせい)…袁明の従者。体術が超強い爺さん。気づくか気づかれないかのぎりぎりのラインを行く茶目っ気がある。
・呂牛(りょぎゅう)…聞煥章の抱えるスパイ。聞煥章はいい遊び相手でもあり、罵り相手でもあり、おもちゃでもある。
・呂英(りょえい)…呂牛の息子、らしい。この頃はくそまじめだったけど、情報屋はくそまじめではやってられなかった。
・文立(ぶんりつ)…聞煥章のボディーガード。くそまじめ。
・沈機(しんき)…李富の年上の部下。李富にインスパイアされ、彼も末恐ろしい業務時間を誇るという。早く帰ろうよ。

35.
袁明「陛下に蹴鞠に誘われた」
洪清「…」
袁「運動など生まれてこの方やった事がない」
洪「…」
袁「いや、若い頃に運動はしていたな」
洪「…」
袁「反体制運動を」
洪「…⁉︎」

袁「洪清」
洪「はい」
袁「蹴鞠は」
洪「…」
袁「鞠を蹴るのだな」
洪「はい」
袁「それだけか?」
洪「それだけです」
袁「それは」
洪「…」
袁「…」
洪「…」
袁「面白いのか?」
洪「さあ」

洪「鞠を落としてはならないそうです」
袁「手を使うのは無しか」
洪「無しです」
袁「足だけか」
洪「足だけです」
袁「…」
洪「…」
袁「すごいな」
洪「慣れです、殿」

・袁明…まず鞠を蹴るところから教えてくれ。
・洪清…体術ばかりやっていたから、球技は意外と苦手だった。

36.
袁明「皆の者」
李富「…」
聞煥章「…」
呉達「…」
蒼英「…」
何恭「…」
袁「明日、蹴鞠を始める」
一同「…」
袁「用意してくるように」
一同「かしこまりました」

袁「李富」
李「はい」
袁「私は蹴鞠の用意をしてくるように、と伝えた」
李「はい」
袁「それがなぜ、陛下が蹴鞠をする事による国庫の損失というレポートを持ってくる事になるのだ」
李「しかし」
袁「お前が言い訳か、李富」
李「まさか袁明様たちと本当に蹴鞠をするなんて夢にも」

聞「お前の悪いところだ、李富」
呉「意外に上手いな、聞煥章。義足とは思えん」
袁「…」
何「今…」
蒼「鞠が落ちてから、キックを…」
袁「…」
呉(がんばれ…)
聞(マジがんばれ、袁明様)

・袁明…キックが初めて上手く行った時、全員が拍手した。
・李富…仕事体力は無尽蔵。運動体力は1刻もたずに息切れ。
・聞煥章…パラリンピックの蹴鞠代表を目指そうかな。
・呉達
…元軍人だけあって、運動は得意。
・蒼英…たまには外で身体を動かすのもよいですな。
・何恭…高俅の手の者が嗤ってますよ…

37.
聞煥章「高俅の身辺調査。ご苦労だった」
部下「はい」
聞「下がっていい」
下「それが」
聞「なんだ」
下「実は高俅の手の者に捕まり」
聞「迂闊な奴め」
下「こんな物を渡されました」
聞「文?」
高俅「わしの収賄をバラすなら、青蓮寺の未払い残業代について陛下に奏上する」
聞「」

・聞煥章…そこをつかれると痛いが、マジで払ってほしい。
・高俅…銭は潤沢だからな。わが軍は。

38.
職員A「高俅軍の事務職の資料を取り寄せてしまった」
職員B「けしからん」
A「俺も悔しかったんだが、ここを見てくれ」
B「定時帰宅推奨?嘘をつくな」
A「それがほとんどのやつが定時で帰っている」
B「嘘だろ」
A「残業代も申請すればかならず出る」
B「それは」
A「しかも残業は1日4刻まで」
B「制限されているだと?」
A「どうする」
B「いや、しかし」

A「高俅将軍が収賄で建てた別荘があるだろ」
B「あれな」
A「噂によると、あれ部下のための保養施設らしい」
B「」
A「気を断つな」
B「もういい。履歴書と職歴書を書こう」

李富「最近高俅への諜報が芳しくない」
聞煥章「なんだと」
李「噂によると、青蓮寺を辞めた部下が防諜の仕組みを整えたらしい」
聞(やられた)

・李富…寝返った部下の暗殺を高廉に依頼しよう。
・聞煥章…その前に我らの業務フローを見直さないか?

39.
呂英「父上」
呂牛「なんだ」
英「聞煥章殿より命じられた高俅の諜報の成果について報告に参りました」
牛「…続けろ」
英「成果としてあげられるのは3つあります。1つ目は」
牛「ちょっと待て」
英「なにか?」
牛「…なんでもない、続けていい」
英「申し訳ございません、父上。配布資料を渡し忘れていました」
牛「やはり待て」

牛「その喋り方といい、書類のまとめ方といい、どこで会得したのだ」
英「独学ですが」
牛「独学」
英「何か不明な点でも」
牛「悪いわけではない」
英「はあ」
牛「もっと雑でいい」
英「しかし、仕事はいい加減ではならぬと」
牛「どこで」
英「青蓮寺の新人研修の資料に」
牛「あいつら」

牛「ということがあった」
文立「はあ」
牛「新人研修の資料も取り寄せてみたのだが」
文「…」
牛「新人の洗脳がメインで、実務についてはまるで参考にならなかった」
文「…」
牛「その資料だけ読んで、倅が話し方と書のまとめ方を会得していたわけだが」
文「…」
牛「あいつ俺の子か?」
文「俺の子ではないのは確かだ」

・呂牛…要点も話し方も見事ではないか…
・呂英…これくらい普通ですよ?
・文立…これからの世、武術だけではいけないかもしれないな。

40.
聞煥章「李富、まだ仕事をしているのか」
李富「仕事ではない。梁山泊の記事をスクラップしていたところだ」
聞「そんな事はいいからたまには外に出ろ。買い出しに付き合ってくれ」
李「たまにはいいな」
聞「早く行くぞ」
李「待て。ポイントカードを忘れるな」
聞「集めてるのか」

聞(宋のエナドリは甘味が足りんから嫌いだ)
李(昆布の相場が高いな)
聞(扈三娘が食べそうなスイーツだな)
李(塩の値段も乱れている)
聞「決めたか李富」
李「待て。塩の値段を記録している」
聞「お前というやつは」

聞「仕事のことばかり考えるのをやめろ」
李「癖のようなものだ。気にしないでくれ」
聞「お前がそうだから、部下も気詰まりになっているのだ」
李「」
聞「どうした。李富」
李「使い方が分からん」
聞「セルフレジだ」

・聞煥章…なぜ貯めたポイントを使わんのだ?
・李富…そういうものなのか?

41.
呂牛「青蓮寺はどんな職場だ」
沈機「仕事は息を付く間もないほどある」
呂「だろうな」
沈「過酷な者ほど俸給が高い」
呂「割に合わん」
沈「だが、部下もやりがいを持って国のために全身全霊で働ける組織だ」
呂「それはこの青蓮寺早期離職率のグラフを見ても同じことが言えるか」
沈「これは」

呂「青蓮寺の若い者にアンケートを取ってみた」
沈「勝手な真似を」
呂「李富殿が帰らないから帰れない」
沈「当然だろう」
呂「事務職で入庁したのに、研修で闇の軍の調練を受けさせられ、配属先が高廉の軍になった」
沈「それも人生だ」
呂「書類の内容ではなく、端に数滴こぼれた墨を指摘され、再提出を命じられた」
沈「何がおかしい」
呂「相国寺の市だと李富殿の声が全く聞こえなくて困る」
沈「それはある」

沈「今どきの若いもんは…」
呂「休日は何をしているのだ」
沈「休日?」
呂「最近いつ休んだ」
沈「休み?」
呂「休まんのか?」
沈「二刻前に厠に行ったのは休みに入るのか?」
呂「狂ってやがる」

・呂牛…お前のタイムカードの数字はバグだよな?
・沈機…青蓮寺連続出勤記録保持者。陰で鉄人と呼ばれている。

奸臣

人物
高俅(こうきゅう)…嫌われ者ランキング堂々第一位。ゲス野郎の卑怯者扱いされているが、蹴鞠が上手だったり、欲望に忠実だったりするのって、もしかしてワークライフバランスを取りたかっただけなんじゃないかな。

42.
高俅「今なんと言った」
部下「青蓮寺幹部が蹴鞠をしています」
高「青瓢箪どもが、ようやく蹴鞠の良さに気がついたのか」
下「高俅様の前には児戯に等しい酷いもので」
高「馬鹿者」
下「⁉︎」
高「お前のような者が蹴鞠を始める者の気持ちを挫くのだ」
下「」
高「始めは下手なのが当たり前なのだ」

高「あの歳になって蹴鞠を始めようとする袁明に、わしは心を打たれた」
下「しかし、高俅様」
高「なんだ」
下「今は青蓮寺を襲撃する好機なのでは」
高「お前は何も分かっていない」
下「え?」
高「政と蹴鞠は別だ」
下「どっかで聞いたことありますね」

高「わしは蹴鞠を始める者には優しい」
下「はい」
高「しかし、政では容赦はせぬ」
下「おっしゃる通りです」
高「蹴鞠の足は引っ張らぬが、政ではどんな手でも使うぞ」
下(褒めていいのやら、悪いのやら)

高俅…袁明の練習風景をこっそり覗いてたら、洪清に肩を叩かれた。

元ネタ
水滸伝

twitterにて連載中!

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お読みいただきありがとうございました!

中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!