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水滸噺 20年4月(下)【まだ見ぬかけ算を探して】

あらすじ
豹子頭林冲  竜山子狼牙を磨き
九紋竜史進  双山にて肉体輝く
開封府伏魔殿 創作星解き放たれ
美妓女李師師 同人の筆踊り輝く

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝,楊令伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまでお寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう! 

梁山泊

梁山泊…すっかり春模様。花粉症好漢を除けば、一番調練に励める季節。

騎馬隊

騎馬隊…隊長が人知れず梁山泊を出奔した理由とは?

人物
林冲(りんちゅう)…どの面さげて行けばいいのだ…
索超(さくちょう)…隊長代理の立ち振る舞いに圧倒。
扈三娘(こさんじょう)…飲み込みが早くて油断できないんです…
馬麟(ばりん)…済州のスイーツ屋の情報収集に熱心。
郁保四(いくほうし)…黒騎兵共々、緊張感が二倍増し。

1.
張藍「突撃!」
郁保四「!!」
黒騎兵「!!」

索超「すっかり黒騎兵を部下にされてしまった」
馬麟「武芸も扈三娘に本格的に習い始めたらしい」
索「…馬麟」
馬「…」
索「誰もが気になっていると思うのだが」
馬「どこに行ったと思う?」
索「梁山泊にいないということは?」
馬「桃花山送りだ」

秦明「何事だ、林冲?」
林冲「…」
解珍「文?」
郝思文「読むぞ」
林「…笑うなよ」
秦「なぜ?」
林「笑うなよ」
郝「?」
林「絶対笑うなよ」
解「フリか、林冲?」
林「黙れ」
郝「林冲騎馬隊に相応しくない兵を桃花山で鍛え直すこととする…」
秦「…林冲騎馬隊は?」
林「張藍騎馬隊になった」

鄒潤「林冲殿!?」
楊春「…何事ですか?」
林「何も聞くな、お前ら」
兵「!?」
林「まだここにいたのか、貴様ら」
兵「…俺らと同じ具足?」
林「首をねじ切られたくなかったら、口をきくな」
兵「」
楊「…林冲殿」
林「なんだ」
楊「彼らはあなたと違う」
林「…」
楊「あなたが彼らに合わせてくれ」

張藍…男の方が誰も相手をしてくれなくて…
扈三娘…林冲殿より強い人を相手にしないわ。

郁保四…林の旗よりも重い…
索超…迂闊にしてたら追い抜かれるぞ、俺たち。
馬麟…林冲殿のことは二竜山に任せよう。

林冲…兵卒適正が無さすぎた上に、家庭でまたやらかした。

秦明…公淑にケアをお願いしよう。
解珍…爆笑して林冲に尻を蹴られ悶絶。
郝思文…瑾の稽古をお願いしようかな。
鄒潤…俺は何も言えねえぞ…
楊春…言うべき時は林冲にも言う胆力。

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…いつもはストイックだけど、なんだかんだで一人遊び好きな奴らが揃ってる。

人物
公孫勝(こうそんしょう)…隙あらば博打場に行こうとするが、劉唐に厳しく止められている。
劉唐(りゅうとう)…やるなら俺が胴元になります。
楊雄(ようゆう)…バレなきゃいかさまじゃないんだってな。
孔亮(こうりょう)…いかさましようと思った瞬間に、劉唐にタネを言い当てられ冷や汗。
樊瑞(はんずい)…勘も鍛えている。フィジカルで。
鄧飛(とうひ)…カモがいない時の博打は絶対にしない主義。
王英(おうえい)…清風山でよくやった。欲張って負けるタイプ。
楊林(ようりん)…博打の空気の機微に敏感。

2.
公孫勝「…」
劉唐「欲張りましたな、公孫勝殿」
楊雄「まさか九より下を選んだら十が出たとは」
孔亮「せっかくの稼ぎが水の泡だ」
公「…」
劉「まだやりますか、公孫勝殿?」
公「やる」
劉「何を賭けますか?」
公「孔亮の命」
劉「グッド!」
孔「!?」
楊(なんと)
公「見張れ、樊瑞」
樊瑞「…」

劉「孔亮が水の泡になっちまいましたな」
楊「梁山湖には絶対入るなって、阮小二が言ってましたけど」
公「次は楊雄の命だ」
劉「グッド!」
楊「!?」
樊「逃げるなよ、楊雄」
楊「」
公「スリードラゴン…」
劉「入雲竜、混江竜、九紋竜…」
公「倍増を」
楊「頼みます、公孫勝殿」
公「…」
劉「…」

公「上」
劉「お見事」
公「続ける」
楊(もう降りてくれ…)
樊(公孫勝殿が勝ったら誰が得できるんだ?)
楊(少なくとも俺は死なずに済む)
樊(銭は返ってくるのか?)
楊(もう確認もできん…)
公「…」
劉「六ですな」
公「上」
楊(死んだ…)
劉「四…」
公「…」
樊「楊雄、気の毒だが」
楊「」
公「…」

公孫勝…樊瑞の命も無駄にした。
劉唐…湯は頼んでいたが、全員梁山泊ICUにぶち込まれたか…
楊雄…あの時絶対に四が出ると思った。
孔亮…絶叫が湖畔にこだました。
樊瑞…自慢の肉体すら通用しない冷たさ。

遊撃隊

遊撃隊…組織はリーダーの器以上にはならない。つまりそういう事。

人物
史進(ししん)…馬鹿な事をする時の将校の団結力を思い知る度、正直なんとも言えなくなる。
杜興(とこう)…史進の悪ふざけを愉しみにしている自分に気づいた夜は涙が止まらなかった。
陳達(ちんたつ)…身体を張る芸は史進も頼りにする。
施恩(しおん)…馬鹿を引き立てる演出は史進も頼りにする。
穆春(ぼくしゅん)…馬鹿をやるノリの良さは史進も頼りにする。
鄒淵(すうえん)…馬鹿をやる小道具作りは史進も頼りにする。

3.
史進「…」
陳達「始めるぞ」
鄒淵「歩兵は駆けさせる」
史「…」

史「…」
関勝「いい湯だ」
史「!」
関「地震か!?」
史「出るぞ!」
関「…止んだ」
史「やれやれ」
宣賛「関勝殿!すっ裸で外に出るな!」
関「いかん!」
史「…」

史「俺は馬鹿には見えない着物を…」
杜興「相手にせんだけだ」

史進…すっ裸ではない。馬鹿には見えない着物を着ているのだ。
陳達…今日は騎兵の調練だぞ。
鄒淵…裸馬を乗りこなす調練だ。
杜興…史進と裸馬か…

関勝…うっかりしていたのだ!
宣賛…やれやれ。

4.
史進「すごく馬鹿なことをしたい」
陳達「なぜ俺らに?」
史「馬鹿同士ではないか、俺らは」
鄒淵「失礼な」
史「だが好きなんだろう?」
陳「…否定はできん」
鄒「…同じく」
史「標的は杜興」
陳「俺たち三人。馬鹿の粋を尽くして」
鄒「杜興の爺に馬鹿をする事を誓う!」
史「桃が咲いているな…」

杜興「…」
史(来た!)
鄒(先鋒陳達!)
陳「!」
杜「…また馬鹿な真似を」
陳「この礫を三歩歩いてから投擲するのだ」
杜「李応殿直伝の技で返り討ちにしてくれる」
鄒(ノリいいな)
杜「一つ…」
陳「!」
杜「!?」
鄒(見事な)
史(リアクション芸人の鑑だ)
杜「卑怯な!」
陳「退け!」
杜「逃さん」

陳「次鋒鄒淵!」
杜「!」
鄒「出林竜の山にようこそ、爺」
杜「しまった!罠が!」
鄒「生きて出たければ、我らの立合いに勝つのだ」
杜「身動きが取れん!」
陳「大将!出番だ!」
史「…」
杜「…お前か」
史「サービスだ。見ておけ」
杜「…」
史「…好きなんだろう?」
杜「大好きだ」
史「!?」

史進…桃園の桃が尻に見えてきた。
陳達…死ぬ時一緒なのはお前らじゃねえぞ!
鄒淵…史進が敗れた…

杜興…その後の顛末を聞いた呉用が珍しく酒に溺れた。

水軍

水軍…調練そっちのけで、梁山湖の生き物を味方につける根回しに奔走していた。

人物
李俊(りしゅん)…大真面目に魚と話したり、梁山湖の言い伝えを熱弁するやつを見るたびに、だんだんどっちが変なのか分からなくなってきた。
張順(ちょうじゅん)…親父の秘術を使う時が来たようだ…
阮小七(げんしょうしち)…鯉の長老に足向けて寝たら駄目だからな、李俊殿。
童猛(どうもう)…湖畔を注視していたら、不穏な装置を発見した。
項充(こうじゅう)…槍魚という船を駆使して船底に炸裂させる兵器に練達してきた。
阮小二(げんしょうじ)…この大一番に向けて、弟子の趙林の操船を一から叩き直している。

5.
李応「槍魚は使えそうか、李俊?」
李俊「バッチリだ、李応」
応「梁山湖の主との決戦とは?」
俊「俺も最初は信じ難かったのだが…」
阮小二「鯉の長老が湖畔の生き物に召集をかけた!」
阮小七「親父と叔父貴が書き残した、梁山湖戦いの歴史の書物があったぞ!」
俊「この有様だからな…」
応「…」

張順「鯉の長老のせがれが、梁山湖寒冷化装置の場所を知っているという」
童猛「まずはそれを破壊すれば、主との交渉は有利に進むだろう」
項充「湖畔の探知は任せたぞ、童猛」
童「しかし主はその場を動こうとしないそうだ」
俊「俺でもそうする」
趙林「隊長!」
二「どうした、趙林」
趙「それが」

宋江「梁山湖の主との交渉は我らがやる」
盧俊義「おう!」
俊「なるほど…」
宋「梁山湖の主が相手ならば、梁山泊の首領が行かなければ対等ではあるまい」
盧「おう」
俊「ならば交渉は宋江殿たちが」
宋「…」
俊「俺たちで装置を破壊しましょう」
宋「私たちにも湯隆のとっておきの針があるからな」

李俊…梁山湖の歴史書が面白いな。
阮小二…どこにあったんだ、小七?
阮小七…お袋に託されたの忘れてたぜ。
張順…張敬と潜る覚悟を決めた。
童猛…湖畔を見る目に自信あり。
項充…槍魚の扱いに自信あり。
趙林…梁山湖の案内に自信あり。

宋江…失敗は許されぬ釣りだぞ、盧俊義。
盧俊義…おう!

李応…よく分からず解宝に聞いてみたら、独竜岡の山でも似たようなことがあったと力説された。

二竜山 

二竜山…またやって来た中継ぎ首領にトラウマをほじくり返された兵たちが、大挙して白勝メンタルクリニックに殺到した。

人物
楊志(ようし)…ソーセージ以外の土産は何がいいかな…
秦明(しんめい)…林冲が来た途端に秦容が目を覚ました。
解珍(かいちん)…蹴られた尻が疼いて真っ直ぐ歩けない。
郝思文(かくしぶん)…郝瑾の稽古をこっそり覗いて呆気にとられた。
石秀(せきしゅう)…致死軍発足当初を思い出すほど、ソーセージ作りの修行が厳しい。
周通(しゅうとう)…みるみる曹正がシュッとしていくのを目の当たりにして唖然。
曹正(そうせい)…白嵐の稽古で一皮むけた。ソーセージの皮ではない。
蔣敬(しょうけい)…最近二竜山麓の市場の活気がいいな…
李立(りりつ)…兵站部門の林冲騎馬隊担当のくじ引きは、いつも命がけ。
黄信(こうしん)鎮三山(ちんさんざん)の百名山巡りを画策中。
燕順(えんじゅん)…秦容とも郝嬌ともとても仲がいい。
鄭天寿(ていてんじゅ)…楊令の初陣の時には、銀の鎧を贈る約束をした。
郭盛(かくせい)…呂方との方天戟合戦はいつも制限時間いっぱいで引き分け。
楊春(ようしゅん)…林冲に練兵の才を認められて赤面。
鄒潤(すうじゅん)…林冲に歩兵の指揮を認められてこぶまで赤面。
龔旺(きょうおう)…張清と丁得孫と瓊英と再会。裏話暴露大会で礫が飛び交った。

6.
曹正「楊志。今後の兵站のあり方と、それに基づく練兵のあり方だが…」
楊志「…採用!」

周通「すっかり楊志殿の副官が様になってきたな、曹正」
曹「白嵐のおかげで体も引き締まったぞ」
蔣敬「強烈なビフォーアフターだよ」
周「それで、石秀はどうなってんだ?」
曹「ひやかしに行ってみようか」

石秀「石秀のソーセージ、フライド曹正掴み放題だ!」
客「安い!」
客「美味い!」

曹「すっかり商売人の面と体型になってやがる」
周「あれだけ鍛錬して元どおりにしたのに」
蔣「…しかし、この売上は馬鹿にならないぞ」
曹「!」
周「そんなに売れてやがるのか?」
蔣「ピークを更新している…」

石「お前たちか」
曹「…太ったな、石秀」
石「…いかん。すっかりソーセージ職人になりきっていた」
蔣「しかし、この売上は何ということだ?」
石「済仁美殿と楊令の元で修行し、お前の商売を参考にしただけだが…」
蔣「商才あるな、石秀」
曹「…美味いじゃねえか、石秀」
石「そろそろ戻るか?」

楊志…副官とソーセージ職人が二人になったな。
曹正…ソーセージ職人に戻ったら案の定リバウンドした。
石秀…白嵐と再会した時、すごく呆れた目で見られた。
周通…俺はソーセージが美味けりゃどっちでもいいや。
蔣敬…あの体型で私の商売を覗いていたのか、石秀は…

済仁美…女性目線に立った忌憚のないソーセージ論評は辛口。なぜか食べ方が異様に艶っぽい。
楊令…試食前の佇まいは並の料理人では肌に粟が立つ。

7.
公淑「ご無沙汰しております、林冲様」
林冲「…」
公「心中お察しいたします」
林「余計だ」
公「今日は我が家でお食事を…」
林「余計と言った」
公「…」
秦明「林冲」
林「…」
秦「二竜山の騎馬隊について話がある。我が家で公淑の飯を食いながら相談に乗ってくれ」
公「お願いします」
林「…」

秦「美味いだろう、林冲」
林「…」
秦容「?」
林「…息子か?」
明「容。林冲に挨拶は?」
容「!」
林「…おう」
明「いたずらもするようになったのだ」
林「どんな?」
明「容。林冲の手を握れ」
容「!」
林「!?」
明「誰に似たのか、力が強い」
林「りんごを握り潰せそうだ」
容「♪」
林「…」

公「容。寝る時間ですよ」
容「!」
林「…」
明「なつかれたか、林冲」
林「…」
公「楊令の時も」
明「そうだったな」
林「…どいてくれ、秦容」
容「!」
明「林冲と立合うか、容」
公「やっつけなさい、容!」
林「公淑殿?」
容「!」
林「!?」
明「おう。豹子頭から一本取ったな」
公「さすが私たちの息子!」
林「おのれ!」
容「♪」

林冲…こいつも末恐ろしい男になりそうだ。
秦明…やはり騎馬隊の事は林冲だな。
公淑…張藍殿からいろいろ指導してほしいとのお手紙が届いてますからね。
秦容…腕白盛り。明日は狼牙棒を見せびらかそう。

8.
秦容「!」
林冲「…」
秦明「すっかり相棒だな、林冲」
林「…」
明「いや、容の相棒か?」
林「…そんなわけないだろう」
容「!」
林「この物騒な棒がお前の武器」
明「狼牙棒だ」
容「!」
林「よく振れるな」
容「!」
林「貸してくれ、秦容」
容「…」
林「!!」
容「!?」
明「見ておけよ、容」

容「!」
明「大喜びだな」
林「…返すぞ、秦容」
容「…」
林「…」
明「稽古を頼みたいところだがな」
林「まだあいつのようにはいかんさ」
容「!」
林「子どもか…」
明「…」
公淑「林冲様、張藍殿から便りが」
林「なんだ、全く…」
明(ことさら渋い顔を…)
公(でも嬉しそう)
林「帰還せよ、か」

明「おう」
林「やはり俺がいてこその騎馬隊さ」
公「林冲様」
林「…」
公「張藍のお菓子を無断で食べぬように」
林「…ああ」
明「新兵にも気を配れよ」
林「楊春と鄒潤に学んだ」
容「?」
林「…じゃあな、秦容」
容「!?」
林「男の別れだ」
容「!」
公「また会えますよ、容」
明「またな、林冲」

林冲…帰ってそうそう、寂しくて拗ねた張藍と百里風の面倒を見る羽目になったが満更でもない。
秦明…容の素振りが鋭くなったな。
公淑…さすが容。
秦容…また会える日を信じて、狼牙棒を倍振り回している。

9.
林冲「二竜山から梁山泊へ帰るか」
商人「おい!軍人の兄さん!」
林「…」
商「あんただよ、ことさら聞こえないふりしてる軍人さん」
林「…」
商「これから久しぶりに家族に会いに行くんだろう?」
林「…分かるのか?」
商「あんたみたいな野暮な青痣の軍人を思い出してね。思わず声かけちまった」

林「…」
商「久しぶりなら、土産物でも買って帰りなよ」
林「…悪くない」
商「あんたは運が良い」
林「それは?」
商「仕入れたらすぐに売りきれちまう菓子があと一つ残っている」
林「…」
商「あんたにはそれがいいって俺の勘が言ってやがるのさ」
林「それを貰おう」
商「まいど!」
林「名は?」

孫定「孫定だ。あんたは?」
林「豹子頭、と言ったら?」
孫「なるほどね」
林「なるほどとは?」
孫「青面獣とよく似ている」
林「…」
孫「また来てくれよ」
林「あったらな、孫定」
孫「じゃあな、豹子頭」
林「おう」

張藍「…」
林「帰ったぞ、張藍」
張「…」
林「生きていてくれてありがとう」

林冲…なんだかそう伝えたくなったのだ。
張藍…今日は甘えていいですか?

孫定…二竜山近場の商人。開封府の真面目な裁判官だったが、上司に愛想を尽かして辞職。人を見る目はさすが。

双頭山 

双頭山…風流喪叫仙に謎の音色が加わったのが大評判、なんだけど…

人物
朱仝(しゅどう)…一度だけ身長より髭を伸ばしたことがあるが、文字通りの踏んだり蹴ったりで燦々たる有様。
雷横(らいおう)…麓の居酒屋の柏世くんがバイトリーダーになって鼻が高い。
董平(とうへい)…この音が俺たちに足りない一欠片だったのだ…
宋清(そうせい)…ライブの時どうするんだ?
孟康(もうこう)…堅気の時は造船所の下働き。その経験は阮小二にも驚かれた。
李忠(りちゅう)…片足を無くしても素振り千本は欠かさない。
孫立(そんりつ)…李忠の努力する背中は尊敬しているが、彼の方が圧倒的に強い。元々の素質の違いかも。
鮑旭(ほうきょく)…馬麟に真剣に止められた時は、危うく喪門神時代に戻りかけた。
単廷珪(たんていけい)… 水を使った新兵器を模索中。ネバネバする弓矢はどうだろう…
楽和(がくわ)…彼はメンバーなんですか?楽器なんですか?

10.
史進「この銀はなんだ?」
董平「出演料だ」
史「なんの?」
鮑旭「楽器としての出演に決まっているだろう、史進!」
楽和(止めてくれ、馬麟)
馬麟(俺には無理だ)
史「…条件がある」
董「なんだ」
史「俺が自分で叩くことだ」
鮑「史進にリズム感があるのか?」
史「…演奏してみろ」
董「分かった」

董「短歌行」
楽「…」
鮑「…」
馬「…」
楽「♪〜對酒當歌〜♪」
史「!」
董(ほう)
楽「♪〜人生幾何 譬如朝露〜♪」
史「!」
鮑(爽やかな朝の音だ)
楽「♪〜去日苦多〜♪」
史「!」
楽「♪〜慨當以慷 憂思難忘〜♪」
史「!」
楽「♪〜何以解憂 唯有杜康〜♪」
史「!!」
馬(極め付けの音が尻から…)

董平…他の歌でも合わせるぞ、史進。
鮑旭…この音を肴に、酒を飲まずにはいられんな、馬麟!
馬麟…違う意味でな…
楽和…音はいいんだ、音は。しかし、我らのイメージが崩れないかが、心配で…

史進…俺の鍛え上げた身体にこんな可能性があったとは…

短歌行…お酒が大好きな人材マニア。三国志の曹操の詩。とにかく人材ほしい!ってタイミングで読んだ。
※参考リンク : Web漢文大系

流花寨

流花寨…それぞれの部署に所属する兵の得意武器をチャート図にしてみたら、弓ばっかりはち切れてた。

人物
花栄(かえい)…お前たちは弓が下手だな。
朱武(しゅぶ)…お前が上手すぎるだけだ。
孔明(こうめい)…青洲軍の時も弓ばっかりやってたぜ。
欧鵬(おうほう)…武器の鉄槍は刃先を取り外して鉄棒にも出来る。
呂方(りょほう)…呂布の弓エピソードに憧れている。
魏定国(ぎていこく)…瓢箪矢は飛ばすより作るのが何より難しいんだぜ?
陶宗旺(とうそうおう)… 力が強く、指も掌も太くて大きいから弩の方が使えるかも。

11.
花栄「小李広の弓矢教室にようこそ」
魏定国「副官の神火将だ」
欧鵬「弓矢と瓢箪矢は、勝手が違うんじゃねえか?」
魏「全然違う」
花「お前たちの矢の命中精度を向上する教室だ」
呂方「望むところ」
朱武「上手いに越したことないからな」
花「十連射して外さない…」
朱「帰ろう皆」
花「待て!」

欧「的に当てるだけで一苦労だ」
呂「方天戟振り回すのと訳が違う」
朱「もう少し言語化して教えてくれないか?」
花「私にとって弓矢は呼吸と同義だからな…」
朱「言葉で意思疎通ができないと、よい隊長にはなれんぞ、花栄」
花「確かに…」
魏(さすが神機軍師)
欧(花栄殿を操る策も習いたいもんだ)

魏「俺の瓢箪矢は単に射ればいい代物だからな」
欧「つまり?」
魏「燃やせりゃいい」
花「…」
呂「花栄殿は何を?」
朱「自分の弓を射る一挙一動を文章化し始めた」
魏「こういうマメさは俺たちにないよな」
花「書けた」
朱「見せてくれ、花栄」
花「これなら…」
魏「風が!」
花「…私を遮った」

花栄…意外にも朱貴が名手だったんだ。
朱武…飛び道具使いは少華山にはいなかったな。
欧鵬…振り回す方が好きだな、俺たち。
呂方…呂布は弓の名手でもあったから、俺は上手くなりたいぞ。
魏定国…燃やせりゃいいんだ。燃やせりゃ。

三兄弟 

三兄弟…李逵の香料をどこかで知った皇帝が、三顧の礼で宮中に招き寄せようとしているらしい。

人物
魯達(ろたつ)…いつかは海に還りたいと思っていたが、山も悪くないかもしれない。
武松(ぶしょう)…李逵から学んだことは冊子にしている。
李逵(りき)…知り合いの兵の死を知る度に泣いている。

12.
李逵「戦でもみんなに美味いものを食ってもらいてえ」
武松「しかし千人を超えているぞ」
李「腹が減っては戦はできねえじゃねえか、兄貴」
武「千人以上の料理を作れるか?」
李「数のことは分からねえ。だけど、兵が可哀想でよ」
魯達「梁山泊のお袋だな、李逵」
李「なんとかならねえか、大兄貴?」

魯「お前の香料があるだけで、だいぶ違うぞ」
李「俺の香料は両手で数えられるやつにしか渡せねえんだよ」
魯「もっと作れないのか?」
李「出来ねえんだよ、大兄貴」
魯「なぜだ?」
李「山の恵みは取りすぎちゃいけねえ。欲張って独り占めしたら二度と作れなくなっちまう」
魯「山の賢者だな、李逵」

武「戦の後の宴は?」
李「腕を振るうぜ?でも、死んだ奴は二度と飯を食ねえ」
武「…」
李「なあ、兄貴たち」
魯「…」
武「…」
李「戦ってやらなきゃ駄目か?」
魯「答えは出せん」
李「大兄貴でも?」
魯「宋江殿でも」
李「そんなに難しいのか?」
魯「とてもな…」
武「…」
李「…飯にするぜ」

魯達…腹が減るのも人間。戦をするのも、同じ人間だ。
武松…李逵の問いは死ぬまで考え続けないとな。
李逵…仲間が死ぬのはいつになっても嫌いだよ。

養生所&薬方所

養生所&薬方所…二竜山の白勝がしょっちゅう事務局にいる理由は、たまたまいるタイミングだったからなのだ。

人物
安道全(あんどうぜん)…内科も外科も鍼もマッサージもなんでもできるから神医(しんい)
薛永(せつえい)…丸太の抜き打ちを練習していたら、剣の抜き打ちまで上達していた。
白勝(はくしょう)…テレワークの甲斐なく、しょっちゅう梁山泊に出向している。

13.
白勝「お前が肉離れとは…」
王定六「神行法を空回りさせちまってな」
白「登録抹消か」
王「普通に走りたいよ、俺は」
白「お前くらい足が速ければ、俺たちも上手く脱獄できただろうな」
王「そうか、お前らも脱獄したのか」
白「お前もあるのか、王定六?」
王「脱獄したのを戴宗殿に拾われた口さ」

安道全「私たちは滄洲の冬だ」
王「そりゃ大変だ」
白「林冲のおかげさ」
王「俺は厠を掘る作業中に穴を掘って脱獄した」
白「下から行くのは無理だったか?」
安「林冲ならできたな」
白「安道全が綱を降りる時はヒヤヒヤしたと林冲が」
王「極寒でもヒヤヒヤするのか」
安「安全な脱獄をしたかった」

白「だがお前、絶妙な機会で仲間入りしたんだろ?」
王「訳も分からず双頭山まで五日で走らされた」
安「活閃婆だ」
王「俺も疑問に思う時がある」
白「それは?」
王「張横殿に行動を異様に見透かされる時があるのだ」
安「?」
張横「うどんか?わんたんか?王定六?」
王「こんな風に…」
白「…」

王定六…アキレス腱までやっちまうよ!張横殿!
白勝…恐いな、張横。
安道全…私もたまにだが、なぜか張順が恐くなるんだ。
張横…父上のお告げは良く当たる…

14.
白勝「文祥、安道全が呼んでる」
文祥「安先生はお前に鍼を教えてくれないのか?」
白「性格があってないとさ」
文「打てる者は多いほどいいと思うけどな」
白「あいつは素質のない奴には絶対に教えない」
文「…」
白「気にしてねえよ、文祥」
文「ああ」
白「診療と手術の腕でお前に負けなきゃいい」

安道全「今から呉用殿に鍼を打つ」
呉用「いつもすまんな」
文「…」
安「呉用殿コースは特別だ。覚えておけよ」
文「はい」
呉「よろしく頼む…」
安「一」
呉「…〜…」
文(声が…)
安「ニ」
呉「〜!」
安「三」
呉「ZZZ…」
安「これが呉用殿コースだ」
文「分かりました」
安「次からお前がやれ」

文「いきなり責任重大だ」
白「毛定出来てるか?」
毛定「これだ」
文「なんだこの人形は!?」
毛「鍼練習人形、ごよーくんだ」
白「絶対に内緒にしろよ」
文「…特徴は?」
白「呉用殿コースの一手目を刺してみろ」
文「たしか」
呉「…〜…」
文「声が!」
白「ビンゴだ、文祥」
毛「声で覚えるんだ」

文祥…本番でも全く同じ声が出て笑いを堪えるのが大変だった。
白勝…性格でな、三本でいいと分かってるのに五本打っちまいたくなるんだ。
安道全…友達でも医者の仕事となると話は別だからな。
毛定…鍼治療中の呉用の声の法則に気づいた。声真似も完璧。

呉用…鍼治療時のリアクションすら律儀者。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…魚肉饅頭の魚を変えてみた。唯一気づいたのは呉用。

人物
朱貴(しゅき)…妻の陳麗の病が治ってから力仕事が捗って仕方がない。
朱富(しゅふう)…魚肉饅頭以外の料理の腕は顧大嫂に一歩先を行かれている。

15.
朱貴「どうした、首領」
王倫「寝床に毒蛇がいてな」
朱(三馬鹿め…)
王「飼いならせんかと思ったのだが」
朱「…出来たのか」
王「全く懐かなかった」
朱「そうか…」
王「噛まれかけたところを林冲に助けられた」
朱「…」
王「…奴はその手柄を言い立てて首領になると言い出しかねん」
朱(小さい…)

朱貴…薛永経由で毒蛇が手に入るのか…

王倫…怖くてくしゃくしゃな顔で死を覚悟した瞬間、林冲に助けられた。

林冲さん家

林冲さん家…キッチンと自分を粉まみれにして出てきた旦那は何をしていたのか…

16.
林冲「料理に挑戦した」
張藍「まあ」
林「俺は野営することが多い。粗末なものでも美味く食えないか試してみた」
張「何を作ったのですか?」
林「今よそう」
張「…」
林「これだ」
張「…これは?」
林「芋の粉でとろみをつけ、塩で味した飲料だ」
張「あなたは兵の気持ちをどうしたいのですか?」

林「解説しよう」
張「…」
林「戦では体力を著しく使うから、芋の粉で力をつける」
張「あなたの筋肉は芋の粉で作られているのですか?」
林「さらりとした湯では味気がない。とろみを加えて味覚を愉しめる」
張「…気持ち悪い」
林「塩分の補給も戦では不可欠…」
張「盧俊義様に死んでお詫びなさい」

林冲…不味いのか、張藍?
張藍…それ以前の問題です。

雄州

雄州…人里離れた庵には、学問と恋愛の名手が住んでいるそうで…

17.
宣賛「誕生日?」
金翠蓮「宣賛様はいつですか?」
宣「…たしか秋だった」
金「秋ですか」
宣「翠蓮は?」
金「…私は、捨て子だったので」
宣「…そうか」
金「申し訳ございません…」
宣「…ならば翠蓮」
金「はい?」
宣「今日を誕生日にしよう」
金「それは?」
宣「おめでとう、翠蓮」
金「!」

宣賛…ずっと贈りたかった物をようやく渡せてほっと一息。
金翠蓮…感情が追いついた瞬間に感涙。

青蓮寺

青蓮寺…夏と冬の相国寺の市場は毎年凄まじい人だかりが出来るのだが…

人物
袁明(えんめい)…毎年夏と冬の決まった時期に、決まった職員が休暇を取るのが不思議。
李富(りふ)…やたら混雑している相国寺の市を尻目に、今日も価格調査。
聞煥章(ぶんかんしょう)…一丈青の薄い本を転売目的以外の理由で買い占める常習犯。
洪清(こうせい)…実は夏と冬の相国寺祭りの警護を一手に引き受けている。
呂牛(りょぎゅう)…陰気な男たちのツボを的確に刺激する創作サークル班の主。

18.
李富「相国寺の市の混み具合は何事だ?」
聞煥章「知らんのか、李富」
李「何を?」
聞「年に二度開催される、相国寺の祭典だ」
李「どんな祭典だ?」
聞「上は帝から下々の民まで自由に創作物を出展する祭典だ」
李「知らなかった」
聞「行くか?」
李「行ってみよう」
聞「支度を欠かすなよ、李富」

李「」
聞「支度を欠かすなと言っただろう、李富」
李「水を分けてくれ、聞煥章」
聞「生憎私の分しかない」
李「厠に行きたい」
聞「また最後尾に並ぶのか?」
李「侮っていた…」
聞「これも洗礼だ」
李「肝に命ずるよ」
聞「お前の目当ての品は?」
李「分からん」
聞「戦なら死んでいるぞ、李富」

李「入場だけで死にかけた」
聞「ここから先は自由行動でいいな」
李「私は一休みしてから見るよ」

聞(一丈青の新作の進路に抜かりはないはず)
呂牛「いらっしゃいませ〜」
聞「お前だったのか…」

李「これは?」

【玉麒麟✖️浪子】
【花和尚✖️豹子頭】
【病大虫✖️神医】

李師師「…」
郝元「…」

李富…妙に女性の多いブースだな?
聞煥章…お前たちのサークルだったとは…
呂牛…買わんのか、聞煥章?

李師師…開封府同人祭典でも一番人気。カップリング・画力・台詞、どれをとっても宋国一。
郝元…李師師のアシスタント兼売り子。構図やアングルの妙は宋国一。

妓館

妓館…開封府一の高級妓楼の主は、開封府一の夢想家らしく…

人物
李師師(りしし)…一番人気の妓女兼妓楼の主。初めて燕青と出逢った時は、創作の筆が舞い踊った。
郝元(かくげん)…李師師の従者。李師師のアイデアの良い壁打ち相手。

19.
李師師「郝元」
郝元「はい」
李「袁明殿と洪清殿の掛け算はどうでしょう」
郝「それは」
李「袁明殿が攻め…」
郝「しかし洪清殿は攻守で別人になったかのような錯覚をさせる程の体術の達人でもあります」
李「捗りますね、郝元」
郝「…はい」
李「しかし一つ問題があります」
郝「出版手段ですな」

李「さすがに袁明✖️洪清と大々的な出版をするわけにはいきません」
郝「悪戯では済まされませんな」
李「やはりこの掛け算は、私とあなたの脳裏にしまっておきましょう」
郝「はい」
李「他によい掛け算はありませんか、郝元」
郝「一番人気は玉麒麟✖️浪子ですな…」
李「浪子の受は絶対に譲りません」

郝「他のブースを偵察したところ…」
李「はい」
郝「拚命三郎✖️病関索」
李「この掛け算も愛好家が多いですね」
郝「醜郡馬✖️大刀」
李「あえて大刀を受にしますか」
郝「托塔天王✖️智多星」
李「分かる、という気がします」
郝「酷いものは…」
李「…」
郝「鉄臂膊✖️浪子」
李「作者を処断なさい」

李師師…次に燕青様が来たときに根掘り葉掘り聴くことにします。
郝元…鉄臂膊を処断するんじゃないのか。

楊令伝

遊撃隊

遊撃隊…シシハラに奢ってたるんだ兵たちは、史進に軒並み性根を叩き直された。

人物
班光(はんこう)…死域を潜り抜けて不思議と強くなったが何も覚えてない。
鄭応(ていおう)…兵たちもやっと元どおりだ。
穆凌(ぼくりょう)…史進の一字一句をきちんと書にまとめる優等生。

20.
鄭応「どうした、お前たち」
兵「あの厳しすぎる史進殿の調練を受けて以来…」
兵「史進殿を見ると湿疹が…」
兵「我らの間では、史進湿疹と呼んでいます」
鄭「くだらねえ…」
兵「失神させられる者は、史進失神と呼んでいます」
鄭「ややこしくてくだらねえ…」

鄭応…史進の裸哲学の講釈を受ける時は失心して受け流している。

21.
史進「班光」
班光「はい」
史「…」
班「?」
史「恥を忍んで、相談したいことがある」
班(史進殿が恥などと口にする度に湿疹が…)
史「今までのことを、なかったことにできぬだろうか」
班「無理です」
史「なぜだ!」
班「自明でしょう?」
史「お前は事の発端を知らんからそんな事を言えるのだ!」

班「李瑞蘭殿の一件ですよね?」
史「それだけだ」
班「それだけ?」
史「戦でも度々死線を潜り抜けては、大活躍し」
班「確かに」
史「調練は厳しくも的確」
班「はい」
史「人気投票も上位の常連だ」
班「人気投票?」
史「ランク外に発言権はない」
班「苦労人投票ならベスト3は堅いですよ、私は」

史「それがなぜ瑞蘭の一件だけで、ここまで悪評が立ってしまったのか、不思議でならん」
班「何者かが暗躍しているのでしょうか?」
史「分からん。全く分からん」
班「確かに史進殿の破廉恥は限度がない…」
史「…」
班「まるで史進殿を依代にして破廉恥をやらせているかのようですな」
史「変態だ」

史進…たまに我に帰るんだ、俺は。
班光…戦と調練の時は滅多に脱ぎませんもんね。

22.
花飛麟「…」

班光「律儀にウエットスーツを着用されて湯船に来られている」
鄭応「いつもながら、史進殿の意味が分からねえ」
史進「分からぬなら教えてやろう」
鄭「!」
史「顔だけはいいのは認めている」
班「ならばなぜ美しい身体まで覆われてしまうのですか!」
史「美醜に囚われているからだ」

鄭「美醜?」
史「貴様らは俺の尻を蛇蝎のように嫌っているが」
班「汚い!」
史「花飛麟に遊撃隊、ひいては赤騎兵の指揮はとれぬだろう?」
班「たしかに」
史「たとえ尻が綺麗だろうが醜かろうが、戦に全く関係はない」
班「人は死んだら皆土に帰りますからね」
史「形あるものは誰もが滅びるのだ」

史「花飛麟の見掛け倒しの顔や身体の美しさも現世で多少の利がある程度で、人間や戦の本質とは全く関係がない」
班「なるほど」
史「しかし兵どもはその本質に気づかず、花飛麟の身体に淫らな煩悩を抱き始めた」
班「はい」
史「だから俺はその危うさに目をつけ、花飛麟の露出を禁じたのだ」
鄭「…」

史進…分かったら貴様らも俺の尻への先入観を取り払え。
班光…そう言われると、だんだん慣れてきました。
鄭応…やはり分からねえ…

花飛麟…身体を洗いたい…

洞宮山

洞宮山…洞宮山麓の飲食店組合から、多額の損害賠償金支払い請求書が届いた。

23.
馬麟「…」
孫二娘「聞いてくれよ、馬麟!顧大嫂が!」
顧大嫂「なに言ってんだい!ありゃ扈三娘が悪いんだ!」
扈三娘「失礼な!白寿だって悪いじゃないですか!」
白寿「孫二娘殿だって酷いことをしたじゃない!」
馬「…なぜ俺に来る?」
孫「私らの中で一番女子力が高いからに決まってるだろう?」

孫「麓の飲み屋で顧大嫂が食い過ぎたことから始まる」
顧「やかましい、母夜叉!お前と扈三娘で高い酒ばっか飲んでたじゃないか!」
馬「…」
扈「白寿も店の骨董品を壊しました!」
白「皆で私に飲ませすぎたからでしょ!」
馬「…」

白勝「一部の隙もねえ幹事だ」
杜興「わしよりも執事にむいてる」

孫二娘…次行く時は馬麟を連れて謝りに行こう。
顧大嫂…飯と酒は美味いからね、あそこは。
扈三娘…馬麟殿がいるなら安心です!
白寿…いつの間にかサラダとお冷が皆んなの手元に!

馬麟…異動届の密書は孫二娘に握りつぶされた。
白勝…俺らでケアしような、爺。
杜興…四人の史進に囲まれるよりタチが悪いわい…

子午山

子午山…子午山の会はみな兄弟。この時ばかりは楊令も呼び捨て。

24.
武松「子午山写生大会か」
史進「したたかの方ではないよな」
武「鉄の玉を装着しよう」
史「待て、武松」
楊令「」
馬麟「ウケるな、楊令」
花飛麟(こんなネタで!?)
鮑旭「審査員は私と武松が引き受けよう」
張平「お題は、鮑旭殿?」
鮑「いつも魯達殿が訪れてくるアングルからの景色を描いてくれ」

鮑「まず史進」
史「雪化粧だ」
武「力強い白だ」
史「写生だからな」
武「!」
史「!?」
楊「」
馬「ウケるな、楊令」
花「…」
鮑「皆も見せてくれ」
張「馬麟殿の月の見え方が完璧です」
馬「張平の野の花もいい味を出している」
武「春だな、張平」
張「さすが武松殿!」
鮑「楊令は?」
楊「…」

楊「これだ」
武「…兄者の後頭部か?」
楊「丘だ」
鮑「この珍獣は…」
楊「兎だ」
張「この棒はもしや」
楊「無論、王進先生だ」
花(前衛的だな)
楊「花飛麟も見せろ」
花「私は…」
史「守りに入ったな」
花「史進殿?」
史「お前ら三人、里の妓楼の女を描け」
楊「いいだろう」
張「!?」
花「…」

鮑旭…強引に史進に連れて行かれたことが一度だけ…
武松…こんな悪ふざけもたまにはいいな。
史進…楊令と花飛麟の下手さ加減は方向性が違うな。
馬麟…里でよく誘われたが相手にしなかった。
楊令…似てないかな…
張平…あまり思い出したくないです…
花飛麟…目と鼻と口がついてたら同じでしょう。


【水滸伝&楊令伝】

twitterにて連載中!

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今号も、お読みいただき、誠にありがとうございました!

これからもすいこばなしを、どうぞよろしくお願いします!

中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!