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豹子頭千里

~あらすじ~
豹子頭愛妻張藍 一丈青と死出の旅に赴き
致死飛竜石将軍 馬鹿止めること死屍累々
病大虫万里駆け 入雲竜師匠林沖に驚愕す
天雄星防ぐ好漢 天暗星遂に吹毛剣を抜く

注意:ネタバレ全開です!少なくとも水滸伝は読破していただいた方を想定して書きました。大水滸シリーズを読んでいれば読んでいるほど楽しめていただけるかと存じます。

前説「禁忌」

索超「相変わらず仲睦まじいお二人で」
林冲「黙れ、索超」
張藍「…」
林「どうしたのだ、張藍?」
張「索超殿」
索「何でしょうか?」
張「とても不躾な事を申し上げてしまうのですが」
索「はい」
張「私たちは、出会ってはいけないのではないでしょうか?」
索「!」

林「お前らまさか!」
索「そう言う事ではないのだ、林冲殿」
張「私たちにとっては凄く大事な事なのです」
呂方「やべえ予感がして飛んできたぜ!」
索「そうだ、お前もだ呂方」
林「さっぱり分からん」
扈三娘「私もこの話に混ぜてください」

林「なぜだ、扈三娘」
扈「祝家荘で誰かに全身骨折させられた理由が、分からなくなったのです」
張「あなた、そんな事を扈三娘殿に?」
林「それは…」
張「何故索超殿と呂方殿は梁山泊に?」
呂「外で兄貴と林冲殿に出会って」
索「一緒に刺客と戦って」
張「なぜ?」
索「なぜだったかな…」

呂「俺たちは気付いてはならないことに気づいてしまったのかもしれない」
張「全て無かったことにしましょう」
索「懸命な判断だと思う、張藍殿」
扈「私は納得が…」
張「骨折した骨はより強くなり、防御力が格段に上がったと思いなさい、扈三娘殿」
扈「…」
林「俺みたいなこと言うな、張藍」 

第一話「歪み」 

林冲「大丈夫か、張藍」
張藍「少し、一人にしていただけますか、林冲様」
林「分かった。部屋にいるから、いつでも呼べ」
張「ありがとうございます」

張「こんな幸せな毎日が、いつまでも、続きますように」

索超「呂方。もう一度話を整理するぞ」
呂方「おう」

索「俺は北京から流れ、賊の面倒を見ていた」
呂「そこに俺が来て、兄貴と立ち合い、負けた」
索「大事なのはそこからだ」
呂「俺たちはそこで林冲殿に出会った」
索「そして二人で立ち合い、負けた」
呂「その後俺たちは誰かと出会わなかったか?」
索「魯達と白勝だ」
呂「あいつらにも話をしよう」

白勝「祝家荘攻めの後のこと?」
索「お互い名も知らぬ中、食い物を融通しあったではないか」
白「そうだったな」
呂「その時なぜお前は魯達と一緒にいたのだ?」
白「なぜって、戦を抜け出した林冲を探しに」
索「なぜ抜け出したのだ?」
白「…まて、なぜか思い出せん」
呂「大事なのはそこだな」

白「そうだ、その後林冲の緊急手術をしただろ!」
索「そうだったな」
呂「瀕死の重傷を負っていた」
白「しかし、重傷を負った理由がなぜか思い出せん」
安道全「白勝」
白「安道全、林冲の手術の事を覚えてないか?」
安「急だが、その事も含めて、公孫勝から話がある」
索「公孫勝殿から?」

公孫勝「初めて師匠から手紙が届いた」
薛永「あの時の」
索「…」
公「結論から言う」
白「…」
公「張藍は梁山泊に歪みをもたらす者なのだ」
索「なんだって?」
安「どういうことだ、公孫勝」

索「分かるように言ってくれ」
公「索超、呂方はなぜ入山したのか、明確に覚えているか?」
呂「それが、肝心なところだけ靄がかかったように思い出せんのだ」
索「俺もお前らと別れ、子午山まで放浪し、入山したのは覚えている」
公「…」
索「しかし、なぜ放浪したのか確かな理由を思い出せない」

公「実はそれよりも大事な事がある」
索「それは?」
公「お前らは刺客に襲われる林冲を助けたのだな」
呂「そうだ」
公「師匠の手紙で気づいたのだが、実は林冲が刺客に襲われる要素が無くなるのだ」
白「全く分からんぞ、公孫勝」
公「そもそも祝家荘で林冲が出奔する理由も無くなる」
索「なぜ?」

公「張藍が生きているからだ」
索「奥方が生きていて何が不都合なのだ」
公「林冲は奥方が生きていると言う偽報を信じて戦から出奔したのだ」
白「偽報も何も、張藍殿は生きて」
公「師匠の手紙にはこうある」
白「…」
公「張藍は既に死んでいなくてはおかしい、と」
白「なんだって」

安「奥方はいつ亡くなるのだ、公孫勝」
公「林冲が入山するより、遥か前」
索「…」
公「林冲が青蓮寺に嵌められ、開封府の地下牢にいた時に」
安「それは…」
白「俺たちと会うよりもずっと前じゃねえか!」
索「なんだって…」
公「…」
安「それで、どうすればいいのだ、公孫勝」
公「…」 

第二話「出奔」 

公孫勝「張藍を師匠の元へ連れて行く」
索超「林冲殿が承知するわけないだろう」
公「しかしこの事をいつまでも放置する訳にはいかぬのだ」
白勝「なぜだ」
公「梁山泊が、滅びる」
安道全「お前がこの場で冗談を言う男ではないのはよく知っているが、それを信じろと?」
公「私も信じられない」

公「この件は、まずこの場にいる者のみで秘めておこう」
索「そうだな」
公「どうせあのバカが大騒ぎして、嫌でも大っぴらになるだろうが」
白「だろうな」
安「間違いない」
公「まずは張藍を師匠の元へ連れて行くまではこの場の秘匿だ」
索「分かった」
公「聞いたな、扈三娘」
扈三娘「!」

索「お前も違和感を持っていたものな、扈三娘」
扈「私も林冲殿と立ち合い、怒らせてしまい…」
安「そうだったな」
扈「何か理由があってのことだったと思っていたのに、もしその理由がないとしたら、なぜ私はあんな目に…」
公「お前も行くか、扈三娘」
扈「どこへ?」
公「張藍と共に師匠の元へ」

張藍「…」
公孫勝「すまぬ、張藍殿」
張「お気になさらないでください、公孫勝殿」
公「私は山までは案内できるが、そこから先は薛永と馬雲に頼む」
薛永「梁山泊の危機とのことなので」
馬雲「(`・ω・´)」
公「護衛には彼女をつける」
張「扈三娘殿?」
扈三娘「よろしくお願いします…」
張「…」

公「…」
劉唐「緊急のご用命とのことなので」
石勇「…」
公「薛永からの便りが届くまで、何としても時間を稼げ」
劉「かしこまりました」
石「公孫勝殿」
公「…」
石「そこから先は?」
公「あの馬鹿のやりたいようにやらせろ」
劉「それなら何とかなるかな、石勇」
石「戦うのはお断りだがな」

魯達「…」
公「よく来てくれた」
魯「また俺は林冲を誑かすのか?」
公「お前達には、便りが届いてからの事を頼みたい」
魯「出番まで待ってろよ、二人とも」
武松「…」
李逵「任せろ、兄貴」
魯「公孫勝」
公「…」
魯「もうお前だけで留めるのはやめろ」
公「…そうかもな」

林冲「張藍?」

林「おい、張藍?」

林(どこかで俺は毎日のようにこんな朝を迎えた気がする)

林「いないのか、張藍?」

「」

林「これは?」

「私がいなくても、ご心配なさらず。必ず、また逢えますから」

林「百里!」

湯隆「見ろ、林冲が」
阮小二「緊急事態か?」

呉用「林冲!」
林「どけ、呉用殿」
呉「隊長が無断で梁山泊を飛び出るなど許されると思っているのか?」
林「俺が俺に許した」
呼延灼「只事ではないのはよく分かるが」
関勝「さすがに勝手が過ぎるのではないか、林冲?」
林「…」
呉「話を聞こう」

呉「張藍殿が?」
関「あの愛らしい奥方が消えた?」
林「早く俺に探しに行かせろ、お前ら」
呼「お前一人で探しだせるのか?」
林「当たり前だ」
呉「大した自信だが、彼らの力も借りていいぞ」
劉唐「…」
石勇「…」
林「お前らが力を貸してくれるのか!」
石(心が痛むな)
劉(暫くの辛抱だ) 

第三話「道中」 

郭盛「貧乏籤とはこの事だな、項充」
項充「彭玘のおっさんが細工した代物だな」
郭「楽和の心からホッとした顔が忘れられん」
項「まあ妥当なところではないか」
郭「静かに…」
項「馬蹄の音か…」
郭「いい稽古だと思おう」
項「本気で飛刀を投げれる相手もいないからな」
郭「来たぞ!」
林冲「」

呉用「もう飛び出したか」
郭「殺されなくて儲けもんですよ、俺たち」
項「…」
宋江「とんでもない役割を負わせてしまったな、郭盛、項充」
呉「劉唐と石勇は、時間を稼ぐ役回りです」
宋「林冲か」
呉「帰ってきたら、馬糞集めですか?」
宋「もっと酷い罰を考えておこう」
呉「死なさない程度で」

林冲「劉唐も石勇も頼りになるが、じっとしてられん」

楊林(林冲殿が来た!)
王英(劉唐に合図を)

劉唐「敵わんな」
石勇「もう飛び出したのか?」
劉「俺の負けだ」
石「まだこれからだろう、劉唐」
劉「いや、公孫勝殿にだ」
石「公孫勝殿?」
劉「林冲殿が飛び出す日を賭けたんだ」
石「仲良いな」

薛永「張藍殿、大丈夫ですか?」
張藍「薛永殿のお粥を食べたから、まだまだ歩けます」
馬雲「(._.)」
薛(大分無理をされているな)
公孫勝「…」
扈三娘「…」
薛「そろそろ休みませんか、公孫勝殿」
公「…そうだな」
張「今頃林冲様は大騒ぎされているでしょうね」
扈「…」
公「…」

薛「張藍殿、これを飲んでください」
張「滋養がありそうですね」
薛「不味いですよ」
馬「( ;´Д`)」
張「行きます!」
薛「さすが張藍殿」
馬「(^◇^;)」
張「不味い、もう一杯」
薛「お見事!」

扈「…」
公「気丈だな」
扈「…」
公「我らの歩調になんとか合わせようとして、弱音一つ吐かん」

公「よく来る気になったな」
扈「私では、分からないことが、多過ぎるので」
公「来ても分かるとは限らんぞ」
扈「いいんです。それはそれで」
公「ならいい」
扈「公孫勝殿」
公「…」
扈「なぜ私を護衛に?」
公「腕が立つ」
扈「…それだけですか?」
公「…あのバカの吠え面を、皆で見ようではないか」

扈三娘「…」
張藍「…扈三娘殿」
扈「…」
張「起きていらっしゃいますか?」
扈「…」
張「この間は、ごめんなさいね」
扈「…」
張「林冲様がそのような事をされるなんて、正直、私には理解できないのですが」
扈「…」
張「もしも林冲様と会った時には、二人で酷い目に合わせましょうね」
扈「w」

張「やはり起きていましたね」
扈「あなたには隠し事が出来なさそうです」
張「伊達に豹子頭を手懐けていません」
扈「笑わせないでください、張藍殿」
張「林冲様の酷い話ならいくらでもありますが」
扈「はい」
張「これからもっと、増えると思っていたのですけどね」
扈「…」

扈「あの時の林冲殿は、人が変わったようでした」
張「それは?」
扈「まるで、とても大切なものを無くし、二度と手に入らなくなった事を知った子供のような苛立ちを、剥き出しにして」
張「あの人は子供です」
扈「…」
張「無くしたからと言って、あなたのような素敵な方を傷つけるなんて、許せません」 

第四話「同志」

扈三娘「張藍殿」
張藍「でもね」
扈「…」
張「もしも、もしも本当に林冲様が大切なものを失い、二度と返ってこない事を思い知った時には」
扈「…」
張「それ程の怒りをみせるかもしれませんね」
扈「…」
張「だからね、扈三娘」
扈「…」
張「二人で生きている事を後悔させてやりましょう」

扈「張藍、まだ歩けますか?」
張「まだまだ歩けます」
薛永「いつのまにか仲良しだな、馬雲」
馬雲「( ´∀`)」

公孫勝「着いた」
扈「美しい山ですね」
張「あなたの方が美しいですよ」
馬「(≧∀≦)」
公「軽口を叩けるならまだ行けそうだな、張藍殿」
張「私を誰だと思っているので?」

公「ここからは頼んだ、薛永、馬雲」
薛「記憶を頼りに、必ずたどり着きます」
馬「( ̄^ ̄)ゞ」
扈「護衛は私が」
公「それではな、張藍殿」
張「ありがとうございました」
薛「公孫勝殿」
公「…」
薛「伝言はありますか?」
公「…いい加減、爺か婆か区別をつけろ、と」
薛「公孫勝殿らしい」

公孫勝「…」
劉唐「公孫勝殿」
公「…賭けは?」
劉「私の負けです」
公「山には着いたぞ」
劉「すると後は」
公「薛永たちを頼るしかない」
劉「俺たちは酷い目にあってますよ」
公「犠牲は?」
劉「安道全が、嬉しい悲鳴をあげるほどに」
公「殺さん分別はついてるのか」

林冲「張藍!どこだ!」

林「石勇!殺されたくなければ、全て話せ!」
石勇「俺はあんたの時間稼ぎをしろと命令されただけだよ」
林「誰に!」
石「それは」
林「公孫勝の野郎か!」
石(本当になぜ分かるんだろう?)
林「あの野郎、今日という今日は八つ裂きにしてやる」

林「公孫勝!どこだ!」
公「ここだが?」
林「その首ねじ切って…!」
楊雄「綺麗にはまりやがった」
孔亮「百里風がぴったり収まる深さと大きさだ」
樊瑞「公孫勝殿、危ない!」
林「この程度の穴で、豹子頭が…!」
公「…」
楊「見事な二段落ちだ」
孔「笑えるもんなら大笑いしたいところだ」

林冲「穴があったら入りたいとはこの事だ」
公孫勝「見事に入ってるではないか、林冲」
林「貴様、張藍に何をした?」
公「確かにしたが」
林「何を!」
公「しばらくこの穴で待て」
林「貴様」
公「悪い所ではないぞ」
林「なんだと?」
公「陶宗旺が掘り、李雲が施工した特別室だ」
孔(暇なのか?)

林「朱富と顧大嫂の饅頭まで完備されているではないか」
公「せめてもの情けだ、林冲」
楊(手の込んだ情けだ)
林「貴様の頼りになる自分が、情けない」
公「林冲」
林「…」
公「これだけは、言っておく」
林「なんだ」
公「同志を信じろ」
林「…分かった」

薛永「ファイトー」
張藍「いっぱ〜つ!」
扈三娘「遂に登り切りましたね」
馬雲「\(^o^)/」
薛「ここからは私たちに任せてください」
馬「(`・ω・´)」
張「頼もしいですね、二人とも」
薛「照れるな、馬雲」
馬「(≧∇≦)」
扈「本当に、こんな所に庵が?」
羅真人「あるぞ、地急星」
扈「!」 

第五話「伏魔殿」

薛永「ご無沙汰しています」
馬雲「m(_ _)m」
羅真人「君か」
薛「再び参りました理由は」
羅「全部分かっているよ」
扈三娘「全部?」
羅「一清の伝言のこともね」
張「仙人様ですね」
羅「そんな私が唯一分からないのがお前だ、張藍」
張「…」
羅「地幽星」
薛「私ですか?」
羅「文の用意を」

薛「出来ました」
羅「これを持って、目を瞑りなさい」
馬「(_ _)」
薛「…」
羅「ここまでご苦労だった」
薛「…」
羅「すぐに天速星と地劣星が迎えに来るよ」
薛(誰のことだ?)

薛「またいつの間に」
馬「(O_O)」
戴宗「薛永、もう下山したのか?」
王定六「健脚にもほどがあるぞ」
薛「なるほど」

羅「よくここまでたどり着いたね」
張「梁山泊の皆さんのおかげです」
羅「それだけの意味で言ったのではない、張藍」
張「…」
羅「お前の命も、よくこの世界にたどり着いたと思うよ」
張「…」
羅「もう間も無くではないかな」
張「きっと」
扈「何がですか?」
羅「張藍の命の時間だ」
扈「!」

張藍「私は元々生きていてはいけない者なのです」
扈三娘「何を言っているのですか、張藍」
羅真人「君も一清から聞いただろう、地急星」
扈「ですが!」
張「私が生きていては、梁山泊の皆さんに迷惑をかけてしまうのですから」
扈「そんな訳ない!」
羅「そんな軽々しい意味ではない」

羅「本来死んでいなくてはならぬ者が、生きている罪を考えた事があるかい?」
扈「…」
羅「君は戦で何人の命を奪ったか覚えているか?」
扈「覚えているわけがありません」
羅「それがどれほどの罪だと思う?」
扈「!」
羅「敵を倒しただけとしか、思ってなかったのではないかな?」
扈「それは」

羅「人の命を人同士が奪いあうのが戦だ」
扈「…」
羅「戦をする事は否定しない」
扈「…」
羅「だが、自分が奪った命の重みについて、お前たちはもっと知らなければならない」
扈「…」
羅「そんな理不尽に奪われた命の一つが、張藍だ」
張「…」

羅真人「張藍がどの様にして理不尽に命を奪われたか、知る気はあるかい?」
扈三娘「…」
張藍「もう良いのですよ、扈三娘」
扈「良いわけないでしょう、張藍」
張「私がこのまま生きていたら、梁山泊に災いが起こるのです」
扈「災いが?」

羅「失われた命を盗み、もう一度死んだ者に宿されることが、許されると思うかな?」
扈「…」
張「私が梁山泊にあのままいたら、天から災いが降ってきたのです」
扈「信じられません」
羅「君は死人が生きているのを散々見ているじゃないか、地急星」
扈「…」

羅「しかし、張藍の命に限り、目溢しがもらえるかもしれん」
張「まさか!」
扈「どういう事です?」
羅「そろそろ文が届く頃だろう」

王定六「待たせた」
公孫勝「ご苦労」
劉唐「でかした、薛永」
孔亮「じゃあ、この絶対に開けてはいけない蓋を、開けるとしますか」
劉「孔に遇いて開く、か」 

第六話「二仙山」

公孫勝「解き放たれたな」
劉唐「我らも、似た様なものかもしれませんよ」
楊雄「林冲殿に何が待ち受けているので?」
公「さあな」
孔「公孫勝殿の師匠って、何者なんですか?」
公「薛永に聞け」
馬雲「ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3」
劉「薛永はどうした、馬雲?」
馬「_(┐「ε:)_」
孔「捕まっちまったか」

薛永「またあの山に行くんですか」
林冲「俺に会ったのが運の尽きだ、薛永」
薛「…」
林「この山だな」
薛「この山に登ったのも、昨日のことの様です」
林「昨日のことだろう」
薛「…」
林「案内を頼む、薛永」
薛「やれやれ」

林「険しいなんてもんじゃない山だ」
薛(前とは違う道な様な)

林「ファイトー」
薛「いっぱ〜つ」
林「まだまだ険しいな」
薛(こんな道絶対歩いてない)

?「待て、お前たち!」
林「何者だ!」
薛「あなたは!」
周通「小覇王周通、ここに見参!」
林「…」
周「…」
林「そこに隠れてる、穆春と施恩と李袞もまとめて相手してやる」
穆春「!」
施恩「!」
李袞「!」

林「天晴れな役回りだ」
薛(正直私でも勝てた)
周「畜生」
朱貴「さすがだな、林冲」
林「お前は…」
韓滔「時遷もよく調べてくれた」
時遷「知らせたのは張青だ」
張青「…」
薛「あなたたちは、皆…」
韓「言わずもがなだのう、薛永」
朱「何が起きているのか説明するぞ、林冲」
林「頼む」

朱「ここ二仙山は、この世とあの世の境目が、非常に曖昧な山なんだ」
林「だからお前たちが」
時「俺たちは、今回に限りこの山のこちら側に来ることを許されたのだ」
韓「お前の奥方の一件だ、林冲」
林「お前たちまで巻き込むとは…」
張「死んでからこんな思いするとは思わんぞ、普通」
林「すまん」

韓「わしらはお前ではなく、奥方に振り回されてるようなもんじゃのう」
朱「あちらには、神々しい玄女様がいらっしゃるのだがな」
林「ふむ」
時「見事に手玉にとり、こちら側に帰ってきたそうだ」
林「まさか、あちらの神まで手玉にとるとは」
張「実はかなり間抜けなんだよ、玄女様」

林冲「早い話が、俺は張藍を助けにいけばいいのだな」
韓滔「まあ、そういうことだ」
朱貴「しかし、林冲。一つ断っておくことがある」
林「なんだ」
時遷「俺たちは、決してお前の味方ではない」
張青「昔の馴染みで話す事を許されている程度だ」
林「ここまで内情を話していいのか?」
時「いい訳ない」

林「お前らも罰を受けるのではないか?」
時「防諜の仕組みは俺が整えてある」
薛「お亡くなりになっても流石ですね」
韓「これから山はもっと険しくなるぞ」
張「お前を追い払う役目を持った奴も出てくるだろう」
林「あいつらか」
韓「さっさと行け、林冲」
林「ありがとよ!」
薛「それでは!」

張「あいつらに知らせてくる」
時「俺も」

朱「さすがに、話せんよな」
韓「あの件はな」
朱「残酷なことにならねば良いが」
周通「俺たちも、罰を受けんかな?」
韓「相手が林冲なら、仕方ないだろうよ」
穆春「兄者に、会いたい」
施恩「それは言いっこなしだ、穆春」
李袞「その想いは、皆が抱えている」 

第七話「狭間」

林冲「次は誰が来るのだ」

宋万「久しぶりだ、林冲」
杜遷「また会えて嬉しいぞ、林冲」
焦挺「元気そうですね」
童威「李俊殿と猛は元気か?」
林「お前たちか」
薛「懐かしいですね」
杜「感慨にふけりたい気持ちも分かるが」
宋「今の俺たちはお前の敵だということを、よく覚えておけ」

林(宋万がここまで強くなっているとは)
薛「加勢します、林冲殿」
林「引っ込んでろ、薛永」
薛「!」
林「これは俺の問題だ」
杜「」
林(一人一人がかつての倍以上強くなっている)
焦「」
林(負ける訳にはいかん!)
童「」
林「張藍!」

張藍「もう来ましたね」
羅真人「だろう?」
扈三娘「?」

宋「これでも倍稽古したんだが」
林「お前ら、かつてと比べ物にならんほど強くなっていたぞ」
杜「参ったな」
焦「玄女様になんと言われるか」
童「その時はその時だ」
林「お前ら一人一人と、酒でも酌み交わしたいところだが」
宋「…」
林「先を急がせてもらう!」
薛「私も!」

張「全く、あの人は」

薛永「休む訳にはいきませんか?」
林冲「置いていくぞ、薛永」
薛(林冲殿の体力が…)

雷横「俺たちの出番か」
鄧飛「お前と組むのも久しぶりだな、雷横」
林「お前らの相手は骨が折れそうだ」
雷「これでも前座だぞ、俺たちは」
鄧「いくぞ、林冲」

薛(見ていることしかできない私が不甲斐ない)

雷「」
鄧「」
林(雷横の剣と、鄧飛の鎖鎌か)
雷「」
鄧「」
林(さすがではないか、雷横、鄧飛)
雷(本気で立合うのが、ここまで愉しいとは)
鄧(俺たちも強くなったのだ)
林「!」
薛「林冲殿!」
雷「隙!」
林「!!」
雷「」
鄧「雷横!」
林「!」
鄧「…俺たちの、負けだ」
雷「愉しかったぞ、林冲」

林「さすがにお前ら相手は骨が折れた」
雷「朱仝によろしくな」
鄧「孟康と、楊林にも」
林「余裕があればな」

薛「林冲殿、これを」
林「相変わらず気が効くな、薛永」
薛「気休めですが、飲んでください」
林「不味い、もう一杯!」
薛「」
林「なんだ薛永」
薛「奥方も同じことを言っていましたよ」

薛永「林冲殿」
林冲「どうした、薛永」
薛「あなたの妻の名は?」
林「張藍だ」
薛「ですよね」
林「何を今更?」
薛「忘れた、と言われるのではないかと思って」
林「馬鹿なことを言うな、薛永」
薛「失礼しました」
林「この豹子頭、妻の名を忘れるくらいなら死を選ぶぞ」
薛「天晴れな惚気ぶり」 

第八話「好敵手」 

石秀「いつまでも聞いていたくなる惚気話だ」
林「次はお前か」
薛「…」
石「闘うのは、俺ではない」
林「…」
石「俺よりふさわしい相手がいるだろう、林冲」
林「…あいつか」
石「もう一度闘うのを、心待ちにしているぞ」
薛(もしかして)
石「案内しよう」

楊志「…」
林「…」
薛「…」
石「…」
林「今日は、吹毛剣なのだな」
楊「そうだ」
林「倅に託したんじゃないのか?」
楊「少しだけ、貸してもらった」
林「無くしたと思って泣いてるぞ」
楊「これが終わったら、必ず返すさ」
林「…」
楊「…」
林「」
楊「」

林冲(本気のお前とまた立合えるとは)
楊志(今回は容赦せんぞ、林冲)
薛永(凄すぎて、身体が動かない)
石秀(嬉しそうだな、二人とも)
林「」
楊「」
薛(やはり、今までの闘いで体力が)
林「!?」
楊「」
薛(林冲殿!)
林「…」
楊「…」
林「なぜ、斬らぬ」
楊「これで、あの時の借りは返したぞ、林冲」

林「味な真似を」
楊「奥方に会うのだろう、林冲?」
林「死んでもな」
楊「死人の前で、言う台詞ではないな」
林「…すまん」
楊「…」
林「…」
薛「…」
石「…」
林「!」
楊「!」

薛(なぜ涙が止まらぬのだ)
石(できることなら、俺ももう一度…)
林「」
楊「」
林(もう体力が続かん)
楊(とったぞ、林冲!)
林(そこからが、本当の闘いだ、楊志)
楊(⁉︎)
薛(林冲殿の動きが!)
石(死域か)

楊令「王母様、吹毛剣がどこにもありません」
王母「何か知りませんか、進?」

楊志(林冲に死域に入られたら、俺は)
林「」
楊「!」
林「…」
楊「負けた」
林「お前の情けが無ければ、俺の負けだ」
楊「借りを返しただけだ」
林「死人に借りを返してもらえるとは、俺もついている」
薛永「…」
石秀「この世とあの世の境目で、死域に入るとは」
楊「林冲ならできるだろうな」

林「死域に入れんのか?」
楊「死人が死域に入ったらどうなるんだろうな」
石「思考実験ですな」
林「…」
楊「…」
林「さらば」
楊「おう」

鄭天寿「さすがですね」
林「お前も闘うのか?」
鄭「俺は身の程を知っていますよ」
薛「何かご用事ですか?」
鄭「これを」
林「見事な銀細工だ」
薛「二つありますよ?」
鄭「一つは林冲殿」
林「もう一つは?」
鄭「王英に」
林「王英だと?」
鄭「万が一野郎が結婚したら、送ってやって下さい」 

第九話「誤算」 

?「最善の布陣だと思ったのですが」
?「私でも同じ布陣にしたぞ」
?「さすが林冲殿ですね」
?「しかし、想定の範囲内だろう?」
?「どうでしょう?」

林冲「ついに頂が見えたな、薛永」
薛永「私が登った時と、全然道が違いました」
林「きっとどうにでも変わるのだろうさ」

羅真人「…」

林「お前が公孫勝の野郎の師匠か」
羅「天雄星と」
薛「…」
羅「またか、地幽星」
薛「梁山泊までお願いします」
羅「慣れたものだ」
薛「林冲殿、健闘を祈ります」
林「消えた…」
羅「見事に試練を潜り抜けたな、天雄星」
林「同志と共にな」
羅「まず言っておくことがある」
林「なんでも言え」

薛「やれやれ」
安道全「戻ったか、薛永」
薛「何事ですか?」
劉唐「薛永!」
戴宗「これで行けるぞ!」
馬雲「♪──O(≧∇≦)O───♪」
薛「?」

宋江「戴宗からの便りが届いたが、二仙山を案内する者が足りずに困っていたのだ」
安「薛永」
薛「…」
安「もう一周」
薛「( T_T)\(^-^ )」馬

羅真人「天雄星」
林冲「…」
羅「お前の傍に、張藍がいてはいけない」
林「貴様ごときが決めるな」
羅「喪われた命が甦ることなど、あってはならぬ」
林「御託はいらん、さっさと張藍に会わせろ!」
羅「…話にならんだろうと思っていたが、よもやここまでとは」
林「何が言いたい」
羅「お前は馬鹿だ」

林「さすが公孫勝のしみったれた師匠だ。言うことが変わらん」
羅「万物を知っている私にして、こいつをまともに相手にするのは無理だ」
林「そいつは光栄だ」
羅「あの張藍が選んだだけのことはある」
林「貴様、それではまるで張藍まで馬鹿だと言っているようではないか」
羅「大馬鹿だ」
林「野郎」

羅「頭が痛くなってきた」
林「いらん知識を詰め込みすぎだ」
羅「お前は空っぽにもほどがある」
林「なんだと、糞爺」
羅「いかん、このわしが天雄星に翻弄されるとは」
林「さっきからなんだそのいけ好かない呼び方は」
羅「色々尋ねるはずだったのだが、もうどうでもいいな」
林「まどろっこしい爺め」

羅真人「お前とその同志が今まで殺した者たちが、刺客となってお前を襲う」
林冲「俺の邪魔をするようなら、何度でも殺してやるさ」
羅「お前はそれでいいのだろうな」
林「何を迷う必要がある?」
羅「今まで殺すのに惜しいと思った敵もいないのか?」
林「それを言ったらきりが無いぞ」
羅「それは?」

林「たまたま俺が梁山泊にいるから、官軍の将兵を殺すことになったのだ」
羅「…」
林「もしもそれが逆の立場だったら、梁山泊の将兵を殺すことになっただろう」
羅「…」
林「そして俺は梁山泊で戦う事を選んだ」
羅「…」
林「たったそれだけのことだろう、爺?」

羅「お前の馬鹿さ加減もここまでくると痛快だな、天雄星」
林「さっきからなんなんだ、糞爺」
羅「その糞爺というのをやめろ」
林「じゃあ糞婆か」
羅「貴様、今この場であの世に送ってやろうか」
林「やってみろ、糞爺婆」
羅「一清はこんな馬鹿を常日頃相手しているのか」
林「公孫勝も馬鹿だぞ?」

羅真人「さっさと張藍を救う最後の試練に行け」
林冲「言うまでもない」
羅「失敗した時の話があったが」
林「俺が失敗するわけないだろう?」
羅「死ぬより酷い目にあうぞ?」
林「望むところだ」
羅「馬鹿を通り越したな、天雄星」
林「また相手してやる、糞爺婆」
羅「後悔しろ」
林「するものか」 

第十話「試練」 

林「あの糞爺婆の刺客がうじゃうじゃいる気配だ」

林「そこかしこに罠があるのは一目で分かる」

林「もう一度死にたい奴がいたら優先的に死なせてやるから、さっさと出て来い」

刺客「」
林「ここまで多いとは」

林(しかし、不思議だ)

刺「」
刺「」

林(俺はかつてこんな事を、誰かのために本気でした気がする)

刺「」

林(誰のためだっただろうか?)

刺客「林冲」

林(そうだ)

刺「張藍を死なせたくなかったら、槍を捨てよ。張藍だけは、助けてやる」

林(思い出した)

刺「それ以上進むと、張藍を殺すぞ」

「殺せ。ここで救い出せなかったら、ともに死ぬ、と決めてきた。張藍、許せよ。私は、おまえのためだけに、死力をふり搾る。それでも力が及ばなかったら、許せ。ともに、死のう」

刺「!」
林「!」
張藍「…待っていましたよ、林冲様」
林「…」
張「なぜ泣くのですか?」
林「お前が、偽物だったら、どうしようかと思ったのだ」
張「何を仰いますやら」
林「…」
張「本物の、あなたの張藍は、ここにいますよ」
林「…」
張「ずっと、あなたのお隣に」

刺客「背中を見せるか!」
林冲「…」
扈三娘「!」
刺「…」
林「よう」
張藍「さすが、扈三娘」
扈「帰りますよ、林冲殿」
林「お前、随分とふてぶてしくなったな」
張「お楽しみがありますものね」
扈「張藍。お話しはこの辺で」
林「二度と離さんからな、張藍」
張「当然!」

林「斬り抜けてやる。突き抜けてやる」
扈「行きますよ、林冲殿」
刺「」
林「また増えたもんだ」
扈「行けるところまで、二人で」
?「その必要はない!」
林「お前ら!」

楊志「ここは俺たちも共に戦わせてもらおう」
雷横「やはりお前と共に闘うことほど愉しいことはないからな」
林「負ける気がせんな」
扈「全くです」
鄧飛「死ぬ心配をする必要がない闘いなど、初めてではないかな?」
宋万「楽な闘いだ」
杜遷「もう一度共に闘いたかったぞ、林冲」
焦挺「俺も!」

林冲(こいつらなら、誰にでも背中を任せられるな)
楊志(吹毛剣が喜んでいるぞ、林冲)
石秀(盛大に俺たちで見送ってやるよ)
童威「懐かしいな」
周通「俺たちだって雑魚じゃねえ」
穆春「地元じゃやる時はやる男だ」
施恩「替天行道にもそう書いてありますものね!」
李袞「これをもっとやりたかったよ」

林「しかし、なぜお前らがここに」
楊「屋敷を出れば分かる」
鄧飛「この刺客は俺たちに任せてとっとと帰れ!」
赤い名の皆「梁山泊に」
扈「!」
張藍「扈三娘!」
林「油断するな、扈三娘」
扈「ありがとうございます、林冲殿」
林「俺が助ける女は張藍だけだ」
張「さすが林冲様」
扈(やれやれ) 

第十一話「志」 

林「あんたは!」
晁蓋「久しぶりだな、林冲」
扈三娘「!!!」
張藍「!」
阮小五「林冲殿に小細工はいりませんな」
時遷「無事で何より」
林「お前らの報せか」
張青「役に立てたか?」
林「大助かりだ」

扈「…」
張(チャンスよ、扈三娘)
扈(なぜそれを)
張(私に隠し事ができるとお思いで?) 

林「晁蓋殿」
晁「なんだ、林冲」
林「今の梁山泊を見て、何を思う?」
晁「…」

晁「どうでもいいな」
林「晁蓋殿!?」
晁「どうなってもいい」
林「…」
晁「宋国に勝つも良し、宋国に負けるも良し」
林「…」
晁「宋国を滅ぼし、栄華を極め、没落するかもしれん」
林「…」
晁「宋国に敗れ、苦汁を味わい、這いつくばるかもしれん」
林「…」
晁「しかし、林冲、扈三娘」

晁蓋 「梁山泊は不滅だろう?」
扈三娘「その通りです、晁蓋殿!」
晁「たとえ何があろうとも、梁山泊に集った面々に灯った志の灯火は消えることは無い」
林「…」
晁「その灯火さえ消えなければ、梁山泊はどうなっても一向に構わん!」
林「…」
晁「違うか、林冲?」
林「全く異存ありませんな」

阮小五「まだ終わりではありませんよ、林冲殿」
林「だろうな」
阮「梁山泊に帰るまでが試練です」
張(やれ)
扈「晁蓋殿!」
晁「おう、扈三娘」
扈「…」
晁「?」
扈「雁です、晁蓋殿」
張「」
林「?」
晁「雁だな」
扈「…」
晁「?」
扈「失礼します」
晁「おう…」

晁「雁?」
韓滔「変わらんのう」 

第十二話「一百零八の星」 

張藍「何をやっているのですか、扈三娘」
扈三娘「こんなはずでは…」
林冲「早いところ帰るぞ」
百里風(俺を忘れるな、林冲)
林「百里!」
雪嶺(私もいますよ)
扈「雪嶺!」
林「一体なぜ」
皇甫端「総動員されたのだ」
段景住「ほったらかしは酷いぞ、林冲」
林「なぜお前らが」

段「俺たちだけではない」

李逵「結局俺たちが露払いかよ、兄貴」
武松「大事な仕事だ」
燕青「私たちも暇ではないのに」
蔡福「なぜリア充の歩む腐り果てた道の清掃をしなければならんのだ」
蔡慶「善行を積むのも悪くないぜ、兄貴」

林「魯達!」
魯達「林冲!」
林「なんだ!」
魯「馬鹿!」

張「素敵なご友人ですね、林冲様」
林「馬鹿な奴ばかりだがな」
扈(多分一番馬鹿なのは…)
刺客「…」
張「林冲様」
林「どうした、張藍」
張「今、扈三娘が私たちを馬鹿にした目で見ていましたよ」
扈「!」
刺「…」
林「なんだと、扈三娘」
扈「それは」
刺「!」
張「」
林「張藍!」
扈「そんな」

林冲(張藍の、血だ)
扈三娘「肺腑に矢が…」
張藍「…」
林「くそ、安道全がいたら」
公孫勝「これだから、お前は大馬鹿なのだ」
林「お前!」
公「奥方を運べ」
林「どこへ!」
薛永「安道全の所に決まってます」
林「また来てくれたのか」
公「礼を言えよ」
林「恩にきる」
公「私にではない」

安道全「残念だ、林冲」
林「まさか!」
安「殺しても、死なない奥方だ」
林「なんだと」
安「しぶとさは旦那譲りだな」
林「お前が友で本当に良かった、安道全」
安「ならせいぜい酒手をはずめ!」
林「いくらでも振舞ってやる!」

安「…良かった」
白勝「成功したんだから泣くなよ」
安「お前もな、白勝」

林「おう、あの旗は」
索超「林冲殿!」
林「お前らも来てくれたのか」
馬麟「いつになく殊勝ですな、林冲殿」
郁保四「またやらかしましたね」
呂方「俺たちの謎は解かれたんですか?」
林「忘れろ」
索「良いんですか?」
林「今お前らは、梁山泊にいるではないか」
呂「はあ」
林「それでいい」

羅真人「貴様らよくも禁を破って、あのくそったれ天雄星の味方になったな」
晁蓋「その責任は、全て私がとります、羅真人様」
羅「…」
晁「だから私以外の者の罰を、全て私に負わせていただいて、一向に構いません」
羅「ならば貴様を一百零八星の中から永久追放…」
晁「できますかな?」
羅「…」

羅「そういう事か」
晁「まあ、我ら全員で糞尿でも馬糞の処理でもなんでもいたしますので」
羅「晁蓋」
晁「はい」
羅「いつかお前に二仙山を乗っ取られる気がしてきた」
晁「なるほど。ここを梁山泊にするのも悪くないですな」
羅「梁山泊には馬鹿しかいないのか?」
晁「馬鹿でないと入りませんよ」

阮小五「どうでした、晁蓋殿?」
晁「糞尿と馬糞の処理を羅真人に良いと言われるまでだとさ」
鄧飛「汲み取りなら任せろ」
朱貴「死んでも排泄ってするもんなんだな」
韓滔「死んでみないと分からんことも多いのう」
晁「楊志は?」
石秀「子午山に、吹毛剣を返しに」

楊令「父上、私はどうしたら良いのでしょう」
楊志(泣かしてすまん、令)
令「…」
「」
令「!」
志(…)
令「あった!」
志(でかくなったもんだ)
令「これは?」
志(勝手に借りた詫びだ)
令「こんな素敵な銀細工持ってたかな?」
志(…)
令「まるで、鄭天寿殿が作ったみたいだ」
志(父は、見ているぞ) 

最終話「馬鹿」 

晁蓋「時遷」
時遷「防諜は万全です」
晁「真面目な話だ」
阮小五「はい」
晁「これからもこの世では戦は続く」
石秀「…」
晁「するとここにくる梁山泊の同志も、必ず出てくる」
韓滔「まあそうでしょうな」
晁「ならば」
阮「ならば?」
晁「ここを我々で…」
阮「悪い顔してますよ、晁蓋殿」

林冲「薛永」
薛永「…」
林「心から礼を言わせてくれ」
馬雲「( ̄^ ̄)」
林「馬雲も」
馬「( ͡° ͜ʖ ͡°)」
薛「声を出す体力すら使い果たしましたよ」
林「この恩、どうやって返せばいいのか」
薛「無条件で私の薬の治験者になっていただけますか?」
林「死ななければな」
薛「林冲殿は死にませんよ」

林冲「公孫勝」
公孫勝「…」
林「お前にも礼を」
公「師匠も同じことを思ったのではないか?」
林「何を」
公「お前が梁山泊一の、大馬鹿だとな」
林「貴様」
公「奥方は女性部門の一番だ」
林「俺を本気で怒らせたな、公孫勝」

劉唐「平常運転だな」
索超「やれやれ」

安道全「術後の容態も安定している」
白勝「声を出すのだけは、当分我慢させてくれ」
林「分かった」
安「惚気るのも当分お預けだぞ、林冲」
林「張藍が完治した暁には、お前らをうんざりさせてやるよ」
安「林冲」
林「なんだ」
安「今まで私たちがお前らにうんざりしてなかったと思っていたのか?」

林「張藍…」
張「…」
林「喋らなくていいぞ」
張「…」
林「お前には俺がいる」
張「…」
林「何があろうとも、俺の傍にいてくれ」
張「…」
林「この後梁山泊で、どんな罰が待っているのか分かった物ではないが」
張「…」
林「死ぬまで一緒だ、張藍」
張「死んでもです、林冲様」 

人物紹介

・林冲…この後どんな罰を受けるかは、読者の皆様に決めていただくとしよう。
・張藍…鄭天寿の銀細工がとても気に入った。リハビリも順調。

・扈三娘…後日、王英から渡された銀細工が嫌いではなかった。 
・索超…帰り道に騎馬隊を率いてきた。
・馬麟…歓迎の音色は少し戯けていた。
・郁保四…一発で分かる旗。
・呂方…悪い予感は外れてよかった。

・安道全…バカップルどもめ。天寿を全うして死にやがれ。
・白勝…薛永に長期休暇を取らせる根回しをした。
・薛永…MVP。歩いて→無理やり引きづられて→神行法でしょっぴかれた。
・馬雲…٩( 'ω' )و

・公孫勝…師匠から長い長い林冲の悪口の手紙が届いた。
・劉唐…再起不能の兵が一人もいないとはさすがだ。
・楊林…鄧飛の兄貴。鎖鎌、上手くなったぜ。
・王英…渡された銀の髪飾りに見覚えが。
・楊雄…石秀がいたらどうしてたかな。
・孔亮…孔に遭って開くを持ちネタに。
・樊瑞…今の俺がいるのは李袞のおかげか。

・魯達…闇塩トリオを借りた代わりに、盧俊義の激務を手伝わされた。それが出来るのも鄧飛のおかげか。
・武松…潘金蓮の事を少しだけ思い出した。
・李逵…意味深な伏線の割に、俺らの出番は意外性が無かったと思わねえか?

・石勇…林冲殿に見つかるし心も見透かされるとは、時遷の頭領にはかないませんね。

・郭盛…なんちゃって門番。方天戟を弾き飛ばされた。
・項充…なんちゃって門番。李袞と練習した飛刀を全部弾き飛ばされた。
・彭玘…呼延灼と飲んでる時、韓滔がいた気がした。
・楽和…祝福の歌は得意ですけど、門番は苦手です… 

・関勝…生きているうちに、友や部下を大事にしようと思った。
・呼延灼…彭玘にうっかり、韓滔と呼びかけてしまった。

・宋江…皆!林冲の罰の内容を楽しみに待っているぞ!
・呉用…(悪意がありまくるようで全く無いのが恐ろしいですね、晁蓋殿)

・阮小二…小五がいたら、どんな船を作っただろうか。
・湯隆…銀細工ってのも面白そうだな。

・陶宗旺…施恩のおかげで、私の生き方が分かった気がしました。
・李雲…昔馴染みの三馬鹿とは仕事終わりにふざけたもんだ。

・朱富…兄上がいなかったら、こんな楽しい毎日は送れていません。
・顧大嫂…朱貴との料理談義は短い間だったけど楽しかったね。

・戴宗…神行法の大安売り。日頃の食生活が質素な薛永の加速度に目を見張った。
・王定六…同志のためならいくらでもこの足を使わせてくれ。

・燕青…自分のやりたい事だけのために戦えるなんて羨ましいな。
・蔡福…もし俺に嫁ができて同じ目にあったとしても、一体何名が力を貸してくれると思う?
・蔡慶…日頃の行いだよ、兄貴。

・皇甫端…百里風も雪嶺も健気な馬だよ。
・段景住…周通隊長を知りもしないでヘタレ呼ばわりする奴はぶん殴ってやる。

・王母…楊令があんなに泣くなんて初めてです。
・王進…青痣の目立つ見所ある兵を教えたことを思い出しながら、死域。
・楊令…吹毛剣と懐の薬草と銀細工だけは絶対に無くさない。

赤い名の皆
・周通…李忠に会いてえな。今の俺ならあんたにも勝てる。
・穆春…兄者に会いたい。上の兄者も一緒に、三人で。
・施恩…宋江様の教えは死んでも生きています。変な事言ってますけど。
・李袞…樊瑞と項充と一緒に、馬鹿なことをしたいな。

・朱貴…朱富と二人で店をやりたかったな。陳麗もいたらなお良かった。
・韓滔…彭玘と二人で呼延灼をからかってやりたい。倅も心配だ。
・時遷…石勇もまだまだ半人前だな。
・張青…俺のことなんてさっさと忘れて、新しい旦那でも作れ、鬼嫁。

・宋万…林冲の稽古はあの世でも生きたな、杜遷。
・杜遷…我らがあの世ででかい顔できるのも林冲のおかげだ。
・焦挺…俺より強い相撲の名手はいませんか?
・童威…李俊殿の無茶振りを猛一人だけで受けさせることになっちまったのは、申し訳ねえな。

・雷横…俺のためなんぞに髭を剃ったら誰か分からんぞ、朱仝。
・鄧飛…孟康も楊林もそれぞれの場所でシャンと生きてやがるじゃねえか。魯達も元気そうで何よりだ。

・楊志…吹毛剣を返した帰りに王進と目が合った気がした。
・石秀…致死軍の事も二竜山の事も同じくらい大切だ。よもや、俺の剣まで大事にとっておいてくれるとは。
・鄭天寿…銀細工を作ってたから、大乱闘には不参加。俺にはそっちの方が大事な依頼さ。

・阮小五…兄貴と弟は相変わらずお気楽にやりやがって。こちとら死んでも激務だぞ。

・晁蓋…扈三娘との会話の意図が掴めなかった。雁?

・羅真人からの長い長い手紙、の一部…一清。貴様の同朋の天雄星が落ちてきたが、あいつの馬鹿っぷりはなんだ。私はお前を立派な仙人として育て上げたつもりだったが、あの馬鹿天雄星などと友になっているのか。なんと嘆かわしい。私の教えたことを何も理解してないではないか。それにあの天雄星の馬鹿嫁の処遇も玄女様のうっかりで 

元ネタ!

長々とご覧いただきありがとうございました!(いや、マジで)

ご意見、ご感想(クレーム)、こちらまでお寄せいただけますと幸いです!

どうぞよろしくお願いいたします!


中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!