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【ストーリー深読み】なぜ祐はラノベ作家になれないのか?


 本記事では、『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』(以下、『いもいも』)のストーリーを深読みします。

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 本記事は、「徹底解説!『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』」の第3回です。第1回はこちらからご覧ください。

 また、『いもいも』のあらすじを図解した第2回はこちらからご覧いただけます。

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三葉「『いもいも』をしつこくしつこく、何度も視聴していたんですよ」

清水「ええ」

三葉「そうしたら、『あれ……これ、キーワードじゃん!?』というものを発見しまして」

清水「ほぉ。『キーワード』というと……」

三葉『ここに注目すると本作のストーリーが理解しやすくなる』、『キャラたちの言動が理解しやすくなる』みたいなポイントですね」

清水「なるほど」

三葉しかも3つも

清水「ほぉ!」

三葉「本記事ではそれをご紹介したいと思います」


Keyword 1:「優しい世界」

三葉「で、早速ですが、1つ目のキーワードは『優しい世界』です」

清水「『優しい世界』ですか」

三葉「ええ。『いもいも』って『優しい世界』の話だよなぁ、と思いまして」

清水「例えばどのあたりからそう感じられたのでしょう?」

三葉「そうですねぇ……『優しい世界』であることが最も端的に現れているのは、『妨害者』の描き方ですかね」

清水「『妨害者』?」

三葉「ええ、『妨害者』というのは、主人公の祐と涼花にとっての『邪魔者』、『ライバル』、もっときつく表現すれば『敵』のことです」

清水「ああ、なるほど。ということは、本作における『妨害者』は……」

三葉舞、春菜、桜田監督の3人ですね」

清水「ふむふむ」

三葉「果たして彼らはどのような『妨害』をしたのか。ここで彼らの『妨害行動』を整理してみましょう」

清水「ふむ。確かに祐と涼花にとっては『妨害』ですね」

三葉「ええ。ところが彼らがこうした行動をとった動機をみてみると……この3人、いずれも『悪人』ではないんですよね」

清水「なるほど」

三葉物語を盛り上げるためには、『妨害者』が必要です」

清水「ふむ。視聴者は、主人公が『妨害者』に負けそうになるから手に汗握り、そして最終的に主人公が勝利するからスカッとするわけですからね」

三葉「しかしその『妨害者』がいずれも『悪人』ではなく、それどころか永久野誓やアヘ顔Wピースの大ファンであるという設定……まさに『優しい世界』といえるのではないかな、と」

清水「うーむ、なるほど」

三葉「まぁ、これを『ぬるい』、『甘っちょろい』と感じる視聴者もいるかもしれませんが……」

清水「いやぁ、これくらいでちょうどよいと思いますよ。萌えアニメですからね。あまり深刻な問題を持ち込まれても困ります。視聴者が求めているのは『萌え』であって、『シリアス』でも『ヒューマンドラマ』でもありません。無論ストーリーにメリハリは必要ですが、『とはいえ、彼らも悪人ではありませんでした』程度で十分だと思います」


Keyword 2:「好きなことをしよう」

三葉「続いて2つ目のキーワードにまいりましょう」

清水「はい」

三葉「ズバリ……『好きなことをしよう』です」

清水「YouTubeのキャッチコピー『好きなことで、生きていく』みたいですね」

三葉「ええ、まったく同じ意味だと思います。そして私は、これこそが『いもいも』全体を貫くメインテーマだと考えています」

清水「ほぉ」

三葉「というのも、『好きなことをしよう』的なシーンが何度となく登場するんですよ。例えば3話。担当編集者・篠崎から『妹以外のヒロインを出したほうがよい』とアドバイスを受けた涼花がスランプに陥るシーンがあります」

三葉「また、7話にはアヘ顔Wピースが涙を流すシーンがあります」

三葉「共通しているのは、『好きなことをすれば成功する』、『本当に好きなことでなければ実力は発揮できず、苦しむ』ということですね」

清水「ふーむ、なるほど」

三葉「視聴者が意識しているかどうかは別問題として……このアニメを視聴している時、私たちは始終『好きなことをしよう』というメッセージに晒されているといえます」


Keyword 3:「才能・覚醒・勝利」

三葉「最後に3つ目のキーワードですが……少し前置きを」

清水「どうぞ」

三葉「どうも」

清水「いえいえ」

三葉「さて……『いもいも』は、ラノベをアニメ化した作品です。原作ラノベはまだ完結には至っておらず、その意味で『アニメは物語の途中で幕を閉じた。物語自体はまだまだ続く』といえます」

清水「ふむ」

三葉「ただ、アニメ自体を1つの完結した作品と見なすこともできるでしょう。この場合、物語のクライマックスは桜田監督との戦いだったといえます」

清水「そうですね」

三葉「いわば、桜田監督は『ラスボス』。このラスボスとの戦いを簡単に振り返ってみると……」

三葉「つまり、祐は元々持っていた『妹萌え』という『才能』を『覚醒』させ、『勝利』に至ったわけですが……これ、どこかで似たような話を聞いたことがありませんか?

清水「……むっ!」

三葉「そう……『才能・覚醒・勝利』、すなわち『ジャンプ』マンガに代表される『王道バトルもの』に瓜二つなんですよね」

清水「ふーむ。『王道バトルもの』というと……」

三葉「ここではシンプルに、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』を思い浮かべていただければ結構です」

清水「なるほど」

三葉「というわけで、『いもいも』の3つ目のキーワードは『才能・覚醒・勝利』です」

清水「ふむ」

三葉「すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、『才能・覚醒・勝利』の下敷きにあるのは『友情・努力・勝利』です」

清水「『友情・努力・勝利』といえば、『週刊少年ジャンプ』のコンセプトですよね」

三葉「ええ。『ジャンプ』の多くの作品にこの精神が宿っていることはよく知られていますが……『実際には、特殊な出自を持つ主人公が、仲間の犠牲などを経て能力に目覚めて勝利に至る……すなわち才能・覚醒・勝利ではないか!』という一種のジョークですね」

清水「上手いことを言いますね」

三葉「ええ。これ、単なるジョークと片付けてしまうのはもったいなくて、相応の妥当性があると思うんですよ」

清水「ほぉ」

三葉「孫悟空もルフィも特殊な出自、すなわち『才能』を持っており、それが『覚醒』することで『勝利』を得ていると解釈することも可能ですからね」

清水「まぁ、孫悟空はサイヤ人ですし、ルフィは祖父も父も偉人で、『Dの意志』を継いでいるらしいですしね」

三葉『永遠野誓として活動するようになってから涼花との距離が縮まり、妹萌えになった』というストーリーでもよいはずなのに、『実は元々才能があり、それが覚醒した』という展開になる……この点において、『いもいも』のストーリーは王道バトルものに近しいといえます」


【核心】なぜ祐はラノベ作家になれないのか?

三葉「とまぁ、以上が『いもいも』の3つのキーワードです」

清水「なるほどねぇ」

三葉「でね、ここでこの記事を終わってもよいのですが……ここまで来るとわかってしまうのですよ……あれが」

清水「……『あれ』?」

三葉「ええ。3つのキーワードを文字通り『鍵』とすることで、本作最大の謎が解決できてしまうんですよ」

清水「『本作最大の謎』というと……」

三葉「ズバリ……『なぜ祐はラノベ作家になれないのか?』、これです!」

清水「……ん?それが『謎』ですか?」

三葉「まさに!」

清水「……んー……アレ、『いもいも』ってそんな話でしたっけ?」

三葉「まぁ、落ち着いて」

清水「いや、私は落ち着いています。どちらかというとあなたの方が乱心気味というか……」

三葉「では清水さんに質問しましょう。本作の主人公・祐は、ラノベ作家志望ながら、まだ夢を実現できていない少年です」

清水「ええ」

三葉なぜだと思います?

清水「んー……それは実力が不足しているとか、経験が足りないとか、そういう……」

三葉「この問いは一見するとアホらしく、何の意味もない戯言に見えるのですが……私、『いもいも』を語る上で絶対に外せないポイントだと考えています。『なぜ祐はラノベ作家になれないのか?』……その答えがわかれば、『いもいも』を完全に理解できたと考えてよいのではないかとすら思っておりまして

清水「ほぉ。面白いですね。お話、お伺いしましょう」


▶︎ 祐の実力はどの程度のものか?

三葉「まず、いま一度祐というキャラについて確認しておきましょう」

清水「改めて見ると、舞は毒舌ですね……」

三葉祐の現時点での実力は『あまり高くない』……というか『低い』と思われます」


▶︎ 3つのキーワードを使って、祐がラノベ作家になれない理由を解き明かそう

三葉「それでは本題。なぜ彼はラノベ作家になれないのか?3つのキーワードを使ってその理由を解き明かしてまいりましょう

清水「承知しました」

三葉「さて、本作の1つ目のキーワードは、『優しい世界』でした」

清水「はい」

三葉「目を閉じて」

清水「……ん?」

三葉「目を閉じて、そして想像してください。……『優しい世界』です。『少年が夢を抱き、努力を続けました……が、叶いませんでした』、『彼には実力がなかったのです。残念でした』、『努力は必ずしも実りません』……なんて展開があり得るでしょうか?

清水「いや……『優しい世界』ですからねぇ……そんな悲劇は起こりそうにないですね」

三葉「そうですよね。……続いて2つ目のキーワード、『好きなことをしよう』にまいりましょう」

三葉「はい、ここ!」

清水「……!」

三葉「もうお気づきになっている方もいらっしゃると思いますが……祐はなぜラノベ作家になれないのか?答えは、『好きなことをしていないから』。もっとわかりやすくいえば、『本当に書きたい作品を書いていないから』……これですよ!」

清水「ふーむ」

三葉「それでは『祐が本当に書きたい作品』とは一体どのようなものなのでしょうか?

清水「ハハァ……何となくおっしゃりたいことがわかってきましたよ」

三葉「さて、本作の3つ目のキーワードは……」

三葉「王道バトルマンガよろしく、祐が覚醒しました。その結果判明したのは、彼が『妹萌え』であったということです」

清水「ええ、祐は、桜田監督も太刀打ちできぬ真の『妹萌え』でした」

三葉「……ということで、結論です。祐がラノベ作家になれないのは、彼が本当に好きな『妹萌え』作品を書いていないから

清水「ふむ」

三葉「そして、なぜ書かないかといえば、彼自身が『妹萌え』という真の自分の姿を忘却していたからです」

清水「うーむ!」

三葉彼がいつか『妹萌え』全開の作品、それこそ『妹が好きすぎて困ってしまう兄の物語です。』なんてタイトルの作品を書き上げる……その時こそ、彼はプロデビューできるのだと予想します

清水「うーむ……『いもいも』の著者や、アニメ制作者のみなさんがどう思われていたかは別として、なるほど、1つのストーリー展開としては十分あり得ますね。なかなかどうして説得力がありますよ」

三葉「これはどうも。以上、ストーリーの深読みでした」

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

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<コンテンツ>

・1【新】徹底解説!『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』

・2【完全図解】『いもいも』のあらすじ

・3:【ストーリー深読み】なぜ祐はラノベ作家になれないのか?

・4【放談】『いもいも』、もっと見たかった「あのパンツ」

・5【キャラ分析】『いもいも』の氷室舞と『エヴァ』のアスカの比較人間学

・6【話題】萌えられない!?『いもいも』作画崩壊について

・7【物語の仕組み1】秘密があるから距離が縮まる from『いもいも』

・8【物語の仕組み2】優れたあなたの秘密を知りたい from『いもいも』

・9【物語の仕組み3】秀才は天才に苛立っている from『いもいも』

(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)

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