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「『世界改変能力を持つヒロイン』が登場する作品」のバリエーションを考える!明日から使える図表付き★|「試作神話」

 ご想像いただきたい。

 あなたはいま、男子高校生だ。

 同じクラスに、大変優秀な女子生徒がいる。彼女は才気煥発ながら……変人!日々、奇行が絶えない!

 そして、じつはあなたは、そんな彼女に憧憬の念を抱いており……。

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 こんにちは。傑作マンガを分析・研究する「21世紀マンガスタディーズ」のお時間です。

 本日取り上げるのは……こちらの作品!


市真ケンジ「試作神話」

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登場人物紹介

・清水:マスター・オブ・アニメ。京都アニメーション制作アニメの中で最も好きなのは、「フルメタル・パニック? ふもっふ」

・三葉:清水とは中学からの友人。京都アニメーション制作アニメの中で最も好きなのは……あまりに多くて選べません。

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作品概要


三葉「それではまいりましょう!」

清水「はい」

三葉「まずは作品概要のご紹介から!」









【補足】私たちには「類推」がある♥


 私たち人間には、「類推」(Analogy)の能力が備わっている

 類推とはこういうことだ。

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①Aを理解する際に、

②記憶の中からAに似ているものを引っ張り出す。

③「AはBに似ているから、たぶんこういうことで……アレ、違うのか?ってことは……」

 ……という具合に、既知のBを頼りに、未知のAを理解しようとする。これだ。

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 物語に触れた時にも、この類推の力が働く……無意識の内に!

 例えばマンガ。

 新しいマンガを読みだすと、私たちはすぐにタイトルや作者の過去作、最初の数ページなどを頼りに、「アレに似ているようだが……ってことは、あのパターンか?」と推理する……もちろん無意識の内に!

 類推は無意識に機能する。止めることはできない。


 さて、本記事だ。

 本作は、一見すると『ハルヒ』に似ているように感じる。しかし、実際にはだいぶ違う。そのズレが本作の魅力の1つだ……と上述した。

 こう申し上げると、随分マニアックで、穿った鑑賞スタイルに見えるかもしれないが……否!

 類推の能力を持つ私たちにとっては、これこそが通常運転。ごく一般的な鑑賞スタイルなのだ……意識しているかどうかは別として。


 で、何を言いたいかというと……読者が漏れなく類推しながら鑑賞する以上、クリエイターのみなさんにおかれては、これを意識しておいて損はないと思うのだ

 例えばミスリード。

 本編のストーリーとはまったく無関係のシーンを冒頭に置き、読者の類推を捻じ曲げる。これによって、物語中盤以降の読者の驚きや感動を増幅させることができるだろう(「コメディかと思ったら……これ、感動ものじゃん!」)。


 長くなったが……以上の問題意識のもとに本記事を作成した。

 「あー、読者はこんなことを類推しながら鑑賞したわけねー」なんて具合にご覧いただけますと幸いです。


【考察①】「世界改変」とは何か?




三葉上図では、『A』から『D』まで、ざっくり4つのエリアに区分けしています

清水「ふむ」

三葉「でね、キャラの立場になって考えると、おそらく最もハードな『世界改変』は『C』だと思うんですよ。これまでとはまったく異なる世界に放り出され、しかも時間はループしない。つまり、一度死んだらそれっきり!

清水「ふーむ、確かに。本作に登場するRPG風の世界に突然飛ばされて、『死んだら2度と生き返ることはないよ!』というのでは、なかなか厳しいものがあるでしょうね……」

三葉「ですよねぇ」

清水「ただ、それでは『C』の対極にある『B』はお気楽なのか?……一概にはそうも言えないでしょう

三葉「ほぉ」

清水「『変化量』が少なければ生きやすそうなものですが……例えば、とある1日を1万回繰り返すとなったらいかがです?」

三葉「気が狂うでしょうねぇ……」

清水「そう!つまり、タイムループ性があればよいというものでもない。寧ろ、それが苦しみの元凶になる場合もある」

三葉「ふむ」

清水「そう考えると最も安全なのは……」

三葉『D』!

清水「ええ。……ただ、元の世界そっくりで、しかもループもない……これ、『世界改変』していないのとほぼ同義ですけどね……

三葉「うーむ……フィクションの世界では『D』はナシかなぁ……」




【考察②】キャラの認知と意識はどうなっているか?







考えてみよう★


三葉「ここからは『考えてみよう!』のコーナーです」

清水「はい」

三葉本記事でご紹介してきた図表をもとに、『世界改変能力を持つヒロインが登場する作品』のアイデアを考えてみたいと思います」

清水「承知しました」


【アイデア①】「男性主人公だけがすべてを認知」パターン


三葉「まずは、これ!」



三葉「これは、『<ヒロインの能力>も、<世界が改変されたこと>も、男性主人公だけが気づいている』というアイデアです」

清水「なるほど」

三葉「換言すれば、『男性主人公以外は、みんな何一つとして知らない』

清水「ふむ」

三葉ヒロインが自身の能力に気づいていないという点は『ハルヒ』と共通していますが……」

清水「『ハルヒ』の場合、男性主人公・キョンだけではなく、長門有希や朝比奈みくる、古泉一樹などがその能力を認知していますよね」

三葉「そう!だからこそ、彼らはキョンをサポートすることができた!」

清水「『消失』なんて典型例ですね。キョンは孤独な戦いを強いられますが……最後の最後には長門が本領を発揮する!アレはじつに感動的なシーンでしたねぇ……」

三葉「それに対してこのアイデアでは、そもそも男性主人公以外が『能力』も『改変』も知らない。当然主人公をサポートすることはできない。つまり、彼はたった1人で、元の世界に戻ろうと四苦八苦することになります」

清水「ふーむ、なるほど。『圧倒的な課題を前に、誰1人として仲間がいない。というか仲間になり得ないという孤独』や、『どれだけ努力を重ねても元の世界に戻れず、しかもそれを共有する相手もいない絶望』なんてあたりは、『消失』はもちろん、『STEINS;GATE』にも通じるものがありますね」

※「STEINS;GATE」:「シュタインズ・ゲート」。元はゲーム。2011年にアニメ化された。男性主人公・鳳凰院凶真の孤独、そして苦しみは、涙なしは見られません。


三葉「あー、確かに!あるいは、『Charlotte』の最終回付近で描かれた孤独な戦いとか、『Re:ゼロから始める異世界生活』あたりにも近いものを感じます」

※「Charlotte」:「シャーロット」。2015年のオリジナルアニメ。最終回を含む物語後半の急展開に対しては賛否両論あるが、少なくとも男性主人公・乙坂有宇の孤独な戦いは胸に迫るものがある。


※『Re:ゼロから始める異世界生活』:元はラノベ。2016年にアニメ化された(現時点では時期は未定ながら、第2期の放送も決定している)。男性主人公のナツキ・スバルがレムに殺されまくるシークエンスなどに漂う絶望感は、印象深いものがある。


清水「ふーむ。こう考えてみると、『孤独で絶望的な戦いを描いた作品』には間違いなく需要があるようですね」

三葉「したがって、このアイデアも料理の仕方によってはそこそこいけるのではないかと思うのです」


【アイデア②】「誰もが改変に気づいているが、誰の能力かわからない」パターン


三葉「続いて、2つ目のアイデアはこちら!」



三葉「これは『誰もが<世界の改変>に気づいているものの、それが誰の能力なのかわからない』パターンです」

清水「ほぉ」

三葉「例えば……舞台はとある高校のクラス。クラスメイト30人が『改変』に気づいている。そしてまた、このクラスの誰かが能力を持っていることもわかっている

清水「なるほど。『デスゲーム』風と言いますか……殺し合いでも始まりそうな雰囲気ですね……」

※デスゲーム:「バトルロワイアルもの」とも。複数のキャラが特定の場所に隔離され、命を懸けて「ゲーム」に挑むタイプの物語のこと。最も有名なのは高見広春氏の小説『バトル・ロワイアル』だろう。同作のように、最後の1人になるまで参加者同士が殺し合いをするのが典型例。


三葉「そうそう。『なんかこの世界、お前にとって都合がよくね?』とか、『お前、ちょっとイケメンになった?……もしかして自分の顔を都合よくいじってない?』なんてやりとりもあったりして」

清水「ふむ」

三葉「ただ、物語が進む内に『能力者は、自身の能力を認知していない』、そして『能力者は何かしらの不満を抱えている。それが満たされれば元の世界に戻れる』ということが判明する

清水「ほぉ……」

三葉「ところがどっこい!誰の、どのような欲望が満たされればよいのかわからない!ということは……全員が幸せになるしかない!かくして彼らは、全員のすべての欲望を満たすユートピアを築くべく動き出す!

清水「おー!……とはいえ、全員が全員幸福になるのは難しいでしょうねぇ……。例えば、AくんとBくんが、どちらもCさんに恋している場合なんて……」

三葉「2人が同じ人を愛してしまった……致し方ありません!愛を止めることはできない!『このクラスではハーレムを認める!』ということになる!

清水「……そういう展開か……」

三葉「しかし、言うは易く行うは難し。心の底からハーレムを受け入れるのはそう簡単なことではない。かくして意識改革が断行される!『ハーレムとは3人以上が同時に幸せになれる大変素晴らしいシステムである!』、『ハーレムと比べれば、従来の2人1組のカップルなぞ排他的で陰湿、大変に汚らわしい!』

清水「……ギャグ作品ですか?」

三葉「んー、まぁコメディ成分は多くなりそうですよね。ただ、『思想の自由を認める限り、全員が幸せになることは不可能!……洗脳である!洗脳こそが幸福へ至る唯一無二の道である』なんて話になったり……理想郷を築こうとしてどんどんデストピアに近づいていくことで深みのある作品になるのではないかな、と」

清水「類を見ないユニークな作品になるかもしれませんね」


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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)

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