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秘密を抱えて生きる人

去年、自分が病気を持っていることがわかった。予想もしなかった病名を告げられて、驚いて、そしてすこし泣いてしまった。
病気については半年後、ひとりの親友にだけ話した。直接命に関わるものではないので、家族には告げていない。

いつだったか、市役所の待合スペースに設置されたテレビでその病気についての特集が流れていた。近くに座っていた人が「怖いね」と言った。「大変だね。一生薬漬けなのかな」

秘密を抱えて生きる人は、こんな気持ちだったのかと思った。

自分の秘密が暴かれてしまったらどうしようと怖かった。薬漬けという言葉が悲しかった。もし一緒に見ていたのが私の身近な人で、その人も何気なくそんな言葉を口にしたらどうしよう。怖い。誰にも話せない。

その立場になって初めてわかることがある。病気を受け入れるまでには時間がかかること、隠れて飲む薬は私を悲しい気持ちにさせること、ふとしたときに襲ってくる虚しさ、「言わない」という選択が身近な人たちを裏切っているような後ろめたさ、どうして私が、という嘆き。

誰もが秘密を抱えて生きていると思う。それは自分でも忘れてしまうほど些細な秘密かもしれないし、近しい人の何気ない言葉にも怯えるような秘密かもしれない。

秘密を抱えて一年が経った。

気持ちをすこしずつ整理して、文章に残していけたらと思う。結局のところ私は、秘密を抱えたままでは生きていけない。どこかにこの悲しさや虚しさを吐き出さなくてはいけない。今日の夜を終えて明日の朝を始めるために。

望まない秘密を持つ人生は切ない。せめて優しい人でありたいと思う。


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