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老犬と雷鳴と安寧

飼っている老犬はもう耳が聞こえなくて、私が後ろから声をかけても振り返ることはない。

天を切り裂く雷の音に、彼が怯えることはもうない。
昔は遠くの花火の音にも怯えて震えていて、それがとても可哀想で、彼の不安を思うと私が泣きそうだった。

老いていくことは、ただ不安で恐ろしいものだと思っていた。けれど、聴力を手放した老犬の、その穏やかな日々は私の心を慰める。彼の毎日を安全なものにするためなら何でもできると思った。

老いてすこしずつその時間が曖昧になって、そして生き物から死体へと遷移できたのなら、それは本当に幸福なことなのだろうと思う。
私は私の飼い犬とそんな最期を過ごせるかわからない。せめて彼にとって今回の命が、すこしでも穏やかなものであってほしいと思う。

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