第1話「ハジマリハジマリ」

●桜のシルエット(カラー)

   桜が風に揺られ、花びらが無数に舞っている。
NA 「桜はもうそろそろ今年も役目を終えて、散りそうになっている。ここら一帯を桃色に染め上げて、人々の心を華やかに彩った、1年の中で特別な数週間が終わろうとしていた」

●桜のシルエット(モノクロ)

   桜が風に揺られ、花びらが無数に舞っている。(上記よりもスローに花びらが舞っているように見せる)

NA 「時はゆっくりと流れ、桜はもう一つの顔を持っていた。ほとんどの人は知らないまま死んでいくのだろうが、単刀直入に言ってしまえば、人の歴史を変えてしまうほどの古代装置だったのだ。たった数週間、桜が咲いているこの数週間の世界の裏で、天下統一を果たした武将や幕府を開いた者、総理大臣になった者や、ノーベル賞を受賞した者など、かの偉人たちが誕生していた。これらの者は、桜におけるある秘密を知っていたことで、願いを成就させたと言われている・・・・・。

君はまだ、、、
この謎を知らない・・・」

●桜が激しくなびくシルエット(モノクロ)

   桜が風に揺られ、花びらが無数に激しく舞っている。(嵐に吹かれたように激しく、かつ高速で動いているように見せる)

●[回想]大きな公園

コウジ 「どうだ、面白くないか!?桜ってやつには、何やら大きな秘密があるみたいで」
リョウスケ 「ん〜、でも父さん、これ、むかしばなしかなんかなんだろ??」
コウジ 「??、そうだぞ。なんか変か?」
リョウスケ 「ウソじゃん。作り話でしょ、だって」
コウジ 「!!?、え!?、おいおい子供なのに夢なさすぎだろ〜、父さん悲しいぞ〜」
   コウジ、舞っている桜の花びらをキャッチし、それをリョウスケの額にあてる

リョウスケ 「なに?」
   コウジ、桜を頭に当てたまま、優しく撫でる

コウジ 「こうするとな、思い出がちゃんと残るんだってさ。俺と今日過ごしたこの時間も、ちゃんとお前の中で生きていてほしいからな」
リョウスケ 「こんなことしなくてもちゃんと忘れないよ!」

   リョウスケ、恥ずかしがりながらも喜んでいる。

リョウスケ 「あ!じゃあ母さんにもそれしてあげたい」

   リョウスケ、宙に舞う桜の花びらを一生懸命かき集める。

コウジ 「おい、どうするんだ、そんなに集めて?」

   リョウスケ、桜の花びらで花冠を作り空に掲げる。

コウジ 「・・・なるほどな」

   コウジとリョウスケ、一緒にどこかへ歩き出す。
   二人は、公園内にある墓石の中をかき分け、「Nanami」と書かれた墓石の前で立ち止まる。

コウジ 「ナナミ、元気か?風邪ひいてないか?大好きなゆず茶持ってきたから、一緒に飲もうか」

   コウジ、水筒からゆず茶を汲み、コップを墓石の前に置く。

リョウスケ 「母さん、今日はプレゼントを持ってきたよ。はい、どうぞ」

   リョウスケ、花冠を墓石の上に乗せ、手を乗せる。そして優しく撫でる。

リョウスケ 「こうすると、ちゃんと思い出になるんだってさ。今日母さんに会って話したことも、これから母さんと会って話すときも、全部思い出にしたいんだ」

   コウジ、リョウスケの横顔を見て微笑む。そして空を見る。

コウジ 「よし、帰るかそろそろ。またな、ナナミ」
リョウスケ 「じゃあ、また来るよ母さん。それまで元気で!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜10年後〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

●家/アパート

   部屋は漫画や服で散らかっている。
   リョウスケ、足場の通る道を見つけては器用に歩いて写真立ての前まで行く。
リョウスケ 「じゃあ、行って来るよ母さん、父さん」

   リョウスケ、コウジとナナミに挨拶を済ませ、ネクタイを締めて玄関を開ける。

●街中

リョウスケ 「ヤバイ!!!最終面接に遅れる!!!これ落ちたらもう、ヤバイんだって!!!」

   リョウスケ、独り言とは思えないほど大きな声とゼェゼェ声で街中を走っている。

リョウスケ 「あ〜、もうなんでこんな時に電車事故るかな〜〜!!!!!」

   しかし、リョウスケ、持ち前の体力と運動部時代に鍛えられた下半身の名残で、少し余裕を持って会場に到着できるまでに立て直す。

リョウスケ 「あ〜マジで鬼監督に今更感謝いたします!!監督ぅ、あざす!!!」

   すると、リョウスケ、走りながらも、この街で大きく目立つ木の下に、今にも死にそうな傷だらけの猫を見つけてしまう。

リョウスケ 「・・・・・」

   リョウスケ、気持ちスピード緩めるも、目線だけ猫で顔は会場。

リョウスケ 「・・・・・、あ」

   猫、起き上がろうとするもやっぱり倒れてしまう。

リョウスケ 「・・・・・・・・・・」

   リョウスケ、さらにスピード緩め、目線は猫で顔は先程より45度猫寄りに。

リョウスケ 「・・あ、・・あ、」

   猫、もう一度起き上がろうとするも、今度は転がり倒れてしまう。

リョウスケ 「あ〜〜もう!」

   リョウスケ、猫のもとへ駆けつける。

リョウスケ 「おい、大丈夫か!!すぐ病院連れてってやるから、ガンバレ!!」
猫 「・・ニ、ャア、、」

  リョウスケ、面接会場とは反対の街で一番大きな動物病院に駆け込む。

リョウスケ 「すみません!!この子、傷だらけで死んじゃいそうなんです!助けてあげてください!」

   看護師、急いで医師を呼びに行く。医師のもとへ猫が運ばれる。手術が始まる。手術室のランプが点灯する。
   リョウスケ、病院のベッドに座り祈る。音が少しづつ遠くなっていく。

●街(大きな木の下):上記の時間軸から翌日

   リョウスケ、小さな花とちゅ〜るの5本セットを木の下に供える。
リョウスケ 「よく頑張ったな。。これは俺からの餞別だ。向こうで美味しく食えよ」

   リョウスケ、空を見上げながらおもむろにポケットに手を突っ込む。
   出てきたのは、少し前にお花見をした時に入り込んだのだろう、桜の花びら。

リョウスケ 「桜か。たしか、頭に乗せて撫でると、その時のことが思い出になるんだっけ」

   リョウスケ、寂しそうな悲しそうな顔をしながら、桜の花びらを額に乗せ、手で撫でる。

リョウスケ 「たぶん、家族や兄弟とか飼い主さんとか、そういうのはいなかっただろうから、少なくとも、俺の中でお前は生きていけるのかなと思ってさ」

   リョウスケ、目をつむり、うつむきながら、鼻をすする。

リョウスケ 「忘れないからな」

   リョウスケ、顔を上げ、目を開ける。

   すると、さっきまで緑に茂っていた木に、桜が満開に咲いている。
   ただし、桜の花びらはすべて透明に近いクリスタルカラーに色づいている。

リョウスケ 「なんで透き通った花しかないんだ?どういうことだ?」

●鏡桜街(きょうおうがい)

   桜の木の下に猫がいて、リョウスケの足にスリスリしている。

リョウスケ 「おまえ!!なんで!?生きてる!!?」

   猫、リョウスケに向き直ってまっすぐ見つめる。

猫 「助けてくれてありがとニャ!まあ、向こうではとんだ災難受けたけど、こっちでは大丈夫だからニャ!」
リョウスケ 「え〜〜〜!!!喋った!!!なんで!?どうして!?ってか、向こうでは・・こっちでは・・・ん??」
猫 「どうしたニャ?」
リョウスケ 「俺、死んだ!?」
猫 「いやだニャ〜、死んでないニャ〜。ほら、生き♪てる♪だっ・ぎゃね〜♪」
リョウスケ 「え、死んでないの、これ。じゃあここは何?」
猫 「あ〜、申し遅れたニャけど、ここは鏡桜街(きょうおうがい)、大体のことがあべこべになって表れる世界なのだニャ」

   猫、決まったと言わんばかりのドヤ顔。

リョウスケ 「いや、キョウオウガイって言われても知らんし。ここが何なのかを知りたいんだよ」

   猫、まったくもう〜と言わんばかりのやれやれ顔。

猫 「だからニャ、ここは大体のことがあべこべになって表れる世界で、鏡桜街って言うんじゃよ」

   猫、片目のみ開けて、どうよと言わんばかりのドヤ顔。

リョウスケ 「いや、だから知らんし」
猫 「・・・。ここは鏡桜街と言っt」

   リョウスケ、すかさず張り手を猫に入れる。

リョウスケ 「いや、くどいわ!!!」
猫 「え〜〜〜〜〜〜!!!」

   二人、一度冷静になる。

猫 「そうだよニャ、さすがに急にこの世界に来たら戸惑うよニャ。じゃあ、順を追って説明するから、ちょっとあの丘まで歩きながら話すからじっくり聞くのニャ!」

   リョウスケ、ちゃんと頷く。二人、歩き始める。

●丘:鏡桜街(道中)

猫 「この世界は、ボクたち猫族(びょうぞく)やその他の動物たちの一族が、人間同様に話せること以外は基本的に何も変わらないんだ。ただ、この世界に住む人間が厄介で、こいつらの言葉や行動がすべて“逆”なんだ」
リョウスケ 「逆?」
猫 「そう、逆。例えば、好きですと言われれば、嫌いですと言われてるということ」
リョウスケ 「でも、そんだけだったらそこに注意していればいいだけなんじゃないの?」
猫 「そうなんだけどね、そうじゃないんだ」
リョウスケ 「そうじゃないって?」
猫 「この世界には今、“スイッチャーズ”と呼ばれる組織があって、表向きにはこいつらがこのあべこべな世界を管理しているんだけど、本当はここを支配しようとしているんだよ」
リョウスケ 「支配?」
猫 「そう、支配。奴らはあべこべであるこの世界の特性と獣族(じゅうぞく)の力を利用して、ここに生きる者の記憶を・・」

   急に坂の茂みから、吹き矢が飛んでくる。

リョウスケ 「なんだ!?」
猫 「きたか。君、走れる?」
リョウスケ 「走れるけど・・」
猫 「じゃあ行くよ、よーいドン!走りきれ!!」

   二人、丘を懸命に駆け上がる。

リョウスケ 「あのさ、これ何が起きてんの?」
猫 「説明は後!とにかく今は逃げるが先!」

   二人の前に現れた若い男と狼1匹。
   男はサングラスをかけ迷彩柄の衣服を纏っている。狼は凶暴そうだ。

男 「ほ〜、久々の侵入者か。お前も鼻が効くじゃねぇか、ウル」
狼 「新鮮そうな脳味噌の香りがしたのよ」

   猫、リョウスケの前に立って、
猫 「やっぱり、狙いは君か。はぁ、どうやら戦うしかなさそうだね。今度は僕が君を守るから、少し離れてて」

   リョウスケ、落ちていた短い大木を両手に持ち、猫の隣に立つ。

猫 「ちょっと、危ないよ。ちゃんと守るから離れてて」
リョウスケ 「多分だけどおまえ、ここで死んだらもう会えなくなっちゃうだろ。それは何か、、やなんだよ」

   猫、驚いた様子で。
   リョウスケ、思いついたように。

リョウスケ 「そういえば、おまえって名前なんていうの?」
猫 「ボクかい、、?名前は、、ない」
リョウスケ 「ないのか。じゃあ・・・ライビはどうだ?」
猫 「なるほどね。いい名前だね。ありがとう。ちなみに君は?」
リョウスケ 「俺は、リョウスケ。どうやら名前の由来は、漢字でどっちの字も“救う”っていう意味が込められたらしい」
猫 「そうなんだ、じゃあ頼もしいね」

   リョウスケと猫 vs 男と狼の構図ができる。

男 「なかなかイキだけは良さそうだな」
狼 「いい実験体になりそうね、ウゥガルゥ」

   ライビ、毛が伸びて牙も生えて、みるみる大きくなる。

ライビ 「ゴロロォロォォォ」
リョウスケ 「へぇ、すげぇなライビ」

   両者、ジリジリと間を図り、詰めていく。
   両者の足が一瞬、止まる。次の瞬間、勢いよく飛び出した。

リョウスケ/ライビ 「いくぞ!!!」

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