第3話「カガミザクラ」

●丘:鏡桜街(てっぺん)

リョウスケ 「カガミザクラ・・・ってなに??」
ライビ 「そっちの世界で桜と呼ばれてる生命体と同じ種類であることは変わりないんだけど、決定的に違うことがあるのは分かるかな」

   リョウスケ、見下ろす街を眺めてあることに気づく。

リョウスケ 「あぁ、明らかに花びらの色が違う木が多すぎる。でも・・」

   ライビ、リョウスケの戸惑いが手に取るように分かる。

ライビ 「そう、でも時折、リョウスケも知っているそっちの世界と瓜二つの、桃色の桜もあるって言いたいんでしょ?」
リョウスケ 「・・うん」
ライビ 「その話をするには、もう一つ重要な話をしなきゃいけない。そもそものこの世界について」

   ライビ、丘から見て街の一番奥にある城のような建物を一点に見つめ、話し出す。

ライビ 「さっき、戦う前ね。ここでは、あべこべな出来事が起きて成立している、って伝えたところまでは覚えてる?」
リョウスケ 「うん」
ライビ 「そのあべこべにも、表れる程度の違いがあって、全部の言動・行動が逆の感情を表している人もいれば、その割合が半分半分だったりもする人もいるんだけど」
リョウスケ 「うんうん」
ライビ 「でも基本的には、あべこべがコミュニケーションとしてのルールなわけだから、ここに生きる人たちは皆、それが当たり前だと思って生活している。もしかしたら、何もかも分かってない中で他人と接するのが当たり前なのは、ある意味でそっちの世界と一緒かもね」
リョウスケ 「・・たしかに」
ライビ 「ごめんね、ちょっと脱線しちゃった。で、さっき話しの途中でこの世界に住む人間が厄介、とも言ったと思うんだけど、それが、戦ったあいつらみたいなのがいる “スイッチャーズ”って組織」
リョウスケ 「・・うん、なんとなくそう思った」
ライビ 「でも、あいつらは多分かなり下っ端だと思う」
リョウスケ 「なんでそんなこと分かるの?」

   ライビ、リョウスケが手に持つサングラスを指差しながら、
ライビ 「サングラス。そのアイテムを使ってるのは下っ端だからね」
リョウスケ 「そうなんだ。ってか、これってなんの意味があるの?」
ライビ 「ちょっとかけてみて」

   リョウスケ、ライビに促される通り、サングラスをかける。
   ライビ、街の方を指差しながら、
ライビ 「たぶん、そこまで遠くなければなんか見えると思うんだけど」

   リョウスケ、驚いた表情で
リョウスケ 「なんだよこれ!?いたるところでみんなが嘘ついてんのがわかるじゃんか!」
ライビ 「そう。サングラスをかけることで、あべこべのホントか嘘かを見抜ける作りになってるみたいなんだ。そして、この技術を利用することで、スイッチャーズの連中は嘘を操り、人を操り、、そして、、記憶を操っている・・」
リョウスケ 「記憶を操る?」

   ライビ、街中のカガミザクラを見渡しながら、
ライビ 「カガミザクラの花には記憶を上書きする力が宿ってるんだって。で、花びらの色が桃色になっているものはすでに、書き換えられた記憶で染められた桜と言われているんだ。詳しいことはまだ分かっていないけど、この世界に桃色の桜の花がある理由はこれだね」

   リョウスケ、少し考え込みながら、
リョウスケ 「その、、記憶を操る?、、記憶を上書きする??、、でもそれが分からないと、すべてが分からない気がするな」

   ライビ、静かに頷きながら、
ライビ 「ひとつ言えるのは、元々ある記憶から記憶の上書きを繰り返すことで、人格を変えていくのが奴らの狙いみたいだね。人は思い出や経験といった記憶から、性格とか思考とかその人らしさが生まれると思うからね。だから、この街にはカガミザクラがいたるところに立っているんだと思う。それは、何のために、なんで記憶を操ろうとしているのかは、ボクもまだ掴めていないし、お師匠さまも掴んでいないんだけどね」
リョウスケ 「お師匠さん?ライビの?」
ライビ 「お師匠さまは、いつも片手に小判、もう片方の手は手首を曲げて招いているようなポーズで年がら年中、じっと動かニャいんだけど、肝心な時にはお言葉やお声を授けてくれる猫神さまニャ!」
リョウスケ 「ぶりっ子ニャはもういいから・・・。でも、そんなすごい猫でもまだ、その謎は解明できてないんだね」

   ライビ、思い出したかのような顔で、
ライビ 「そうそう!その謎を解くために調査に出かけたら、成す術なく強い引力に引っ張られて、そっちの世界に飛んでしまい、気づいたら大きな鉄の塊に吹っ飛ばされたんだった!!」
リョウスケ 「じゃあ、ちょうどその時に俺と出会ったのか」
ライビ 「そうだね。だけどね、きっとそれだけじゃない。リョウスケさ、頭に桜の花びらを乗せて撫でること知ってたでしょ?」

   リョウスケ、ポケットに入っていた桜の花びらを取り出し、見つめながら、
リョウスケ 「うん。昔、父さんが教えてくれた」

   リョウスケ、額に桜の花びらを乗せ、撫でる仕草。

リョウスケ 「こうすると、思い出になるっていう『むかしばなし』な」

   ライビ、ニコッと笑いながら、
ライビ 「たしかに、『むかしばなし』だね。でもね、それは作り話なんかじゃないよ」
リョウスケ 「え・・どういう?・・」

   ライビ、自信に満ちた顔で、
ライビ 「だってそれは、昔にあった本当の話だから」

   リョウスケは驚いた顔で、ライビは何かを確信したような含み笑い。二人の顔のアップで終える。

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