枯れたのは花か己か

美しい花が咲く
一晩限りの花
花は燃える
あたりの全てを焼き尽くして

愛したあのひとは
炎に飲み込まれた
荘厳な虫のように
引き締まった
彫刻のような腕で
知らないその女(ひと)を抱く

森の木立は
果てることを知らない
光だけぼやかして
何を
夢見ろというの

一枝に連なっていた葉が
ばらばらに落ちて
水面で再び重なる
命尽きて

木立の向こうの光が険しくなる
この瞳の奥に閃光を残して
盲目の世界の中で
花が枯れる
残像に浮かび上がる肉体
その確かな質量を持ったリアル

薄い紅紫にいろづいた
ひとびとを惑わす
一夜限りの花よ

その雫さえ
飲み干させぬまま
全てを消し去ってどこかへ

あとには
荒れ果てた

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