【短歌30首】第61回(2018年)短歌研究新人賞応募作「詩塵、舞う。」/とわさき芽ぐみ

錠剤がころころ溶けて口のなか朝が来たかと思ってしまう

肺の中発酵していることばからファンタジー臭嗅ぎ分けている

名刺がね白紙のままだ きみが呼ぶ名前を書くからどうか叫んで

シュレッダー小さく呻くような気がした いくつもの裁断跡地

肩書きに付随してゆくさみしさをさとみとしとさに分けて がごごご

永久に噛み砕くなど出来なくて乳歯ばかりで口応えする

「省エネ」のマーク三日月 快くことばを半分にして祈るよ

綴じ込んだアドレス帳は四次元のポケットよりも向こうに捨てる

足元注意!わたくしとあなたのすきまにご注意ください

ユニークなこらえかたするいつくしみ 余裕のよっちゃんは行方不明

めいっぱい吸い込んでいるくうきごと斬り込む。コラージュをする。チョキチョキ。

たぶん今あのカルシウムが骨になるぼくの骸骨丈夫になれる

かねん ふねん 夢の贋作 ここからは現実だけしか入れませんよ

まなうらでピントがあった影法師 木こりのいない森のようだよ

煙まで味わうようになったからぼくからがら逃げ出してきたんだ

傷つきに行けよ傷つきに行けよ傷つきに行けよ傷つきに行けよ

行動に移す手前のためらいのようにゆっくり垂れるはなみず

百均にカッターなくて生半可な〝生〟だけそこに流れていった

干からびたパレード、無邪気、おののきがファンファーレとしてろ過されました

死死死詩し しっぽを巻いてゆくときに巻き込まれてた天使の輪っか

のうのうと生きる手はずをNo,No,と拒否されている脳停留所

妖精が編み込まれてるかも知れない三つ編みそっとほどいておくれ

蒙古斑まだあるようだ この椅子は座り心地がとても悪いね

潔くくだらなくなるボクたちのにんげんせいを垣間見るかい

植物性の夢を齧ったあの星の季節の速度制限 遅い

そんなことだけだ世界がまぶしくて折り目正しいヒコーキが飛ぶ

空を飛びたいと思ったことがないぼくはにおいにかまけすぎてて

どの部位もちきゅう、ちきゅうで緑化する活動のため吹き出しもみどり

たましいに磁石を近づけてもずっと回り続けて止まりませんね

詩塵舞うせかいでひとり死んじまう 西日を踏み外したまま生きる

/とわさき芽ぐみ

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