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詩歌

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記事一覧

代理されるわたくし

「詩を書く」という所作が現前の再現前化(代理)だとすれば、ことばの再現前化は、わたしの心情の再現前化でもあるはずだ。<意味するもの>と<意味されるもの>の差異の明証性とその結果のなかにわたしを置くこと、すなわち詩(=差異の結果を産出する運動)は、差延の運動でもあり、<代理するわたくし>による<代理されるわたくし>の再現前化、わたくしによるわたくしの対立でもある。ここに、<代理されるわたくし>は、<

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決して現在になることのない未来のなかで

マリのうまはしなやかにみずをはかっては蔓のさきへと羞恥を尖らせ、しろく熟したウリ科の性器が折れ込んでいるのを見出したが、半球の島々へと漕ぎ出すとき波の期待を調律することもなくなり、音叉はつぎつぎに感動を喚び起こす。露を媚びるような朝、うっかりして充血したまま粘膜が甘い動物臭を発散するので、とりの囀りはカーテンそのままに長く風向きが変わるまで競走馬のたてがみよろしく終わりたがらない。自由の選択によっ

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ミツバチの眸のなかうたいだすうま

「対自トハ身体ノ仕上ゲデアル」(『知覚の現象学2』p338)/然シ アルトキハ〈自〉ヲ欠ク/(カラダ)の洞(ウツロ) つうおん装置へと踏み迷う テクストは既に書き込まれ「ボクタチハ、コノ街(コノ詩)ニ住ンデイル」) いっとうにとうよんとう ウマをじじょう(二乗=自浄)しながら 以前にもまして 反復(=詩)はわたしから逃れるための邪(ヨコシマ)なナイフ、「花そう 破投そう 波るかす流」 みずなつへと

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播種

かさならない、ひとつの模倣可能態
が、署名であって 反復を繰り返し
くびきが揺れる と、うまをめざし 
て外出する、うまになることの迂回 
「いいえ」から始めるしかないが、 
まったきあなたの責任でしかない         

あなたのひろがる火がこわい
「はい」と穴のさきで炎を伸ばす 
狂わないのは刻みではなくときだ
(と、落人の逃げるあしもと、の
あかい記号のまま終うことを 行
きつかない思考

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未来が忘れていく(『Sister On a Water』Vol.5 )

『Sister On a Water』Vol.5 に寄稿した詩をアップします。

未来が忘れていく

目の前に広がる海はなんの援助も必要としないし、延長体は精神に由来するもの、それを媒介とする結びつきを要求はしない。他方、わたしはといえば、過去の取り巻きの、円錐形の錐に触れつづけることでしか存在しえないのだから
 *
ミサコちゃんがうたっている うたいつづけている 土間は踏み固められ地球の膝元

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詩について思っていること、、、

石松佳さん、竹中優子さんの詩を読んで、ふと考えたこと、、、、

心の問題を心の言葉で提示してもなかなか理解し難い。心や精神の問題を物質や事象の言葉に置き換えて提出することによって、あるいはテクストからテクストへ飛躍を与えることによって、それらに閉じ込められている心の言葉を、社会機構に従って探ることができるようになる。詩は解答ではなく、問題を読者に提出するアイテムであって、読者は詩を読むことで、いく

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詩的実験2022.1

#配置転換  「あった」ものはもう「ない」が、「ない」という「ある」こと。埃がたまるという射倖、(あるいは)埃を振り払うというイコノクラスム(偶像破壊)によって、受動から能動ヘ弁証法的に呼吸は促される。「あるもの」と「わたし」のあいだに揺蕩う「ないもの」の配置転換
呼吸する棚、老化するガラス瓶、耳うちをするヒロシマの壁へ
ディゼーニョを 日なかの父を スーラの絵を すうっと埃に呼吸を合わせ

#彼

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メモ

弛緩というだけで、電車が行ったあとシリカにさっと指が切れた。目をそらしたくなる。そらしたその間に空が低くなる、落ちてくる、蛇口を死滅させるコツを、とその原理を瞬時に伝えたくなる。あの、大ガラスは未完成のまま、放置されたのだ、怠惰のために、とのメモ。正解とは空しく晴天でしかない。

隠喩なのか

隠退するとか言って亡くなったのだけれど、次の日には本として生き返る、円環のなかに身を投じたのであるが、円環とは無限だろうか。
ボルヘスは「書かれたものは残り、言われた言葉は飛び去る」≠「書かれたものは持続し、口頭で言われたものは移ろいやすい」、、、、いいえ、すなわち「書かれたものは、死物だから取り残され、口頭で言われた言葉には羽のようなもの、ある種の軽やかさが備わっている」ので、自由に伝播する、と

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さよ

さよ

ナメクジの虹にみちびかれ、古墳が少し急いでる。氷は雲の記憶をいつ許すのだろう/陸続きでない愛情とアクリル板に反転したさよのプネウマ、歩幅にくりかえしひとくくりの人幅を(人掴み)の彩葉を、ひとつひとつ詩音に添えて、これからのことを考えよう、最初の雨は真夜中にクレゾールの匂い、pleats(折りひだ)はplease(お願い)へとつぎの雨まで連鎖するとか、いってしまった橋ととどまっている石の、同

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シ しづむ 私(し)

せみのミにひきしまるシ 詩 紙面 畝る線に沿って南下する
トルトキスルトキ 稜線を少し押さエルと沈むシ しづむ 私(し)
鳴いテル薄膜の内側に差し入レルとき痙攣のみちびく枝枝がしなる
破(わ)れた房のなかへたよりに へたのちが燃やされる されど れ土
海をまたぎ産みをとりつける洞の背景に流れる 響きあう釣りあう 蓋の鳥
鋳型は変異し涙ぐむ種子を撒く飛翔と落下のあわいのなかでしかシは書かれない
つづ

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オートマティスム的実験

追いかけてゆく一日(ひとひ)の海から続く雨季は輸尿管の貧しいやさしさを共有する痩せたエイともぐらの裂け目を弱々しく狂わす、頭上は植物の隙間で許される天のどこからも筒抜けの輪の中をくぐって音的なシニフィエの波形さえも呼び出せはしない、

ドップラー効果の懐かしく壊すために生きるために拡げるために細くなるために切れ切れにつながるために渡るために醒めるために、果てしなく自己をすて腹のなかにとどまりながら

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詩は表現ではない

「詩は信仰ではない。論理ではない。詩は行為である。行為は行為を拒絶する。夢の影が詩の影に似たのはこの瞬間であった。」(『詩と存在』瀧口修造)

「詩は果たして表現であるのか。詩は作者の表現したいものを表現する手段なのか。詩人はまず表現したいもの(ヴィジョン・感情・思想・体験・その他)を持ち、次にそれを読者と共有するために作品化しようとして、表現に努めるものなのか。この素朴な、だからこそ根本的だ

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死滅するものへ

死滅するものへ

睡魔の金属、覚醒の金属、早朝に飛来する燕の金属、
黒と白のコントラストが空の沈殿、廃棄した廃油、焼却した表面、
錆びた切っ先、明らかに、微笑む動物臭、切り捨てられた沈丁花の枝
突然のLINEに、医療従事者の悲しみに、季節を越える光ファイバーに
すべての大きな懐古が欲望の糸口を伝う
研がれた銛の早朝のひかりが
都市の叫びを隠蔽してしまうような
循環障害のクロノス
躁急な、蒼穹な

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