さくざ

さくざ から

収縮するだけの体に 引かれてゆく筋のような
ありふれた運命を 自傷する女のかなしみを 重ねる
終わりちかくで切り取られる 片見の その対(つい)の果実のあかあかと
芳香の 糜爛のように 美しいと 祈ったことがあった

海岸の家で生まれた
猪鼻湖をひとまわりして 湿気(しっけ)た風に吹かれながら
明るい陽射しのなか 眠ろうとする何かをほのかに思う
獣毛をさか撫でていた あるいは ある時の 諦念のように
等張液をたっぷりと注ぎ込み やさしく癒されればいい
翼ほどの左右を切り取って終の住処とすれば
背中は優しく岬のかたちに目を細めるようだ
ゆっくりでいい オリーブ油のように澄んでゆく

遠州病院の塀の隙間からホルマリン固定された
胎児の目は見えなかったけれど
枯葉を見るたびに 浮遊感だけが残った
ちょうどここらあたりだろうか
記憶に差し込むゆびの感触は いつ濡れて痛い

#詩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?