朕思うに

パステルの一本分の窪みには約束がある冬の色して
斑(ふ)に干したシャツから影はすり抜ける行先のない風をよろこび
カテーテルを先へ先へと押し入れるいのちと身体の境目辺りへ
うおが魚と呼ばれたときの不可思議さ水に母音を濯いで掬う
冷たくなった父の身体を撫でている清らかな指や淫らな指が
父の肺ごうごうとよく燃え盛りようやくそとへでられる/のだろう
かれじしんかれじしんしんじつ)風の音は「朕思うに」とう息を吐き出す
正中線やや左寄りの押印と欠けている月こそ明けがたの
しあわせはいつもくつがえされるから均した石をすこし眠らす
耳の奧処へ体の奥処へ透明な壜を家族はうっすらと持つ

#短歌

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