海道を渡る

海道を渡る

萌えるひとを呑み込んでせなかと胸が届き
深呼吸すれば空と海の区別が届く
まんなかの接点へ指穴を埋めては、みずからの痛
シュレッダーにかければ、表が裏、裏が表、これはひとのうらがわ
握手するよう日々が吐き出される
左に大きくループする道を二回転ほど登れば海道の橋へとつながる
だれだか知らない大人になった子供ばかりとすれ違う
風の三層ほど木々の葉づれを足元に沈殿させながら
不規則に長く風に裁かれ、皮下織から旗になる
漣が内臓を通り抜け、すりかわり、めくれあがり
洋上にいる
蜜蜂の翅の震え、重複するように島のことばとしてみな出ていく
背景に気づかずに触れるとき手のひらは暖かい
<な>の手続きは<な>から<な>へとつながり
ひとつひとつの<な>は光を携え<な>は水溶性なのだ
「なぜ向こうの大きな島へゆくの」「すくなく」「なる」
ひかりの重層を切り返せば、発酵熱が燻る
露わに白い花を落とす、落ちてゆく、ゆけ、橋から
夏休みには帰ると、橋を渡ってきたはずなのに
夏至から遠ざかる日々を案ずる
なかったような恋をした後のあの、息継ぎ
いなかったひとの名前が、ながく残る
踵にはきのこのような湿りが貼りつき
砂に濾過される水の草笛が
戸口に落とした鍵の背景として、かたちから開くように
いま、<な>の上を渡る

#詩

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