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掌編/短編小説

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基本的に連作ではない小説をまとめています。日常から一歩だけ外れた世界、そこらへんに転がっている恋、病とふだんの生活、鬼との友情なんかを書いています。
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2019年8月の記事一覧

小説『その生態はまだわかっていない私たち』

小説『その生態はまだわかっていない私たち』

ハッシュタグ「8月31日の夜に」にちなみ、過去に投稿した小説を再掲載致します。

このお話はいじめの主犯格である涼子と、いじめの被害者である いつみの掌編小説です。

彼女たちは幼い頃から生活を共にした親友でしたが、涼子はいつしかいつみの言動に不満を抱くようになり、学校中を巻き込んでのいじめを働きます。

涼子としては初めはいつみが気に食わなかったから少し痛い目に合わせようとしただけでした。

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小説『かみさま』

小説『かみさま』

あの人はまるでかみさまのような存在でしたと例えたなら、あなた方は揃いも揃って私のことを気味が悪いと嗤うでしょうか。

思えば恋というものは、その想いが自身の中で高まり、昂ぶり、到底私の手の届かないお方であると気づかされたとき、宗教のそれとよく似た気持ちに寄っていくものと私は思うのです。

高尚なこの想いを汚されたくない誰にも見せたくない、そのような感情をひとまとめにしたような心持ちになったことはあ

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ショートショート「蝉の背中」

ショートショート「蝉の背中」

ミヤさんの二の腕はふくふくしている。
それを指摘すると、今ダイエットしてるから秋には痩せるよと言っていーっと歯を見せて鼻に皺を寄せる。子供か。

ミヤさんというのは下の名前ではなく、苗字である二宮から取られたあだ名だ。

彼女は職場では良い子ぶってるけど、良い子ぶっているのはバレバレで、俺と話す時にはそこそこ口が悪い。
彼氏がいるのにすぐ男と寝るという噂がまことしやかに流れているが実はそうではなく

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ショートショート「真夏の夜の匂いがした」

あの日、彼女から花火大会に誘われた夜、最寄駅から自宅まで歩いているとき、はっきりと真夏の夜の匂いを感じた。
懐かしいなにかの匂いに似ているけれどそれがなにか思い出せなかった。

いま、開けた窓からは同じく真夏の夜の匂いがする。そしてさっきまで抱いていた彼女の首筋からは甘酸っぱい汗の匂いがする。同じシャンプーで洗ったから髪の毛は俺と同じ匂いがする。赤の椿。

「二宮さん、ほんとは彼氏いるんでしょ?

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ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

開始のあのとき、あなたの手がわたしの服にするすると入ってきて片方の指でブラホックとぱちんと瞬時に外されると、あ、やばいハズレ引いてしまったと非常に残念な気持ちになる。

モテなさそうに見える割りに意外とモテてきたんだね。これまでどれだけの女を抱いてきたんだろう、どれだけの体位を知っているんだろうどれだけの人間を泣かせてきたんだろうと頭の中で勝手にかつての恋愛遍歴を妄想して、そしてちょっと萎える。

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ショートショート「毒の世界」

彼女は欲しがり屋だ。
他人のSNSの記事はたいして読まないくせに自分の投稿記事にいいねがつかないと憤る。

そんなんどーだっていいと考える俺からしてみればくそみたいな怒りだ。

少しは他人の作品でも読んで感想でも書いてみたら?と提案したら、そんな営業みたいなことはしたくないと言い張る。彼女の安いコスメメーカーのチークがきらきらひかる。ちうちうと濃いめのカルピスをストローで飲む。同棲して結構経つのに

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ショートショート「サカナクション・コネクション」

ショートショート「サカナクション・コネクション」

丸メガネ、アトピー性皮膚炎の肌、ゆるくかかったパーマ(天パ?)パンツから見えた靴下(ださい)。
ちらりと目が合う、2秒間見つめ合って逸らすのはいつだってあなたから。

休憩室にいるあなたはいつも1人。
その群れないスタンス、絶対的に好感が持てる。
ゴミを捨てに席を立ったあなたと、また1秒目が合う。

声かけてみる?部署もわからないのに?
LINE ID渡してみる?ちょっと軽すぎない?

サカナクシ

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ショートショート「背骨から始まる」

ショートショート「背骨から始まる」

夏の空気は濃くて重くて、上からの日差しと下からの照り返しはまるで何かの罰を受けているようにも感じる。

会社の昼休み、スターバックスの裏手の駐車場でアイスチャイラテを吸っていたら、後輩の矢代君がふざけてわたしの背中にジャンプしながら覆いかぶさってきて、俺軽いからおんぶしてくださいよという。きっとミヤさんより俺の方が軽いから、なんて言うから一回振りむいて彼の腹に軽くグーパンしてやった。

しかしこ

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