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掌編/短編小説

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基本的に連作ではない小説をまとめています。日常から一歩だけ外れた世界、そこらへんに転がっている恋、病とふだんの生活、鬼との友情なんかを書いています。
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#短編

目次 (投稿小説一覧)

目次 (投稿小説一覧)

noteクリエーターの皆さま、こんにちは。
いつも遊びに来てくださってありがとうございます。

このページではやすたに ありさがこれまでnoteに投稿した小説の一部を紹介致します。
気になったものがあれば、ちらちらと覗いて頂けると喜びます。

物語のどれかひとつでもあなたの気持ちを動かすことができたなら、こんなにうれしいことはありません。
登場人物の誰かひとりとでも「一緒に過ごしてみたい」と思って

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小説『その生態はまだわかっていない私たち』

小説『その生態はまだわかっていない私たち』

ハッシュタグ「8月31日の夜に」にちなみ、過去に投稿した小説を再掲載致します。

このお話はいじめの主犯格である涼子と、いじめの被害者である いつみの掌編小説です。

彼女たちは幼い頃から生活を共にした親友でしたが、涼子はいつしかいつみの言動に不満を抱くようになり、学校中を巻き込んでのいじめを働きます。

涼子としては初めはいつみが気に食わなかったから少し痛い目に合わせようとしただけでした。

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小説「透明でまっとうな新しい日々」

小説「透明でまっとうな新しい日々」

昨年の夏に書いた掌編小説を加筆修正のうえ、再掲致します。
主人公の2人はそれぞれにハンデやコンプレックスを持っていますが、彼らなりにコミュニケーションを駆使して、優しくも満たされた生活を送ってゆく物語です。

「ちょっとの工夫で困難は回避できる」という言葉は私の小説のベースとなる考えであり、私自身が生きる上でのモットーでもあります。

もし、いまあなたの目の前に救いようのない障害があったのなら、形

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小説『夏色』

小説『夏色』

放課後、自転車の後ろに親友の夏音(かのん)を乗せて、くっちゃべる目的でイオンのフードコートを目指してペダルを漕いで行く。
セーラー服からちらりと見えたヘソも気にせず、私は精一杯に前を向いて自転車を漕いで行く。

空には入道雲がもくもくと姿を現し、ザ・日本の夏という感じ。ここ板橋区は果てしなく埼玉に近い場所に位置し、夏場は都内でも気温が高く上がる。通学に利用している東武東上線はえげつない人身事故率

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【聴く小説】透明でまっとうな新しい日々

聴く小説 第3弾 は「【掌編小説】透明でまっとうな新しい日々」 です。

再生時間は約15分です。


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「透明でまっとうな新しい日々」

岩波アラタの綺麗な弧を描く後頭部が私は好きだ。
彼の髪は重たくて黒い。

部屋でふたりソファーに並んで眠たい映画のDVDを観ている時、私はおもむろに彼の髪を優しく撫でる。寝たい、の合図。それから彼のコットン100%のシャツをゆっく
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作品一覧(2018.12.28更新)

作品一覧(2018.12.28更新)



お初にお目にかかる方、はじめまして。
いつも仲良くしてくださっている皆々様、ごきげんよう。

ひょっこりはんが早稲田卒って知ってた?

……納得!!
ヤスタニアリサです。

さて、いままでに投稿した作品を4つの軸を基準に振り分けして
表にまとめてみました。そしておすすめ順に並び変えました。

下記に作品のリンク一覧も作ってございます。
おいしいお菓子も、温かいお茶も出せませんが、
作品を覗いて

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【掌編小説】サロン・ド・くまちゃん

【掌編小説】サロン・ド・くまちゃん

「あなたは自分の髪をセットするが好きですか、それとも人の髪をセットするのが好きですかって聞かれたんだ、専門学校を受験するときに面接官に」

鏡越しに見るくまちゃんの顔はいつものふにゃふにゃした表情ではなくて美容師然としていて少し照れる。
美容師を目指すくまちゃんとカメラマンを目指す私はふたつの約束をしている。
毎月第1土曜日はくまちゃんがわたしの髪を自由にしていい日。毎月第2土曜日はわたしがくま

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【小説】透明でまっとうな新しい日々

【小説】透明でまっとうな新しい日々

昨年の夏に書いた掌編小説を再掲致します。
主人公の2人はそれぞれにハンデを持っていますが、ハンデをハンデとせずにコミュニケーションを駆使して生活を送ります。

「困難は工夫と回避でなんとでもなる」というのは私の小説のベースとなる考えであり、私自身のモットーでもあります。
長い梅雨が明けました。もし、いまあなたの前に何か障害があったなら、この小説に目を通してくださると嬉しいです。
あなたが、アラタや

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【掌編戯曲】後藤を待ちながら

【掌編戯曲】後藤を待ちながら

舞台中央には上手から順に宮藤、加藤、伊藤が横一列に並び、それぞれ椅子に座っている。舞台の後ろにはスターバックスに酷似したロゴマークが大きく飾られている。

宮藤「後藤遅くない?」

加藤「後藤、日直の日誌書いてるからもうちょい待ってって」

ほら、と言うようにパントマイムでスマートフォンの画面を宮藤に見せる仕草をする加藤。

伊藤「後藤、最近彼氏できたよね」

加藤「あれでしょ

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【掌編小説】株式会社○○

【掌編小説】株式会社○○

アパートのエレベーター改修工事が行われるにあたって、事前にマンションのエントランスにはこのような張り紙が掲示してあった。

「改修工事中は株式会社○○がお荷物を運ぶのをお手伝いします」

どういう意味だろうと疑問に思ったが、そのままの意味で、人力で荷物を玄関まで運んでくれるらしい。

工事が開始されてからは荷物を運ぶ担当として、株式会社○○の社員もしくはアルバイトがペアになってマンショ

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【掌編小説】スタールビーの月

【掌編小説】スタールビーの月

寝付けぬ夜と達することのできないアレは似ている。もう少しで堕ちそうなのに堕ちることなくもどかしく、そして静かにフェードアウトしていくところが。

パート主婦みのりは、派遣社員たかおと社内不倫をしている。
初めてことに及ぶとき、みのりは躊躇した。
踏み出したら失うそれらをしたたかに計算した。
そしてたかおに提案する。

「はじめに私がホテルに入るでしょ?その後、たかおくんがホテルに入ります。

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【掌編小説】君に何かたべるものを

【掌編小説】君に何かたべるものを

君は胃袋に忠実だ。
腹が減っていれば怒りやすくなり、満腹になれば機嫌が直って、ベッドに入ってすやすや眠る。
君はとてもわかりやすい。動物的とも言える。
そして君は食に貪欲だ。
食べたいものを食べたいだけ食べて死にたいとよくいうよね。だから長生きしたいって。
数年前まで死ぬことしか考えられなかったのに、今は違う、食べたいものを食べたいだけ食べたなら食中毒だってなんのそのだって。

そして新婚旅行で行

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【掌編小説】変幻自在、妻

【掌編小説】変幻自在、妻

「しばらく猫になります」と走り書きされたメモがダイニングテーブルに置かれていた。
メモ書きの横には5万円がピン札で置かれ、そら豆型の箸置きが文鎮代わりにお札の上にちょんと乗っていた。
俺の妻がまたおかしなことをしている。
以前もそうだった。何か気にくわないことがあると性転換してみたり、奈良の仏像になってみたり、北海道の雪まつりの一部になっていたりと現実では到底考えられないことをしでかす。もはやサイ

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【掌編小説】妊娠16週目、妻

【掌編小説】妊娠16週目、妻

俺の妻が今日で妊娠16週目を迎えた。
最近の妻は以前のように猫やら大仏やらに変身することはない。ほんとあれ迷惑だったから、やめてもらってありがたいことだ。

なんたって、彼女自身の腹のなかで突然変異が起こっているのだし。入れ子構造的にミューテーションを起こされても困る。

妻は俺の隣ですうすう寝息を立てて寝ている。
さっきまで身体の触り合いっこしていたらなんだかそういう雰囲気になって、あれよあ

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