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#ショートショート
【ショートショート】『上のヒトに代わって』
「あのさあ、おたくで注文したアンプ、速攻で壊れたんだけど、どうなってんだよ。これじゃぁ週末のライブ、仕事にならねえだろうが!」
電話口の男は末尾の「だろうが」を一音ずつ強調して怒声を飛ばした。
瞬時に花音は男の声が小さくなるように電話機の「小」ボタンを連打する。
音声機器メーカーのカスタマーセンターで働く花音は、パソコンのモニターに向かって何度も深く頭を下げる。おわびをするときには出せる
超掌編『夢のような薬』(497文字)
新薬の研究をめぐり、連日マスコミが情報の争奪戦を繰り広げていた。
「この薬でどんな細胞も若返るというのは本当ですか?」
おぼつかない足取りで杖をついたR製薬会社のY社長に、マスコミがいっせいにマイクと望遠レンズを向けると、広い額を撫でつつ彼は口を開いた。
「可能性はあると言って良いでしょう。しかし研究段階ですので道のりは長そうです。何しろ神の領域に入りかねない夢のような薬ですので」
ショートショート「真夏の夜の匂いがした」
あの日、彼女から花火大会に誘われた夜、最寄駅から自宅まで歩いているとき、はっきりと真夏の夜の匂いを感じた。
懐かしいなにかの匂いに似ているけれどそれがなにか思い出せなかった。
いま、開けた窓からは同じく真夏の夜の匂いがする。そしてさっきまで抱いていた彼女の首筋からは甘酸っぱい汗の匂いがする。同じシャンプーで洗ったから髪の毛は俺と同じ匂いがする。赤の椿。
「二宮さん、ほんとは彼氏いるんでしょ?
ショートショート「毒の世界」
彼女は欲しがり屋だ。
他人のSNSの記事はたいして読まないくせに自分の投稿記事にいいねがつかないと憤る。
そんなんどーだっていいと考える俺からしてみればくそみたいな怒りだ。
少しは他人の作品でも読んで感想でも書いてみたら?と提案したら、そんな営業みたいなことはしたくないと言い張る。彼女の安いコスメメーカーのチークがきらきらひかる。ちうちうと濃いめのカルピスをストローで飲む。同棲して結構経つのに
ショートショート「背骨から始まる」
夏の空気は濃くて重くて、上からの日差しと下からの照り返しはまるで何かの罰を受けているようにも感じる。
会社の昼休み、スターバックスの裏手の駐車場でアイスチャイラテを吸っていたら、後輩の矢代君がふざけてわたしの背中にジャンプしながら覆いかぶさってきて、俺軽いからおんぶしてくださいよという。きっとミヤさんより俺の方が軽いから、なんて言うから一回振りむいて彼の腹に軽くグーパンしてやった。
しかしこ