ショートショート「毒の世界」
彼女は欲しがり屋だ。
他人のSNSの記事はたいして読まないくせに自分の投稿記事にいいねがつかないと憤る。
そんなんどーだっていいと考える俺からしてみればくそみたいな怒りだ。
少しは他人の作品でも読んで感想でも書いてみたら?と提案したら、そんな営業みたいなことはしたくないと言い張る。彼女の安いコスメメーカーのチークがきらきらひかる。ちうちうと濃いめのカルピスをストローで飲む。同棲して結構経つのに彼女は自分の分しか飲み物を作らない。なんか飲む?と声もかけない。
ああくそ、なんでこの女のにはいつもこんなにいいねが付くんだよ!
イラついている彼女は俺の腕を引っ張って脚を引っ掛けてあらぬ方向に腕を曲げ関節技をかけてくる。痛い痛い痛い!そりゃうまいからでしよ。ってかあなたべつに物書いて食って行きたいんじゃないんでしょ?ほら脚離して。脚は離れない。
そうだけどなんか悔しいじゃん、私のが絶対文章うまいし。へえ、人柄はどっちがうえ?感性は私のがうえだし。じゃあ校正にかける時間は?え、何喧嘩売ってんの?痛い、痛い、いてえから離せって。
俺は彼女から無理やり腕を解放させてぶんぶんと空に振った。あーいってえ馬鹿力だなほんと。
自分がいいと思って、書いて、出してそれでいいだろ?なんで誰からの評価がどうのとか、誰より評価が少ないとかコメントがつかないとかそんなつまんないことばっか考えてんの?
あんたと付き合った時は、SNS中毒になる前のあんたはそんなんじゃなかったのにな。
ふと見たスマホの画面。
「今月のあなた、SNS絡みでラブ運が下がるでしょう」
SNSで有名なマイタケ占いでは馬鹿でかいフォントで蠍座のページに恋愛運がだだ下りになることを暗示する文章を掲載している。
俺は右手でスマホを握りしめると反対の手で窓を開けて、おおきく振りかぶってスマホを投げ放った。さようなら、毒の世界。
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