新しい組織のカタチを考える―ティール組織が生まれた2つの前提の変化

 前回はFinatextがどのような組織を作っているのかを書きましたが、今回のnoteでは、そもそもなぜティール組織の特徴をもつ会社が増えているのか、その背景にあると考える「2つの前提の変化」についてまとめたいと思います。

■現代の組織に生じた課題

 現在の企業の大半は「オレンジ組織」または「グリーン組織」に該当しているが、ティール組織と呼ばれるような特徴を持つ組織が増え始めてきたのは、2つの組織の前提ともいえるものが変化しているからだと思う。1つは「環境変化のスピード」、そしてもう1つは「幸福の定義」。

<①環境変化のスピードの変化ーVUCAの高まり>
 テクノロジーの発達と物事の連関の強まりによって、VUCAという略語で表現される、不安定さ(Volatility)、不確実さ(Uncertainty)、複雑さ(Complexity)、曖昧さ(Ambiguity) が圧倒的に高まっている。下の図(CB Insight)の通り、新しいサービスが普及するのにかかる時間は日を追うごとに速まっている。あっという間に競争環境は激変する。

 現代のような変動が激しい環境において、従来型の組織は常に遅れを取ってしまうことになった。変化を感じ取った現場の人は、それを上司に伝える。その上司はさらに上の人へ。情報が何層にも分かれたヒエラルキーをあがっていき、最終意思決定者のところにたどり着き意思決定が行われると、そこからまた現場まで情報は各階層を経て降りてくる。これでは時間がかかりすぎて、短いスパンで急激な変化を繰り返す環境に対して常に一歩も二歩も遅れてしまう。しかも、むこう3年の方針は「中期経営計画」という形ですでに決められ、それに基づいた年次計画が存在している。こうした計画は資本と物理的リソースが必要とされた時代においては非常に重要であったが、テクノロジーの発達によりどちらも重要性が薄れると、計画の存在自体が逆に足かせになった。
 つまり、VUCAの高まりにより、組織は当初想定されていたよりも短いスパンに何度も意思決定が必要とされるようになったが、大半の組織ではそれに耐えられる組織デザインになっていないのだ。現場の人は変化に応じて報告ばかりをすることになり、マネジメントは抱えきれないほどの意思決定を求められるようになってしまった。
 こうした状況に対応するためには、意思決定/情報伝達のスピードを早める、つまり情報が移動していく階層を徹底的に減らすことが求められる。そしてその究極は、「問題/変化/チャンスを見つけたメンバーが自分で意思決定を行ってしまう」ことである。これこそが『ティール組織』でいうところの「セルフマネジメント」であると思う。

<②新しい幸福の定義>

なぜこれほど多くの人々はあんなに働いてからディズニーランドに逃げ込むのだろう? TVゲームはどうして仕事よりも人気があるのだろう? なぜこれほど多くの労働者は引退のときを夢見て、その後の計画を立てることに何年もかけるのだろう?  その理由は単純だが、気がめいるものだ。私たちは職場を欲求不満のたまる、つまらない場所にしてしまった。社員は言われたことをやるだけで組織の意思決定に加わる方法がほとんどなく、自分の才能を十分に発揮もできない。当然の帰結として、自分の生活を自分である程度コントロールできる楽しみに引かれるようになる。
-- 『ティール組織』

 『ティール組織』に書かれたこの一節が非常に端的に表現している。なぜ仕事はつまらないものになってしまったのか?その最大の理由は、自分の外側にある社会的地位を高めるような報酬だけで満足する時代は過去のものになってしまったからだ。逆に、新しいタイプの報酬として、個人としての「満足感」、「充実感」を求める人が増えている。もちろん給料やボーナスの重要性は失われないが、それだけでは満足できくなっている。

 近代の「マネジメント」では、大きな家に住む、高級車を持つ、ブランド服を着る、といった社会的ステータスへのあこがれを前提としたモチベーションコントロールが行われている。しかし、こうした「状態」への幸福感は非常に慣れやすく、幸福な状態を引き延ばすことがとても難しい(さらに悪いことに、実はポジティブな感情を持ちやすいか否かは、約50%が遺伝の影響で決まってしまうので改善が難しい。)。貧困は残っているとは言え、大半の人々にとってベースの生活水準が高まっている中で「ポジティブな感情」を生み出し続けることは一層難しくなった。どれほどのボーナスをもらい、タイトルが昇格したとしても幸福を感じることはできなくなってしまい、組織のメンバーのモチベーションを高い状態に保ち続けることはほとんど不可能な状況になっている
 一方で、実は幸福には別の定義がある。それは、 アリストテレスのいう「エウダイモニア」の概念に似た、人間が可能性を開花させる「プロセス」を幸福とみなす考え方だこの幸福は、自己の成長と開花を経験すること、あるべき自分の姿に近づくこと、より自分らしく世界と関わることによる「満足感」、「充実感」によって得ることができる。近年ではこの種の幸福への要求が高まっているが、現在の組織デザインではそれに答えることができていない。自分もそうだが、ここ数年ベンチャー企業へ人が流れている背景にも同じことが言えると思う。
 このような幸福を得るためには、そして自分の可能性を開花させるプロセスを楽しむためには、メンバー間の信頼を高め、自身の弱みを見せ、成長を促すことが重要であり、これが『ティール組織』でいうところの「ホールネス」である。

 以上2つの「環境変化のスピード」、「幸福の定義」という前提が大きく変わってきていることが、ティール組織的な特徴を持つ組織が増えている背景にあると僕は考えています。今回はそもそもなぜ新しい組織が求められているのかを、『ティール組織』の本を参考にしながら、組織の変遷から整理してみましたが、次に書く機会があれば、、
・「新しい幸福」とはなにか、そしてそれを提供できる組織とはどういう組織か
・「VUCA」とはなにか、そしてVUCAに対応できる反脆弱性のある組織とはどういう組織か
について、もう少し具体的に書いてみれたらなと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?