独白【毒吐】

ーーこれはフィクションです。実在の団体、事件とは一切関係があります。ーー

ちょっとした昔話をしよう。
ある所に天才と呼ぶしかない男の子がいたんだ。
数値的にも感覚的にも天性の才能と言うしかないんだなこれが。
しかも人格もよく正義感の強い真っ直ぐな男の子だったんだ。人のために怒り、人のために泣く、なんとも人道的な子だった。
そんなある日、男の子は車に跳ねられた。
まだ幼い彼には何が起こったか分からないだろうね。なんせまだ7歳だ。
2、3m吹っ飛んで、頭から落下。
しばらくして救急車が呼ばれ病院に搬送。えーっと…病院で何があったかは覚えてないや、ごめんね。
まぁそんで…有り体に、最低に言うと後遺症が残ったわけだ。
まぁ、頭から落ちたからね。そりゃそうだろう。
色々変わったよ。まずは人格、優しくて優しかった人格が、あらまあ。優しくて怒りやすい人格になった。
彼は恐怖した。
齢7歳にしてこんなの僕じゃない!と叫ぶほどに。
手先も不器用になった。これは頭を打ったことにより手先の神経に何らかの支障をきたしたんだろうね。怖や怖や。
あとはそうだな…スタミナがなくなった。これもまた脳のせいだ。凄いだろう?頭をぶつけただけでなんにも出来なくなる。
天才で優しくて誰からも好かれる男の子は、傲慢で怒りっぽくて誰にでも嫌われる男の子になった。
ストレスだっただろうね。これまで難なくできていたことが出来なくなり、昔の自分と今の自分に大きな差異、否。差が生まれた。悪を貫く槍のようだった男の子は善悪入り乱れたカオスに成り下がった。

ギャップ。

それに耐えれなかったんだ。だけどもけれどどうしようもない。耐えるしかないんだ。
だから耐えた。
そのうち感覚が麻痺し始めた。なんてことは無い、さらに脳の状態が悪化しただけのことさ。
最早悲しみや辛さも分からない。
自分はいじめられているのかいじめているのかも分からない。
彼に悪口を言うやつは暴力でねじ伏せた。
それでも奴らは彼への悪口を辞めなかった。だからまた殴った。相手が泣くまで、動くこともしなくなるまで殴り続けた。
そんなある日、彼の病名が発覚したんだよ。
この間、約4年。
その病名とは【高次脳機能障害】というものだった。
高次脳、機能障害。
噛み砕いて、飲み込んで、説明するならば私生活や人らしい部分を司る部分に機能障害が起きてるんだ。
つまるところ狂人が出来上がる。
そんな男の子がこの先どうなるか。分かるだろう?
そうさ、ご名答。破滅だよ。
でも安心して欲しい。彼はその破滅を抑える方法を見つけた。
相手ではなく自分を変えれば良いのだ。この時彼は13歳。
13歳にして始めて、理性を手に入れた。
やっと、人らしい思考回路を持つことが出来た。
皮肉にも、彼が不登校になった時だ。
鬱病が悪化し、IQが少し低下した時になってやっと分かった。
天才は天才じゃなくなることによって人の心を手に入れたんだ。
135。
それが今の彼のIQだ。
中途半端な天才だ。この程度じゃ直ぐに限界が見える。
白々しくて黒々とした限界が、ありありと眼前に広がる。然もありなん。
彼は…どうしたんだろうね?
最早僕にもわからない。
一つだけわかること。
それは彼は変わったってことだけだ。
性格は変わってない。なんせ性格は不変だからね。変わるのは人格だ。
性格を根本に人格が出来上がる。
そう、人格が変わったんだ。
トゲトゲしていた人格が丸く丸くさらに丸く、あまつさえ甘ったるくなった。
嘘を見抜いて騙される。悪意を感じて嬲られる。そんな人間になった。
そんな彼があらゆる人から言われた言葉がある。

お前はもう人間じゃない

とっくの昔に気付いていた。あの頃から、僕が変わって、周りが変わって、取り返しがつかなくなったあの頃から、僕はもう人間としては生きられない。
大袈裟だと思うだろう?ところがどっこい!まんまですよ。
ここに書いたことそのまんま!
面白いかい?つまらないかい?
聞きたくもないって感じだろう?見たくもないと思うだろう?
悪かったよ。
つまらないものを見せたね。
これは僕のモノローグでありプロローグだ。
落ちぶれて堕ちぶれて折ちぶれた。
常に自分を演じ、仮面を被って生きている。
自分の顔を見たくないから、見られたくないから。
必死に隠し、一線を画す。
つまらない見栄だ。見え透いた見栄だ。見得る物のない見栄だ。
でも良かった点もある。
この文章を読めば分かる通り、心が戻ってきた。
物事を感じるし考える心がここにある。
欠陥品でも没落品でも心は心だ。
晴れない胸を張って言おう。

僕は―人間だ
今ここで生きている
心を持って生きている

ここまで読んでくれた方には感謝を申し上げます。
でもこんなもの、明日になれば忘れてしまいます。
一時の心に身を委ねたに過ぎない。揺蕩いの結果です。
明日になれば。僕はもう。覚えていない。
でも一つだけ忘れません。
ここまで読んでくれた、あなたへの感謝は、一生背負って生きていきます。

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