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メタバースのセンターピンとは

二村です。

メタバースにカウチポテトクラブという娯楽施設を作っています。

これは最近のトイレレースの様子

メタバースにおける本質、センターピンが見えてきたので、自分の頭の整理のためにも書いてみようと思います。


センターピンとは


そもそも事業におけるセンターピンって何なんでしょうか。

https://inouz.jp/times/jane_origuchi/

朝倉祐介さんと面談した際、折口雅博さんの「センターピン経営」について教えてもらい、当時のディスコとメタバースの運営に類似点があったため参考にしました。

折口さんは、ジュリアナ東京やヴェルファーレなどの伝説的なディスコを立ち上げた方です。

センターピン経営の内容としてはこんな感じ。

ボーリングでストライクをとるためには、一番前の真ん中にあるセンターピンは絶対に倒さないといけない。そこに当たらなければ、いくらすごい球を投げてもストライクは取れません。

つまり、センターピン理論とは「物事の本質を見極める」ということです。まずは「センターピンはなにか」をしっかり探すことが大切。それさえ倒せれば後ろのピンは何とでもなる。そう言っても過言ではありません。

“ジュリアナ”を例にご説明しましょう。ここでのセンターピンは「毎日満員にすること」でした。そのためにノリの良い音楽をかけてみんなを盛り上げ、女性がお立ち台に上る華やかな世界をつくり、男女のグループがうまく交流できる空間にしました。
ディスコのセンターピンを一言で表すと「お祭り」です。しかも、フツーの盛り上がりではなく「超盛り上がっている」状態。そして、それを維持すること。それがセンターピンなんです。

とにかく、これを倒せば他のピンは全部倒れる、といった最重要指標のようなものです。

もちろんこれだけで成功するわけはないですが、事業の要素に優先順位をつけることは可能で、その第一位になるものは何なのか考えてみようというものです。

「人口密度」だけでは足りない

メタバースにピボットを決めた1年前、本格的な開発に入る前にメタバースの産業において最も重要なものは何かを考えました。

当時の自分が出した答えとしては、メタバース内における「人口密度」がセンターピンである、といったものでした。

これはそもそも、大半のメタバースが抱えている「過疎」「退屈」という問題の打開に全張りしたプロダクトにするという意図でした。

そのため、根本的に

営業時間を絞る・空間数を絞る・面積を絞る・遊べるコンテンツ種類を絞る

などの制限を加え、ルームに入室した瞬間にできるだけ多くの常連に会うことができる体験を目指しました。

この戦略はある程度うまくいき、リリース直後から常連が誕生し、「毎晩同じ奴らと同じ場所で時間を過ごす」という当初のコンセプト通りのものにはなったと思います。

一方で、自分が想定していたような継続的かつ爆発的なお祭り状態は見られないことに対して徐々に焦りも感じていました。

「何かが足りない…」

ルームは満員。行けば必ず多くの常連に会うことができる体験は作れた一方で、「ルームに大量の人がいるという意味だけでの人口密度」が、メタバースにおける最重要指標ではないことは明確になっていきました。

そもそもメタバースのメリット


センターピンを見つけるのは重要ですが、そもそもメタバースって今までのSNS等と比べると何が異なるのでしょうか。

メタバースの定義は人それぞれで、「アバターを介さずとも、2Dのインターフェースでもメタバースである」というような定義をされる方もいると思います。

これは明確に定義をする必要はなく、今どうこう言ったところでグローバルにプラットフォームを獲ったところが勝手に定義を作り、それが正解になるので今ここで論争してもしょうがない感じはします。

一方、メタバースを作る者として今までのSNSと異なる部分は

「空間にいるだけで存在を認識してもらえる」

「(息をしてるだけで許される)」


ことだと感じています。

現在のSNS、特にオープンなプラットフォームで直接会ったことのない人とも交流できる場では、発信側になることはとてもハードルが高いです。


例えばTwitter(現「X」w)。

僕が中学生の頃は「だらだらなう」だの「担任うざ」だの、どうでもいいことを発信することが許される場所でした。

しかし今では発信側もどんどんプロ化し、AIツールの紹介スレや批評批判ツイ、また仕事を行う上での発信がとても増え、大変息苦しい状況となっております。

こうなると、1人の中学生でも日常のどうでもいいことを発信できる場ではなくなり、大半の人は「見る専」であくまで1つのメディアとしてTwitterを使っています。


一方で、人間は自分で何かしらのアピールをして、誰か1人のアテンション(注目)でも集めてみたいものです。


ここで、メタバースは本領を発揮します。


メタバースは、勇気を出してチャットで誰かに話しかけたり、いいねが来るかドキドキしながら通知を待ってる必要など一切ありません。

なぜなら、そこにアバターとして居るだけで、周囲からその存在を認識されるからです。

毎日行けばなおさらです。無言でゲームをしているだけでも周囲はあなたの名前を覚え始め、現実世界同様、嫌でもちょっかいや挨拶を繰り出してくる奴がいます。

Twitterでは、見る専の人は誰からも一個人として認識されたりなんかしません。一方メタバースでは、毎日息をしてるだけで周囲から存在を認識されます。

チャットで話しかけたり、エモートで挨拶してみたり、ちょっかいをかけてみたり、メタバースでも積極的に自分を認識してもらおうと努力することはもちろん可能です。

ですが、一切他人と絡まず無言で壁を見つめてるだけでも

「寡黙な人なのかな」
「なんか嫌なことあったのかな」
「あ、やばい人だ」

など、日を追うごとに誰かは必ず認識し、その人に対する何かしらの想像が掻き立てられるようになります。

これは、現実世界とかなり似ていると思います。

現実の世界は、今のTwitterのように発信側と見る専門でくっきり分かれていたりしません。その境界はもっと曖昧です。

会社や学校、サークルなどの現実世界のコミュニティでも発信力の強い人、弱い人はいますが、コミュニティに継続的に参加してるのに誰からも存在を認識されてないことなんてありえないです。

確実に誰かから認識され、何かしらのイメージを持たれているはずです。

この要素においてメタバースは現実世界と同じように、人々を「積極性」において分断しすぎず、曖昧な人間らしさを残しているように思います。

この、何もしてなくても空間に存在しているだけで人から認識してもらえる(息してるだけで許される)ことこそが、メタバースが他SNSと異なるものにしているだと僕は思います。


鍵は、「メタ相互認識」


メタバースのメリットを改めて考えてみたところで、本題に戻りたいと思います。センターピンですね。

最初のセンターピンだった「人口密度」という概念は、上記のメタバースのメリット(存在しているだけで認識してもらえる)は多少は活かせていますが、さらにもう一歩踏み込みたいと思います。

人口密度が高くても、自分にとっても他者にとっても「初見さん」だらけの空間だった場合、また来たいと思えるでしょうか。

答えはもちろんNoで、人口密度が高いだけで初めましての人だらけなのであれば、また来たくなるというのはありえません。

渋谷のスクランブル交差点の人混みを1人で歩いて、「また明日もここに来たい!」と思わないのと一緒です。

何が言いたいかというと

人口密度は人口密度でも、自分と他者で相互に認識している人に限り有効ということです。

AIさんに、人が居場所や溜まり場として認識するためにはどういった条件が必要かを聞いてみました。

「安全性」と「居心地の良さ」も間違いないですね。

精神的に安心できる場所じゃないと居場所になり得ないし、共通の趣味や関心が寄せられる場所は条件になり得ます。(共通の趣味だと、例えばポーカールームや雀荘、ゲーセンのコアなゾーンなど)

そして、「自分と他者で相互に認識している人が高い密度でいる場所」と言う意味では、3.「所属感」というのはドストライクにハマりそうです。

所属感といっても、家でもなくオフィスや学校でもない「サードプレイス」に、粘着性が強く深い関係を全員が求めているかと言われれば、僕はそうではないと思います。

お互いのことを認識してるだけでもいい。「よく見る人」くらいのテンションでも可能です。

よく見る人くらいのレベル、もしくはそれ以上の関係の人がどれだけ同じ空間にいるかによって、自分がその場所を「居場所」と思えるかが決まると考えます。

つまり、人口密度が高いだけではなく、いかにお互いのことを認識しているかという部分が鍵なようです。

かっこいいものが大好きなので、この発見に厨二なかっこいい名前をつけたいと思います。

「メタ相互認識」

※メタ:メタバース/なんか超越してそう

とかでいかがでしょうか。
かっこいいので以下「メタ相互認識」でいきます。


濃い関係が前提ではスケールしない


メタバースでは、さまざまなコミュニケーション手段があります。

ボイスチャット、オープンな場でのテキストチャット、個人間のDM、フレンド申請などがこれらにあたります。

さきほどの章でこういったことを書きました。

所属感といっても、家でもなくオフィスや学校でもない「サードプレイス」に、粘着性が強く深い関係を全員が求めているかと言われれば、僕はそうではないと思います。

もし粘着性が高く、深い関係を全員がメタバースに求めているとしたら、数あるコミュニケーションの手段の中で「ボイスチャット」の発生した量などがKPIの一つとして上がってくると思います。

ちなみに、メタバースでボイスチャットしか選択肢がなかったら、僕は絶対にそのアプリで遊びません。

メタバースは発信側と視聴側で分かれていない、曖昧な関係性が現実世界と似ている、といった話を先ほどしました。

現実世界でも、赤の他人に声を出して話しかける、といったことはそこまでないと思います。

そこの領域にいきなり行く人がいるとしても、まずは無言で様子を伺ってる人にとっても居心地の良い場所を提供することが大事に思います。

無言で様子を伺う大半の人がソーシャルに入れるように、「メタ相互認識」が発生しやすい設計をしていく必要があります。


これからのカウチポテトクラブ


以上のことを考え、今後のカウチについての考えを表明したいと思います。

まずはセンターピンである「メタ相互認識」、いかにお互いのことを認識し合ってる関係性持った人が密度高くいる空間にできるかの設計に挑戦します。

現実世界ではこの関係性はとても多く見られますが、メタバースにおいてはアバターの顔や格好、名前まで簡単に変えることができてしまうので、もともとはお互いのことを認識していても、どこかのタイミングで忘れてしまったり関係性がストックしないという事象が発生します。

そこで自分たちの挑戦としては、そのストックした関係性の可視化を行います。

詳しく書きすぎるとそろそろチームに怒られそうなので書きませんが、設計はすでに始まっています。順調にいけば今月にはリリースされる予定です。

しかし、この機能を実装したらメタバースで世界を獲れるのかというと、そんなに甘くはありません。

韓国のユニコーンがやってる某メタバースなどを遊んでるとわかりますが、まず圧倒的に作り込み度合いのレベルが違います。

ソーシャル部分も優れてはいますが、とにかくコンテンツ量、飽きない仕組み、住んでる感が半端ないんです。

つまり、今回のセンターピンを抑えたその後に、「コンテンツ量の急激な拡大」というフェーズが待っています。

僕らのプロダクトは今、コンテンツとしてはミニマムでポーカーしか実装されていないので、ユーザーさんが入ってくる間口がとにかく狭いんですね。

今後はここにあらゆる娯楽を実装していきます。

今のゲームセンターは中心にあるだけで、その周りには巨大な街を作りたいと思います。

そして、あらゆる娯楽を実装し巨大な街を建設する一方で、同時にデバイス展開が始まります。

現状僕らは全てミニマムなので、Android版もPC版もリリースしていませんが、今後はその対応だけでなくVRデバイスが始まります。

特にAppleのVision Proです。


そして、フェーズによってセンターピンは変わり得ます。

事業の中で最重要な要素は一つだけで、不変であるという考えもありそうですが、僕はそうは思っていません。

そもそもメタバースというまだまだ変数の大きい産業では、歴史がどう転ぶかは誰にもわかりません。

その中で勝者となるには、ロングタームで自分のプロダクトと産業を信じ抜ける創業者、ハードな試行錯誤を繰り返せるような圧倒的に優秀なチーム、そしてそれらを継続させるだけの資金源と応援団となるステークホルダーが必要です。

ここから勝ち上がります。


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