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【シアトル的迷選手で行こう】第7回 ドリュー・スマイリー

野球の世界最高峰の舞台であるMLB。球界、そして時代を代表するような大スターたちが華々しく活躍し、名選手と呼ばれる裏では、世界最高峰の舞台まで辿り着くだけの才能は持ち合わせているものの、イマイチ残念な部分が抜けきれず、迷選手と呼ばれる存在もいる。そんな選手たち、特にシアトル・マリナーズ に在籍したことのある迷選手たちにスポットライトを当てていく。第7回は「幻のマリナーズ」ドリュー・スマイリー。

(第6回はこちら)

プロフィール
トッド・アンドリュー・スマイリー(Todd Andrew Smyly)
1989年6月13日生、アーカンソー州リトルロック出身。ポジションは投手。
2010年ドラフト2巡目指名でデトロイト・タイガース入団。
MLBでのプレーは2012-(現役)

そもそも「迷選手」なのか?

ドリュー・スマイリーはこれまで「迷選手」シリーズで取り上げてきた選手たちとは少々毛色が異なる。

これまではマリナーズに来てからのプレーぶりが残念であったり、才能はあるがグラウンド外で問題を起こしたり、はたまた半年間しかプレーしていないのになぜかカルト的な人気を誇るような選手たちを取り上げてきた。が、スマイリーはこれのいずれにも該当しない。

では何が彼を迷選手とたらしめるのか。ヒントは彼の通算成績に隠されている。(Baseball Referenceより引用)

おわかりいただけただろうか。スマイリーは一度もマリナーズのユニフォームで登板していないのである。今回は公式記録上存在しない幻のマリナーズ時代をご紹介したい。

期待の若手左腕として

アーカンソー大学から2010年ドラフト2巡目指名でタイガースに入団したスマイリーは、マイナーの各層を駆け上がると、2012年にMLBデビュー。2014年には先発ローテーションの一角を担っていたダグ・フィスターがトレードされ、その穴を埋める形でローテーション入りを果たす。

2014年シーズンの途中にデービッド・プライスらが絡む三角トレード(ちなみにこのトレードには後にスマイリー自身が移籍することとなるマリナーズも絡んでいる)でタンパベイ・レイズへ移籍。以降は怪我に苦しむこともあったが、2016年には初めてフルシーズンでローテーションを守り切るなど期待の若手左腕として一歩一歩着実な成長を見せていた。

あと一歩届かなかったプレーオフへのラストピース

後に病室からトレードを成立させるほどのトレード狂となるジェリー・ディポトがマリナーズのGMに就任して初めて迎えた2016年シーズン、チームは熾烈なプレーオフ争いを繰り広げた。ロビンソン・カノー、ネルソン・クルーズの強力なクリーンナップが期待通りの打棒を発揮すれば、カイル・シーガーがキャリア最高のシーズンを送るなどで実に9選手が二桁HRを記録。チーム得点数もMLB6位とかつて貧打の象徴とされたマリナーズとは思えないほどの破壊力に満ちた攻撃陣を形成した。

しかしこんな年に限って投手陣が振るわない。特に先発陣の駒不足が深刻で、大エースフェリックス・ヘルナンデスは8年連続200投球回の記録が途絶え、規定投球回に達したのは岩隈久志ただ一人のみ。タイワン・ウォーカーやジェームス・パクストンといった若手たちも成績はいまひとつで、13人もの投手を先発起用せざるを得なかった。このチーム事情が最後まで足かせとなり、結局シーズン161試合目にしてまたしてもプレーオフへの夢が閉ざされた。

とはいえ2016年のマリナーズの戦いぶりにディポトGMは一定の手ごたえを感じていたのだろう。打線は盤石、あとは先発陣さえ整えば十分プレーオフに進出できる。そう目論んだディポトGMはプレーオフ進出へのラストピースとなる先発投手獲得に乗り出す。それがスマイリーだった。

マイナーが既に焼け野原気味になっていたこともあり、スマイリーの獲得にはレイズが興味を示すような選手を他球団から引っ張ってくる必要があると考えたディポトGMは手始めにアトランタ・ブレーブスとトレードを成立させ、身体能力に秀でた外野手マレックス・スミスを獲得。そのスミスをトレードのメインピースに据えたディポトGMは、スミスにマイナーリーガー2名を足した3対1のトレードで見事にスマイリーの獲得を成功させた。ブレーブスとのトレード成立からわずか77分後、あまりのスピード劇に多くのマリナーズファンが戸惑いながらもディポトGMの手腕に称賛の声を送った。

ついにラストピースである先発ローテーションの一角を担う選手がシアトルにやってきた。今年こそプレーオフに行けるかもしれない。無邪気なマリナーズファンたちは心を躍らせた。私も2017年のチームに大いに期待した。

この後に何が起こるかもまだ知らずに・・・

最大のハイライトはWBC

2017年のスプリングトレーニングが始まった。スマイリーは3月1日のクリーブランド・インディアンズ戦を2回無失点2奪三振、6日のテキサス・レンジャーズ戦を3回無失点3奪三振と上々の内容でスタートを切り、調整は順調のようだった。

2017年は奇しくも第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開かれる年だった。もともとアメリカ代表の予備メンバーに選出されていたスマイリーは、調整が順調に進んでいたこともあってか、2次ラウンドのベネズエラ戦への召集が決まる。

マリナーズファンは少々不安になった。マリナーズというチーム自体はこういった国別代表戦にMLBの中でも割と快く選手を送り出すタイプのチームであり、2017年のWBCにもスマイリー以外に5選手(カノ―、クルーズ、ヘルナンデス、ジーン・セグーラ、エドウィン・ディアス)を既に送り出していたので、スマイリーの招集に応じたのも特に驚きはなかった。ただ、やはり今シーズンの命運を握るであろう新加入の先発投手がもしWBCで怪我でもしたら・・・不安は付き纏った。

そんなマリナーズファンたちの不安をスマイリーはピッチングで吹き飛ばした。MLBのオールスター級の打者たちをズラリと並べた強力ベネズエラ打線を5回途中1失点8奪三振と完璧に封じ込んだ。不安は期待へと変わった。こんなピッチャーが今年マリナーズで投げる、その事実だけでシーズンが待ち遠しくなった。

ところがWBCから帰ってきたスマイリーは悪い意味で別人だった。3月26日に開幕前最後のマウンドに上がったが、制球は定まらず、WBCで見せた球威もなく、3HRを浴びるなど4回5失点と散々な内容。怪我を疑うような内容で登板を終えると、その後左肘の張りを訴えて、開幕を前にして故障者リスト入り。WBC前の悪い予感が現実のものとなってしまう。

スマイリーの故障者リスト入りの報を受けた私はこんなツイートをした。

悪い予感とはこうも当たるものなのか。スマイリーは肘の治療にPRP療法(多血小板血漿)を選択し、手術を回避しようとしたが、結局6月にトミージョン手術が決定。2017年シーズンの全休がこの瞬間に決まった。ツイートの通り、WBCでの投球がスマイリーにとっての最大のハイライトとなってしまったのである。

シーズンを棒に振ったスマイリーはその年の12月にノンテンダーとなり、一度も公式戦で登板することなくマリナーズを去ることとなった。

ちなみにスマイリーを失った2017年シーズンのマリナーズは先発陣で怪我人が多発し、ローテーションは崩壊。前年を上回る17人を先発起用し、規定投球回到達者は一人もいなかった。チームはプレーオフどころか、勝率5割を下回る有様だった。

おわりに

スマイリーは怪我の影響で翌2018年シーズンも登板できず、2019年に実に3年ぶりにMLBのマウンドに帰ってきた。開幕当初は思い通りのピッチングができなかったが、7月にフィラデルフィア・フィリーズと契約すると、本来のピッチングを取り戻し、いまや先発ローテーションの一角として欠かせない存在となっている。

野球にたらればは禁物だが、フィラデルフィアで頑張るスマイリーの姿を見て思う。

あと2年早ければなあ、と。

Photo by Keith Allison

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