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予想外のブレイクを果たした29歳のオールドルーキー オースティン・ノラ

明確にチームの再建を掲げ、2019年シーズンに臨んだシアトル・マリナーズ。開幕15戦13勝というロケットスタートを切り、全世界の野球ファンを驚かせたが、その後は悪い意味で実力通りの試合が続き、結局大方の予想通りアメリカン・リーグ西地区の最下位に沈んでいる。

シーズンの進展と共に選手も激しく入れ替わり、今季だけで67人もの選手を起用(現地時間9月17日現在)し、これはMLBの1シーズンでの新記録となった。このうち実に24人がルーキーであり、最近ではデビューから6戦4発とメジャーリーガーとしてのキャリアを華々しくスタートさせたカイル・ルイス(2016年ドラフト1巡目指名)など次代のマリナーズを担う若い選手たちの活躍も目立つシーズンとなった。

そんな新しい才能たちが数多くデビューしたマリナーズにおいて、オースティン・ノラは少々異質な存在かもしれない。ノラも今季初めてメジャーへの切符を掴んだ一人ではあるが、実は年齢は29歳。MLBデビューの平均年齢が24歳と言われていることを考えれば、かなり遅咲きのルーキーだ。

ノラという苗字におや?と思ったMLBファンの方は鋭い方だ。フィラデルフィア・フィリーズのエース右腕アーロン・ノラはオースティンの実弟にあたる。もっともアーロンのほうはドラフト1巡目指名でプロ入りし、順調にスターへの道を登ってきているのに対し、オースティンのほうは昨年までの7年間のマイナー生活で目立った成績を残せずという兄弟で真逆のキャリアを送ってきた。今年のスプリングトレーニング直前にマイナー契約でマリナーズに加入したが、MLBの戦力というよりも、キャッチャーや内外野といった複数ポジションを守れるユーティリティ性を買われたマイナーのデプス要員としての側面が強い契約であった。

そんなノラだが、今季は周囲の期待を良い意味で裏切るブレイクを果たし、今やマリナーズ打線には欠かせない存在となっている。以下は彼の今季とこれまでのマイナーでの成績である。(Fangraphsから引用)

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メジャー昇格後68試合で10HR、OPS.848と上々の内容と言えるだろう。サンプルは少ないが、wRC+126も今季のMLBで200打席以上立った選手の中では上位70人に相当する数字であるため、少なくとも平均以上の打撃はここまでできている。ノラが期待以上の成績を残していることは間違いないだろう。

だが、昨年までの打撃成績が物語るように、ノラはお世辞にもここまで打撃の良い選手ではなかった。2019年のノラにどんな変化が起きたのか。ヒントは打球傾向の変化に隠されていた(Fangraphsから引用)。

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際立つのはGB%(ゴロ率)の減少である。マイナー時代は50%近い打球がゴロであったが、2019年はメジャー昇格前まで42%、メジャー昇格後はその割合をさらに下げ35.8%となっている。

ゴロの減少はフライの増加に繋がり、今年に入ってからの長打力の飛躍的な向上、ひいては全体的な打撃成績の改善に結びついた。メジャー昇格後のFB%(フライ率)は43.7%と彼のマイナー時代の平均を10%近く上回っており、またMLB全体でも200打席以上の選手の中では上位50人に相当する高水準である。

ノラ自身、ボールを選んでフライを打つ意識を持って打席に立っているようで、それが実を結んだ結果とも言える。

“It’s pitch selection and getting the ball a little more in the air,” he said. “It’s consistent swings and getting pitches in my zone. That’s been the key.”

「(打つべき)ボールを選んで少しフライを増やすこと」ノラは言った。「安定したスイングと自分のゾーンにボールを呼び込むこと。これが(今年の打撃改善の)鍵になっている」

今後の懸念点を挙げるとすればスライダーやカーブ系の変化球系を苦手としていることだろうか。速球系に対しては打率.283、長打率.483と結果を残している一方で、変化球系に対しては打率.229、長打率.354と苦戦を強いられている。空振り率も30%を超えてしまっている。

また、ノラの今年の成功はFB%の向上によるものと言っても過言ではないが、変化球系では依然としてGB%が高く、今後変化球中心の配球で攻められた場合の対策が必要となるだろう。

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とはいえ今年のノラが見せた予想外のパフォーマンスはフロントにも好印象を与えたことは間違いないだろう。来季のノラが今年と同レベルの打撃ができるかは未知数だが、少なくとも来年もMLBで機会を与えてみようと思わせるには十分な成績をここまでは残している。

シーズンも残り12試合。29歳のオールドルーキーはブレイクイヤーを有終の美で締めることができるだろうか。

Photo by Minda Haas

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